新幹線は万能ではない
ロシアの悪口ばかりでは何なんで国内に目を向けます。
年金者ら給付金、首相「物価みて検討」 野党「愚策」:日本経済新聞公的年金にかかる税金は元々猶予枠が大きく、住民税では65歳以上で年金所得330万円以下の場合の基礎控除110万円で住民税非課税となり、多くが先日の住民税非課税世帯向け給付金10万円の対象となっております。それを除外して5,000円の給付って、つまり税金払った年金受給者に税還付して4月からの年金減額を誤魔化そうって話ですね。元々投票率の高い高齢者に対する選挙対策以外の意味はあるのでしょうか?
政府オープンデータ「開店休業」、2割にアクセス不備 チャートは語る:日本経済新聞国交省の統計不正と同様、統計やデータ公開にかかる人員は政府の自治体も不足しており、対応が追い付かない現実があります。政府がDXの旗降っても実効性が伴わないのはこういう現実があるからですね。
てことで疫病や戦争でガタガタの世界ですが、日本ではまたもや地震です。しかも東北で震災の恐怖が再現されました。関東でも揺れました。その結果交通インフラも被災しました。
東北新幹線脱線、影響長期化も 宮城・福島で震度6強:日本経済新聞新幹線の脱線といえば中越地震のときの上越新幹線では直下型地震で脱線した訳ですが、その対策としてレールの沿って脱線ガードが設置され、安全性は高まったのですが、JR東日本では逆L字のアングル材を設置して脱線は許容するけど車輪をガードで受け止めて転覆はさせない対応を取っておりました。結果的には17両編成中16両の脱線となりました。
今回の地震は近い震源地の2つの地震が短時間に起きたものということで、1回目の地震でユレダスが働いて電源カットされ減速し、2回目の地震で脱線したものと見られております。詳細は続報を待つとして特異な揺れの結果らしいということは指摘しておきます。故に一部報道にあるように地震対策の不備ということではありません。事実死傷者はいなかった訳ですし。
それより78人の乗客の避難に5時間かかったことの方が問題かもしれません。夜間だったことでバス手配に時間がかかったことや道路の被災もあって到着が遅れたということもあるでしょうけど、3人の乗務員で対応しなければならない現場では乗客の不安払拭ぐらいしかやりようがなかったってことですね。乗客が多かったらどうなっていたか。省力化の負の側面もあります。
また今回は架線柱が傾いたり高架橋の支柱のコンクリート剥落など施設の損傷もあります。ただでさえ高架橋上で重機が入りにくいところでの16両の脱線車両を順次レールに乗せて復線させてから移動する必要がありますし、施設の補修もありますから、復旧には時間がかかります。こういうところは地上を走る在来線と異なるところで、ある意味新幹線の脆弱性として認識しておく必要はあります。当面は在来線を用いた代替輸送で凌ぐしかありません。
さてそうなると、整備新幹線で問題になる並行在来線問題を改めて考えると、並行在来線を切り離すことは脆弱性を高めることを意味する訳で、まだ三セク引き受けで鉄道で残るならば良いですが、北海道新幹線関連での函館本線長万部―余市間の廃止問題のような現実があります。
並行在来線問題に関しては少しおさらいしておいます。国鉄分割民営化で全国新幹線鉄道整備法(全幹法)の事業主体が国とされたため、実質主体となる国鉄の解体で整備計画が進められない状況に対して、国鉄改革で誕生したJR各社を国に代わる事業主体と読み替えて、言ってみれば全幹法の改正ではなく解釈変更で対応した結果です。
一方で財源問題もネックとなり、公共事業方式による財政資金投入も議論されましたが、例えば揮発油税などの道路財源の流用などの議論ならば交通インフラ全般の公共投資の見直しにつながる議論になった可能性もありますが、それも行われず、財源問題は迷走します。転機は89年の新幹線保有機構からのリースとされた新幹線のJR各社による買い取りでして、元々JR東日本が東証への株式上場を準備する過程で主たる事業用資産である新幹線が自己保有ではなくリースである点が資産査定上不利になるという指摘を受けてJR東海、西日本へ呼び掛けて買い取りを国にに要請したことで議論が進みます。
要請を受けた当時の運輸省は、JRの株式上場による完全民営化を推進する立場からこれを認めた一方、時価法の一種である再取得価格による資産再評価を実施して簿価買い取りを否定しました。その結果特に用地にかかる地価相当部分の評価額が拡大し、特に高地価エリアを沿線に持つJR東海が不満を持つ結果となったのですが、それに加えて整備新幹線財源を滑り込ませて評価額を上乗せし、その上乗せ部分を鉄道整備基金として整備新幹線を含む鉄道整備財源に充ていることになりました。
更に整備新幹線の整備スキームとして、並行在来線のJRからの切り離しを前提にそれを含むJRの受益分を30年リースでJRが負担する一方、残りを国と地方が2:1で負担し、鉄道整備基金出資分は国の負担分と読み替えてリース料で償還するという形で、三者が合意する前提で着工という手順が示されました。また限られた財源の有効利用の観点からより経済効果の大きい路線、区間への重点配分が決められました。これが後々様々な問題を引き起こす原点です。
その結果88年にJOCによって招致が決定した長野オリンピック対応で北陸新幹線高崎―長野間に優先配分されることとなり、当初は高崎―軽井沢間フル規格、軽井沢―長野間ミニ新幹線でスタートしたものの、その後91年のIOC総会で開催決定されそれを受けて全区間フル規格化の議論が起きて当初はなかった並行在来線引き受け問題が生じます。その結果は軽井沢―篠ノ井間は三セクしなの鉄道が引き受ける一方、横川―軽/、井沢間は県境で群馬県が三セク出資を渋り、また66.7/1,000の急勾配区間で専用補機を用いた特殊な区間だったことから維持費がかかるということもネックとなり、廃止されました。並行在来線廃止第1号です。上記函館本線山線は第2号となります。
実はこの重点配分はいろいろな問題を引き起こしますが、一つが東北新幹線延伸部の盛岡―新青森間でして、当初沼宮内―八戸間フル規格、盛岡―沼宮内間と八戸―青森間ミニ新幹線とした結果、沿線から反発を受けます。その際に用いられたロジックは青函トンネルを通じて他移動新幹線に繋がる区間に速度の遅い区間があることはおかしいという議論で、結果的になし崩しで全線フル規格化され終点も新青森となり青森市街地から遠くなりました。
また東北新幹線延伸部に関しては並行在来線の在り方を巡ってJR貨物から貨物幹線である当該区間が三セク化された後の線路使用料問題が提起されました。所謂アボイダブルコスト問題でして、元々重量が嵩み速度も高い貨物列車の線路破壊量は大きく線路保守費がかさみますが、国鉄分割時の申し合わせで当面赤字見込みのJR貨物救済策として格安な線路使用料が設定されていて、JR貨物の収支改善を待って旅客各社との交渉で値上げするというスキームだったのですが、並行在来線の三セク引き受けで前提が変わり、しかもローカル輸送に特化した三セクでは複線電化の高規格な線路を維持するインセンティブがない訳ですから、高規格維持の費用込みのフルコスト負担をJR貨物に求めることになります。
この問題の解決に例えば国の負担で高規格維持するのではなく、JR貨物が負担する差額を国が補助し、財源はJR東日本が支払う新幹線リース料に上乗せする形で対応することとしました。ここでも鉄道貨物維持のための本質的な議論を避けて決着しました。その結果同様の問題を抱える九州新幹線の並行在来線として切り離し対象となった八代―川内間は、三セクの旅客列車が軽量ディーゼル車によるワンマン列車である一方、電化設備維持のために三セクの肥薩おれんじ鉄道へJR貨物が出資する形を取っておりますし、北陸新幹線開業に伴う三セク各社との線路使用料負担問題で、結果的にJR西日本の特急サンダーバードの富山乗り入れが打ち止めとなり、新幹線につるぎという区間列車が設定される形となりました。現場合わせのバラバラな対応です。
九州新幹線の迷走も度々ありました。当初鹿児島ルートは八代―西鹿児島(現鹿児島中央)間で狭軌のスーパー特急方式による整備を前提にしており、しかも実績のない狭軌200km/h営業運転を前提とした計画として経済効果に下駄を履かせて重点配分の地位を得ました。それを念頭にJR九州は787系特急車を走行安定性の観点から敢えて普通鋼製で重量を与え、電動車比率を高めて高速走行を狙う設計となりました。とはいえ200km/h走行は無理で160km/h走行がせいぜいでしょう。お陰でローカル特急転用では制御車、付随車を増やして短編成化されるという意図せざる利点ももたらしました。
しかしその後船小屋(現船小屋温泉)―八代間、続いて博多―船小屋間の事業化で山陽新幹線直通のためフル規格化されることとなり、結局スーパー特急方式は当て馬に終わりました。この辺はさらばスーパー特急で記述しましたので繰り返しませんが、北陸新幹線もJR西日本区間も当初スーパー特急方式で事業化され、581系特急車は160km/h運転を前提に開発され683系共々ほくほく線内での160km/h運転を支えました。あくまでも結果論ですが、スーパー特急方式が実現していれば、条件の整った在来線区間での160km/h運転の横展開はあり得たでしょうし、在来線の高速化はもっと進んだ可能性もあります。
余談ですが、当初のスーパー特急方式に触発されて西鉄が大牟田線の延伸で九州新幹線事業への参入を狙ったとも言われ、もう一つの九州新幹線lで取り上げましたが、詳細は不明ながら八代以北の並行在来線を敢えて切り離さなかったのは並行私鉄の西鉄への牽制とすると、西鉄は非公式な打診ぐらいはしたんじゃないかと考えられます。
実際には京成電鉄の成田スカイアクセス線での160km/h運転が唯一の存在となりましたが、例えばJR東日本が中央線高速化を狙って投入したE351系は最高速160km/hで設計されましたが線路改良が進まず、加えて鋼製車体で重量が嵩んだこともあり、所定の性能を発揮できないまま車体傾斜式の後継車E353系に置き換えられた経緯は傾く台鉄で取り上げました。
加えて秋には飛べないジョナサン西九州新幹線が開業します。上記の重点配分の結果、距離が短いこともあって全線フル規格の場合の経済効果が薄く、当初よりスーパー特急方式が適切とされておりましたが、軌間可変車両の開発を前提としたフル規格化で孤立線になって「飛べない」かもめが走り出す訳です。本質的な議論を避けて現場合わせで適当に対応して無残な結果となっております。
元々高速大量輸送に特化した新幹線システムは汎用性に乏しく、維持費も高く闇雲に増やすのは賢明とは言えません。整備新幹線はそろそろ打ち止めにして、在来線高速化やドライバー不足に対応した鉄道貨物インフラの最適化などに資金を振り向けるべきということを申し上げたいところです。
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