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May 2022

Sunday, May 29, 2022

コロぶナ世界

コロナリセッションを取り上げた前エントリーで指摘した大恐慌越えのNYダウ9週連続下落は回避されました。

NYダウ、「9週連続下落」回避 週間で1951ドル高:日本経済新聞
しかし安心は禁物、3兆ドルコロナ対策で懐の温かい個人投資家が値下がりを好感して買いに入ったようです。一方でインフレは止まらず、求人難による賃金上昇が追い付いていない現実があります。実は好調に見える米経済ですが、実質賃金の低下というこれまでにないことが起きています。給付金で懐が温かい国民は、株式投資する余裕はあるけど仕事は選り好みするから、港湾労働者やトラックドライバーの不足といったサプライチェーン攪乱は解消せず、それどころかアマゾンのように現場従業員の賃上げを表明したEC企業ですら人手不足で商品の遅配が日常化している始末です。

加えて消費者としても懐が温かいから消費は旺盛で、供給制約が解消しないまま需要が増える悪循環でインフレを長期化させています。それが意味するのはFRBの利上げと緩和縮小のスタンスは続きますから、金利上昇に伴う株安トレンドは続きますし、同時に先行きの景気悪化も一部投資家は警戒しています。供給制約と需要拡大のミスマッチが構造化している訳ですから、理論上供給に合わせて需要を縮小させるしかインフレ対策はない訳で、FRBに留まらず米政府の財政出動も困難にします。

ザックリ整理すると、プロ投資家は楽観派でも株安警戒で様子見、悲観派はリセッションを織り込んで資金を引き揚げつつあるというところです。つまりプロが売って下がった相場を個人が支える構図で、これ典型的なバブル崩壊の前兆です。今回買いに入った個人投資家はいずれ値下がりに我慢しきれずパニック売りに走ること確実です。そしてこの面からも消費を冷やし、そこまで行ってやっとインフレが止まるというのが、現時点で見通せるシナリオです。残念ながら有効な回避策は見当たりません。

加えて言えば米利上げは米ドル債務を抱える多くの途上国にとっては重荷となりますから、世界規模での景気後退を覚悟する必要があります。加えて戦争と疫病で四面楚歌です。コロぶナ世界と申しあげる所以です。

更にウクライナ支援の武器供与でロッキードマーチンなどの軍需企業に増産圧力がかかっていますが、軍需企業であってもサプライチェーン攪乱の影響を受けますから、少なくとも消費を支える民需はかなり冷え込まないと需給のマッチングは起きないということになります。とはいえウクライナの戦況は予断を許さず、手を抜ける状況ではありません。加えて資源高で米エネルギー企業も潤っておりますが、脱炭素で新規投資は及び腰。当然利益が積み上がりますから、バイデン政権は法人増税で吸い上げることを狙うでしょう。既にイギリスで先取りする動きがあります。

英、石油・ガス会社の課税強化 政権不祥事で転換か:日本経済新聞
パーティー疑惑で支持率を落としたジョンソン政権ですが、インフレ退治の人気取りに舵を切りました。エネ企業への課税でその財源を確保するもので、ある意味米政権を先取りした格好です。ここで忘れちゃいけないのが、逆に石油元売りに補助金出して価格統制している某日本国です-_-;。その日本国の最近のニュースです。
米提唱のアジア経済圏発足へ 日韓参加、中国は警戒:日本経済新聞
クワッドから派生したインド太平洋地域の新たな経済枠組みですが、関税撤廃などの貿易交渉よりもハイテクサプライチェーンの構築など中国外しの枠組みです。TPPなどのFTAが労組からの反対で進められず、また大統領に交渉権を与えるTPAが失効している中で、実効性を持たせられるのか?という面もはありますが、バイデン大統領は訪日前に韓国に立ち寄り、尹錫悦新大統領と会談したに留まらず米国内にEV工場建設を表明した現代自動車トップに会って礼を述べたりサムスンなどのトップとも会っております。残念ながらバイデン氏と会った日本企業トップはいません。IPEFの狙いははっきりしてますね。ま、それどころじゃない問題をいろい抱えている日本ですが、海外から不評のコロナ鎖国の緩和もこんなです。
観光入国を再開、円安生かす 段階的に「平時並み」へ:日本経済新聞
当面添乗員同行のパックツアー限定での解禁ということですが、日本で推奨されているマスク着用は法的義務ではありませんので、外国人に守ってもらうのが困難なんですが、それを日本の旅行会社が添乗員をつけてマスク着用をお願いするということですね。コロナ対策の曖昧さを旅行会社に丸投げして手数料と引き替えにインフォーマルな責任を負わせるということですね。これ例えば柏崎刈羽での不祥事にも拘らず東電に原発オペレーションをさせようとする構図と一緒ですね。国が前へ出れば批判を浴びるから、民間に丸投げして矢面に立たせる構図です。これで原発再稼働がスムーズに進むというのはメルヘンです。
葛西敬之さん死去 川勝知事哀惜「もう一度論戦したかった」:静岡新聞
ネットでは意外という声が多いですが、元々川勝知事はリニア推進派で、リニア建設工事に付帯する工事用道路の観光転用や懸案ののぞみ静岡県内停車や静岡富士山空港駅設置でJR東海と条件交渉ができることに期待していたんですが、大井川の水源問題に関しては周辺自治体からの要請もあり、知事として厳格に対応する必要があった訳ですが、JR東海が環境アセス条例を守らず、どうせ条件闘争と見くびった結果の対立です、その辺すっ飛ばして「リニアの敵」と見做されていた訳ですね。愚かです。

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Sunday, May 22, 2022

コロナリセッションを覚悟せよ

米長期金利上昇がこんな弊害を生んでいます。

米金利上昇、地銀を直撃 きらやか銀行が公的資金申請:日本経済新聞
原因は円安と同じ日米金利差ですが、異次元緩和でベースマネーが増えて回り回って銀行預金が増える一方、地元企業の資金需要から融資は伸びず、差を埋めるために債券投資となりますが、国内債券は低金利で利回りが稼げないから外債でとなり、特に米国債は安全資産として保有されていましたが、金利上昇で値下がりして減損処理を余儀なくされた訳です。

加えてコロナ対策で担保ゼロ金利ゼロのゼロゼロ融資で貸し込んだ結果、課題の融資は伸びたけど日銀のマイナス金利融資で利ザヤは確保できるものの、コロナ禍が長引いて融資の回収が課題になります。融資先企業が業績回復すれば利付きの通常融資に切り替えれば良いですが、それどころか回収できずに倒産となれば損失の引き当てで自己資本を棄損することになりますので、公的資金注入に至る訳です。おそらく他の地方銀行も続くと思われます。まるで90年代の金融危機が地方銀行で繰り返されているが如くです。

いやこれバブル崩壊の前兆じゃないかと。しかも日本だけの話ではなくNY株式の下げが止まらない米市場、ウクライナ戦争で地政学リスクを抱える欧州市場、ゼロコロナ政策でハードロックダウンの中国も同様です。下手するとリーマンショックを越える金融危機が迫っている可能性があります。

NYダウ、90年ぶり8週連続下落 景気冷え込みを警戒:日本経済新聞
米株安はFRBの利上げがきっかけですが、市場に優しかった筈のパウエル議長からしてインフレ退治にシフトしており、今後も米金利上昇は続きますから、常識的には株価はまだ下がる訳です。逆にFRBのソフトランディング路線への期待から投資家が底値を探る動きを見せており、株が下がると買いが入り反転するものの、直ぐに腰折れしてを繰り返しながら下げのトレンドを続けています。90年前と言えば大恐慌のときですから、9週連続の下げとなれば未知の領域となります。いずれ給付金をつぎ込んでデビューした高値掴みの個人投資家が我慢できずにパニック売りに動くと阿鼻叫喚の地獄となります。どう転んでも大恐慌級のリセッションは避けられないでしょう。

これも広い意味でのコロナ後遺症と言えるのではないかと思います。加えてロシアとウクライナの紛争地帯では医療が機能せずコロナ感染拡大の可能性を高めます。コロナ感染拡大で紛争が終結する可能性はありますが、新たな変異株の出演でパンデミックは続く可能性があります。こうした最悪に事態を睨むと、大恐慌以上の世界的リセッションを覚悟する必要があるかもしれません。

さてそうなると異次元緩和と野放図な財政拡大を続けた日本に残された対策は殆どないことになります。寧ろ米景気腰折れでドル高トレンドが反転して有事の円高が復活する可能性はありますが、今回の円安の巻き戻しとすると急激な円高で寧ろ混乱する事態もあり得ます。それなのに政府に危機感は見られません。

ガソリン補助、崩れる受益者負担 負担減も脱炭素に逆行:日本経済新聞
インフレ対策としてガソリン価格維持のために石油元売りへの補助金制度を拡充しています。しかも補正予算で一般財源から充当されている訳ですから、国債で手当てされており、受益者負担すら無視されています。選挙目的にバラマキでやったフリしている訳です。こうなると暫定税率のトリガー条項凍結解除より筋が悪い話になります。加えて価格上昇で需要が抑えられるところを逆に需要喚起している訳ですから、脱炭素にも逆行します。

ふと思ったんですが、サステナ車両エントリーの文末で取り上げた第一次第二次のオイルショックの時にはガソリン価格の上昇でクルマ社会の中京圏ですら鉄道利用が急増し、名鉄が東急の中古車を購入して凌いだことに思い至ります。下手にガソリン価格を維持するよりも、公共交通へ需要を誘導するチャンスじゃないかということですね。その意味では東急や近鉄の運賃値上げは悪手の可能性があります。勿論コロナ対策での密防止の観点から混雑を避ける傾向はあるでしょう。しかし鉄道利用でクラスター感染が発生したことは報告されておりません。日本の鉄道車両は混雑前提で換気能力が高いことが幸いしたものと思われます。

逆にコロナ禍で利用が忌避されたニューヨーク地下鉄ではコロナ規制緩和に合わせて運賃値下げを打ち出すなど利用促進に動いています。リモートとの組み合わせでJR東日本などが提唱するオフピーク定期券でピーク需要を誘導するなども有効でしょう。こういうことをちゃんと国会で議論してもらいたいですが、夏の参院選を控えての選挙モードもあり、見通しは暗いですね。

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Sunday, May 15, 2022

西武鉄道サステナ車両の徒然

やはりというか大型連休終わったけど コロナ感染はじわじわ増えています。国内死者が3万人越えと、決して終わっていない現実は受け止めるべきでしょう。それでもワクチン接種が進んでいることで、重症化予防で医療崩壊を防げて入るものの、オミクロン株では若年層の感染者が増えた一方、高齢者の死亡が増えていることから、軽症で済む若年層が高齢者へ感染させるルートが考えられます。

欧米ではウィズコロナで規制を緩める動きもありますが、深刻な後遺症の報告も多数あり、まだまだ警戒を怠ることはできません。加えて中国等のゼロコロナ政策の破綻が見えてきており、結局世界のどこかで感染拡大が続く限り、新たな変異株の出現と置き換わりは続くと見るべきです。その意味で気になるニュースです。

北朝鮮、コロナ発熱52万人 金正恩氏「建国以来の大動乱」:日本経済新聞
経済の生命線の筈の中朝国境を度々封鎖までして国内感染を防いできた筈の北朝鮮が、公式に国内感染を認めたというのは大ニュースです。しかも中国製ワクチンすら拒否してきただけに、免疫保持者はほぼ皆無ですから、相当深刻な状況と考えられます。韓国の政権交代を踏まえた核実験の予測もありますが、恐らくそれどころじゃない国内状況だと思います。そして医療の脆弱さもありますし、感染爆発は新たな変異株の出現も心配です。コロナ禍は続きます。

話題は変わって西武鉄道の22年3月期決算の添付資料が話題になっております。

西武鉄道、無塗装・VVVFインバータのサステナ車両導入で“黄色い電車”を置き換え。省電力化で固定費削減へ:トラベルWatch
無塗装VVVF制御車の中古車を「サステナ車両」と呼称して他社から購入するとしており、早速ネットではどの社のどの車両かと詮索が始まっておりますが、現時点では複数社と協議中で、とりあえず22年度中の導入はないというのが公式発表ですので、当分この話題は鉄ちゃん的には楽しめます。

中古車とはいえ無塗装VVVF制御車の活用は、償却済みであれば車両価格自体はタダ同然で、運送費と自社線適合改修費用をかけても格安で車両調達ができる訳ですし、運送費や改修費も取得価格に含まれますから動産として減価償却対象となりますので、費用負担の面を考えれば合理的ですし、また車両としての使用価値の残っている車両の活用は資源配分上も望ましいし、また車両新製時に生じるCO2排出などの環境負荷軽減にもつながりますので、サスティナビリティの観点からも望ましいことになります。総合車両製作所(JTREC)のステンレス車ブランドと紛らわしい命名ではありますが^_^;。

背景は言うまでもなくコロナ禍による運賃収入の減少ですが、多摩湖線や多摩川線の101系や本線系統に多数残る2000系の置き換えに高価な40000系では時間もかかるし、また車両数の見直しも併せて実施するということですが、時期や規模は今のところ明らかではありません。数の上では2000系の置き換えの方が急がれますし、省電力効果も大きいことと、加えて車両自体の経年状況から地方私鉄への譲渡の可能性も高く、コスト圧縮効果が大きいということは押さえておくべきでしょう。

大手私鉄の中古車導入は驚きを以て見られておりますが、元々西武鉄道は戦災国電その他の旧型国電の大量払い下げで戦後の輸送力増強を進めた実績があります。西武鉄道は戦災の影響は軽微で被災車両はゼロであったものの、資材不足と酷使で稼働車両の確保が難しい戦後混乱期には西武にに限らずどこも同じでした。

そこで当時の運輸省は国鉄に戦時設計のモハ63を大量投入し、戦災車、事故車、老朽木造車の私鉄払い下げを行う一方、地方鉄道法準拠の運輸省規格型電車を大手私鉄等に割り当て、代わりに在籍車の一部を地方私鉄に譲渡するという形で、国内の車両製造工場をフル稼働させて車両不足解消を図りました。所謂選択と集中を国ぐるみで行った訳です。

モハ63に関しては一部私鉄にも割り当てられ、東武鉄道、東京急行電鉄、名古屋鉄道、近畿日本鉄道、山陽電気鉄道の各社に割り当てられました。東急は大東急時代で小田急線と経営受託中の相模鉄道線へ、近鉄は戦時統合中の南海線へ配属し、山陽は唯一の標準軌線だったので広軌63の俗称で呼ばれました。定かではありませんが、運輸省は車両限界の大きい新京阪線改め阪急京都線への配給も打診したものの断られたと言われております。幻の広軌63だった可能性はあります。大柄なモハ63導入に当たって各社は限界拡張や橋梁などの構造物荷重の補強を行ったものの、支障物が多い名鉄の初代モ3700ク2700は使いどころを見出せず、後に東武鉄道へ14両、東急分離後の小田急電鉄へ6両を譲渡しています。

西武鉄道もやはり打診されたものの、在籍車の地方転出の強制など運輸省の規制を嫌ってモハ63も規格型電車も導入せず、専ら戦災車や事故車の復旧車を中心に車両を補強し、また木造国電まで払い下げを受けてなりふり構わない姿勢を見せます。後に木造国電は国鉄モハ50と同型の車体に乗せ換えたり、新車の一部を木造車鋼体化名義として車籍流用されて姿を消しています。モハ63は入れなかったけど、結果的に地方鉄道規格から国鉄規格に車両限界を拡大した結果、高度成長期の輸送力増強を助けることにもなりました。更にカルダン駆動車の時代にも国鉄クモハ11400番台を払い下げを受けてクモハ371としたりしており、国鉄標準の制御器CS5で統一されていたことが好都合だったという面もあります。

戦災国電等の復旧車は東武鉄道、京成電鉄、東京急行電鉄、小田急電鉄、相模鉄道などでも見られましたが、特に東急は西武に次ぐ37両の払い下げを受けております。面白いエピソードとしてはJTRECの前身の東急車両で復旧工事を実施したデハ3600を神武寺経由で菊名の渡り線で東横線へ発送するに際して車体の形式表記の頭に6を書き足して636XXとしてモハ63配給に偽装したところ、車体長が短いし緑色だしということで不審に思った国鉄職員の通報で発覚し大層怒られたとか。当然今なら犯罪行為として立件されるところですが、怒られただけで済んだとは暢気なものでした。

あと大手私鉄の中古車譲受では名鉄のも3880ク2880とモ3790ク2790もあります。前者は東急デハ3700クハ3750で、第一次オイルショックによるガソリン価格上昇でクルマ天国の中京圏でも電車通勤へのシフトが見られ、混雑が激しくなったことから導入されたものです。同型が選ばれたのは上述の運輸省規格型でモ3800とメカやスペックが同等ということで、1975年に3連4本12両、1980年委3連3本9両が成就され、クハ1両の不足分は東急クハ3671が当てられ合計21両が揃いました。

後者は水害で橋梁流出のため休止から廃止に至った東農鉄道駄知線のモハ110クハ210を引き取ってモ3790ク2790として築港線で運用しました。東農モハ110クハ210は元は西武鉄道モハ151クハ1151で1927年から8年にかけて製造された川崎造船所製のオールドタイマーですが、災害で廃止した系列会社の救済の意味もあったのでしょう。同年美濃町線に札幌市電A830改めモ870もも導入しており、美濃町線すら輸送力増強が必要だったようです。過去を遡れば岐阜市内線の北陸鉄道金沢市内線のボギー車を受け入れるなどしております。大手私鉄としては異端の存在だったんですね。

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Sunday, May 08, 2022

大型連休終わったけど

前エントリーの続きのニュースです。

京王の最終黒字55億円、鉄道需要が回復 22年3月期:日本経済新聞
鉄道の需要が戻りつつありますが、コロナ前には及ばず、同時に運賃値上げ申請の検討を発表しております。申請されれば東急、近鉄に次ぐ3社目となりますが、京王は東急と並ぶ優良事業者でヤードスティックによる超過利潤を得られる立場ですが、逆に言えば標準運賃以下の運賃水準故に値上げが可能ということも言えます。他社が追随するかどうかは微妙です。

今年のGWは結構な人出だったようですが、それでも鉄道など公共交通への戻りはコロナ前の水準に達しておりません。逆に道路情報で渋滞が伝えられるように、マイカー利用が増えた可能性はあります。それでもガソリン高がブレーキになった可能性はありますし、人の移動が増えればコロナの感染拡大のリスクは増える訳で、実際地方での感染者数増加が見られる一方、東京など大都市圏の感染者数も高止まり状態です。終わらないコロナで心配した事態は免れたものの、この先どうなるかは油断できない状況は続きます。

米欧、長期戦へ重装備供与 ウクライナ東部防衛にらむ:日本経済新聞
日本のGWの間にもウクライナ情勢は変化しています。中立国のフィンランドとスウェーデンのNATO加盟やEUのロシア産石油禁輸など踏み込んだ動きが出てきておりますが、日本ではせいきゅや天然ガスの禁輸には踏み込めていません。その一方でこういう現実もあります。
ガソリン価格抑制、日本突出 市場ゆがみ構造転換に逆行:日本経済新聞
欧州諸国がガソリン高でもやせ我慢してロシア制裁に動く一方、日本では石油元売りへの補助金で価格形成に介入しており、結果的にGWの大渋滞を起こしている訳で、欧州同様のやせ我慢でウクライナを支援する発想はありません。加えて脱炭素加速の覚悟も背景にありますが、この点でも中途半端な日本です。

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Sunday, May 01, 2022

止まらないインフレと鉄道運賃

異次元円安が止まらない結果として必然的にこうなりますが、唯我独尊の黒田日銀です。

円安阻止より金利抑制 日銀、長期緩和抜けられず:日本経済新
国債金利上昇を抑えざるを得ないからこうなる訳ですが、財政ファイナンスを続けた結果、金融政策の選択肢を失っている訳です。当然円安は進みます。化石燃料以外にもニッケルやパラジウムなどのレアメタル類、化学肥料原料のカリウム等、小麦などの農産品と、紛争当事国由来の資源は枚挙に暇がなく、資源価格高騰と円安の相乗効果で輸入インフレは避けられません。にも拘らずインフレ退治より放漫財政の尻拭いに勤しむ日銀です。結果的に円安がますます進む訳です。
太陽光の電気落札価格、火力の半分以下 再エネに追い風 主力電源化には課題も:日本経済新聞
コントロール不能な構造要因によるインフレですから、回避策も構造変化をもたらすものが望ましい訳ですが、火力発電のコスト増の結果としてこういうことが起きる訳です。勿論再エネの有効活用には蓄電や系統電力の広域連携などの対策が必要なんですが、原発再稼働を前提とした送電線容量配分の固定化などで再エネ活用が進まないのは電気が足りない言い訳じゃないで指摘した通りです。

石油元売りに補助金配るよりも、こうした投資を進めることが結果的にインフレ対策に繋がります。ガソリン価格よりも電気代、ガス代の値上げの方が家計には負担になる訳ですし、国内投資をを後押しすることで経済対策としても効果があります。ガソリン価格に関しては家計支出の0.5-3.5%程度で、公共交通の利用度などから都市部と地方とで比率にばらつきがありますが、だからこそ目先のガソリン価格を抑えるよりも、地方こそ家庭用蓄電池を兼ねたEV普及を補助金で後押しするといった対策の方が望ましい訳です。

一方で公共交通はコロナの影響をもろに受けて苦しんでいる訳で、鉄道の場合原油高の影響は軽微ながら、元々大量輸送を前提とした装置産業の性格があるため、乗客減少は不採算ローカル線を維持する内部補助を困難にしますし、設備の維持費の捻出も困難になります。加えてテロ対策やバリアフリー対策など社会的に要請される投資も求められますから、現行の運賃制度の範囲では対応が困難になっています。故に鉄道運賃の制度改革が検討されています。

鉄道運賃変えやすく 国交省検討、時間帯で柔軟に ピーク緩和で投資負担抑制:日本経済新聞
国交省から審議会に諮問され、6月下旬に方向性をまとめることになっております。主な論点は現行の総括原価方式を維持しながら時間帯などによる柔軟な運賃設定を可能にすることや、コスト増による運賃改定の手続きの簡素化といったことになります。

現行の総括原価方式は、必要なコストを積み上げた原価に標準報酬率2&を上乗せした総括原価と運賃収入がバランスする水準の運賃の認可を受けるもので、鉄道事業者は収支見通しを示して申請し国に認可を受ける形となります。かつては収支見通し期間1年で、高度成長期のインフレに対応して改定申請が出されましたが、政府のインフレ抑制政策で値上げ幅を抑え込まれたりして、結果的に通勤ラッシュの混雑緩和のための輸送力増強投資が抑制されて満員電車が東京名物になる訳ですが、政府による価格統制の弊害でした。

それでは混雑緩和が進まないということで、私鉄による新線建設に対しては輸送原価増に対応した新線区間に対する上乗せ運賃が認められっるようになり、また線増などの輸送力増強策に対しては特定都市鉄道整備促進特別措置法、通称特特法で、認可運賃に10円程度の少額の上乗せ運賃を認めることで、輸送力増強投資を促進する狙いです。これ既に制度化され来年3月施行のバリアフリー新法も同様のもので、既にJR東日本の電車特定区間と東京メトロで導入が決まっております。

運賃制度はその後幾つかの変更が為されており、総括原価見直しのための収支見通し期間が3年に伸びて頻繁な改定を抑止する一方、認可運賃を上限運賃として軽微な値引きを届出で対応できるようにするといった柔軟化もありますが、同時にヤードスティック規制で事業者の経営努力を引き出す仕組みが組み込まれました。これはJR旅客会社、大手私鉄、大都市地下鉄、地方中小私鉄などの類型別に適正運賃水準を設定してそれを下回る事業者に対しては合理化努力などで生じる超過利潤の半分までの益金算入を認めるもので、コスト削減のインセンティブとする狙いですが、恣意性は否定できず、路線の立地条件によってバラツキますから、公平性は必ずしも担保されません。

運賃設定の柔軟性に関しては既に特急列車の座席指定料金の繁忙期と閑散期の価格差をつける形で実現しており、JR東日本などで最大300円の価格差をつけていますが、航空運賃並みに季節や列車毎に需要に応じた価格設定ができるようにというダイナミックプライシングの考え方の導入の可否が1つあります。一方JR東日本と西日本が要望しているのはオフピーク定期券のような仕組みで、時間帯をずらすことで割引運賃が適用される一方、制限のない現行の定期運賃は値上げするというものです。但し現行制度では定期運賃も上限運賃として認可されていて、それを越える値上げはできにくい仕組みです。

あと運賃改定の頻度を下げる目的の収支見通し期間3年というのも、コロナ禍のような予測不能な事態に対しては予測の困難さがある訳で、ある程度の乗客の戻りは予想できるとしても、完全に元に戻ることまでは見通しにくい訳です。その中で東急が上限運賃改定申請をし、近鉄がそれに続きました。見通しが不透明な中ですから、認可する側の国交省の判断も難しくなりますが、どういう判断になるか注目されます。

加えて地方ローカル線の存廃問題もあり、現行JR地方交通線運賃の水準では存続不可能な路線は今後も増えると思われます。JR西日本が乗車水戸づ2,000人以下のローカル線の営業益数を公表して物議を醸してますが、同水準の地方中小私鉄が維持されていることを根拠にJRの企業努力が足りないという議論は、運賃水準の違いを無視したものです。例えばかつて大野まであった京福越前本線が勝山以遠廃止された事例のように運賃差でJR越美北線に乗客が流れたとか、前橋―霧生間で競合するJR両毛線と上毛電気鉄道でもJRが輸送量だ圧倒しているとかということがあります。逆に言えば廃止を打診されたローカル線の存続のために運賃上乗せが認められるならば、ローカル線存続のメニューの1つにはなります。

という訳で、鉄道運賃も過去には政治に翻弄されてきましたが、今や寧ろ柔軟化などで自由度が増す方向に議論が進んでいます。オフピーク定期券の議論ではピーク対応の輸送力増強投資を抑制する狙いもある訳で、人口減少を睨んだ現実を踏まえれば、方向性としては鉄道運賃も上がる方向ということは避けられないでしょう。その意味でインフレは寧ろ事業者には好都合かもしれません。

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