インフレなんだよ愚か者
米下院ペロシ議長の台湾電撃訪問が波紋を呼んでいます。米政府はペロシ議長に米国の台湾政策を丁寧にレクチャーしていたそうで、おそらく自発的に撤回して欲しかったと思いますが、対中強硬派のペロシ議長を翻意することには至らず、寧ろ秋の中間選挙で劣勢が予想され、下手打てばトランプ復権になりかねない危機感から、わかりやすい国民向けアピールを意識したのでしょう。実際政府は訪台自体を止めてはいないようです。
結果は中国による台湾周辺での大規模演習ですが、ペロシ氏が台湾を離れた4日からということで、事前通告されてましたし、規模の大きさは異常ですが、一応国際法上の手順を踏んで直接衝突を望まない姿勢を見せております。中国の本音はトランプ政権時代の中国ハイテク企業制裁や制裁関税など一連の中国敵対政策の緩和っを探ることですし、それ故にロシアのウクライナ侵攻の支援にも慎重です。またアメリカ自身も中国との全面禁輸を望んでいないし、実際2021年の貿易額は増えています。ウクライナ問題で手一杯のアメリカにとって、いま中国を刺激することは不利益でしかないのが現実です。
バイデン政権にとっても中間選挙で民主党が議会多数派の地位を失えば身動きが取れなくなり、ひいてはトランプ復権に至ることは避けたい訳ですが、コロナ問題で成果を上げても評価されず、寧ろ9%を超えるインフレで国民の不満が高まっている状況があります。インフレ退治はFRBの役割ですが、政府としてはガソリン税免除や対中制裁関税の解除ぐらいしか打つ手はない訳で、特に後者は国民世論を逆なでしかねないので手を付けられず手詰まりという状況です。
中国もアメリカ製半導体の供給制限で国内製造業が足踏みしている状況を抜け出したい訳で、更にセロコロナ政策で経済が停滞し、不動産バブル崩壊で内需を牽引してきた不動産業に暗雲という中で、アメリカとの対立は避けたいけど、流石に三権の長の台湾訪問は面子丸つぶれで国内世論が沸騰してますし、装備の増強が進む一方で協力案トップに頭抑えられている軍関係者のストレスもあり、ガス抜きせざるを得ない事情があります。故に今回のことが軍事衝突につながる可能性は低いですが、米中どちらも国内しか見ていない危うさはあります。
てことでEEZにミサイル落ちたと騒ぐ日本は自重した方が良いし、どちらも外せない経済的パートナーなんだし本来米中の中に入って取り持つことが必要なのにアメリカべったりの姿勢を見せている点を危惧します。中国からは挑発にしか見えないですからね。一方でロシアに見下り半突き付けられたサハリン2には未練たらたらですが、ロシア産原油が中国やインドに流れてその分国際石油市場の需給が緩んだことから原油価格が下がっているように、仮にサハリン2の天然ガスが中国に流れたとしても、その分中国が最大の輸入国となったアジアのLNG市場の需給が緩和する訳ですから、寧ろ別の調達先を探した方が現実的です。それより国内に問題だらけなのを何とかしてほしいところです。
KDDIが開けたネットワーク社会の「パンドラの箱」:日本経済新聞ちょっと前のニュースですが、重大な問題を含んでいます。通信トラブル自体はソフトバンクもドコモもやらかしてますが、KDDIの場合自動車メーカーとの関係が深いこともあり、カーナビなど携帯以外の端末も多数接続しているということでIoT関連での問題が意識されましたが、ルーター交換という半ば日常業務的なメンテナンスでのトラブルであり、当初音声通話の15分の遮断で復帰させる為に旧ルーターに戻したところ、遮断中の接続リクエストが集中して回線の輻輳が起きて音声以外のデータ通信にまで波及したと説明されてます。
こうした異常事態は起こり得る訳で、その為に欧州では他社回線に迂回するローミングが実現している訳ですが、日本では出来ていなかった訳です。一応検討は行われたようですが、119番などの緊急通報で回線が切れた場合にコールバックが困難ということで見送られたそうです。つまり他社回線を使うと緊急通報した端末を特定できないということです。これつまり通信事業者間で契約者情報が共有されていないということです。政府が事業者間の競争を促すあまり事業者の契約者囲い込みが影響していると見られます。携帯料金下げてドヤ顔の管さんあたりに責任あるんじゃないの。
それ以上に無線通信の脆弱性を明らかにした点が問題です。つまり日本にサイバー攻撃仕掛けるなら携帯基地局狙えば良いということを明らかにしてしまった訳ですから。企業ユーザーの中にはJALやJR貨物のように複数キャリアの回線を確保して対応したところもありますが,例えば自動運転など全てのユーザーが同様の対策を採れる訳でもありませんし、今後5Gの普及で工場の機械や建機など多数の端末が接続するようになればなるほどリスクは増します。
洋上風車欧州大手が日本工場建設保留 納入先の公募落選で【イブニングスクープ】:日本経済新聞有望とされる洋上風力発電の1回目入札で三菱商事グループが安値受注で案件を独占したことから、急遽入札ルールが見直され、三菱商事排除の気配が漂いますが、その結果入札条件が厳しすぎるとしてデンマークの風力大手べスタスが日本国内の製造拠点建設を保留し、当面独シーメンスの代理店としての活動に留まることになりました。巨大風車や発電機は輸送コストが高くつくので現地生産が基本であり、欧州大手の進出はその意味で遅れている日本の洋上風力発電の推進役と期待されていたところを実績の乏しい国内勢のさや当てで潰す愚という意味で通信ローミング問題と通底します。
EVバス世界で快走、中国製席巻 日本は水素重視で出遅れ:日本経済新聞中国のEVバスが世界で走っています、日本でも導入例が増えておりますが、水素重視で出遅れは嘘です。日本独自のホイールモーター方式の電気バス開発は早くから行われておりましたが、政府もメーカーもガン無視でいつしか立ち消えとなりましたし、トヨタのSORAより10年以上前から欧州産の水素fバスは走っておりました。欧州では水素=再エネ電力由来のグリーン水素ということで、化石燃料由来の日本の水素戦略とは別物で、細々とながらジワジワ普及しています。ある意味中国は欧州とすみ分けて市場を取りに行っている訳で、日本に足りないものが良くわかる話です。
火力・原子力「夏バテ」懸念 猛暑や水不足で出力減:日本経済新聞気候変動で風が弱くなって風力発電の出力不足が言われて再エネは頼りにならないとか言われましたが、欧州の熱波で渇水による停止や水温上昇による出力低下で火力も原子力も役に立たないのが現実です。水の豊富な日本では考えにくいですが、化石燃料依存による経済社会の破壊は底知れません。日本でも線状降水帯による水害で大変なことになってます。安定の再エネ電源の筈の水力発電もいつまで頼れるか。
そういう意味で欧州の脱炭素は本気度が違います。再エネ中心のエネルギー自給にいま取り組まなければ未来はないぐらいの認識がある訳です。その意味でエネルギー価格の上昇は苦しいけれどパラダイムシフトのチャンスととらえてもいる訳です。勿論各国で温度差はありますが、一方でユニークな政策も打ち出されております。
車社会ドイツ、電車乗り放題券 インフレ対策で脱炭素も:日本経済新聞ガソリンなど燃油高によるインフレ対策と脱炭素を組み合わせた政策としてドイツ国内の鉄度やバスなどの公共交通乗り放題定期券を9ユーロで売り出したもの。日本円換算で1,200円程度ですから青春18きっぷよりも安い上、連邦政府の財政支援で実現したところがミソ。つまり典型的なワイズスペンディング出あり、JR各社の割引サービスでは実現できないレベルの割引ですね。
NationalRail幻想で指摘した公金によるサービスの購入をやっている訳です。同時にイギリス以外の欧州も8%台の高インフレに悩まされており、インフレをカバーする賃上げ要求でストが頻発して経済に支障が出ている状況です。とはいえ賃上げはインフレを昂進させるスパイラルに陥る可能性もありますし、給付金なども需要を押し上げてインフレ圧力を高める訳ですから、政府によるインフレ抑止は難しい訳ですが、コロナ禍で利用が減った公共交通支援を兼ねてガソリン価格に負荷をかけず国民の福利を高めつつ脱炭素も実現するというんのは、流石緑の党が与党に入っているが故のアイデアでしょうけど、日本ではこういう議論はほぼ皆無です。英ジョンソン首相もインフレで職を失った訳ですし、インフレ対策は各国政府にとっては鬼門でしょうけど、アメリカでもコロナ禍で利用が激減したニューヨーク地下鉄で運賃値下げを行ったりしている訳で、打つ手がない訳ではありません。
てことで1992年の米大統領選に勝利したクリントン陣営のフレーズに倣って言えば It's the inflation, stupid. 「インフレなんだよ愚か者」
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