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Sunday, March 13, 2022

帝国が終わるとき

ロシアのウクライナ侵攻は続きます。ロシアの誤算はエネルギー供給でロシア依存が強い欧州の結束でしょう。応手向けを中国がある程度カバーするとしても、それだけではカバーしきれない経済の収縮が起きます。

当然ロシアの攻勢が長引けばそれだけ国内経済は困窮します。ロシアデカップリング進行中以後の動きもいろいろあり、例えば事業撤退や停止した外国企業の資産没収とか知的財産権の無効化をロシアが打ち出しておりますが、一方でG7を中心にWTOの最恵国待遇停止で特に工業製品の関税が跳ね上がりますから、接収した工場で操業を続けても輸出は困難な訳で、SWIFT排除と共に経済のデカップリングが進みます。

ネットではロシアが金本位制採用でドル覇権が終わるという謎な書き込みがありますが、逆にロシアの金取引に応じる国はおそらく中国ぐらいでっようから、結局中国への金流出で人民元経済圏に取り込まれるだけというロシアにとってはありがたくない結果になるでしょう。BRICsと言われ持てはやされたロシアですが、実態は資源国としての躍進だった訳で、それが丁度ロシア危機後の経済成長を支え、またエリツィン政権を継承したプーチン政権で花開いたことがプーチン人気の原点でしょう。

実際オリガルヒと呼ばれる新興財閥はエネルギー企業が多く、プーチン政権に働きかけて有利に事業を進めてきたように、政府の関与でエネルギー輸出国の道をひた走った訳ですが、所謂オランダ病の喩え通り、資源国のジレンマに陥って経済が停滞した訳です。外資の導入で国内製造業の育成を図ろうとしてもエネルギー輸出で容易に外貨を稼げる状況では工業化による産業育成はうまくいかず、寧ろ利益配当や特許権料などの知財でマネーが流出する流れが止まりません。つまりロシアは自らの経済政策の失敗で追い込まれていた訳です。

更に核を含む軍備の負担がのしかかり、大国としての責任を問われる状況に耐えがたいストレスがもたらされていたという訳ですね。その一方でブダペスト覚書で核放棄したウクライナは、元々穀倉地帯として穀物輸出国として存在感が高かったうえに、帝政ロシア、ソビエト時代を通じて産業革命の舞台となり工業化も進んでおり、軽軍備で経済的な重石も取れて多くの外国企業が注目することとなり、欧米諸国に加えて中国まで積極種出する状況にありました。

1人当たりGDP水準はロシアにも及ばずモルドバやアルメニアと並ぶ欧州最貧国の1つですが、潜在的なポテンシャルは高い訳で、経済が停滞するロシアにとっては元々同じ国だったんだから外国勢の好きにさせたくないという動機を持ったとしても不思議ではありません。加えて言えば2014年のクリミア併合も連絡橋整備その他の公共投資で負担となり、経済的には失敗と評価されるような状況だった訳で、プーチン政権の取り得る選択肢はどんどん狭まりました。てことでロシアが音をあげてゲームオーバーの確率が最も高い訳です。勿論確率は低いけど核戦争となって人類が絶滅に危機に瀕し、生存者も核の冬に耐える状況もあり得ますが、現時点でそれを展望してもあまり意味がありませんね。てことでこのニュース。

サハリン2で板挟み 三井物産・三菱商事、安保か制裁か:日本経済新聞
上記のことを踏まえれば、損切してでも撤退し、戦後処理で権益を取り戻すというのがリアリティのある対応ってことでしょう。おそらく撤退が続く欧米企業はその辺を見切っての行動と考えられます。ただサハリン2は日本政府もコミットしており政投銀融資の対象にもなっている訳ですから、民間企業の判断だけで決められないジレンマはありますが、だからこそ政府が判断を示す必要がります。とはいえこれまでの岸田政権の対応を見る限り、こうしたリスクを伴う決断は期待薄でしょうけど。

これから先はオマケの話ですが、チェチェン紛争をはじめ国内も強権で抑え込んできたロシアのプーチン政権ですから、プーチン後を考えると地方の独立志向が強まる可能性があります。特にウラル地方のイスラム回廊は鉄路的地政学でも指摘したように元々不安定な地域であり、仮に独立して上海協力機構へ加盟となれば中国の影響力が強まり、ロシアに力を借りたカザフスタンの立場が微妙になったりとこれはこれで不安定な着地点となります。あとシベリア地区では気候変動による温暖化を見越して中国からの移住者が増えている状況もあり、ロシアの中国依存が強まれば実質的に中国に切り取られる可能性すらあります。つまり大ロシア帝国は終焉を迎える可能性がある訳ですね。私たちは帝国の終焉に立ち会えるかもしれません。

そもそも帝国とは?という話もありますが、広大な領域を統治するシステムと捉えれば、歴史的にはローマ帝国の興亡や歴代中華帝国、イスラム帝国、モンゴル帝国、オスマン帝国、ムガール帝国などが浮かびます。共通点は包摂(inclusin)で表されます。つまり広大な領域を統治するためには多数の民族や宗教の存在を前提とする以外あり得ない訳です。

例えばローマはラテン系民族が中心だったけど、農業中心の産業構造で労働力確保の為に周辺蛮族を攻撃して多数の異民族を抱えますし、ギリシャ譲りの多神教だったのが古代ヘブライ人の一神教を取り込み、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教への繋がりが出来ますし、特に邪教とされたキリスト教がローマ帝国衰退の中で国教となり、後の欧州文明の基盤を形成する訳です。

中国でも多数の異民族との関係で歴史が動き、また天下が割れて戦乱が続いたりと複雑な経過をたどりますが、加えて道教、儒教とインド伝来の仏教との関係が興味深く、道教が民間信仰的で儒教は統治者のイデオロギーの性格があったものの、徳を重んじる両者の倫理規範には共通性があり、互いに影響し合いましたし、仏教の解脱と二教の特の共通性の理解もあり、所謂三教でも影響し合う関係が見られ、多様性の包摂に寄与していました。尚歴代王朝は三教の何れかに肩入れしましたし、清代の太平天国のようにキリスト教を独自解釈するようなことも起きる訳です。

インドから地中秋沿いにまで広がったイスラム帝国もアラビア人中心だったけど多数の異民族を抱えてましたし、ユダヤ教、キリスト教をはじめインド由来の宗教も含め多数の異教徒との共存で成り立っていた訳ですが、それ故に異教徒の包摂に綻びだ出て分割されました。その一方、モンゴル帝国の成立で一部のモンゴル人が入信したこともあり、ウイグルからトルコに至る広範なイスラム回廊の形成に繋がります。その一方で中国の統治システムに乗っかった元王朝もあり、モンゴル自身も多様性を内包していました。それがオスマン帝国やムガール帝国の出現にもつながるなどしておりますが、共通するのは多様性の包摂とそれ故の分断、解体という流れです。今ロシアがその際にあると見ることは可能です。

ロシアの場合は中核のロシア人の少子化傾向と逆にイスラム系民族の人口増加が同時進行しており、プーチン政権初期の経済成長も専らロシア人が恩恵を受ける一方、多数の少数民族は取り残されてきた訳で、それが国内の格差拡大をもたらし治安を悪化させた訳です。こうした構造変化を強権的に抑え込んだ結果が今のロシアですから、包摂性が綻び統治の遠心力が働く環境が整ってきた訳です。

一方で大英帝国に代表される帝国主義ですが、本国はあまり大きくないけど、英東インド会社によるインド植民地経営に見られるように、強権的な権力を用いずに民間企業に特権を与えることで最適化する分割統治システムに特徴があります。それに倣ったのがアメリカであり戦前の日本ですが、後発国の日本は既に列強の権益を押さえられた後に割り込んだ関係で摩擦を生じる訳ですが、そのことで国家意識を拗らせて世界戦に向かう愚を犯しました。

所謂グローバル化も先進国に対する新興国のキャッチアップの機会を提供することで、新興国の成長力を取り込んだ世界秩序という意味で、帝国的包摂性を有する訳ですが、その中で一時優等生だったロシアは経済政策の失敗で行き場を失い戦争を仕掛けたと見れば戦前の日本とそっくりですね。という訳でコロナ自粛中で鉄分不足気味ですが、陽気も良くなるし春ダイヤネタを拾いに出ることを目論んでおりますが、そんな呑気なエントリーを書ける環境が早く来てほしいですね。

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