終わらない電力危機
福島第一原発事故の国の賠償責任を問う訴訟で高裁判断お別れていた問題に最高裁が判断を下しました。
原発事故、国の責任否定 最高裁「対策命じても防げず」:日本経済新聞原告団にとっては残念な判断ですが、事業者である東電が原子力賠償法で無過失責任を定められている一方、国家賠償法による権限不行使つまり無作為の責任を問えるかという判断だった訳ですが、高裁判断で割れた予見可能性の判断には踏み込まず、回避可能性で判断した結果です。最高裁でも5人のうち1人だけ反対意見を述べたこともあり、最高裁の現時点での判断としてはギリギリのところでしょう。
震災の規模が想定より大きく、仮に命令を出していても回避できたかどうかは不明としつつ、実際の事故で立地基準が厳格化されたこともあり、国の責任は結果的に重くなっていることと共に、原子力政策が国策であるという裁判長コメントも出された訳で、国の主張を一方的に認めたという訳でもない落としどころとなっております。このことが実は終わらないコロナで取り上げた電力不足問題での原発再稼働問題に新たなハードルを課した点は見ておくべきです。
つまり法の建付けから国の賠償責任は認められなかった一方、事業者である東電に賠償責任が一元化されたことを意味しますから、その東電が保有する柏崎刈羽原発がただでさえセキュリティ問題の不祥事で原子力規制委の審査が中断している状況を、政治判断で進めることが難しくなる訳ですね。無手勝流のキッシーに出来る訳ないじゃんwww。加えて他の電力会社にとっても、重大事故対策のコストが嵩みますし、万が一の事故の時は重い賠償責任を負わされるリスクがある訳で、そこまでして原発再稼働するインセンティブは低下します。この夏冬に予想される電力危機に対しては、節電しか手段がない訳です。
という訳で、既に企業向けでは導入されているデマンドレスポンスの家庭向けへの拡大が模索され、東電や電力事業者としての東京ガスなどがポイント還元の形でデマンドレスポンスによる節電システムの導入を決めました。但し全契約者ではなく限定された契約者の中から希望者を募る形ですから中途半端ではあります。いきなり大規模なシステム構築は難しいですからやむを得ないですが、逆に言えば電力危機が見込まれる現実に直面しなければ動かないというのも何だかという話です。
欧米ではデマンドレスポンスは当たり前に行われているというのに、日本のガラパゴスぶりは相変わらずです。加えて小規模な小売事業者ではシステム投資の負担は難しく、他社のデマンドレスポンスで卸電力取引所の市場価格が抑えられれば電力調達のコストが下がってただ乗り狙いするとなる訳ですね。国が補助金で事業者を誘導するなりしないと実効性がどこまであるかは疑問です。
元々再エネ活用ではなく石炭やガスなどの火力発電への依存度が高すぎたことが問題なんで、そのために老朽火力のトラブル多発で検査のための停止もあり、燃料調達を絞っていてカタールのLNG長期契約を更新しなかった判断が裏目だったことは電気が足りない訳じゃないで取り上げた通りです。つまりこれまでの電力会社の事なかれ主義が事態を悪化させたもので、電力自由化の制度設計の問題はありますが、電力自由化や再エネ電力や原発停止に問題の根源を求めるのはいずれも間違いです。
ここで参院選に向けて岸田政権の支持率が下がってきていることがあり、与党のみならず各党が物価対策を盛り込んだ公約を発表しておりますが、エネルギー価格の上昇と円安のダブルパンチで物価上昇となっている訳ですが、円安に関しては今後も進むと考えられます。その根拠となるニュースです。
貿易赤字、長期化の恐れ 資源高響き23年度まで継続も:日本経済新聞資源価格の上昇は止まらないし、それに留まらず円安が有利とされた製造業でも、部品の輸入価格が上がる円安はメリットとは言えなくなっております。
マツダ・三菱自が国内で3%値上げ モデル改良せず異例【イブニングスクープ】:日本経済新聞となると円安対策が重要なんですが、為替介入に関しては9%近いインフレに苦しむアメリカが同意するとは考えられませんし、日銀の緩和見直しは金利上昇による副作用が大きくて難しいですが、基本的には国内需要を抑えて需給をマッチングさせる総需要抑制策で輸入を減らすしか有効な対策はありません。その場合政府と日銀のアコードを変更して政府財政の緊縮化と日銀の緩和縮小を市場動向を睨みながら進めるしかありません。そういう意味で各党の物価対策は何れも財政出動を当然の前提としており、真逆の結果しか期待できません。アベノミクス踏襲の岸田政権では実現の可能性がないことは言うまでもありませんが。
最悪シナリオとしてはYYCで長期金利を0.25%に抑える為の国債指値オペを実施しておりますが、海外勢が売りに転じればいずれソロス氏に負けた英BOEの二の舞で支え切れずに金利上昇で国際投げ売りが始まるシナリオです。そうなるとアベノミクス前から批判されてきたハイパーインフレが自己実現してしまうことになります。
あとインフレ対策としての消費減税に関しても一言付け加えておきますが、消費税収は社会保障財源とされており、基本的には政府最終消費支出に算入される筈ですが、実際は過去の財政出動による赤字の穴埋めに殆どが回っている実態がある訳ですが、そうなるのは消費税収が景気に左右されにくい安定財源であるからで、逆に言えば敢えて安定財源を手放して財政の安定を損なうのは寧ろハイパーインフレを助長することになりますのでお勧めできません。財政出動は電力のデマンドレスポンス推進など輸入を減らす取り組みへの補助金などに絞り込むべきです。当然ガソリン価格調整金の元売り補助などは直ちにやめるべきです。こんなニュースを見れば尚更です。
出光が山口製油所23年度停止 脱炭素で拠点再編加速:日本経済新聞エネオスの和歌山製油所閉鎖と同様、価格調整金が事業リストラの費用にされている実態がある訳です。補助金で価格を下げて需要を高止まりさせても今や産油国やアジア各国で製油所が乱立しており、ガソリンなどの不足分は輸入すればいいとなると、結局輸入は増える訳で、やはり逆行しており直ちにやめるべきです。
また西武鉄道サステナ車両以来繰り返しておりますが、ガソリン高を利用した公共交通利用への誘導や止まらないインフレと鉄道運賃で取り上げたEVシフト推進の方が大事です。EVは同時に家庭用蓄電池としての効用もあり、電力危機対策としてのデマンドレスポンスとも相性が良い点は指摘しておきます。日産/三菱の敬EVも発売されましたし、補助金で他メーカーのEV開発を加速させる効果も見込め、これらは同時に国内の設備投資や雇用にプラスとなりますから、我慢の総需要抑制の痛みを緩和します。勿論財政出動を伴いますから財源は大事ですが、所得税法人税の累進強化や岸田首相が封印した金融所得課税見直しや炭素税の導入などで対応することを考えるべきでしょう。選挙向けのチマチマした物価対策はいいから、こうした骨太な議論をきちんと行うことが大事です。
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