失われた中国の始まり
中国の習近平氏が異例の国家主席3期目を決めました。最高幹部を側近で固め、李克強、汪洋両氏が最高幹部を外れ、上海市トップでハードロックダウンを主導した李強氏が登用されるなど、あからさまに側近で固めた人事は、何だか安倍政権を思い起こさせます。鄧小平氏が決めた国家主席2期10年までとか、最高幹部定年68歳も反故にして69歳での3期目就任の一方、李克強、汪洋両氏は67歳で引退というアンバランスもあります。中国の集団指導体制に幕を引いたと言えるます。
元々日本の自民党長期政権を参考にしたと言われる集団指導体制ですが、太子党と共青団のように自民党の派閥政治に似たところがあり、政権内部での異論の包摂という意味でうまく機能していたとは言えます。それでも天安門事件が回避できなかったように、共産党一党支配という規範を越えるものではない訳ですが、その点は日本でも親米保守という規範を越えられないという意味で似たり寄ったりではあります。
そして官邸を側近で固めて総裁任期延長や抜き打ちの衆院解散などで自民党の強みであった異論包摂の多様性は失われましたが、同様に党大会などの行事の開催時期を恣意的に動かしたり、反腐敗で政敵を粛清したりした習近平氏の手法は安倍政権と通底します、そして突然の民間ハイテク企業の規制強化で共同富裕を打ち出した一方、アメリカの半導体輸出規制に対抗して国産化を進めてますが、バイデン政権が半導体製造装置を含む輸出規制強化で道を塞がれています。
微細加工の先端半導体は歩留まりが悪くなりますので、使えるチップを大量に供給する難易度は高い訳で、その辺をクリアしてから台湾TSMCは米インテルを凌ぐ世界トップの位置を得た訳ですが、後追いするのは困難を伴います。この辺は日本メーカーも同じですが、設備投資と技術開発投資を継続できなければ追いつけません。その一方で自動車その他必ずしも最先端素子ばかりが需要される訳ではなく、量的には旧世代半導体の方がボリュームゾーンでもあります。しかし競争が激しく経済動向も絡んで市況商品として価格変動が激しいので、その分野で留まる限り安定した収益を得ることは難しい訳です。日本のDRAM敗戦は典型的ですが、中国が同じ轍を踏む可能性は高いと言えます。
加えて資源インフレで世界経済が不況に向かう局面となれば、奇跡的な成長を続けた中国経済も長期停滞は免れないと考えられます。人口動態も生産年齢人口が予想より早く減少に転じた模様で、この点も日本の後追いと言えます。日本の失われた30年が中国で再現されるという訳ですね。国内の不動産バブル崩壊も経済の足を引っ張ります。
となると台湾併合は先端半導体を手に入れることにもつながりますが、逆に台湾が先端半導体で世界をリードできたのは、世界になくてはならないオンリーワンとなることで、先進諸国の関与を強めて中国の圧力をかわす目的があります。独立を果たせない台湾故の生き残り戦略であり戦略的経済安全保障と言えます。その意味で日本で議論される経済安全保障のなんと底の浅いことか。
習近平氏は台湾併合に軍事オプションを排除しない姿勢を見せてますが、あくまでも最終手段であって今すぐという話ではない訳で、日本の台湾有事の議論も的外れです。寧ろ台湾は未承認故に集団的自衛権行使の対象にならないという法的問題もある訳で、それも含めてクリアすべき課題は多いと言えます。恐らく防衛力強化の口実ということなんでしょうけど、半導体不足と共にウクライナ紛争が影を落とします。
冷戦終結に伴う米国防費の削減で軍需産業の生産能力は大幅に縮小しており、その中でロシアのウクライナ侵攻が起きてウクライナに対する兵器供与が続いている訳ですが、その結果米軍需産業の生産能力がボトルネックになってきており、米政府は西側諸国に生産協力を求めています。当面ウクライナ向けの出荷が最優先ですから、日本向けは後回しでしょう。兵器増産は日本の防衛産業にもお鉢が回ってくるでしょうけど、元々数が出ないから利益が薄く、撤退が相次いでいる状況です。
そこへ特需と喜べないのは、ただでさえ儲からない兵器産業で、米政府の要請でライセンス生産となると、守秘義務契約など煩雑な手続きを経て、しかも指定の輸入部品購入やライセンス料の支払いまで求められたら、果たして引き受ける企業があるかどうか。政府は重工メーカーなどに強引に引き受けさせるでしょうけど、見返りに別分野の事業で便宜を求められる可能性はあります。それが原発になるのか洋上風力になるのか、何らかの国策事業での不透明な意思決定をもたらす可能性はあります。政府が公共事業を減らせないのはこうした背景があるかもしれません。
こうした日本の不透明な政府統治をお手本にしたとすると、中国も同じ轍を踏むのはある意味当然なのかもしれません。そして同じように長期停滞に直面するということですね。逆に中国が先を言っているのが短期間に世界一の路線網をを展開した高速鉄道です。これも日本の新幹線のパクりと言われますが、京滬トッキョキョキャキョキュ^_^;で取り上げたように元々国鉄とメーカーの間で権利関係が曖昧なまま民営化され特許の空白となっていたのは日本側のミスですし、そもそも新幹線自体は鉄道という枯れた技術が土台ですから、ある意味模倣は容易だったと言えするでしょうけど、いつまでも「世界に管たる新幹線」という意識から抜けられないから隙を生んだとも言えます。
そして中国の高速鉄道プロジェクトはおそらく田中角栄氏の「日本列島改造論」を参考にしている節があります。国土の均衡ある発展のために新幹線網を全国に展開する一方、線路の空く在来線は貨物輸送強化で産業振興を図るというものですが、中国の高速鉄道は将にこれで、在来線も標準機ですから貨物輸送力も日本とは比較にならない大きなもので、世界の工場を支えました。
しかし一方で高速鉄道の収支は大赤字と暴かれました。これ日本でも北海道新幹線は今のところ単独では100億円規模の赤字です。青函トンネル区間という特殊事情があり、札幌延伸で収支は改善するでしょうけど、JR北海道の経営を支えるには至らないと見られます。新幹線も収益逓減の法則からは逃れられず、今後更に整備を続けるなら赤字は避けられないところです。
余談ですがロシア軌のウクライナの鉄道を標準機かするプロジェクトがウクライナの戦後復興に絡めて検討されています。ロシアによる黒海の海上封鎖でウクライナ産の小麦などの農産物輸出が困難になったことから、隣国ポーランドに合わせて標準機かすればEUの鉄道網で輸出が容易になるということで、実は中国も密かに支援を狙っています。というのは一帯一路の欧州側の出口という意味で、ロシアの影響力を排除したいのは中国も同じです。加えてカザフスタンなどロシア軌のの中央アジア諸国にも手を突っ込む可能性があります。21世紀のゲージ戦争はリアルにあり得ます。
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