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Sunday, May 01, 2022

止まらないインフレと鉄道運賃

異次元円安が止まらない結果として必然的にこうなりますが、唯我独尊の黒田日銀です。

円安阻止より金利抑制 日銀、長期緩和抜けられず:日本経済新
国債金利上昇を抑えざるを得ないからこうなる訳ですが、財政ファイナンスを続けた結果、金融政策の選択肢を失っている訳です。当然円安は進みます。化石燃料以外にもニッケルやパラジウムなどのレアメタル類、化学肥料原料のカリウム等、小麦などの農産品と、紛争当事国由来の資源は枚挙に暇がなく、資源価格高騰と円安の相乗効果で輸入インフレは避けられません。にも拘らずインフレ退治より放漫財政の尻拭いに勤しむ日銀です。結果的に円安がますます進む訳です。
太陽光の電気落札価格、火力の半分以下 再エネに追い風 主力電源化には課題も:日本経済新聞
コントロール不能な構造要因によるインフレですから、回避策も構造変化をもたらすものが望ましい訳ですが、火力発電のコスト増の結果としてこういうことが起きる訳です。勿論再エネの有効活用には蓄電や系統電力の広域連携などの対策が必要なんですが、原発再稼働を前提とした送電線容量配分の固定化などで再エネ活用が進まないのは電気が足りない言い訳じゃないで指摘した通りです。

石油元売りに補助金配るよりも、こうした投資を進めることが結果的にインフレ対策に繋がります。ガソリン価格よりも電気代、ガス代の値上げの方が家計には負担になる訳ですし、国内投資をを後押しすることで経済対策としても効果があります。ガソリン価格に関しては家計支出の0.5-3.5%程度で、公共交通の利用度などから都市部と地方とで比率にばらつきがありますが、だからこそ目先のガソリン価格を抑えるよりも、地方こそ家庭用蓄電池を兼ねたEV普及を補助金で後押しするといった対策の方が望ましい訳です。

一方で公共交通はコロナの影響をもろに受けて苦しんでいる訳で、鉄道の場合原油高の影響は軽微ながら、元々大量輸送を前提とした装置産業の性格があるため、乗客減少は不採算ローカル線を維持する内部補助を困難にしますし、設備の維持費の捻出も困難になります。加えてテロ対策やバリアフリー対策など社会的に要請される投資も求められますから、現行の運賃制度の範囲では対応が困難になっています。故に鉄道運賃の制度改革が検討されています。

鉄道運賃変えやすく 国交省検討、時間帯で柔軟に ピーク緩和で投資負担抑制:日本経済新聞
国交省から審議会に諮問され、6月下旬に方向性をまとめることになっております。主な論点は現行の総括原価方式を維持しながら時間帯などによる柔軟な運賃設定を可能にすることや、コスト増による運賃改定の手続きの簡素化といったことになります。

現行の総括原価方式は、必要なコストを積み上げた原価に標準報酬率2&を上乗せした総括原価と運賃収入がバランスする水準の運賃の認可を受けるもので、鉄道事業者は収支見通しを示して申請し国に認可を受ける形となります。かつては収支見通し期間1年で、高度成長期のインフレに対応して改定申請が出されましたが、政府のインフレ抑制政策で値上げ幅を抑え込まれたりして、結果的に通勤ラッシュの混雑緩和のための輸送力増強投資が抑制されて満員電車が東京名物になる訳ですが、政府による価格統制の弊害でした。

それでは混雑緩和が進まないということで、私鉄による新線建設に対しては輸送原価増に対応した新線区間に対する上乗せ運賃が認められっるようになり、また線増などの輸送力増強策に対しては特定都市鉄道整備促進特別措置法、通称特特法で、認可運賃に10円程度の少額の上乗せ運賃を認めることで、輸送力増強投資を促進する狙いです。これ既に制度化され来年3月施行のバリアフリー新法も同様のもので、既にJR東日本の電車特定区間と東京メトロで導入が決まっております。

運賃制度はその後幾つかの変更が為されており、総括原価見直しのための収支見通し期間が3年に伸びて頻繁な改定を抑止する一方、認可運賃を上限運賃として軽微な値引きを届出で対応できるようにするといった柔軟化もありますが、同時にヤードスティック規制で事業者の経営努力を引き出す仕組みが組み込まれました。これはJR旅客会社、大手私鉄、大都市地下鉄、地方中小私鉄などの類型別に適正運賃水準を設定してそれを下回る事業者に対しては合理化努力などで生じる超過利潤の半分までの益金算入を認めるもので、コスト削減のインセンティブとする狙いですが、恣意性は否定できず、路線の立地条件によってバラツキますから、公平性は必ずしも担保されません。

運賃設定の柔軟性に関しては既に特急列車の座席指定料金の繁忙期と閑散期の価格差をつける形で実現しており、JR東日本などで最大300円の価格差をつけていますが、航空運賃並みに季節や列車毎に需要に応じた価格設定ができるようにというダイナミックプライシングの考え方の導入の可否が1つあります。一方JR東日本と西日本が要望しているのはオフピーク定期券のような仕組みで、時間帯をずらすことで割引運賃が適用される一方、制限のない現行の定期運賃は値上げするというものです。但し現行制度では定期運賃も上限運賃として認可されていて、それを越える値上げはできにくい仕組みです。

あと運賃改定の頻度を下げる目的の収支見通し期間3年というのも、コロナ禍のような予測不能な事態に対しては予測の困難さがある訳で、ある程度の乗客の戻りは予想できるとしても、完全に元に戻ることまでは見通しにくい訳です。その中で東急が上限運賃改定申請をし、近鉄がそれに続きました。見通しが不透明な中ですから、認可する側の国交省の判断も難しくなりますが、どういう判断になるか注目されます。

加えて地方ローカル線の存廃問題もあり、現行JR地方交通線運賃の水準では存続不可能な路線は今後も増えると思われます。JR西日本が乗車水戸づ2,000人以下のローカル線の営業益数を公表して物議を醸してますが、同水準の地方中小私鉄が維持されていることを根拠にJRの企業努力が足りないという議論は、運賃水準の違いを無視したものです。例えばかつて大野まであった京福越前本線が勝山以遠廃止された事例のように運賃差でJR越美北線に乗客が流れたとか、前橋―霧生間で競合するJR両毛線と上毛電気鉄道でもJRが輸送量だ圧倒しているとかということがあります。逆に言えば廃止を打診されたローカル線の存続のために運賃上乗せが認められるならば、ローカル線存続のメニューの1つにはなります。

という訳で、鉄道運賃も過去には政治に翻弄されてきましたが、今や寧ろ柔軟化などで自由度が増す方向に議論が進んでいます。オフピーク定期券の議論ではピーク対応の輸送力増強投資を抑制する狙いもある訳で、人口減少を睨んだ現実を踏まえれば、方向性としては鉄道運賃も上がる方向ということは避けられないでしょう。その意味でインフレは寧ろ事業者には好都合かもしれません。

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