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August 2022

Sunday, August 28, 2022

三位一体で原罪侵攻系

ユダヤ教、キリスト教、イスラム教は一神教という共通点があります。考え方として人知を超えた超越的な存在としての神を定義することで、人間としての在り方を定義するという意味では共通ですが、その原点は原罪にあります。蛇にそそのかされて知恵の実を食べて神の怒りを買いエデンの園を追われたアダムとイブ(エバ)から人類の試練は始まり、神は様々な試練を与えますが、同時に救いの道を用意して人類を導き、導きに応じた者だけが生き残り、神を忘れた不届き者を一掃するということがこれでもかとばかりに繰り返されるのは聖書に記述された通りです。

しかしよく考えたら、困難に直面しても必ず救いの道はあるということになりますから、メンタルがタフになり逆境を跳ね返す力にもなる訳で、そうしたポジティブな評価が可能な一方、神に選ばれし民という選民意識、差別意識にもつながります。ある意味他民族の反感を買ってユダヤ人の迫害の歴史に繋がったという見方も可能です。

キリスト教とイスラム教はそうしたユダヤ教の教えを踏まえた上で、新たな物語を紡いだわけですが、キリスト教が神の子としてのイエス・キリストと精霊が三位一体の神の在り方という独自の見方を示します。故に神の子を処刑したことで原罪が重ねられ、試練は続きますが、精霊が生きている人に降臨して救いの道を示すことで導かれるという風に物語は展開します。歴史に名を遺す聖人はこの類という訳です。

しかし困ったことに精霊の降臨を示す証拠は示しようがない訳で、騙りの余地を生みます。統一教会開祖の文鮮明氏は言うに及ばず、中国の太平天国の洪秀全のように自らをキリストと同列の神の子とさえ名乗っていた事例もあります。余談ですが、太平天国はキリスト教の宣教師たちから異端扱いされて支えを失い清朝に滅ぼされますが、農民蜂起の闘争や移動しながら意表を突く戦いぶりなどが後の孫文の辛亥革命や毛沢東の長征などのロールモデルとなっています。

そうしたキリスト教の曖昧さはユダヤ教やイスラム教からは多神教的で堕落しているという批判もあり、クルアーンにも記述されてます。イスラム教では普通の人であるムハンマドが神託を受けてクルアーンを書き上げたとされており、神はアッラーだけという一神教の原点回帰をしています。故にムハンマドは神託を受けた神の代理人に過ぎず、死後は弟子たちの中から指導者を選びイスラム神学的な正しさを指針に指導するというイスラム帝国の体制が整備されます。スンニ派ではカリフという宗教指導者がスルターン(皇帝)を指名するということも初期には行われました。シーア派でもイマームと称する指導者を置きます。

そうしたキリスト教の多神教的曖昧さは、元々多神教の欧州では受け入れられやすかったということは言えます。ローマはオオカミの子孫を名乗る一族が建国した国で、国の発展と共に周辺の耕作地を拡大し、遊牧民の生息域を圧迫します。イソップの「オオカミが来た」という嘘つき少年の寓話はオオカミをローマの暗喩と読めば別の物語になる訳です。

そしてゲルマン民族大移動の混乱で国を立て直すためにキリスト教を認めた結果、侵略者のゲルマン人までキリスト教化された訳です。そうした融通無碍なところがキリスト教の特徴ですが、日本には大航海時代にスペインとポルトガルの宣教師が到達して布教をします。宗教改革で新教徒が勢力拡大する中、新大陸やアジアに布教先を求めた結果ですが、王を教化すれば国丸ごと布教できるということで抵抗したフィリピンは武力で支配下に置くなど強引なこともしていた訳ですが、幸か不幸か戦国時代に日本に辿り着いて王が誰かもわからないし長い戦乱で洗練された武力を持つ数多の戦国大名に武力で対抗も難しく、南蛮交易に興味を示す織田信長の保護を受けて布教を認められました。

元々寺社領を持ち力を蓄えていた仏教系各宗派に対するけん制の意味もあったと思いますが、そのあまりに強引な布教の姿勢故に秀吉の治世では一転布教を禁じられます。但し大名が帰依した所謂キリシタン大名の領地は例外で黙認されていました。そして以下略で明治維新で禁止が説かれ再度布教が始まる訳ですが、江戸時代に武家の統治思想としての朱子学に対抗して国学が興った流れで、天皇中心の統治へシフトする過程で、国家神道が形成されます。天皇は元々神話で神の子孫とされており、キリスト教の神の子という概念を借りて男系男子の万世一系の神の国の現人神という概念が作られます。これってカルト宗教と変わりませんね^_^;。

余談ですが、アジアの儒教文明という西洋から見たアジア観所謂オリエンタリズムですが、日本は例外で南宋儒教という革新的儒教としての朱子学の導入は徳川幕府による武家の統治思想というもので、長幼の序を重んじる古代の儒教とは異なり、西欧の啓蒙主義哲学思想家たちから「神なき秩序」として注目され参考にされました。しかし科学的知見の進む西欧では、結局変化の遅い儒教は時代遅れの思想として棄却されます。その一方で儒教圏の台湾でおそらくアジア一の民主主義が実現しているように、儒教のモダナイズで民主化の可能性はある訳で、中国の新儒教の思想もこの流れですが、大陸中国の民主化は足踏みしています。

そして原罪の知恵の実を食べたアダムとイブの物語ですが、蛇にそそのかされて先に林檎をかじったのがイブということで、実はミソジニーの思想も隠れている訳です。それは封建的な女性蔑視の風潮が残っていた明治時代ですから、国家神道にも反映されて女性の従属的地位が固定化される訳ですが、キリスト教圏の統一教会の開祖文鮮明も三位一体のキリスト教の教義から作られた宗教指導者ですが、こうした類似性が日本への浸透を助けたでしょう。つまり日本の保守思想に根付くミソジニーと統一教会の教義はシンクロしている訳です。故に支持率ダダ下がりでも統一教会と簡単に縁を切れない自民党がある訳です。

話は変わりますが、バスで重大事故が起きました。

名古屋高速でバス横転・炎上 2人死亡、7人けが:日本経済新聞
報道では手前から左右にふらついて不安定走行していたバスが中央分離帯に乗り上げて左に横転した単独事故で、前部オーバーハングの燃料タンクの燃料漏れが原因と思われる出火で炎上したもの。2人死亡7人ケガという事故ですが、明らかにドライバーが運転を継続できない異常事態が起きたと推測されます。

バスは名古屋市内から県営名古屋飛行場へ向かう乗合バスで、運行事業者はあおい交通という規制緩和後の新免事業者です。あおい交通に関しては地元では運転が荒っぽく急ハンドル急ブレーキや無理な割込みなどマナーも悪いと言われておりますが、それでも国交省の監査は通っております。当然ながら中小規模の新免事業者への監査はより念入りに行われると考えられますし。

そして4日後の26日未明には新東名下り線長篠設楽原PAで夜行高速バスがトラックに追突する事故が起きました。こちらもグレース観光という新免事業者ですが、乗り合いバス事業への参入規制緩和は民主党政権時代に実現しました。当時は所謂ツアーバス問題が取り沙汰されており、貸切バスによるツアー募集の形の乗合類似行為が問題視され。ホリデーイールドマネジメントで取り上げられた関越道のツアーバス事故もあって、安全管理を公共交通としての高速乗合バスに寄せる一方、貸切バス事業者への乗合免許付与を緩和した訳で、それ自体は時代の要請によるものでした。

ですから規制緩和が問題だった訳ではなく、実際新免事業者も含めて乗合バス事業者への国交省の監査は度々行われ、安全管理に問題がないか目を光らせてはいた訳です。しかし当時とはバス事業を巡る状況に大きな変化が見られます。元々既存乗合事業者にとっては短時間に距離を稼げる高速バス事業は採算性に優れていて、既に過疎化などの影響で一般路線の収益が悪化していたし、都市部の事業者も2年毎に排ガス規制が強化されるしバリアフリーでノンステップバスへの置き換えにも追われ、採算がとりにくい状況の中で採算部門の高速バス事業への参入は一般路線維持のための内部補助の原資確保の意味もありました。

故に乗合バス事業の参入規制緩和は既存事業者にとっては必ずしも歓迎されることではありませんでしたが、ツアーバスに営業基盤を侵食されるよりはマシな状況ではあります。また同じ土俵に乗れば運行面、営業面も含めて既存事業者には一日の長がある訳で、健全な競争環境の中で競い合うことは歓迎されました。

しかし地方の過疎化は止まらず、また少子化の影響でバスドライバーの確保が難しくなると、地方路線の減便や撤退が相次ぎバスの無い自治体も増える一方、大都市部でもドライバーの確保が難しいために減便を強いられるケースも出てきています。また高速バスも新規参入による競争激化で採算性が低下して撤退を迫られる路線もありますし、またコロナ禍で長距離移動需要が蒸発して多くの路線が休止に追い込まれ、京急など大手事業者の撤退表明もあり、休止路線の復活も微妙です。

そんな状況ですから相対的に小規模事業者が多い新免事業者ほど経営が苦しい状況は容易に想像できますし、ドライバー確保も綱渡りで過重労働を強いられている事例もあり得ます。その意味で新免事業者の事故が続いたことは偶然で片付けられない問題をはらみます。サイドバーで紹介した週刊エコノミスト2022年8月30日号の鉄道特集で面白い記述がありますが、日本一のバス会社^_^;西日本鉄道では鉄道の黒字復帰の一方、バス事業は赤字となっております。加えて西鉄は阪急阪神HDと並んで航空貨物フォワーダー事業で巣篭り需要のコロナ特需で潤った鉄道業界では珍しい存在でもあります。

一方国鉄のローカル線問題では自治体の硬直的な姿勢が目立ちますが、同時に国鉄時代の基準より厳しい乗車密度1,000人未満の路線のバス転換が現状のバス業界の状況を見る限り難しい現実もNationalRail幻想で指摘した通りです。実は鉄道よりバスの方が痛んでいる現実の中で、公共交通をいかに維持発展させていくのか、その見識が問われます。国葬なんかやってる場合かい!

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Sunday, August 21, 2022

カルト資本主義国ニッポン

コロナ関連の続きのニュースです。

コロナ全数把握見直し、高齢者の健康管理は維持 厚労相:日本経済新聞
全数把握と称する感染者数の公式発表に取りこぼしがあることは確実なのにそれすらやめようってのはおかしいですね。それでも感染者数の増加傾向を捉えて国民が自主的に行動変容しているからこの程度で済んでいる現実があります。また病床使用率の低さも言われますが、逆に自宅待機の軽症中等症患者から死者が出ている現状は、寧ろ医療の包摂が不十分な結果なんですから、そこへの手当をせずに寝言言うなと言いたいところです。

また2類から5類への変更ですが、そもそも特措法が準拠法規で感染症法上の分類で2類相当とか5類相当とか言っているだけで、実際の感染状況を踏まえた運用が可能な法的建付けにはなっています。2類相当だから医療が逼迫している訳ではなく、現実を踏まえれば現状の大きな変更は時期尚早と言えます。また5類相当で通常の保険診療となって感染者に自己負担が生じれば、感染を隠すインセンティブになりかねず危険です。欧米での規制緩和は医療体制の違いから来るもので、感染者数に代わる高精度のデータが取得できることが前提ですから、カルテの共有すらできていない日本で同じことやれば悲惨な結果になりかねません。

話は変わりますが、アメリカ議会で歳出・歳入法が成立しました。

米国歳出・歳入法が成立 大統領「気候変動対策で前進」:日本経済新聞
バイデン大統領が当初ぶち上げたメイド・バイ・アメリカン法が与党内からも反対に遭って妥協の結果より小粒ですが、半導体製造や脱炭素の投資促進に財政資金を拠出して国内製造業をシフトしようとする意欲的な目標が掲げられております。中国などに比べて拠出額が少ないという批判はあるものの、バイデン政権の目玉政策が具体化されたことは一歩前進です。

そして財源に法人課税の強化を打ち出した点が画期的で、大企業で課税が利益の15%を下回る企業の課税強化と株価対策の自社株買いに対する1%課税としてコロナで緩んだ財政健全化に道筋をつけたことで、インフレによる利上げで将来の金利負担を回避する姿勢を鮮明にしています。インフレ退治はFRBの責任であり、それに対して政府は圧力をかけず、寧ろ金利上昇に先手を打つという意味で、事実上の財政ファイナンスで身動きが取れない日本の日銀と政府の関係とは大違いです。加えて日本の法人税制の大甘ぶりがあります。

ソフトバンクG、繰り返す法人税ゼロ 税制見直し議論も 2007年3月以降の15年間で課税は4回:日本経済新聞
通信事業者のソフトバンクではなく親会社にあたるSBGの話ですが、実態は多数の企業の株式等を保有する投資会社であり、日本の税制では財界の「法人税と二重課税になる」という謎理論で法人企業所有株式の配当所得は非課税となっていることによるものですが、同様のことはホールディングスと称する持株会社で実体的事業を非公開の子会社に持たせて配当で利益を吸い上げて別の事業に投資すれば課税されないという形で使われたりしています。自民党総裁選で金融所得課税改革を掲げて批判を浴びた岸田首相ですが、本来は手を付けるべきところです。

とはいえアメリカも問題だらけで特にFRBの利上げがどこまで続くかで迷いが生じています。

FRB利上げ、減速探る第2幕へ 「決め打ち」路線転換 7月議事要旨を公表:日本経済新聞
FRBも利上げ原則を織り込みつつ、決め打ちせずに経済指標を見ながらという柔軟路線です。足許ではコロナ禍で伸びた巣篭り消費が減速して製造業で在庫増加が見られ、景気の先行きの悪化を示唆しますが、一方でコロナ後のリベンジ消費としての旅行や外食などのサービス消費は盛んですが、その結果サービス従事労働者の人手不足となり雇用を逼迫させているため、FRBとしては簡単に引き締めを止められない事情があります。

裏事情としてトランプ時代から継続して移民流入減が続いており、センシティブな問題なのでバイデン政権は有効な対策を打ち出せず共和党ステートと言われるメキシコ国境と接する南部諸州との政治対立もあって中間選挙を控えて触れない状況にあります。もつれにもつれたアメリカですが、同様の事情は欧州にもあって、シリア紛争などでイスラム系難民が押し寄せても追い返す一方、ウクライナ難民は受け入れているものの、女性や子供中心で労働力化が難しいということもあり、やはりサービス消費の拡大に人手の手当が追い付いていない現実があります。

一方の日本はコロナ禍の影響でサービス業の自粛要請もありコスト削減から営業時間の短縮や閉店で当面推移しそうです。それでもコロナ禍による技能実習生や留学生の減少で人手不足は進んでいますが、欧米との比較ではまだマシなのか、あるいは最低賃金が低過ぎてる結果なのか、人手不足によるインフレは目立ちません。日本では寧ろ円安による輸入物価上昇の影響がインフレを引き起こしていると言えます。

「円安で輸出が増える」のは国内企業の国内設備投資を増やさないと無理ですが、多くの企業が海外投資を重視してきた結果、国内製造業の弱体化が進み、逆に円安で海外拠点からの利益がかさ上げされますから、ますます国内投資に消極的になります。加えて輸入原材料の値上げで残った国内製造業の利益圧迫があり、さりとて国内消費が弱い現状では円建て価格の値上げもままならず、企業は国内投資をしにくい状況です。政権与党がカル津宗教に乗っ取られていることが明るみに出た日本ですが、「円安は国益」という信仰から離れた方が良くないか?

サハリン2の新会社、同じ契約条件提示 一部電力会社に:日本経済新聞
ロシアの本音は自前では資金的に成り立たない資源開発ですが、欧米石油メジャーが離脱して更に日本企業まで離脱することを阻止したかったということでしょう。ウクライナ戦で弾薬や兵器の交換部品の調達が滞っている状況で、戦費調達は至上命令でしょう。

気になるのが「同じ条件提示」がドル建て決済OKなのかルーブル建てなのかというあたりですが、後者ならばおそらく来年あたりのルーブル暴落で漁夫の利を得る可能性はあります。但し結果的にロシアに戦費を与えることに対してはG7国として説明責任は重いと言えます。おそらく日本が撤退しても中国が射貫きで参入すると考えられるので、それを阻止したいってことでしょうけど、アジアLNGスポット市場の最大の買い手は中国なんで、中国に権益が渡ったところでスポット市場の需給緩和にはなる訳です。

JR北海道、10年ぶり新型電車「737系」導入 23年運転開始:日本経済新聞
ロシアに近い北海道の話題です。いつもながら強引な話の展開ご容赦を^_^;。元々札沼線向けに50系客車を改造して投入されたキハ143系の置換えに2連ワンマン仕様の新型電車を投入ということです。札沼線の電化で室蘭本線室蘭―苫小牧間へ転出したものの、メンテナンスに難のある架線下DCの置換えを電車でというのは合理的です。JR北海道としては自前で維持する路線への投資は続ける訳で、最終的には非電化路線は電気式のH100型で統一する一方、千歳線を中心に札幌近郊路線の重点投資で生き残りという訳ですね。また地味ながら川崎重工に偏っていた車両メーカーが735系に続いて日立製Aトレインとなったことで、コスト面の見直しがあったと推察されます。

但し気になるのが新幹線開業後の函館本線長万部以南の扱いでして、ここが途切れれば北海道の鉄路は本州との繋がりを断つことになります。その結果貨物輸送ルートが寸断され北海道産農産品の輸送が齟齬します。加えて言えば冷戦の影響で北海道には自衛隊基地があり、冷戦終結後、主に他の地域への応援が主任務になっています。特に戦車や装甲車などの装備品の輸送に支障を来せば台湾有事に間に合わないとか、いろいろ支障がある訳です。農業にしろ防衛にしろ北海道経済にとっては重要なピースである訳で、北海道の鉄路を維持することの重要性は重ねて述べておきます。

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Sunday, August 14, 2022

コロナは万病の素らしい

社畜人ヤプーで帰省とコミケと青春18キッパーを取り上げましたが、コロナの自粛モードが、行動制限のない今年はかなり戻っているようです。それでもJR各社の指定席予約はコロナ前の6割水準ということで、戻りは限られます。コミケは台風直撃、豪雨や台風で足止めされた18キッパー死屍累々。

第7波渦中ですから無理もないところで、オミクロン派生のBA.5が猛威を振るう中、感染者の若年層への拡大と感染者の急増で「祖父母のために帰って来るな」と言われたケースもあるようです。実際ワクチン接種が進まない若年層の児童生徒が学校から持ち帰ったウイルスで一家全滅とか、エッセンシャルワーカーの職場内クラスター感染などで、例えば小田急バスの大減便とか宅配便の遅配とか、もっと深刻なのは只でさえコロナ禍で逼迫する医療現場の人手不足など、ウィズコロナを模索する政府の対応を難しくしています。

根拠薄れた感染対策、見直し急務 ウィズコロナへ岐路 岸田改造内閣の課題②:日本経済新聞
岸田首相は第7波終了後の見直しに言及してますが、第7波渦中の現在、既に医療逼迫が起きており、検査キットの不足もあって綱渡りの現実があります。実際行動制限は求められていなくても、帰省を断念した人も少なからずいた訳で、感染拡大のアナウンス効果によると思われます。その意味で全数検査を無くすことは歯止めが無くなるという意味で時期尚早です。そもそも全数検査と言っても陽性率が3割とか5割とかの水準では検査件数が過小と評価せざるを得ません。つまり公称の感染者数は実数に満たないと考えられます。

そもそもコロナで日本が世界に誇る医療の皆保険制度がマイナスに働いた今回のコロナ禍ですが、その見直しの議論は停滞し、感染症に有効なオンライン診療の解禁も進まず、またイギリスの家庭医に相当する制度もなく、小規模な医療機関が乱立した中でのフリーアクセス制では発熱外来設置は風評になると尻込みされたり、指定を受けても非公開だったりで、実際の感染者を早期発見早期治療する体制は確立されず、見なし陽性とか自主隔離とか医療放棄ともとれる現実がある訳です。

イギリスの家庭医制度は日常的な健康相談など日本の保健所の機能を家庭医が担い、不具合が見つかれば専門医へ紹介するという制度ですから、電子化されていなくてもカルテが共有され、患者側から見れば最適な医療が受けられる体制です。それでも財政再建のために予算が削られたことから、コロナ対策は後手に回り多くに犠牲者を出しました。その意味でジョンソン首相が当初打ち出した集団免疫作戦は背に腹は代えられなかった結果とも言えます。

それでもカルテの共有で多くの疫学データが抽出され、各国のコロナ対策にプラスになりました。特にワクチンの効果を巡る問題では、mRNAワクチンの有効性の高さやオミクロン株で見られたブレークスルー感染でも重症化回避の効果があることなど、多くの知見を得られました。それに引き換え混乱し機能しなかった日本のコロナ対策ではデータ活用すらお寒い状況です。イギリスの家庭医に倣ったかかりつけ医を医師会は推奨してますが、法的位置づけが曖昧ですし、そもそも初期医療のための専門教育を受けていない一般診療所の医師では役割を果たせず、結局専門医へ直接診療できるフリーアクセス制を見直すことはできません。

あと日本ではあまり議論されておりませんが、コロナ後遺症の問題はほぼ手付かずです。コロナ感染し重症化して死亡するケースでも、肺炎が死因となるケースは半数ほどで、他は心筋症や血栓症など別の死因です。また回復後の味覚障害やコロナ鬱と言われる神経疾患も報告されておりますし、回復後の帯状疱疹の発症が有意に増えていて、且つ若年化しているという報告もあります。帯状疱疹自体は水痘の原因ウィルスとされるヘルペスウィルスが回復後も体内に潜伏し、高齢化による免疫力の低下など何らかのきっかけで発症すると言われる疾病ですが、コロナ感染がトリガーになる可能性が示唆されます。

このようにまだよくわかっていないところですが、コロナ感染がトリガーとなって他の疾病を誘発する可能性はそれなりにあると見るべきでしょう。特にオミクロン株では喉など上気道での感染が見られ、それが若年者の感染拡大をもたらしている可能性もあります。生育途上で免疫力も相対的に弱い子供への感染は、例えばサイトカインストームのような免疫の暴走で他の疾病を呼び込む可能性もあり、実際若年層の重症化自体は増えています。将に万病の素ですね。

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Saturday, August 06, 2022

インフレなんだよ愚か者

米下院ペロシ議長の台湾電撃訪問が波紋を呼んでいます。米政府はペロシ議長に米国の台湾政策を丁寧にレクチャーしていたそうで、おそらく自発的に撤回して欲しかったと思いますが、対中強硬派のペロシ議長を翻意することには至らず、寧ろ秋の中間選挙で劣勢が予想され、下手打てばトランプ復権になりかねない危機感から、わかりやすい国民向けアピールを意識したのでしょう。実際政府は訪台自体を止めてはいないようです。

結果は中国による台湾周辺での大規模演習ですが、ペロシ氏が台湾を離れた4日からということで、事前通告されてましたし、規模の大きさは異常ですが、一応国際法上の手順を踏んで直接衝突を望まない姿勢を見せております。中国の本音はトランプ政権時代の中国ハイテク企業制裁や制裁関税など一連の中国敵対政策の緩和っを探ることですし、それ故にロシアのウクライナ侵攻の支援にも慎重です。またアメリカ自身も中国との全面禁輸を望んでいないし、実際2021年の貿易額は増えています。ウクライナ問題で手一杯のアメリカにとって、いま中国を刺激することは不利益でしかないのが現実です。

バイデン政権にとっても中間選挙で民主党が議会多数派の地位を失えば身動きが取れなくなり、ひいてはトランプ復権に至ることは避けたい訳ですが、コロナ問題で成果を上げても評価されず、寧ろ9%を超えるインフレで国民の不満が高まっている状況があります。インフレ退治はFRBの役割ですが、政府としてはガソリン税免除や対中制裁関税の解除ぐらいしか打つ手はない訳で、特に後者は国民世論を逆なでしかねないので手を付けられず手詰まりという状況です。

中国もアメリカ製半導体の供給制限で国内製造業が足踏みしている状況を抜け出したい訳で、更にセロコロナ政策で経済が停滞し、不動産バブル崩壊で内需を牽引してきた不動産業に暗雲という中で、アメリカとの対立は避けたいけど、流石に三権の長の台湾訪問は面子丸つぶれで国内世論が沸騰してますし、装備の増強が進む一方で協力案トップに頭抑えられている軍関係者のストレスもあり、ガス抜きせざるを得ない事情があります。故に今回のことが軍事衝突につながる可能性は低いですが、米中どちらも国内しか見ていない危うさはあります。

てことでEEZにミサイル落ちたと騒ぐ日本は自重した方が良いし、どちらも外せない経済的パートナーなんだし本来米中の中に入って取り持つことが必要なのにアメリカべったりの姿勢を見せている点を危惧します。中国からは挑発にしか見えないですからね。一方でロシアに見下りは突き付けられたサハリン2には未練たらたらですが、ロシア産原油が中国やインドに流れてその分国際石油市場の需給が緩んだことから原油価格が下がっているように、仮にサハリン2の天然ガスが中国に流れたとしても、その分中国が最大の輸入国となったアジアのLNG市場の需給が緩和する訳ですから、寧ろ別の調達先を探した方が現実的です。それより国内に問題だらけなのを何とかしてほしいところです。

KDDIが開けたネットワーク社会の「パンドラの箱」:日本経済新聞
ちょっと前のニュースですが、重大な問題を含んでいます。通信トラブル自体はソフトバンクもドコモもやらかしてますが、KDDIの場合自動車メーカーとの関係が深いこともあり、カーナビなど携帯以外の端末も多数接続しているということでIoT関連での問題が意識されましたが、ルーター交換という半ば日常業務的なメンテナンスでのトラブルであり、当初音声通話の15分の遮断で復帰させる為に旧ルーターに戻したところ、遮断中の接続リクエストが集中して回線の輻輳が起きて音声以外のデータ通信にまで波及したと説明されてます。

こうした異常事態は起こり得る訳で、その為に欧州では他社回線に迂回するローミングが実現している訳ですが、日本では出来ていなかった訳です。一応検討は行われたようですが、119番などの緊急通報で回線が切れた場合にコールバックが困難ということで見送られたそうです。つまり他社回線を使うと緊急通報した端末を特定できないということです。これつまり通信事業者間で契約者情報が共有されていないということです。政府が事業者間の競争を促すあまり事業者の契約者囲い込みが影響していると見られます。携帯料金下げてドヤ顔の管さんあたりに責任あるんじゃないの。

それ以上に無線通信の脆弱性を明らかにした点が問題です。つまり日本にサイバー攻撃仕掛けるなら携帯基地局狙えば良いということを明らかにしてしまった訳ですから。企業ユーザーの中にはJALやJR貨物のように複数キャリアの回線を確保して対応したところもありますが,例えば自動運転など全てのユーザーが同様の対策を採れる訳でもありませんし、今後5Gの普及で工場の機械や建機など多数の端末が接続するようになればなるほどリスクは増します。

洋上風車欧州大手が日本工場建設保留 納入先の公募落選で【イブニングスクープ】:日本経済新聞
有望とされる洋上風力発電の1回目入札で三菱商事グループが安値受注で案件を独占したことから、急遽入札ルールが見直され、三菱商事排除の気配が漂いますが、その結果入札条件が厳しすぎるとしてデンマークの風力大手べスタスが日本国内の製造拠点建設を保留し、当面独シーメンスの代理店としての活動に留まることになりました。巨大風車や発電機は輸送コストが高くつくので現地生産が基本であり、欧州大手の進出はその意味で遅れている日本の洋上風力発電の推進役と期待されていたところを実績の乏しい国内勢のさや当てで潰す愚という意味で通信ローミング問題と通底します。
EVバス世界で快走、中国製席巻 日本は水素重視で出遅れ:日本経済新聞
中国のEVバスが世界で走っています、日本でも導入例が増えておりますが、水素重視で出遅れは嘘です。日本独自のホイールモーター方式の電気バス開発は早くから行われておりましたが、政府もメーカーもガン無視でいつしか立ち消えとなりましたし、トヨタのSORAより10年以上前から欧州産の水素fバスは走っておりました。欧州では水素=再エネ電力由来のグリーン水素ということで、化石燃料由来の日本の水素戦略とは別物で、細々とながらジワジワ普及しています。ある意味中国は欧州とすみ分けて市場を取りに行っている訳で、日本に足りないものが良くわかる話です。
火力・原子力「夏バテ」懸念 猛暑や水不足で出力減:日本経済新聞
気候変動で風が弱くなって風力発電の出力不足が言われて再エネは頼りにならないとか言われましたが、欧州の熱波で渇水による停止や水温上昇による出力低下で火力も原子力も役に立たないのが現実です。水の豊富な日本では考えにくいですが、化石燃料依存による経済社会の破壊は底知れません。日本でも線状降水帯による水害で大変なことになってます。安定の再エネ電源の筈の水力発電もいつまで頼れるか。

そういう意味で欧州の脱炭素は本気度が違います。再エネ中心のエネルギー自給にいま取り組まなければ未来はないぐらいの認識がある訳です。その意味でエネルギー価格の上昇は苦しいけれどパラダイムシフトのチャンスととらえてもいる訳です。勿論各国で温度差はありますが、一方でユニークな政策も打ち出されております。

車社会ドイツ、電車乗り放題券 インフレ対策で脱炭素も:日本経済新聞
ガソリンなど燃油高によるインフレ対策と脱炭素を組み合わせた政策としてドイツ国内の鉄度やバスなどの公共交通乗り放題定期券を9ユーロで売り出したもの。日本円換算で1,200円程度ですから青春18きっぷよりも安い上、連邦政府の財政支援で実現したところがミソ。つまり典型的なワイズスペンディング出あり、JR各社の割引サービスでは実現できないレベルの割引ですね。

NationalRail幻想で指摘した公金によるサービスの購入をやっている訳です。同時にイギリス以外の欧州も8%台の高インフレに悩まされており、インフレをカバーする賃上げ要求でストが頻発して経済に支障が出ている状況です。とはいえ賃上げはインフレを昂進させるスパイラルに陥る可能性もありますし、給付金なども需要を押し上げてインフレ圧力を高める訳ですから、政府によるインフレ抑止は難しい訳ですが、コロナ禍で利用が減った公共交通支援を兼ねてガソリン価格に負荷をかけず国民の福利を高めつつ脱炭素も実現するというんのは、流石緑の党が与党に入っているが故のアイデアでしょうけど、日本ではこういう議論はほぼ皆無です。英ジョンソン首相もインフレで職を失った訳ですし、インフレ対策は各国政府にとっては鬼門でしょうけど、アメリカでもコロナ禍で利用が激減したニューヨーク地下鉄で運賃値下げを行ったりしている訳で、打つ手がない訳ではありません。

てことで1992年の米大統領選に勝利したクリントン陣営のフレーズに倣って言えば It's the inflation, stupid. 「インフレなんだよ愚か者」

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