NationalRail幻想
国を葬る話に続いて国鉄を葬る話をします。JR西日本に続いてJR東日本も赤字ローカル線の線区別収支を公表しました。
JR東日本、地方35路線の赤字693億円 収支初公表:日本経済新聞国土交通省の有識者会議でも乗車密度1,000人未満の路線の存廃協議基準を示しました。
ローカル線、存廃協議の新ルール 1日平均1000人未満で:日本経済新聞JR西日本の発表が2,000人未満を基準としていたのに対して、国はその半分の基準を示した形で、JR側から見れば存廃協議のハードルが高くなった形ですが、自治体からは総じて廃止の既成事実化に対する警戒感が強まっているようです。
しかし国鉄時代には乗車密度4,000人未満を地方交通線と定義して、バス転換が望ましいという方針を出しつつ、当面の存廃協議をその半分の乗車密度2,000人未満として特定地方交通線に指定し、地元との協議を始めたものです。その結果多くの路線が対象となってバスや第三セクター鉄道へ転換されました。
1983年北海道の白糠線(白糠―北進間)が白糠町運行の自家用有償バスに転換されたのを皮切りに転換は進み、第三セクター鉄道転換の始まりは岩手県の三陸鉄道ですが、同時に国鉄が引受を拒否していた建設線の三セク引受を認めさせることになります。それが野岩鉄道やあぶくま急行、北越急行、智頭急行など多くの建設線が実現することにもなりましたが、わき道にそれますのでここまでにします。
ただ当時と経済状況も異なり、当時ならば2,000人未満のローカル線でもバスならば存続可能だし、三セク鉄道でも国鉄から切り離して独自の運賃を設定することで存続の可能性もありました。しかし人口減少で地域の人口流出も止まらず、少子化で鉄道利用する通学生も減少する中では存続もままならず、実際三セクや地元交通企業が鉄道で引き受けた大畑線、黒石線などの例もあり、鉄道での存続も厳しくなっております。加えてバス事業も乗客減とドライバー不足で経営環境が厳しくなっており、鉄道からの転換で簡単に利益を出せる状況ではなくなりつつあります。実際鉄道もバスもない公共交通不在地域も増えている現実があります。となると1,000人未満の路線のバス転換は容易ではない現実がある訳です。
有識者会議ではバス転換以外にも上下分離による線路の公的保有や自治体の同意を条件に運賃値上げを認可制から届け出制にするとか、観光列車などの誘客案の実行なども選択肢として示しており、補助金も出すとしておりますが、自治体としては協議に応じること自体が廃止前提の議論として応じない姿勢で対応することになりそうですが、そうなれば見切り廃止の口実にされるだけのことです。元々JRの内部補助頼みの路線存続だったところに、コロナ禍で大都市圏や都市間輸送の落ち込みで支えきれなくなった現実があります。現状を踏まえて地域の交通政策を見直す機会と捉えるべきでしょう.
実際国鉄時代に打ち出されたローカル線廃止論は上述のように基準を緩めてJR各社の内部補助でカバーすることで対応してきた結果、ローカル線問題は民営化後、遠景に退きましたが、旧国鉄債務のJR各社への引受を制限して見えなくしただけとはいえ、JR発足直後のバブル景気もあって沿線自治体には楽観論が広がったのは間違いないでしょう。その意味で同時に行われた鉄道運賃の改革案も観ておく必要があります。
鉄道運賃に変動制、混雑時高く 国が制度設計へ JR東日本など検討議論の前提としてJR本州3社は消費税転嫁を除いて基本的に国鉄末期の運賃体系を維持している訳で、コロナ禍による利用減で現行運賃の維持が難しくなっている現実があり、見直しが必要な局面ではあります。
元々国鉄民営化後の見通しとして当時の運輸省も単年度黒字が可能なのはJR東海1社と見積もっていて、各社の収支状況を見ながら3年程度の周期で運賃値上げを想定していましたが、民営化当時のバブル景気で収支が上振れし、特に首都圏を受け持つJR東日本の恩恵は大きかったし、アーバンネットワークの輸送サービス強化で並行私鉄から客を奪っていたJR西日本も好調でした。そのため消費税転嫁分を除いた運賃値上げは実施されず、寧ろ好業績による超過利潤の還元策を求められ、並行私鉄に合わせた特定運賃や割引率の高い回数券やフリー切符などの還元策が採られましたが、これらも収支状況を見ながら見直され縮小されています。
記事中のオフピーク定期券ですが、JR東日本としてはリモートワークの普及とフレックスタイム制の定着でピークの利用をオフピークに誘導する目的を謳っており、これをダイナミックプライシングと説明している点には違和感があります。同時に通学定期券制度の見直しにも言及しており、元々国の機関として民間より高い割引率で定期券を発行していたこともあり、本来JRが負担すべきものではなく、政府や自治体の文教予算で負担すべきとも言っております。
これは現行運賃の上限運賃認可制の制度上の矛盾なんですが、JRなど鉄道事業者は普通運賃や特急などの特別料金の他、定期運賃も含めて総括原価との均衡を求められてますから、割引率の高い通学定期運賃は乗客間の補助となる訳で、ここを見直すことで割安なオフピーク定期券の発売が可能になりますし、運賃制度としては小中高大で異なる割引率が適用される通学定期運賃を排除して運賃体系もシンプルになり運賃改定の認可手続きもやり易くなるということも視野に入れていると考えられます。つまり現行運賃制度の完全見直しとなるダイナミックプライシングとは別物で、航空やバスでは既に実施されてますが、結果的に客単価が上がって多くの乗客にとっては値上げとなっていることから、利用客が多く社会的に影響の大きい鉄道運賃への適用は慎重にすべきです。
蛇足ですが日本の上限運賃制と似て非なるイギリスのプライスキャップ制の違いですが、イギリスではインフレ率に合理化係数を掛けたプライスキャップを設定してその範囲内での事業者の運賃設定に自由を与えております。制度的にインフレ率より低率のプライスキャップを設定することで事業者の合理化努力を引き出すと同時に、合理化努力で得られた超過利潤の還元義務は課されませんから、実態としては毎年運賃は値上げされます。今のように9%超のインフレだと当然運賃値上げ幅も大きくなり国民生活を圧迫します。ジョンソン首相失脚はスキャンダルもありますが、インフレに対する国民の怒りが大きい訳です。
あと国鉄民営化時のくびきから会社を跨った運賃通算制度も見直される可能性があります。そのためにJR運賃は200㎞程度まで殆ど遠距離逓減が働かず、並行私鉄との運賃差が生じていたりします。私鉄並みに境界駅での打ち切り合算にすれば利用実態に即した遠距離逓減を戦略的に採用できるようになりますし、JR間で他社の意向を気にする必要もなくなります。東京基準で言えば熱海から西は別運賃ということですね。
てことでとっくに終わっている筈の国鉄のくびきをJRは背負わされている訳ですが、そうは言っても国民のNationalRail意識は残っており、特に政府や自治体の対応を縛っている面はあります。整備新幹線やリニアへの期待もそうした文脈から見直した方が良いということは以前から申し上げておりますが、人口減少下で初期投資の大きい高速鉄道の経営の難易度は高まります。実際整備新幹線区間ではリース料が固定されているために、コロナで乗客が蒸発してJR東日本の収支を直撃しました。苦肉の策の新幹線カーゴサービスでどこまでカバーできるのか。しかも在来線貨物輸送の代替は不可能なので、青函トンネル貨物併用問題の解決にもなりません。いい加減国鉄の亡霊は退治しなくてはね。
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