連合王国の迷走
エリザベス女王の国葬が行われた先月19日。世界の要人がロンドンを訪れで弔意を表しました。日本の天皇皇后両陛下も参列した厳かな儀式ですが、イギリスの国葬は法律で定義されており、国家元首及び衆目の認める卓越した故人として、例えばアイザック・ニュートンも国葬で送られました。当然議会の同意を得ての話ですが。とはいえ過去の植民地支配の記憶もあり、旧植民地の反応は冷ややかなものも多いですし、またイギリス国内でも王政廃止して共和制へ移行すべしという議論もあります。面白いのは王政廃止論は主に保守党から出てきており、労働党は安定維持の立場から王政擁護の姿勢を見せております。
三位一体で原罪侵攻系 のイギリスバージョンとしてイングランド国教会というのがありまして、チューダー朝時代に王権を巡ってローマ教皇庁と対立し、イングランド国教会を設立してローマ教皇庁支配から離脱しました。教義に基づく離脱ではなく政治的なもので、喩えれば中世版Brexitですが、その過程で三位一体論に基づく神聖王権の概念を盾にアジア、アフリカへの進出を図ります。
生涯独身のエリザベス1世は聖母マリアに喩えられ、後に新大陸北東回廊をバージニア植民地と命名されるという流れです。なるほど日本の明治政府が天皇中心の国家統治を考えたのはお手本があった訳ですね。但し日本では国葬は国葬令という勅令によっていたため、戦後の新憲法制定で帝国憲法が失効したことで同時に効力を失いました。日本の国葬養護論者は認めたくないでしょうけど。そんなイギリスがえらいことになってます。
英ポンド最安値、大減税に動揺 世界市場へ新たな火種:日本経済新聞米利上げの影響でポンド安が止まらずインフレに悩まされるイギリスですが、ジョンソン首相辞任に伴う後継の保守党トラス政権が打ち出した減税などの経済対策が嫌気され、国債金利上昇(価格下落)となり、イングランド銀行(BOE)が急遽国債買い入れしたものの嫌気され、ポンドが売り込まれる展開となりました。
Brexitに始まるイギリスの迷走は、Brexitで始まった通関手続きの影響で港湾に滞貨がたまり物流の遅れからイギリス経済を圧迫しましたし、コロナ禍がそれに輪をかけてしまいました。その結果コロナショックがイギリスでは供給ショックの度合いが強まり、加えてウクライナ危機側をかけますから、経済はガタガタになりました。そしてジョンソン首相が退任に追い込まれ、保守党の党首選で勝ち残ったトラス首相が打ち出した経済対策が減税中心の需要サイドに働きかける政策だったことで混乱が生じました。
インフレなんだよ愚か者という話ですが、供給ショックに需要喚起の政策を充てればより供給制約が深刻になるという常識が英保守党で失われている可能性があります。米共和党のトランプ支持派による伝統的保守派の圧迫もそうですし、イタリア総選挙での極右政党の勝利やフランス国民戦線の支持拡大などもあり、先進国共通の病巣があるのかもしれません。本来経済合理性を尊重する筈の保守派が経済を混乱させているということですね。
その流れから言えば日本の旧統一教会問題できちんと対応できない岸田政権ではアベノミクスの総括などできる道理がありません。その結果こんなことが起きる訳ですが。
政府・日銀、24年ぶり円買い介入 円一時140円台に上昇:日本経済新聞為替介入に関してはめぇいあに露出している経済人でも間違った認識を持つ人が多く、国民に適切な説明もあsれませんが、1兆ドル以上とされる日本の外貨準備が介入の原資となります。但しそのほとんどは米財務省債として米国内で運用されており、その受取り利子も米国債に再投資されるのが通例ですから、介入原資となる流動資産(現預金)は日本円で19兆円程度であり、今回円建てで2.8兆円という過去最高額ですが、1日の出来高から見れば微々たる水準です。しかも使える原資は限られる訳ですし。
介入資金は財務省財務局の所轄で日銀に預託され運用されており、米ニューヨーク連銀の鋼材で管理されております。その一部を取り崩しての介入ですが、今回のようなドル売り円買い介入の場合、日銀が円を買う形になりますから、円の通貨量がその分減ることになるため、金融政策との整合性を取るために円資金の減少で生じる金利上昇を吸収するオペを実行して影響を抑えます。これを不胎化と呼びます。そうするとそもそも日米の金利差拡大で生じた円安であり介入効果を失うことになりますから、結局瞬間的に市場にショックを与えるだけで、効果は続きません。インフレ退治は金融政策で対応すべき問題なんです。しかし日銀は動きません。
実質で見る破格の円安 日本経済、「体力」低下著しく 齊藤誠・名古屋大学教授:日本経済新聞斎藤教授の分析では、物価連動国債金利で表される実質金利と物価変動を加味した実質為替レートの関係をグラフにブロットした結果、1986年1月の1ドル200円を基準値とした2019年までのトレンドと21年以降のトレンドに明らかな乖離があり、この2年間の動きは複雑なんですが、結果的に19年の実質1ドル180円から21年には270円の水準となった訳で、これは1985年のプラザ合意前後の米ドルが1ドル250円が150円に下がったのと同等の減価で、ぶっちゃけ円の価値は2/3になったってことで、災害級の災難です。しかも世界の金融当局が通貨防衛の観点から利上げに動いている中で、主要国中銀では日銀だけが緩和継続している訳ですから、円安トレンドは今後も続くということになります。実質で見ると表面の数字以上のインパクトがある訳です。
日銀はインフレを原油高など海外要因で起きた一時的な現象として緩和継続を示唆し続けた訳ですが、なるほどWTI原油は80ドルを割る水準まで下がりましたが、円安がそれを帳消しにしている訳です。とはいえ日銀にも言い分はある訳で、異次元緩和からマイナス金利、イールドカーブコントロール(YYC)などで長期間緩和を維持してきた結果、日銀自身の国債保有が膨れ上がっており、利上げしろと言われてもその結果日銀自身のバランスシートを痛めてしまうジレンマがあります。つまり動くに動けない訳です。元々独立性が強くコロナ後の利上げに一番りしたBOEは逆に年金の国債保有による損失を避けるために国際買い取りに踏み込んだ訳で、金融秩序維持の意識が高い訳です。日銀もYYCの許容金利拡大ぐらいはやればできないことはありません。
日本国内を見渡せば、製造業の海外移転などによる空洞化が進み、衰退が明らかだった80年代のアメリカと被ります。それを象徴するこのニュース。
東芝再編、JICとJIPがそれぞれ提案 連携は解消 JIP案には中部電力が出資含め参画:日本経済新聞かつてCOCOMしてますか?で取り上げた東芝機械のCOCOM規制違反事件ですが、アメリカから脅威と見られ言いがかりをつけられた東芝も今は昔。再建が進まず迷走しております。産業革新機構(JIC)と日本産業パートナーズ(JIP)は元々組んで海外ファンド勢と対峙してましたが、外為法改正で外資の株式保有が規制されたこともあり、投資妙味が薄いと様子見モードですが、上場維持のJICと非公開化のJIPで対立し、日本勢で争うことになりました。JIP陣営は中部電力などユーザー企業から資金を募っており名門企業の株式非公開化に現実味が出てきました。国策で潰せない企業として温存されることに変わりはありませんが。日本の企業統治改革の成れの果てという意味では80年代のアメリカ以上に重傷です。
てことで、イギリスやアメリカの心配よりも日本の心配をすべきなのでしょう。イギリスの鉄道改革は雑な制度設計で混乱がありましたが見直され、寧ろJR北海道などの経営不振で見習うべきじゃないかという見方もされました。ある意味イングランド王国時代から迷走し続けた「歩きながら考える」路線と見れば今の混乱もいずれ出口を見出すとは思います。逆にコロナ禍で経営悪化したJR各社や北海道新幹線の並行在来線問題が暗礁に乗り上げている現状を見ると、日本の方が出口が遠いかもしれません。残念ながら。
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