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June 2022

Monday, June 27, 2022

インフレを終わらせるには

電力危機キタ━(゚∀゚)━!

電力逼迫で初の注意報 経産省、27日に東電管内:日本経済新聞
いきなり梅雨明けで電力危機です。特に太陽が傾く夕方の太陽光発電の出力低下時が危ないということで、油断できません。また予報より気温上昇が上振れすれば警報に変更も有り得るということですから、とりあえず節電に励みましょう。電気代も上がったし。

ウクライナ情勢は膠着の度合いを強めております。ロシアは練度の低い徴兵の兵士を前線へ送り兵士の被害甚大なんですが、ナポレオン戦争やww2の独ソ戦でもそうでしたが、兵士の減耗をあまり顧みていないようです。逆に弾薬等は大量にあるので、ミサイル攻撃は今後も続くでしょう。一方で欧米の支援で応戦するウクライナ軍は士気は高いけど武器弾薬の補給で凌いでいるものの、ロシア軍を押し返すには至らず、応戦疲れの気配もあります。加えて支援する欧米諸国ではインフレに国民の関心が移りつつあり、ウクライナ支援の足並みの乱れが見られます。対ロシアの経済制裁で石油も禁輸に近い制限がかかるとか、ガスやその他の資源類も制限対象として検討されています。つまり資源インフレの傾向は続くと考えられます。

アメリカもバイデン大統領を支える与党民主党の中間選挙の苦戦が伝えられており、ガソリン税免除の立法を議会に要請しております。ガソリン高が米国民にはインフレを意識させる度合いが高いからですが、それ以上の対応は考えられておりません。インフレ対策はFRBの金融政策が本命であって、その独立性を尊重する立場から、政府不介入の立場を鮮明にしております。そのFRBパウエル議長は1年前の判断ミスを自覚しておりインフレファイターに変身しました。そして日銀は?

日銀、インフレなお「一時的」 利上げの欧米と開く距離:日本経済新聞
FRBパウエル議長の1年前の発言と同じフレーズが日銀から飛び出した訳ですが、パウエル議長の判断ミスこそこの「インフレは一時的」という見立てで利上げを遅らせたことにあります。その結果インフレが昂進し制御が難しくなって利上げを急いでいる状況で、政策を見直した訳です。日銀の政策見直しは難しいのは確かですが、だからインフレを放置してよいということにはなりません。こんなニュースもあります。
利上げドミノ、市場揺らす スイスが震源に:日本経済新聞
スイス中銀は伝統的に相対的低金利と通貨安への誘導のため緩和的な金融政策を取る傾向がありますが、ECBの利上げに押されて利上げを決めました。理由は低金利でキャリートレードが拡大して通貨安を助長するからというもの。通貨安によるインフレから国民生活を守るためにキャリートレードをけん制する狙いと言われます。主要国で緩和継続はほぼ日本だけという状況になった訳です。これつまり緩和継続の日本円のキャリートレードの拡大が見込まれる訳で、円安要因となります。

これリーマンショック前のゼロ年代の日本だけゼロ金利の時代とほぼ同じ状況になった訳ですが、大きく違うのは当時は貿易黒字が続いていたことです。つまり実需としての貿易決済取引で円高圧力がかかる状況で、金利差によるキャリートレードがそれを中和した訳です。それぐらいキャリートレードの影響は大きいのですが、それでも円高は抑えられず、円売り介入も行われました。今回の輸入インフレは貿易赤字の中で起きている訳ですから、インフレを抑えるには日銀が動いて緩和を終わらせることが必要な訳です。

という訳で、インフレ対策はあくまでも中央銀行の役割ということは踏まえられている訳で、選挙でインフレ対策が連呼される日本の状況は異常です。それも石油元売りへの補助金だったり、財政出動を伴う給付金や減税だったりということですが、輸入インフレに対応するには輸入を減らして貿易赤字を解消するしかない訳で、財政を使って需要を喚起する政策は寧ろインフレを昂進させる逆効果となります。故に日本が政策的に対応できる手段は、繰り返しになりますが金融緩和の縮小と財政支出の抑制による総需要抑制策しかありません。

第三次オイルショックエントリーで取り上げた第二次オイルショック時の総需要抑制策に倣って公共事業やその他公共投資の一時凍結で財政を圧縮し、国債の償還に合わせて日銀保有の国債の償還を進めることなどが必要になります。異次元緩和が長く続いたので、当面これを続けて徐々に国債を減らすしかないのが日本の現状です。

その一方で電力危機解消のために送電網の整備や蓄電システムの構築などへの補助金を出して民間投資を促すのはアリです。公共投資は抑制すべきですが、必要な民間投資は利子補給の形で補助することで輸入エネルギー依存を下げることで貿易収支改善につながります。その意味では原発再稼働も選択肢にはなりますが、それが困難な状況は繰り返し述べてきた通りで、政治判断でどうにかなる訳ではありません。寧ろ稼働していない原発の容量分の空きが送電網にある訳ですから、それを活用して需給調整に生かす方が短期的な対策としては有効です。

ということで、鉄ちゃん的暑さ対策は乗り鉄でしょう^_^;。家にいなければエアコン使わなくて済みますしwww。

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Sunday, June 19, 2022

終わらない電力危機

福島第一原発事故の国の賠償責任を問う訴訟で高裁判断お別れていた問題に最高裁が判断を下しました。

原発事故、国の責任否定 最高裁「対策命じても防げず」:日本経済新聞
原告団にとっては残念な判断ですが、事業者である東電が原子力賠償法で無過失責任を定められている一方、国家賠償法による権限不行使つまり無作為の責任を問えるかという判断だった訳ですが、高裁判断で割れた予見可能性の判断には踏み込まず、回避可能性で判断した結果です。最高裁でも5人のうち1人だけ反対意見を述べたこともあり、最高裁の現時点での判断としてはギリギリのところでしょう。

震災の規模が想定より大きく、仮に命令を出していても回避できたかどうかは不明としつつ、実際の事故で立地基準が厳格化されたこともあり、国の責任は結果的に重くなっていることと共に、原子力政策が国策であるという裁判長コメントも出された訳で、国の主張を一方的に認めたという訳でもない落としどころとなっております。このことが実は終わらないコロナで取り上げた電力不足問題での原発再稼働問題に新たなハードルを課した点は見ておくべきです。

つまり法の建付けから国の賠償責任は認められなかった一方、事業者である東電に賠償責任が一元化されたことを意味しますから、その東電が保有する柏崎刈羽原発がただでさえセキュリティ問題の不祥事で原子力規制委の審査が中断している状況を、政治判断で進めることが難しくなる訳ですね。無手勝流のキッシーに出来る訳ないじゃんwww。加えて他の電力会社にとっても、重大事故対策のコストが嵩みますし、万が一の事故の時は重い賠償責任を負わされるリスクがある訳で、そこまでして原発再稼働するインセンティブは低下します。この夏冬に予想される電力危機に対しては、節電しか手段がない訳です。

という訳で、既に企業向けでは導入されているデマンドレスポンスの家庭向けへの拡大が模索され、東電や電力事業者としての東京ガスなどがポイント還元の形でデマンドレスポンスによる節電システムの導入を決めました。但し全契約者ではなく限定された契約者の中から希望者を募る形ですから中途半端ではあります。いきなり大規模なシステム構築は難しいですからやむを得ないですが、逆に言えば電力危機が見込まれる現実に直面しなければ動かないというのも何だかという話です。

欧米ではデマンドレスポンスは当たり前に行われているというのに、日本のガラパゴスぶりは相変わらずです。加えて小規模な小売事業者ではシステム投資の負担は難しく、他社のデマンドレスポンスで卸電力取引所の市場価格が抑えられれば電力調達のコストが下がってただ乗り狙いするとなる訳ですね。国が補助金で事業者を誘導するなりしないと実効性がどこまであるかは疑問です。

元々再エネ活用ではなく石炭やガスなどの火力発電への依存度が高すぎたことが問題なんで、そのために老朽火力のトラブル多発で検査のための停止もあり、燃料調達を絞っていてカタールのLNG長期契約を更新しなかった判断が裏目だったことは電気が足りない訳じゃないで取り上げた通りです。つまりこれまでの電力会社の事なかれ主義が事態を悪化させたもので、電力自由化の制度設計の問題はありますが、電力自由化や再エネ電力や原発停止に問題の根源を求めるのはいずれも間違いです。

ここで参院選に向けて岸田政権の支持率が下がってきていることがあり、与党のみならず各党が物価対策を盛り込んだ公約を発表しておりますが、エネルギー価格の上昇と円安のダブルパンチで物価上昇となっている訳ですが、円安に関しては今後も進むと考えられます。その根拠となるニュースです。

貿易赤字、長期化の恐れ 資源高響き23年度まで継続も:日本経済新聞
資源価格の上昇は止まらないし、それに留まらず円安が有利とされた製造業でも、部品の輸入価格が上がる円安はメリットとは言えなくなっております。
マツダ・三菱自が国内で3%値上げ モデル改良せず異例【イブニングスクープ】:日本経済新聞
となると円安対策が重要なんですが、為替介入に関しては9%近いインフレに苦しむアメリカが同意するとは考えられませんし、日銀の緩和見直しは金利上昇による副作用が大きくて難しいですが、基本的には国内需要を抑えて需給をマッチングさせる総需要抑制策で輸入を減らすしか有効な対策はありません。その場合政府と日銀のアコードを変更して政府財政の緊縮化と日銀の緩和縮小を市場動向を睨みながら進めるしかありません。そういう意味で各党の物価対策は何れも財政出動を当然の前提としており、真逆の結果しか期待できません。アベノミクス踏襲の岸田政権では実現の可能性がないことは言うまでもありませんが。

最悪シナリオとしてはYYCで長期金利を0.25%に抑える為の国債指値オペを実施しておりますが、海外勢が売りに転じればいずれソロス氏に負けた英BOEの二の舞で支え切れずに金利上昇で国際投げ売りが始まるシナリオです。そうなるとアベノミクス前から批判されてきたハイパーインフレが自己実現してしまうことになります。

あとインフレ対策としての消費減税に関しても一言付け加えておきますが、消費税収は社会保障財源とされており、基本的には政府最終消費支出に算入される筈ですが、実際は過去の財政出動による赤字の穴埋めに殆どが回っている実態がある訳ですが、そうなるのは消費税収が景気に左右されにくい安定財源であるからで、逆に言えば敢えて安定財源を手放して財政の安定を損なうのは寧ろハイパーインフレを助長することになりますのでお勧めできません。財政出動は電力のデマンドレスポンス推進など輸入を減らす取り組みへの補助金などに絞り込むべきです。当然ガソリン価格調整金の元売り補助などは直ちにやめるべきです。こんなニュースを見れば尚更です。

出光が山口製油所23年度停止 脱炭素で拠点再編加速:日本経済新聞
エネオスの和歌山製油所閉鎖と同様、価格調整金が事業リストラの費用にされている実態がある訳です。補助金で価格を下げて需要を高止まりさせても今や産油国やアジア各国で製油所が乱立しており、ガソリンなどの不足分は輸入すればいいとなると、結局輸入は増える訳で、やはり逆行しており直ちにやめるべきです。

また西武鉄道サステナ車両以来繰り返しておりますが、ガソリン高を利用した公共交通利用への誘導や止まらないインフレと鉄道運賃で取り上げたEVシフト推進の方が大事です。EVは同時に家庭用蓄電池としての効用もあり、電力危機対策としてのデマンドレスポンスとも相性が良い点は指摘しておきます。日産/三菱の敬EVも発売されましたし、補助金で他メーカーのEV開発を加速させる効果も見込め、これらは同時に国内の設備投資や雇用にプラスとなりますから、我慢の総需要抑制の痛みを緩和します。勿論財政出動を伴いますから財源は大事ですが、所得税法人税の累進強化や岸田首相が封印した金融所得課税見直しや炭素税の導入などで対応することを考えるべきでしょう。選挙向けのチマチマした物価対策はいいから、こうした骨太な議論をきちんと行うことが大事です。

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Sunday, June 12, 2022

炎上黒田節

第三次オイルショックエントリーで予想した通り小刻みな動きで小康状態を続けていたNYダウが下落しました。底打ちはまだ先のようです。銘柄別の明暗ははっきりしていて、GAFAやネットフリックス、ズームなどのハイテク株が売られ、インフレで小売株、原油高で石油メジャー、利上げで金融株などが物色されており、株式市場の踏ん張りの要因になっております。但しインフレが続く限り米FRBの利上げスタンスは変わらず、寧ろ景気を冷やす先行きの利上げ加速も見込まれます。投資家の眠れない夜は続きます。

ECBが0.25%の利上げを予告した結果、株が売り込まれた訳ですが、それでもマイナス金利がゼロ金利になる水準ですが、欧州のインフレも加速しており、今後の利上げ継続が予想されています。コロナ後の経済回復で利上げで先行した英BOEは既に4回の利上げを済ませており、今回は世界をリードする立ち位置です。それに比べてFRBもECBも判断が遅いと批判されています。かくして先進諸国で緩和姿勢を継続する日銀ですが、黒田総裁の発言が波紋を呼んでいます。

日銀総裁が謝罪、値上げ許容発言「誤解を招いた」:日本経済新聞
共同通信社の会合で「家計が値上げを許容している」という趣旨の発言をしてネットで炎上したものですが、発言の根拠とされた東大教授によるスーパー買い物客へのアンケート調査で「値上がりしても同じ店で買う」という回答が多かったことから、貯蓄の増加で家計が値上げを容認しているという仮説を披露し、賃上げが進めばインフレ目標達成と期待を示した発言ですが、同じ調査で「購買頻度を少なくする」という回答も多数あり、この部分を読み飛ばしての恣意的解釈ということが問題なんで、「誤解を招いた」訳でもないし「庶民感覚とズレている」ことが問題ということではありません。金融政策を司る中銀総裁として恥ずかしい不見識ぶりを披露したということです。
政府・日銀「急速な円安憂慮」 3者会合で声明文公表:日本経済新聞
物価高に対する批判は政府も受けている訳で、日銀と共同声明文を発表しましたが、利上げする訳でも為替の円買い介入をする訳でもなく、単なるアリバイ作りです。そもそも日銀のイールドカーブコントロール(YCC)と呼ばれる長期金利操作でしかも国債指値オペを毎日やって内外金利差を拡大して円安を助長している訳ですから、言ってることとやってることの整合性が取れておりません。その指値オペに4/28以来の応札がありました。
日本の金利に上昇圧力 常設指し値オペに初の応札:日本経済新聞
流石に日本でも長期金利に上昇圧力がかかった結果、評価損を嫌った金融機関が応札したものです。相場より高く買ってくれますから。しかしこれは同時に日銀に減損リスクのある資産が集中することを意味しますから、ますます日銀は身動きが取れなくなる訳です。原油高、資源高で貿易赤字が定着してきており、実需の円安の基調を強めています。円安は経済安保で製造業の国内回帰が図れるという議論もありますが、その国内製造業の原材料の仕入れが円安で高くなる訳ですから、メーカーもおいそれと国内投資を増やせません。円安は短期的な為替差益を生みますが、それをメーカーが国内に投資するとは考えにくい現実があります。

かくして企業の内部留保は積み上がりますが、賃金は上がらず国内設備投資も低調となると、日本企業の資本効率の悪さはアクティビストを呼び寄せます。まして円安で少ないドル資金で円が手に入りますし、NY市場の先行き不透明さもあって日本株に注目が集まり、目先の株価は上がってますが、これ喜んでいいのかは微妙です。「わが社も明日は東芝」の過酷な未来が予想されます。

一方で電力緊急事態が予想され、政府は節電を呼び掛けてますが、電気が足りない言い訳じゃないの蒸し返しになりますが、停止時のカバーが難しい大規模電源ではなく再エネ中心の小規模分散電源の方がレジリエンスが高い訳で、但し出力調整のための広域連携線や蓄電設備の整備は必須となります。これは国産エネルギーへのシフトも意味しますから経済安保上も望ましいですし、相当規模の国内設備投資となりますから、国内経済の浮揚にも貢献します。丁度第二次オイルショックで半導体に注力したような効果が期待できます。加えて電源のグリーン化は脱炭素で国内製造業の競争力を高めます。今やるべきことはかなり明らかなんですが、政府は動きませんね。民間では一部動きがありますが。

東電が「虎の子」の国内最大級再エネ会社を手放した裏事情、豊田通商に1850億円で売却:ダイヤモンドオンライン
国内最エネ最大手で豊田通商と東電の合弁の国内最エネ最大手ユーラスの東電持ち分40%を豊田通商が買い取り1005子会社化するというニュースですが、親会社トヨタの意向による買収ということです。流石トヨタというべきか。逆に東電は虎の子を手放す訳です。国内生産のEVが海外で売れなくなることを回避する策ということですね。

一方新幹線の3倍の電力を消費するリニアの電源はグリーンなんでしょうか?鉄道事業者もいずれ問われる問題です。

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Sunday, June 05, 2022

第三次オイルショックで大惨事の老いる先進国

コロぶナ世界では米NY株式の大暴落を予想しましたが、今のところ小刻みな小康状態を続けています。しかし景気減速を示す経済指標が発表される中で、株価は経済のファンダメンタルズと逆の動きになっております。景気悪化すればFRBが優しいハト派に転換するという根拠のない期待からですが、逆にFRBは株価が上がると消費を刺激しかねないと引き締め姿勢を見せますから、投資家の期待とは裏腹なチキンレースになっております。

逆に日経平均株価は徐々に上げていて対照的な動きですが、これは円安の寄与とNY市場のサブ市場として投資家が東京市場に疎開している結果と見ることができます。これ1987年の香港市場から欧州を経て米国に波及したブラックマンデーの時の東京市場の動きと軌を一にします。つまり損失を被った投資家が逃避先として東京市場を選んだ結果ですが、1985年のプラザ合意以来の日本のバブル経済に拍車をかけたものでした。以下略。

いずれにしてもウクライナ紛争で欧州がロシア産原油の禁輸を決定したことで、原油価格の上昇が止まりません。今後も原油やガス石炭その他の資源価格の上昇は続き、インフレが収まる気配はありません。そんな中でOPECプラスの増産枠拡大のニュースが流れましたが、規模は小さく、大勢に影響はなさそうです。

NY原油続伸、3カ月ぶり一時120ドル台 需給逼迫懸念で:日本経済新聞
アメリカの戦略備蓄放出で在庫が減っている状況なので、その補填もあって需要を満たすには至らないということでWTI原油先物が高値を付けております。産油国としてはアメリカにもロシアにも忖度した結果、実効性の伴わない増産でお茶を濁す結果となっている訳です。他方中国やインドがロシア産原油の輸入を増やせばOPEC諸国はその分市場を失う訳で、欧米に積極的に協力する気にもなれない訳ですね。

思い返せば1973年の第一次オイルショックは第四次中東戦争による供給不安、1980年の第二次オイルショックもイランイラク戦争という戦争絡みの供給不安が原因でした。その観点から言えば、現状は第三次オイルショックと言うべき局面ではないかと思います。アメリカで起きている賃金上昇がインフレ率に追いつかず実質賃金が下がっている現象はスタグフレーションの入り口にあると見ることができます。戦線の膠着で長期化が避けられないだけに油断できません。

世界を巻き込むスタグフレーションの波の中で、世界に先駆けて日本が経済を浮揚させたというのは確かのその通りなんですが、第一次では狂乱物価でトイレットペーパー騒動などが起き、当時労組が強かったこともあり、インフレは賃上げで調整されました。第二次では当時の福田内閣が総需要抑制策を打ち出して公共事業の一時凍結で供給ショックを需要の縮小で対応し、結果的にそれがうまくいった訳です。但し賃上げは抑制されたので国民からは不評でしたが。ちなみに公共事業ではありませんが、着工積みの国鉄東北新幹線と上越新幹線の工事も凍結されました。

しかし官需に頼れない中で、NECのパソコンとかソニーのウォークマンのようなユニークな新商品が市場に投入され、これが世界に先駆けて不況脱出を果たす原動力となりました。省エネが叫ばれエネルギー消費を伴わないイノベーションが求められた結果、日本の電機メーカーは半導体生産に注力しますが、当時半導体需要そのものの規模は小さく、あまり売れるものではなかったんですが、それならば自社製品に使って革新的な製品化を目指そうということになった訳です。日本の黄金期の80年代はこうしてスタートした訳です。

福田派の流れを汲む小泉純一郎の構造改革路線は福田政権の踏襲と言えますが、安倍晋三が積極財政を主張するのは明らかな宗旨替えですね。岸田政権はどうかと言えば、基本的にアベノミクスを踏襲してますので、相変わらず財政出動で景気浮揚を目指す路線です。第二次オイルショックの経験から言えば真逆の対応ということになります。今ならむしろ財政出動は絞った上で、脱炭素などの戦略分野への投資を促すことが、第二次オイルショックからの復活を見習うある意味好機です。税制もも法人や富裕層向けの累進課税強化に留まらず、脱炭素の直sつ結びつく炭素税導入が考えられます。

逆に Go To や消費減税といった需要喚起策は供給ショックを助長する結果となりますから慎むべきですが、参院選を控えて誰も言い出しません。短期的な供給ショックならば市場原理が働いて供給側の増産で需給が引き締まりますが、今回のような一方的で長期化必至の供給ショックの出口は需要を抑制することしかありません。ま、それを言えば票が取れないってことですが、第三次オイルショックとも言うべき現状で有権者におもねる政治家しかいない現実には暗澹たる気分です。

てことで再三述べてますが、ガソリン価格維持のための補助金も需要を高止まりさせる愚策です。ガソリンが高くなれば鉄道など公共交通に利用が誘導されるのは2回のオイルショックでも見られた現象ですが、今回はコロナ禍もあって密回避からマイカー利用が選考されやすい状況になっております。加えて地方の過疎化で公共交通空白地帯が増えており、人口減少下ではこの傾向を止める手立てはありません。

こう言うと「じゃあ少子化対策だ」って言われますが、人口動態の変化で大事なのは15-64歳の生産年齢人口の推移であって、単純に人口を増やすことが解決策にはならないことを重ねて述べておきます。日本の場合1995年の8,700万人をピークに減少に転じ、20年後の2015年には7,700万人になり、20年で1,000万人減少しています。1年で50万人減るペースです。しかも少子化傾向は以前から続いていましたから、今後減少ペースは増えていき団塊ジュニア世代の高齢者となる2030年代から40年代にかけては年100万人レベルでの減少となります。つまり高齢化は更に進捗しますから、今少子化対策で子どもを増やすと、労働力としてカウントされない依存人口を増やすことになり、寧ろ経済の足を引っ張ります。

ならば移民政策?となりますが、これは既に欧米で実施され、労働力確保は進んだものの、異文化の他民族の移民で社会的軋轢を増し、イギリスでは東欧圏移民の増加によるまさかのBrexit、アメリカでは白人男性の味方トランプ政権の誕生となりますし、欧州諸国の殆どで似たような問題が起きています。例えばフランス大統領選でのルペン候補の善戦などですね。日本でも技能時宗性や特定技能制度で外国人労働力を導入してますが、その数は年5万人程度で焼け石に水。加えて祝業選択の自由が保障されないなお問題だらけですし、日本の経済的プレゼンスの低下でそもそも日本を目指す外国人は減っています。

生産年齢人口の減少は労働力不足と理解されがちですが、寧ろこの年代は消費意欲が旺盛で国内消費市場を支える存在であるということが見落とされてます。単なる労働力不足ならばIT化その他の資本装備の充実である程度カバーできる訳ですが、買い手の不在は企業活動を委縮させます。実際日本の製造業では海外に生産設備を移転して国内投資を抑制しています。これが設備投資による経済浮揚を抑制することになりますから、経済が停滞する訳です。こうして国内市場が縮小すれば外資にとっても魅力は薄れます。東京を国際金融都市にする構想がいかに現実離れしているかは言うまでもありません。

てことで公共交通に厳しい地合いですが、そんな中で国交省鉄道局の運賃制度に関する中間取りまとめが発表されました。

鉄道運賃を柔軟に、国の認可不要 国交省が素案提示:日本経済新聞
止まらないインフレと鉄道運賃で述べた論点に沿っていきますと、まずは混雑緩和のための輸送力増強投資が進まないことから一定の基準での上乗せ運賃は認められてますが、ロンドン地下鉄のような時間帯別運賃の導入でピーク利用者の誘導を図ること、特にJR東日本などが提唱するオフピーク定期券のようなものが現行制度では実現しにくいという問題ですが、ピーク輸送力を増強してもピーク以外の時間帯では遊休設備となる訳で、投資効率が良くない訳で、それを運賃で差をつけて誘導しようということです。

バリアフリー投資に関しては既に新法で運賃上乗せが認められており、JR東日本、東京メトロ、西武、東武の各社が導入を表明しています。現行制度下の運賃改定手続き簡素化に関しては、東急、京王、京急の各社が表明した運賃値上げ申請の取り扱いが注目されますが、中間とりまとめでは特に言及は無いようです。相次ぐ鉄道値上げ表明 沈黙する東京都、国の議論注視:日本経済新聞その中で都議会に諮って条例を通さなければ値上げできない都営地下鉄が取り残されています。国の基準が緩和されれば追い風になる可能性があり国に議論を注視してますが、東京都にとってはいささか残念な展開になりそうです。

新幹線や特急列車などの料金設定を季節ごと列車毎に柔軟化するダイナミックプライシングについても大枠では認める方向ですが、上述の時間帯別運賃の問題と共に現行の総括原価方式による上限運賃制の大枠を残すかどうかは方向性が示されておりません。ダイナミックプライシングは結局需要に応じた柔軟な料金設定を容認することですが、気をつけなきゃならないのはダイナミックプライシング自体は買い手の消費者余剰の搾取となる訳で、結果多数が利用する列車ほど価格が上がり、結果的に乗客の輸送単価を高める効果があるということです。とすると現行上限運賃の枠組みを維持する場合、収支状況を国が監視し、限度を超えた超過利潤は年度末の割引販売などで乗客に還元するというややこしい仕組みにもなります。、つまり毎年3月に各社年度末バーゲンセールを行うことになるかもってことです^_^:。鉄ちゃんは喜ぶかもね。

それと存続が問題となる地方線区の上乗せ委運賃に関しては、自治体との合意で国の認可なしに届け出だけで可能になるということは明記されました。これは鉄道以上に地方の路線維持問題に直面するバス運賃に関して地方協議会での合意で運賃を決められる制度を鉄道にも導入する仕組みです。但しバスと違って例えばJR北海道の函館本線長万部以南の並行在来線区間のように、貨物輸送インフラとしての重要度がある場合などは別の枠組みが必要になりますし、まして芸備線末端区間のようなそもそも利用客の少ない路線の維持は多少の値上げでは困難なことに変わりはありません。

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