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March 2022

Sunday, March 27, 2022

電気が足りない言い訳じゃない

イントネーション次第でニュアンスの変わるタイトルですが、好きにお読みください。言うまでもなく今回の東電管内の電力非常事態の話題です。実は去年も電力需給逼迫はありました。電気が足りない訳じゃない去年の1月の極寒で予備率が低下した訳ですが、このときは東電が企業の自家発電電力をかき集めて対応した結果、電力卸市場(JPEX)の価格高騰で電力小売りの新電力各社に逆ザヤが起きて収支が悪化し、結果的に多くの新電力事業者が撤退に追い込まれました。大手電力のなりふり構わぬ振舞いがあった訳です。

今年は先日の福島県沖地震で東電と中部電力の合弁のJERAが保有する火力発電所の被災に季節外れの寒の戻りが重なったものですが、16日の地震当日には200万戸の停電が起きていまし足し、節電要請は避けられない状況ではありました。しかしコロナ同様国民に自粛を求める政府の危機管理のお寒い状況は指摘しておきます。そして22日は揚水発電フル稼働で凌いだものの、翌23日はそれ故に養親発電上部調整池の水量が戻らず危惧されましたが、結果的には天気が回復して晴れたお陰で太陽光発電量の増加に救われたということで、薄氷を踏む綱渡りだった訳です。

このドサクサで柏崎刈羽を動かせと発言する人が複数いましたが、この人たちはそもそも柏崎刈羽が何故動かせないのかを知らないのでしょうか。昨年3月24日に原子力規制委が東電に対して核物質防護に関して是正措置命令を出し4月7日に確定し、事実上の運転停止命令となっています。元々は20年9月20日の東電社員による他人のIDカードによる中央制御室へ不正侵入したことが21年1月23日に発覚し、規制委による甘い処分も問題視され、更に今日ry9億企業作業員が誤って侵入検知装置を壊したり安全対策工事が終わっていないことが発覚したりしたことが重なって、21年6月とされた再稼働手続きの保留を規制委が決めてという風に迷走したあげく再稼働が出来なくなった一連を無視しています。ニュース見てないのか、見て知っていて敢えてならば不誠実な発言です。

更に言えばロシアデカップリング進行中 で指摘した大規模電源のリスクこそが問題の本質だということを改めて申し上げたいところです。当たり前ですが大規模電源がダウンしたら出力カバーが困難なのは当然で、ウクライナでもザポロジエ原発のロシア軍制圧で給電が制限されて無差別攻撃されているマリウポリでは電気も水道も止まっていると言われます。大規模電源は安全保障上も弱点になりますし、今回の地震のように災害で被災した場合も弱点になります。そもそも柏崎刈羽も2007年の中越沖地震で全停止してそれ以来再稼働出来ていない訳ですが、当時も東電は節電要請で乗り切りました。

その意味で再エネによる小規模分散電源ならば一部が止まっても全体への影響は軽微で済みますからリスク分散になる訳です。実際上記のように23日の節電要請は天気回復により午前11時には解除されました。確かにお天気次第という不安定さはありますが、広域に分布する太陽光発電が全て雨天や曇天で発電できないという状況は考えにくい訳で、この点も分散電源に優位性があります。これらは単体での主tryく調整が困難という弱点を補って余りある利点です。

にも拘らず汗っかきと油売りで取り上げた九電ショックのように再エネの接続拒否が普通鵜に行われ、結果的に日本は再エネ発電のコストダウンも進まず再エネ後進国となっている訳です。余談ですがこの当時もロシアのクリミア併合に繋がるウクライナ危機がありました。加えてEUの国際送電網による送電である程度カバーされており、こういうことも危機管理上重要です。周波数の違いなどを言い訳に電力会社間の連系線の整備すら進まない日本の電力網には大きな弱点があります。

当時九電は太陽光発電の定格出力の合計値が送電線空き容量をオーバーすることを根拠に接続拒否した訳ですが、元々再エネの稼働率は7-8割程度で、需要ピークを満たすには3割増しの定格出力が必要、つまり予備率を30%程度取ることで需給をマッチングさせる訳ですが、その為には送電網に需給調整が可能な柔軟性が備わっている必要がある訳で、その為に蓄電池や水素による蓄電とセットで対応することで、出力の不安定さを調整することが必要ですが、そちらはあまり進まず、あまつさえ水素を輸入する話にすり替えられている現状は危機意識の欠如としか言えません。

で、よく考えてみれば火力にしろ原子力にしろ発電所で出力調整をしている訳で、例えば原子力発電の場合、発電電力の3割は制御電源として自家諸費している訳で、故にアh津田効率自体は再エネと変わらない訳で、ただ送電網の安定のために冗長性をどこに持たせるかの違いしかない訳です。逆に停止時の原子炉や使用済み核燃料の冷却のためには外部電源が必要な訳で、それが失われた結果が福島第一原発の事故だった訳です。そもそも不確定性原理が働く原子力の出力は先験的に安定している訳ではありません。それでも調整しきれずに揚水発電所で出力調整せざるを得ない訳ですが、それが今回の電力危機では助けとなったけど、本来の目的とは異なった使い方だったのですが。

という具合に大手電力の既得権に食い込めないことが問題を引き起こしているとまとめることができます。この辺はコロナ禍での保健所の機能不全、政治家や高級官僚の科学的根拠のない思いつき、保健所の機能不全、厚労省の事なかれ主義、医師会の非協力など既得権でがんじがらめで機能しない日本のコロナ対策と通底する本質的問題があります。一言で言えば公共の喪失ということでしょう。

例えば全国に先駆けて水道事業の民営化を行った宮城県ですが、今回の地震で断水が続き批判を浴びています。所謂コンセッション方式でヴェオリア日本法人が受託し、水道料金の値上げなどは行われたものの老朽水道管の耐震管への交換は進まず今回の事態となった訳です。運営権を得て料金改定の自由度は増したけど、自己保有資産ではないので減価償却されず設備の補修や更新の費用は手当てできない訳です。制度の問題としては元々地方公営企業の水道事業は独立採算で水道料金で維持運営されている訳ですから、水道管の更新が必要なら利用者の同意を得て料金値上げすればよいところを民間へ丸投げすれば、請け負った企業は権利行使としての値上げはするけど設備の保全は自治体の仕事としか見ない訳です。

という訳で、民営化なら何でもよい訳ではなくJRのような完全民営化ならば減価償却資金で自社資産の保全が可能な訳で、東北新幹線の脱線事故でも自前で復旧を図る訳です。そして新幹線は万能ではないで全幹法で国の事業とされた新幹線事業を国を法改正せずにJR各社と読み替えた結果、様々な矛盾が出てきています。そして北海道新幹線の並行在来線問題で続報です。並行在来線の小樽―余市、北海道小樽市がバス転換容認へ:日本経済新聞鉄道での存続を希望していた余市町の意向に拘わらず小樽市がバス転換を容認したことで、事実上余市―小樽間のバス転換が決まりました。現実的には沿線人口減少で鉄道での存続が困難なのはその通りですが、函館本線山線区間の長万部―小樽間の廃止が決まった訳で、結果的に新幹線駅ができる倶知安町以外の自治体にはメリットのない結果となりました。

その倶知安町は国際リゾートとして誉れ高いニセコの玄関口ですが、鉄路的ニュースの蛇足で取り上げたように地価上昇と物価上昇で住みにくい街に変貌しており、新幹線のメリットが活かせるとも思えません。寧ろ新千歳空港への鉄路が失われることはマイナスですが、そもそも富裕層は鉄道使わないかも。その面でも新幹線駅が機能するとは思えませんが。

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Sunday, March 20, 2022

新幹線は万能ではない

ロシアの悪口ばかりでは何なんで国内に目を向けます。

年金者ら給付金、首相「物価みて検討」 野党「愚策」:日本経済新聞
公的年金にかかる税金は元々猶予枠が大きく、住民税では65歳以上で年金所得330万円以下の場合の基礎控除110万円で住民税非課税となり、多くが先日の住民税非課税世帯向け給付金10万円の対象となっております。それを除外して5,000円の給付って、つまり税金払った年金受給者に税還付して4月からの年金減額を誤魔化そうって話ですね。元々投票率の高い高齢者に対する選挙対策以外の意味はあるのでしょうか?
政府オープンデータ「開店休業」、2割にアクセス不備 チャートは語る:日本経済新聞
国交省の統計不正と同様、統計やデータ公開にかかる人員は政府の自治体も不足しており、対応が追い付かない現実があります。政府がDXの旗降っても実効性が伴わないのはこういう現実があるからですね。

てことで疫病や戦争でガタガタの世界ですが、日本ではまたもや地震です。しかも東北で震災の恐怖が再現されました。関東でも揺れました。その結果交通インフラも被災しました。

東北新幹線脱線、影響長期化も 宮城・福島で震度6強:日本経済新聞
新幹線の脱線といえば中越地震のときの上越新幹線では直下型地震で脱線した訳ですが、その対策としてレールの沿って脱線ガードが設置され、安全性は高まったのですが、JR東日本では逆L字のアングル材を設置して脱線は許容するけど車輪をガードで受け止めて転覆はさせない対応を取っておりました。結果的には17両編成中16両の脱線となりました。

今回の地震は近い震源地の2つの地震が短時間に起きたものということで、1回目の地震でユレダスが働いて電源カットされ減速し、2回目の地震で脱線したものと見られております。詳細は続報を待つとして特異な揺れの結果らしいということは指摘しておきます。故に一部報道にあるように地震対策の不備ということではありません。事実死傷者はいなかった訳ですし。

それより78人の乗客の避難に5時間かかったことの方が問題かもしれません。夜間だったことでバス手配に時間がかかったことや道路の被災もあって到着が遅れたということもあるでしょうけど、3人の乗務員で対応しなければならない現場では乗客の不安払拭ぐらいしかやりようがなかったってことですね。乗客が多かったらどうなっていたか。省力化の負の側面もあります。

また今回は架線柱が傾いたり高架橋の支柱のコンクリート剥落など施設の損傷もあります。ただでさえ高架橋上で重機が入りにくいところでの16両の脱線車両を順次レールに乗せて復線させてから移動する必要がありますし、施設の補修もありますから、復旧には時間がかかります。こういうところは地上を走る在来線と異なるところで、ある意味新幹線の脆弱性として認識しておく必要はあります。当面は在来線を用いた代替輸送で凌ぐしかありません。

さてそうなると、整備新幹線で問題になる並行在来線問題を改めて考えると、並行在来線を切り離すことは脆弱性を高めることを意味する訳で、まだ三セク引き受けで鉄道で残るならば良いですが、北海道新幹線関連での函館本線長万部―余市間の廃止問題のような現実があります。

並行在来線問題に関しては少しおさらいしておいます。国鉄分割民営化で全国新幹線鉄道整備法(全幹法)の事業主体が国とされたため、実質主体となる国鉄の解体で整備計画が進められない状況に対して、国鉄改革で誕生したJR各社を国に代わる事業主体と読み替えて、言ってみれば全幹法の改正ではなく解釈変更で対応した結果です。

一方で財源問題もネックとなり、公共事業方式による財政資金投入も議論されましたが、例えば揮発油税などの道路財源の流用などの議論ならば交通インフラ全般の公共投資の見直しにつながる議論になった可能性もありますが、それも行われず、財源問題は迷走します。転機は89年の新幹線保有機構からのリースとされた新幹線のJR各社による買い取りでして、元々JR東日本が東証への株式上場を準備する過程で主たる事業用資産である新幹線が自己保有ではなくリースである点が資産査定上不利になるという指摘を受けてJR東海、西日本へ呼び掛けて買い取りを国にに要請したことで議論が進みます。

要請を受けた当時の運輸省は、JRの株式上場による完全民営化を推進する立場からこれを認めた一方、時価法の一種である再取得価格による資産再評価を実施して簿価買い取りを否定しました。その結果特に用地にかかる地価相当部分の評価額が拡大し、特に高地価エリアを沿線に持つJR東海が不満を持つ結果となったのですが、それに加えて整備新幹線財源を滑り込ませて評価額を上乗せし、その上乗せ部分を鉄道整備基金として整備新幹線を含む鉄道整備財源に充ていることになりました。

更に整備新幹線の整備スキームとして、並行在来線のJRからの切り離しを前提にそれを含むJRの受益分を30年リースでJRが負担する一方、残りを国と地方が2:1で負担し、鉄道整備基金出資分は国の負担分と読み替えてリース料で償還するという形で、三者が合意する前提で着工という手順が示されました。また限られた財源の有効利用の観点からより経済効果の大きい路線、区間への重点配分が決められました。これが後々様々な問題を引き起こす原点です。

その結果88年にJOCによって招致が決定した長野オリンピック対応で北陸新幹線高崎―長野間に優先配分されることとなり、当初は高崎―軽井沢間フル規格、軽井沢―長野間ミニ新幹線でスタートしたものの、その後91年のIOC総会で開催決定されそれを受けて全区間フル規格化の議論が起きて当初はなかった並行在来線引き受け問題が生じます。その結果は軽井沢―篠ノ井間は三セクしなの鉄道が引き受ける一方、横川―軽/、井沢間は県境で群馬県が三セク出資を渋り、また66.7/1,000の急勾配区間で専用補機を用いた特殊な区間だったことから維持費がかかるということもネックとなり、廃止されました。並行在来線廃止第1号です。上記函館本線山線は第2号となります。

実はこの重点配分はいろいろな問題を引き起こしますが、一つが東北新幹線延伸部の盛岡―新青森間でして、当初沼宮内―八戸間フル規格、盛岡―沼宮内間と八戸―青森間ミニ新幹線とした結果、沿線から反発を受けます。その際に用いられたロジックは青函トンネルを通じて他移動新幹線に繋がる区間に速度の遅い区間があることはおかしいという議論で、結果的になし崩しで全線フル規格化され終点も新青森となり青森市街地から遠くなりました。

また東北新幹線延伸部に関しては並行在来線の在り方を巡ってJR貨物から貨物幹線である当該区間が三セク化された後の線路使用料問題が提起されました。所謂アボイダブルコスト問題でして、元々重量が嵩み速度も高い貨物列車の線路破壊量は大きく線路保守費がかさみますが、国鉄分割時の申し合わせで当面赤字見込みのJR貨物救済策として格安な線路使用料が設定されていて、JR貨物の収支改善を待って旅客各社との交渉で値上げするというスキームだったのですが、並行在来線の三セク引き受けで前提が変わり、しかもローカル輸送に特化した三セクでは複線電化の高規格な線路を維持するインセンティブがない訳ですから、高規格維持の費用込みのフルコスト負担をJR貨物に求めることになります。

この問題の解決に例えば国の負担で高規格維持するのではなく、JR貨物が負担する差額を国が補助し、財源はJR東日本が支払う新幹線リース料に上乗せする形で対応することとしました。ここでも鉄道貨物維持のための本質的な議論を避けて決着しました。その結果同様の問題を抱える九州新幹線の並行在来線として切り離し対象となった八代―川内間は、三セクの旅客列車が軽量ディーゼル車によるワンマン列車である一方、電化設備維持のために三セクの肥薩おれんじ鉄道へJR貨物が出資する形を取っておりますし、北陸新幹線開業に伴う三セク各社との線路使用料負担問題で、結果的にJR西日本の特急サンダーバードの富山乗り入れが打ち止めとなり、新幹線につるぎという区間列車が設定される形となりました。現場合わせのバラバラな対応です。

九州新幹線の迷走も度々ありました。当初鹿児島ルートは八代―西鹿児島(現鹿児島中央)間で狭軌のスーパー特急方式による整備を前提にしており、しかも実績のない狭軌200km/h営業運転を前提とした計画として経済効果に下駄を履かせて重点配分の地位を得ました。それを念頭にJR九州は787系特急車を走行安定性の観点から敢えて普通鋼製で重量を与え、電動車比率を高めて高速走行を狙う設計となりました。とはいえ200km/h走行は無理で160km/h走行がせいぜいでしょう。お陰でローカル特急転用では制御車、付随車を増やして短編成化されるという意図せざる利点ももたらしました。

しかしその後船小屋(現船小屋温泉)―八代間、続いて博多―船小屋間の事業化で山陽新幹線直通のためフル規格化されることとなり、結局スーパー特急方式は当て馬に終わりました。この辺はさらばスーパー特急で記述しましたので繰り返しませんが、北陸新幹線もJR西日本区間も当初スーパー特急方式で事業化され、581系特急車は160km/h運転を前提に開発され683系共々ほくほく線内での160km/h運転を支えました。あくまでも結果論ですが、スーパー特急方式が実現していれば、条件の整った在来線区間での160km/h運転の横展開はあり得たでしょうし、在来線の高速化はもっと進んだ可能性もあります。

余談ですが、当初のスーパー特急方式に触発されて西鉄が大牟田線の延伸で九州新幹線事業への参入を狙ったとも言われ、もう一つの九州新幹線lで取り上げましたが、詳細は不明ながら八代以北の並行在来線を敢えて切り離さなかったのは並行私鉄の西鉄への牽制とすると、西鉄は非公式な打診ぐらいはしたんじゃないかと考えられます。

実際には京成電鉄の成田スカイアクセス線での160km/h運転が唯一の存在となりましたが、例えばJR東日本が中央線高速化を狙って投入したE351系は最高速160km/hで設計されましたが線路改良が進まず、加えて鋼製車体で重量が嵩んだこともあり、所定の性能を発揮できないまま車体傾斜式の後継車E353系に置き換えられた経緯は傾く台鉄で取り上げました。

加えて秋には飛べないジョナサン西九州新幹線が開業します。上記の重点配分の結果、距離が短いこともあって全線フル規格の場合の経済効果が薄く、当初よりスーパー特急方式が適切とされておりましたが、軌間可変車両の開発を前提としたフル規格化で孤立線になって「飛べない」かもめが走り出す訳です。本質的な議論を避けて現場合わせで適当に対応して無残な結果となっております。

元々高速大量輸送に特化した新幹線システムは汎用性に乏しく、維持費も高く闇雲に増やすのは賢明とは言えません。整備新幹線はそろそろ打ち止めにして、在来線高速化やドライバー不足に対応した鉄道貨物インフラの最適化などに資金を振り向けるべきということを申し上げたいところです。

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Sunday, March 13, 2022

帝国が終わるとき

ロシアのウクライナ侵攻は続きます。ロシアの誤算はエネルギー供給でロシア依存が強い欧州の結束でしょう。応手向けを中国がある程度カバーするとしても、それだけではカバーしきれない経済の収縮が起きます。

当然ロシアの攻勢が長引けばそれだけ国内経済は困窮します。ロシアデカップリング進行中以後の動きもいろいろあり、例えば事業撤退や停止した外国企業の資産没収とか知的財産権の無効化をロシアが打ち出しておりますが、一方でG7を中心にWTOの最恵国待遇停止で特に工業製品の関税が跳ね上がりますから、接収した工場で操業を続けても輸出は困難な訳で、SWIFT排除と共に経済のデカップリングが進みます。

ネットではロシアが金本位制採用でドル覇権が終わるという謎な書き込みがありますが、逆にロシアの金取引に応じる国はおそらく中国ぐらいでっようから、結局中国への金流出で人民元経済圏に取り込まれるだけというロシアにとってはありがたくない結果になるでしょう。BRICsと言われ持てはやされたロシアですが、実態は資源国としての躍進だった訳で、それが丁度ロシア危機後の経済成長を支え、またエリツィン政権を継承したプーチン政権で花開いたことがプーチン人気の原点でしょう。

実際オリガルヒと呼ばれる新興財閥はエネルギー企業が多く、プーチン政権に働きかけて有利に事業を進めてきたように、政府の関与でエネルギー輸出国の道をひた走った訳ですが、所謂オランダ病の喩え通り、資源国のジレンマに陥って経済が停滞した訳です。外資の導入で国内製造業の育成を図ろうとしてもエネルギー輸出で容易に外貨を稼げる状況では工業化による産業育成はうまくいかず、寧ろ利益配当や特許権料などの知財でマネーが流出する流れが止まりません。つまりロシアは自らの経済政策の失敗で追い込まれていた訳です。

更に核を含む軍備の負担がのしかかり、大国としての責任を問われる状況に耐えがたいストレスがもたらされていたという訳ですね。その一方でブダペスト覚書で核放棄したウクライナは、元々穀倉地帯として穀物輸出国として存在感が高かったうえに、帝政ロシア、ソビエト時代を通じて産業革命の舞台となり工業化も進んでおり、軽軍備で経済的な重石も取れて多くの外国企業が注目することとなり、欧米諸国に加えて中国まで積極種出する状況にありました。

1人当たりGDP水準はロシアにも及ばずモルドバやアルメニアと並ぶ欧州最貧国の1つですが、潜在的なポテンシャルは高い訳で、経済が停滞するロシアにとっては元々同じ国だったんだから外国勢の好きにさせたくないという動機を持ったとしても不思議ではありません。加えて言えば2014年のクリミア併合も連絡橋整備その他の公共投資で負担となり、経済的には失敗と評価されるような状況だった訳で、プーチン政権の取り得る選択肢はどんどん狭まりました。てことでロシアが音をあげてゲームオーバーの確率が最も高い訳です。勿論確率は低いけど核戦争となって人類が絶滅に危機に瀕し、生存者も核の冬に耐える状況もあり得ますが、現時点でそれを展望してもあまり意味がありませんね。てことでこのニュース。

サハリン2で板挟み 三井物産・三菱商事、安保か制裁か:日本経済新聞
上記のことを踏まえれば、損切してでも撤退し、戦後処理で権益を取り戻すというのがリアリティのある対応ってことでしょう。おそらく撤退が続く欧米企業はその辺を見切っての行動と考えられます。ただサハリン2は日本政府もコミットしており政投銀融資の対象にもなっている訳ですから、民間企業の判断だけで決められないジレンマはありますが、だからこそ政府が判断を示す必要がります。とはいえこれまでの岸田政権の対応を見る限り、こうしたリスクを伴う決断は期待薄でしょうけど。

これから先はオマケの話ですが、チェチェン紛争をはじめ国内も強権で抑え込んできたロシアのプーチン政権ですから、プーチン後を考えると地方の独立志向が強まる可能性があります。特にウラル地方のイスラム回廊は鉄路的地政学でも指摘したように元々不安定な地域であり、仮に独立して上海協力機構へ加盟となれば中国の影響力が強まり、ロシアに力を借りたカザフスタンの立場が微妙になったりとこれはこれで不安定な着地点となります。あとシベリア地区では気候変動による温暖化を見越して中国からの移住者が増えている状況もあり、ロシアの中国依存が強まれば実質的に中国に切り取られる可能性すらあります。つまり大ロシア帝国は終焉を迎える可能性がある訳ですね。私たちは帝国の終焉に立ち会えるかもしれません。

そもそも帝国とは?という話もありますが、広大な領域を統治するシステムと捉えれば、歴史的にはローマ帝国の興亡や歴代中華帝国、イスラム帝国、モンゴル帝国、オスマン帝国、ムガール帝国などが浮かびます。共通点は包摂(inclusin)で表されます。つまり広大な領域を統治するためには多数の民族や宗教の存在を前提とする以外あり得ない訳です。

例えばローマはラテン系民族が中心だったけど、農業中心の産業構造で労働力確保の為に周辺蛮族を攻撃して多数の異民族を抱えますし、ギリシャ譲りの多神教だったのが古代ヘブライ人の一神教を取り込み、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教への繋がりが出来ますし、特に邪教とされたキリスト教がローマ帝国衰退の中で国教となり、後の欧州文明の基盤を形成する訳です。

中国でも多数の異民族との関係で歴史が動き、また天下が割れて戦乱が続いたりと複雑な経過をたどりますが、加えて道教、儒教とインド伝来の仏教との関係が興味深く、道教が民間信仰的で儒教は統治者のイデオロギーの性格があったものの、徳を重んじる両者の倫理規範には共通性があり、互いに影響し合いましたし、仏教の解脱と二教の特の共通性の理解もあり、所謂三教でも影響し合う関係が見られ、多様性の包摂に寄与していました。尚歴代王朝は三教の何れかに肩入れしましたし、清代の太平天国のようにキリスト教を独自解釈するようなことも起きる訳です。

インドから地中秋沿いにまで広がったイスラム帝国もアラビア人中心だったけど多数の異民族を抱えてましたし、ユダヤ教、キリスト教をはじめインド由来の宗教も含め多数の異教徒との共存で成り立っていた訳ですが、それ故に異教徒の包摂に綻びだ出て分割されました。その一方、モンゴル帝国の成立で一部のモンゴル人が入信したこともあり、ウイグルからトルコに至る広範なイスラム回廊の形成に繋がります。その一方で中国の統治システムに乗っかった元王朝もあり、モンゴル自身も多様性を内包していました。それがオスマン帝国やムガール帝国の出現にもつながるなどしておりますが、共通するのは多様性の包摂とそれ故の分断、解体という流れです。今ロシアがその際にあると見ることは可能です。

ロシアの場合は中核のロシア人の少子化傾向と逆にイスラム系民族の人口増加が同時進行しており、プーチン政権初期の経済成長も専らロシア人が恩恵を受ける一方、多数の少数民族は取り残されてきた訳で、それが国内の格差拡大をもたらし治安を悪化させた訳です。こうした構造変化を強権的に抑え込んだ結果が今のロシアですから、包摂性が綻び統治の遠心力が働く環境が整ってきた訳です。

一方で大英帝国に代表される帝国主義ですが、本国はあまり大きくないけど、英東インド会社によるインド植民地経営に見られるように、強権的な権力を用いずに民間企業に特権を与えることで最適化する分割統治システムに特徴があります。それに倣ったのがアメリカであり戦前の日本ですが、後発国の日本は既に列強の権益を押さえられた後に割り込んだ関係で摩擦を生じる訳ですが、そのことで国家意識を拗らせて世界戦に向かう愚を犯しました。

所謂グローバル化も先進国に対する新興国のキャッチアップの機会を提供することで、新興国の成長力を取り込んだ世界秩序という意味で、帝国的包摂性を有する訳ですが、その中で一時優等生だったロシアは経済政策の失敗で行き場を失い戦争を仕掛けたと見れば戦前の日本とそっくりですね。という訳でコロナ自粛中で鉄分不足気味ですが、陽気も良くなるし春ダイヤネタを拾いに出ることを目論んでおりますが、そんな呑気なエントリーを書ける環境が早く来てほしいですね。

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Sunday, March 06, 2022

ロシアデカップリング進行中

ロシアのウクライナ侵攻が長引いています。米情報当局が公開した48時間キエフ陥落は正直言えばロシアもそこまではしないだろうと思っていましたが、ロシア国営放送の予定稿と思しきテキストが漏洩したことで、少なくともロシア当局は主観的に想定していたと見られ、ある意味正しさが証明されました。同じ情報は中国当局にももたらされましたが、やはり真に受けず寧ろ経済制裁に反対する姿勢を見せておりました。しかしその中国がロシアの暴走に困惑していると見られます。

「ロシア即時撤退を」国連決議141カ国賛成、5カ国反対:日本経済新聞
法的拘束力のない総会決議ですが、反対は5カ国だけで、中国を含む50カ国ほどは棄権して様子見姿勢です。中国は安保理決議でも棄権しており、拒否権発動したロシアとは異なった対応を取りました。アメリカとしてはインテリジェンス情報を公開してまで、中国にロシア説得を期待したようですが、中国はロシアが今回のように全面侵攻するとまでは思っていなかったようです。

そして総会決議で国際社会の反応が可視化されており、安易にロシア支援を打ち出すのもはばかられる状況です。そして経済制裁も金融制裁の最終兵器とも言われるSWIFT遮断に踏み込みました。SWIFTから遮断されても他の手段で貿易決済は可能ですが、手間がかかり量をこなせない状況ですから決済の停滞は確実にロシアを追い詰めますし、加えて今回ロシア中銀を制裁対象に加えたことが大きいと言えます。経済制裁でルーブル安になっても外貨準備を用いた為替介入による通貨防衛が困難になりますから、国内のインフレで経済を痛めつけることになります。国民のロシア政府に対する不満が高まれば政権が倒れる可能性もある訳です。

とはいえこれは諸刃の剣でもあり、逆に追い詰められた国民の不満を諸外国の制裁のせいとして結束を高める副作用もあります。そしてロシア国内ではすでに報道管制が敷かれていてSNSの遮断なども行われており、国民には当局発の情報しか届かない状況になっているようです。という訳で長期化は避けられない可能性はあります。しかしそれはロシアを更に経済的に追い詰めることにもなります。

火災の欧州最大級原発、ロシア軍が制圧 すでに鎮火:日本経済新聞
9.11を受けてテロを想定した空からのアタックに耐えられる堅牢な構造を求められた原子力発電所ですが、炉型の古いザポロジエ原発が対応しているかどうかはわかりません。そこへの砲撃という蛮行に及び、IAEAに「想定していない事態で最悪チェルノブイリ以上のシビアアクシデントもあり得る」と言わしめたものです。ちなみにテロ対策は既存の原発も改修を求められており、それを柏崎刈羽で誤魔化したとして規制委の処分を受けた東電は原発再稼働を事実上封じられております。

その柏崎刈羽原発ですが、中越沖地震で全停止して東電管内で電力不足が心配されたように、効率的とされた大規模集中電源が災害リスクに弱いことを露呈しました。ロシアが原発を押さえようとしたのはおそらく大規模電源を制圧して電力供給を絞ってウクライナの産業や生活に圧力をかける意図なのでしょう。シビアアクシデントによる放射能漏れに留まらず、原発のリスクはこの大規模集中電源というところにもある訳で、その意味で小規模分散電源となる再生可能エネルギーの方が安全保障面でも優位性があります。話題を戻します。

物流まひ、ロシア痛撃 コンテナ海路の大半が欧州で遮断:日本経済新聞
金融に留まらず実体経済に直接かかわる物流でロシア向け船舶の寄港を欧州の港湾が拒否していて事実上封鎖状態になっています。加えてチャイナランドブリッジと並ぶユーラシア横断陸路のシベリア鉄道もヤードのコンテナ貨車が激減している様子が衛星写真で確認されており、ほぼ完全に封じ込められている現状です。ロシアが音をあげるのは時間の問題ですが、戦時中の日本のように悪あがきすれば、それだけ戦争被害が拡大します。あとEUのロシア機の空域規制でロシアも報復規制しANAやJALも追随しています。航空便も影響を受けています。

これが可能なのはロシアの経済規模を知れば納得なんですが、1.4憶認の人口でGDP1.6兆ドルですから5兆ドルの日本より若干多い人口で1/3の経済規模です。ですから逆に言えば人口が日本の10倍GDPが3倍になる中国の封じ込めは困難だけど、ロシアなら可能ということですね。何しろ永世中立国のスイスまで制裁に踏み込んでますし、軍事的中立を重んじてNATO非加盟だったスウェーデンやフィンランドもNATO加盟検討が伝えられます。ロシアは自らの行動で世界から見放されている訳です。プーチンが失脚するしか出口がなさそうです。

米アフガン撤退でタリバンの政権返り咲きにはロシアの後押しがあり、ソビエト時代の因縁を乗り越えて親米傀儡政権を追い出したことで留飲を下げた可能性はありますが、そのアメリカが撤退時にも整然としたロジスティクスを見せたことは撤退は敗北に非ずで指摘しましたが、アメリカも撤退方針はオバマ政権時代に打ち出されたものの、アフガン政府の統治能力が低く、都市部を離れるとタリバンが実効支配していたし、補助金ピンハネで北軍兵士の賃金未払いも常態化しており、タリバンに対して戦わずして投降し米軍支給の兵器も渡す体たらくで、別にタリバンはロシアの力で復権した訳じゃありません。

そしてウクライナではやはり士気の低いロシア軍兵士がウクライナ軍に次々投降しロシア当局の思惑が外れるという逆転現象が起きている訳で、皮肉な話です。寧ろアメリカが関与したベトナム戦争も泥沼化の上敗戦してますし、軍事力の優位で現状を変更することの困難さは歴史が繰り返しています。ロシアはその辺を学んでいないんですね。

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