宇宙禍族露貧損
緊迫するウクライナ情勢をネタにするいささか不謹慎なタイトルをお許しください。米ロの対立がエスカレートする一方、当事国のウクライナの存在が遠景に退いている現状を危惧します。米バイデン政権が問題視するのは2008年のジョージア紛争や2014年のクリミア危機でロシアの情報操作が行われた可能性から来るもので、インテリジェンス情報を根拠としていますからソースは開示されておらず、検証不能ですが、可能性の問題としてはあり得ますし、構図も似ています。
しかし違いも多く、ジョージアの媒位当時のサーカシビリ政権の強権的対応にジョージア国内で分裂があり、実際に国内の小競り合いがロシアの介入の口実とされました。クリミアに関してはウクライナの政変で親ロ派ヤヌコビッチ政権が終わったタイミングでの出来事で、やはりウクライナ国内の対立が利用されたという側面はあります。故に欧米の警戒感はある意味当然です。
一方のウクライナのゼレンスキー政権はロシアが履行を求めるミンスク合意をかわしながら、とりあえず冷静に対応していますが、NATOへの加盟の実現可能性はほぼありません。米国自身が推奨せずの立場ですし、集団安保の枠組みですから独仏など西欧諸国も万が一ロシアがウクライナに侵攻すれば対応せざるを得ず、ウェルカムとは言い難い訳です。加えてウクライナ国内でも親ロ派も居れば対ロ強硬派もいるし宗教的にも東部のロシア正教と西部のカトリックに加えて大多数のウクライナ正教という具合にモザイク模様で複雑です。この辺を単純化する佐藤優氏の評には疑問があります。
公用語もウクライナ語ですが大多数の国民はロシア語も話せるし場面によって使い分けているという状況で、地理的に分割されている訳ではありませんし国民意識もそれだけ複雑です。加えてロシアにとってはロシア帝国のルーツとされるキエフ・ルーシ公国発祥の地でもあり、自国内という意識が強い一方、独立した主権国家となったことでストレスがたまる状況にはあります。
一方でソビエト時代は軍需産業の立地地域で核装備もあったことから、ウクライナの独立後に同様に核武装のあったカザフスタン、ベラルーシと共にINF加盟を機に核を放棄してロシアが引き取る一方、ロシアは3国へ侵攻しないというブダペスト覚書が交わされました。クリミア危機でもこれを根拠に欧州はロシアの違反を問題視しましたが、鉄路的地政学で指摘したようにカザフスタンへのロシアの介入に対する姿勢との間にはギャップがあります。ちなみに「ウクライナは核放棄したからロシアに脅された」とのたまうアホなネトウヨの不勉強ぶりも可視化されました。
ウクライナはNATO加盟国じゃありませんから、米軍の派兵もNATO加盟国のルーマニアに歩兵を送っただけ。ウクライナを助けるよりもNATO加盟国への支援なんですね。つまり孤立無援で宙に浮いた当事国ウクライナの困難な状況はそのままに米ロ両国の舌戦が繰り広げられている訳です。当面このままのにらみ合いが続く膠着状態から抜け出せないというのが現状でしょう。アメリカはロシアに経済制裁をちらつかせてますが、国際金融取引からロシアを外すことなどが検討されているものの、サウジアラビアに続く世界第2位の石油輸出国であるロシアへの経済制裁は影響が大きすぎて実現可能性は低いでしょう。そしてこの点は日本にも深くかかわります。
既に日本はLNGの国内在庫の欧州への拠出を約束してますが、コロぶナ日本の鉄路で指摘したように安定供給のためにカタールと結んだ長期契約を破棄していて米ロなどLNG供給源の多様化に舵を切った後だけに間が悪く、また現行で電力不足が心配されていたのですが、実際はLNG火力の多くが点検休止中ということで、電力会社は寧ろ値上げの口実が出来て大喜びだったりしますが、ロシアからのLNG禁輸は流石にできないでしょう。尚、カタールはアフガンのタリバンとのパイプがあり、NATO準会員としたのは元々NATO軍で対応したアフガン戦争の後始末の意味もあります。
加えてコロナ禍による海運逼迫の影響緩和のために商船三井などはシベリア鉄度ルートの貨物輸送強化を打ち出しており、対ロ経済制裁の影響は図り知れません。G7で対ロ経済制裁を発動というような事態は本音では避けたいところですね。優柔不断な岸田政権がまともな判断ができる気がしません。寧ろ再生エネルギーを活用したエネルギー自給を実現できれば、こうした地政学リスクの軽減につながる訳で、経済安保を言うなら尚更です。それに関連したニュースです。
JR東日本、国内初の水素車両を公開 30年実用化へ:日本経済新聞JR東日本が日立製作所とトヨタとの共同開発で燃料電池ハイブリッド車「HYBARI」の開発に着手し30年実用化を目標とするということですが、30年じゃ遅いなというのが正直なところです。トヨタは燃料電池車開発を進めますが悩みが水素供給網の構築で、それ故に本格的なセールスを展開できない現実があります。日産がリーフで量産EVに先鞭をつけながら充電設備の拡充が進まず伸び悩んだのと同じ構図ですが、重量の嵩むバッテリーに対して軽量な水素は大型車こそ活用の可能性が高い訳で、燃料電池バス「SORA」を開発した訳ですが、鉄道車両への応用で水素供給網の強化につなげようという狙いですが、これ既に欧州では実現していることです。
しかも欧州では元々水素は不安定な再生エネルギー活用のための蓄電システムとして着目されていたこともあり、例えばアイスランドの首都レイキャビークで地熱発電由来の電力を利用した水の電気分解による水素を利用した燃料電池バスを市営バスとして走らせるといった先進的な取り組みが行われていて多くのメーカーから燃料電池バスが供給されています。加えて例えばベンツやフィアットなどの自動車メーカーも鉄道部門を持っていたこともあり、何れも後に部門売却されたとはいえ自動車メーカーと鉄道車両メーカーの垣根が低いこともあり、ドイツでは燃料電池車が既に登場しています。
つまり完全な周回遅れなんですが、自動車を売るための駆動システムとして発想されたプロダクトアウト型の発想から抜け出せず、ソリューション供給の発想がなかったことが原因ですね。トヨタもハイブリッド車の技術囲い込みで孤立した失敗もあり、遅ればせながら燃料電池技術の無償提供に舵を切りました。しかし水素供給に関しては相変わらず化石燃料由来のブラウン水素を中心に植林事業などの排出権クレジットでカーボンニュートラルとするグレー水素といった発想から出られません。逆に国内では電力網への接続が進まず再生エネルギーの普及が制限されている状況がある訳で、余っている再生エネルギー由来の水素供給インフラを整備する方が現実的に早いし低コストです。
JR東日本もコストダウンが課題で、現状では電車よりコストは高めですが、低コスト化が見通せれば逆に地方路線の電化設備撤去といったことも視野に入りますが、そこに至るには時間がかかるという見立てないでしょう。但しディーゼル車との比較ではもう少し前倒しの可能性もありますが、例えば自治体に働きかけて地産地消再エネの水素供給プラントを作ってもらうといったアプローチもあり得ます。同時に地域振興が図れますから興味を示す自治体が出てくる可能性はあります。
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