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November 2022

Sunday, November 27, 2022

地方の崩壊

コロナだ Go To だと国のバラマキで珍事が起きています。

21年度決算、全815市区が黒字 国依存鮮明に 日経NEEDS調査:日本経済新聞
国の地方へのバラマキで全自治体の決算が黒字となったという微妙なニュースです。自治体には課税自主権がありますから、自ら税源を見出して黒字化なら喜ばしいところですが、実際は人口減少で税収は減るし公共インフラの老朽化対策で財政に負荷がかかる現実は何も変わってはいません。ということで財政支出を支える地方債の起債は必要な訳で、地方債の償還に地方交付税が割り当てられますから、黒字化といっても財政調整措置としての地方交付税が無くなる訳ではなく、寧ろ総務省の承認でしか事業が出来ないという形で自治権を空洞化させている訳です。地方創生どこ吹く風です。

一方地方交付税不交付団体である東京都には関係ない話です。それ故潤沢な財政資金を使った開発行政が可能であり、それが都内に林立する高層ビル群を生み出している訳で、これじゃ東京一極集中は止まらない訳です。しかも容積率緩和などの規制緩和がそれを後押ししている訳ですから尚更です。そんな中で行われた東京五輪は改めて何だったのかを問いたいところです。

五輪事業で談合疑い、電通など家宅捜索 東京地検:日本経済新聞
アオキに始まる一連の五輪疑惑の根の深さは、既に贈収賄事件として逮捕者まで出ていますが、それに留まらず五輪関連でずっと言われてきた電通の暗躍も談合事件としての立件が視野に入ってきました。現時点で政治家の関与は見えていませんが、都議会自民党の関与はあったと見るべきでしょう。そして東京メトロのコロナ減便:で取り上げたように、落選中に神宮の森再開発を発案した萩生田自民政調会長あたりがターゲットでしょうか。

この問題は度々取り上げてきましたが、改めて問題点を整理します。

1.国立競技場の建て替えを口実に都市計画を変更して神宮の森の高さ制限を緩和。
2.日陰制限に引っかかる都営霞ヶ丘空宅の住民強制退去による撤去。
3.高さ制限緩和に伴う建物や競技施設の建て替え。
4.高さ制限緩和に伴って得られた容積率ボーナスの未使用分の空中権売買で三井不動産をはじめ周辺地権者に開発利益を配分。
ザックリ言えばこの4点ぐらいに集約されますが、おぞましい利権の巣窟ですね。そして利権は湾岸にもあります。
東京―ビッグサイト間に地下鉄新設 都、40年までに開業:日本経済新聞
かねてより東京都が意欲を示していた湾岸地下鉄の建設を決めたというニュースです。想定事業費は5,000億円と程度とされております。インフラ以外の車両などの動産を含むかどうかはわかりませんが、単純計算でキロ833億円という途方もない金額です。

しかも想定されているつくばエクスプレスとの直通運転ですが、当のつくばエクスプレス自身が沿線開発の進捗で輸送力増強に追われ、当面8連化に備えて各駅ホームの延伸に着手し、完成を待って8連の新車に置き換えるという計画を先行させており、東京延伸はその後となりますから、現時点ではいつ着手できるかは不明です。このことは湾岸メトロが独自に車両を保持し車両基地を整備するかどうかといったことにも関わります。つまり決めたとはいえ不確定要素テンコ盛りなんですよね。

また当初計画では駅間距離の問題から勝どきと晴海の中間点に1駅だったものが、それぞれ駅を設置するということで、おそらく周辺の高層ビルやタワーマンション群での需要上振れで大江戸線勝どき駅の混乱から見直された可能性はありますが、それ以上に東京五輪2020のレガシーとして選手村をリフォームして売り出された晴海フラッグの利便性強化の意図があるのではないかと思います。

都心直近ながら最寄りの大江戸線勝どき駅徒歩17分と利便性に難があり、周辺よりも割安で売り出されていますが、それでも8.000万円台の高額物件ですから、かんたんにうれるわけでもありませんし、金利上昇が見込まれる中で販売にブレーキがかかることは避けたいでしょう。無観客で五輪開催は大赤字だった訳ですし、それを少しでも取り戻したいということでしょうけどそれでこうした大規模投資が必要になるってのはおかしな話です。都などの費用負担次第で採算性は確保可能でしょうし、沿線の開発状況次第でB/C費も悪くない数字は出る可能性はありますが、素直に歓迎できない話です。

あと忘れられた復興五輪という観点から言えば、五輪関連で建設工事が東京に集まった結果、明らかに震災復興は遅れておりますし、また復興財源と位置付けられた東京メトロの株式上場も果たせておりません。これは東京都が東京メトロの議決権行使による影響力保持の意向から遅れているもので、例えば事業者として東京メトロが難色を示している南北線品川延伸をやらせようということですね。

言っちゃ悪いけど東京都は独善的開発独裁やってるようなもんです。しかも地方交付税不交付団体ですから総務省もコントロールできない訳です。大阪が府市統合による都構想を諦めきれないのは東京都のこのような実態があるからとも言えます。事業計画では現行の折返し引上げ線を延伸して白金台駅近くから東へ向かい品川駅高輪口にJR京急と並行に駅が設置される計画です。都営三田線との直通があるかどうかは不明ですが、複線で伸ばすには都営三田線の引上げ線も使わざるを得ないんじゃないかと思いますが。

という風に不確定要素の多い南北線延伸ですが、更に不確定な要素が加わります。来年3月開業予定の相鉄・東急新横浜線です。その運航計画の概要が発表されました。

相鉄・東急直通「新横浜線」 海老名―目黒53分で結ぶ:日本経済新聞
まだ細部は調整中としつつ、東急と相鉄の直通運転に関する概要は明らかになりました。朝ラッシュ時東横線直通4本、目黒線直通12本でうち7本は新横浜止まりで、日中は2本ずつとなります。当きょこ線系統は現行の菊名折り返しを急行に格上げの上振替、目黒線系統は急行と各停でいずれも新横浜線内は各駅に停車するというものです。更に東横線系統は湘南台へ、目黒線系統は海老名へということになります。また奥沢駅の改良工事感染で確定の急行退避を奥沢に移し、更にラッシュ時は奥沢と武蔵小山の2本退避でスピードアップが図られるということです。

全列車日吉折り返しの目黒線中心となることと、東横線菊名折り返しが振り替えられるところはほぼ予想通りですし、相鉄もいずみ野線系統への振り分けがあることも予想されたところですが、JRと競合する東横線系統をいずみ野線に振り、都心直通の目黒線系統を海老名に振ることで、JR直通との棲み分けが意識されております。相鉄線内では西谷発着の横浜駅方面折り返し列車を新設して横浜駅発着列車の本数を維持するとともに、特急と快速の運転時間帯を拡大するということですから、ラッシュ時にも特急が走ることになるようですね。

ということで現時点では相鉄と東急の関連部分のみの発表で、渋谷と目黒の先は調整中ということですが、現行ダイヤを大きく弄れないでしょうから、東横線系統はせいぜい新宿三丁目までになるでしょうし、目黒線系統も南北線と三田線の振り分けをどうするかは流動的ということでしょう。この部分は将来の品川延伸時の輸送計画を束縛しますから、東京都の動き次第でどうなるか不明です。

神奈川県民としては案外アクセスが不便な新横浜駅へのアクセス手段が増えるという意味で朗報ですが、利便性向上は東横線と相鉄線沿線エリアに限られそうです。但し人口ボリュームゾーンではありますから、メリットを受ける人の数は多いとは言えます。あと横浜アリーナのイベント輸送の改善効果は大きいとは言えます。ただ県西部など新幹線小田原利用の方が利便性が高いので、新幹線利用の観点からはあまり変わらないということにはなりますが。

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Sunday, November 20, 2022

底抜け脱線ゲーム

京成高砂駅の脱線事故による長時間運休を取り上げます。

京成高砂駅で回送電車脱線 けが人なし、内規違反か:日本経済新聞
回送電車の入庫で運転士が指令の指示と異なる番線に進入したことで、後進した結果、8両目がポイント部でr脱線したということで、内規違反が原因とされてますが、運転士は異線親友に気付いた時点で停止して指令に通知し判断を仰ぐのが正しい対応です。しかしそんな初歩的なミスがなぜ起きたのかは現時点ではわかりません。

真っ先に連想したのは1973年2月21日の東海道新幹線大阪運転所脱線事故です。こちらは大阪運転所から本線へ出庫する新幹線車両の脱線事故で、本線上を高速走行中の営業列車が迫っていてあわや大惨事の可能性のある重大事故です。概要は新大阪へ向かう回送列車が出庫線から本線へ出る時にATCの停止信号を無視して冒進して本線進入し、運転士の判断で400m離れた後方運転台に移動して戻ろうとしてポイント欠損部で脱線したものです。ノーズ可動式の本線合流ポイントが災いしたものです。

信号冒進の原因ははっきりしませんが、出庫戦の曲線部に設置された軌条塗油器の影響が指摘されました。レールと車輪フランジの接触による走行抵抗軽減と摩耗防止のために列車通過時にスポイトでレールとフランジの間に油を飛ばして車輪の回転で潤滑させるものですが、塗油器の油でレールが湿潤状態になっていたことで、スリップで停止できなかったのではないかと言われておりますが未だに原因ははっきりしません。本線進入の結果本線のATC信号は絶対停止の00信号に切り替わって迫っていた営業列車が緊急停止した結果、衝突は免れましたが、停止位置は437m手前というきわどい位置でした。

加えて高架上の勾配区間という足場の悪さで復旧に時間がかかり長時間運休を余儀なくされたという点でも京成高砂事故と似ています。京成の場合復線作業に手間取っていて、事故対応のまずさも指摘されています。その観点から注目したいのがこのニュースです。

鉄道車両分解して検査、組み立て 京王電鉄若葉台基地 探訪 ググッと首都圏:日本経済新聞
京王電鉄若葉台車両基地では、年に1回脱線車両の復線作業などの非常時対応訓練を行うもので、事故そのものは防げない可能性はある訳で、それに備えて訓練を行うというものです。決めつけはできませんが、京成電鉄の事故対応がどうだったかは検証の必要があります。そしてこんなニュースも。
LRT試運転中に脱線 宇都宮市、けが人なし:日本経済新聞
宇都宮LRTで採用された新潟トランシス製ブレーメンタイプの低床車両ですが、ボンバルディアのライセンス生産で熊本市電や岡山電気鉄道、万葉線、富山地方鉄道軌道線、福井鉄道、えちぜん鉄道で採用され、前後車体の台車が連接部の円盤とリンクで結ばれていて、前後台車と円盤の相対位置で車体が連接する構造で、挙動が不安定化しやすいという特性はあります。

ドイツなど海外のLRTでは高規格で軌道狂いの少ない線路を走行する前提ですので問題は起きにくいのですが、40km/hの速度制限があり軌道構造も簡易なものが多い日本の場合は問題が顕在化するリスクがある訳です。快速運転や将来のスピードアップを視野に入れていると言われる宇都宮LRTにとっては座視できないトラブルです。カーブの緩和曲線不足見直しや気道狂いの許容度の見直しなどで事業採算性に影響する可能性もあります。ただでさえ工事の遅れで事業費が膨張しているだけに見逃せません。

話変わって米中間選挙のニュースです。

米中間選挙、下院は共和が多数派奪還 ねじれ議会に:日本経済新聞
トランプ政権時の18年中間選挙でもねじれは起きている訳で、ある意味米政治の年中行事みたいなもんですが、バイデン人気の低迷でレッドウェーブと称する共和党の地滑り的勝利は幻に終わりました。妊娠中絶問題を争点化した民主党の作戦勝ちですが、同時にトランプ氏の大統領選出馬観測が中間層の危機感をもたらし若者を中心に中間選挙としては異例の投票率となったとも言われます。

分断が言われ民主主義の危機さえ言われるアメリカですが、ギリギリ踏ん張ったってことでしょう。しかし妊娠中絶のような価値観の衝突問題で冷静な判断を示した米中間層ですが、対して同性婚や選択的府不別姓問題二賛成する若者が、それを認めない自民党に投票する日本の方が病んでいるのかもしれません。民主主義の脱線は日本の方が深刻かも。ある意味底が抜けてます。

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Sunday, November 13, 2022

終わらないインフレ

米CPIが予想より低かったということでNY株式市場が反発し、ドル円も円高方向に戻しました。市場の見立てとしてはインフレがピークアウトして12月のFOMCの利上げか0.5%と利上げペースの低下が見込まれるということですが、根拠はありません。寧ろ株高をけん制する意味でタカ派姿勢を堅持する可能性があります。

今回のインフレの特徴は原油をはじめとする資源や農産物の価格上昇に伴うもので、何れも供給側の制約で需要に追い付かない状況によるものです。一次産品インフレという訳ですが、工業製品と違って増産が簡単ではないので、需要が供給能力を超えても増産が間に合わず市場価格が上昇することは避けられません。また供給が足りないからと簡単に使用量を減らすのも難しい訳です。加えて金融引締めで増産のための資金調達も困難になりますし。

しかも脱炭素で石油や石炭関連の投資は抑制されていますし、逆にCO2排出量が少ないとされる天然ガスは産地が石油以上に偏っている上、備蓄が難しいという問題もあります。それでも欧州では枯渇した廃ガス田に封入するなどの方法で今冬需要分の備蓄を進めるためにアメリカや中東からの調達も進めており、ガス価格を跳ね上げる原因になっております。

鉄や銅などの金属資源やリンなどの肥料原料など、あらゆる資源が値上がりしています。脱炭素で電池材料のリチウムやコバルト、半導体原料のシリコンなど新たな戦略物資も不足で取り合いという状況です。しかも輸送距離が伸びてタンカーや輸送船の不足も起きている訳で、インフレ終息には時間がかかります。

一方でリーマン後の量的金融緩和の出口を探るタイミングでのコロナ禍で緩和が継続され、また各国の財政出動で財政赤字が拡大したこともあり、緩和縮小が遅れた結果のカネ余りでインフレのマグマがたまっていたという事情もあります。故に米FRBのように政策転換の遅れを意識して急速な引締めに舵を切る結果となった訳ですが、市場に大量供給されたマネーを収縮させるには時間がかかります。故にインフレの勢いを止めるには至らず減速させるのがせいぜいというところです。

一方で引締めの効果は既に出ておりまして、それを象徴するニュースがこれです。

FTX破産、個人への影響焦点 世界では引き出し停止も:日本経済新聞
暗号資産交換業最大手FTXが破綻したというニュースですが、元々裏付け資産のない暗号資産への資金流入はカネ余りの結果だった訳で、株式や債券の投資利回りが低下する中での過剰なリスクテイクの結果ですが、そもそも市場の厚みも薄いので、ちょっとした資金流入で価格は高騰するし、資金が引き上げられれば簡単に暴落するという市場構造です。そしてテック企業関連ではこんなニュースも。
[FT]マスク氏、フィンテック参入の野望 Twitterで決済:日本経済新聞
マスク氏のTwitter買収に関しては様々な憶測がされており、特に倫理関係のスタッフの大量解雇が話題ですが、決済機能を持たせることで、中国のウィーチャットのような存在になりたいということでしょう。決済データは財布の出し入れのデータですから、それが集積されれば個人の消費性向に合わせた広告などで大きな利益を得られるということでしょう。つまりユーザーの財布の中身をのぞき見される訳で、ユーザーにとってはこちらの方が一大事だと思います。

大量解雇自体は金融引き締めによるテック企業でメタやアルファベットでも行われております。景気後退による広告収入の減少もありますし、投資のための資金調達も今後難しくなりますから、守りに入るのはある意味自然です。それは同時にイノベーションの停滞をもたらすと考えられます。FTXの破綻にも関連しますが、web3の中心的なテクノロジーであるブロックチェーンを軸とするフィンテックも停滞を余儀なくされると見るべきでしょう。マスク氏はこの状況を突破する戦略を持っているかどうかはわかりませんが。

ハイテク企業にとっては逆風ですが、この状況で潤っている企業もあります。典型は石油メジャーです。

石油メジャー4社の純利益6.5兆円 7~9月期:日本経済新聞
欧米ではもうけ過ぎ批判があり、財政再建の意味からも超過利潤への課税が議論されております。それに引き換え日本では。
ガソリン補助膨張、環境省は沈黙 脱炭素へ存在感薄く 岩井淳哉:日本経済新聞
価格上昇で潤っている石油元売りに補助金を支給して逆を行きます。勿論日本の元売りは直接生産には関与しませんから、専ら在庫評価益による収益の上振れですが、それ以上に問題なのは価格統制による市場の歪みです。本来値上がりすれば消費量が減ることで需給が均衡する筈ですが、それを統制することで消費量は減らず需給を逼迫させますから、インフレを助長します。あと商社も資源高の恩恵を受けますから利益が上振れしており、超過利潤課税で財政出動を抑えることが本来は必要です。オイルショック時の総需要抑制策こそ見習うべきです。同時に緩んだ財政の立て直しも急務です。
政府予算の2割過大 対コロナで急増、規模ありきに疑問
年度内執行ができない予算が増えている訳で、それを付け替えることで国債依存の補正予算は要らなくなります。加えて予算の中身の精査が不十分ということでもあります。コロナをダシに財政拡大したツケは増税を含む財政均衡に舵を切るべき局面です。

そのコロナがまた増えてきています。全数把握をやめたので、公式数字以上の感染状況を想定すべきですが、政府は一向に動く気配がありません。このままだとまた医療逼迫を繰り返すことになりそうです。加えてGo To に代わる県民割とやらで旅行需要を押し上げています。その結果JR各社の業績は回復しましたが、人が動けば感染は拡大する訳で、チグハグな事この上ありません。また補助金を敢えてにしてホテル宿泊料が値上がりしており、結局ホテルに補助金を出すのと同じ結果です。それならホテルの休業補償を手厚くしておけばよかったのではないでしょうか。補助金出して無理くり旅行需要を作って感染拡大してりゃ世話無いです。

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Sunday, November 06, 2022

インフレの不都合な真実

世界的なインフレで、アメリカでリベラル派が飛びついた現代貨幣理論(MMT)は一瞬にして否定されました。逆に現在のインフレが過度な財政出動による財政インフレではないかという議論が保守派を中心に言われ始めました。注意が必要なのは今月の中間選挙向けの政権へのネガティブキャンペーンの要素もあるのですが、トランプ政権からバイデン政権にかけて財政を拡大したことは確かな訳で、頭から否定することも難しいと言えます。

その一方で相変わらずMMT信者が多い日本の現状には眩暈がします。曰く「税収は財源ではない」そうですが、国家の課税に対して国家が受け取ることを約することが所謂法定通貨の定義であり、紙切れが価値を持つ最大の理由です。つまり課税が無ければ貨幣流通に伴う信用創造が働かない訳で、こんな初歩の初歩の原理を無視した議論が大手を振ってまかり通るのは異常です。

という訳でそもそもMMTの議論でも「インフレになったら財政を引き締めらば良い」と言われている筈なのにそれは無視して30兆円規模の総合経済対策とやらが閣議決定されました。イギリスでは財源の裏付けを欠く財政種痘同を打ち出したトラス政権が債券市場を混乱させてイングランド銀行(BOE)が英国債を緊急買い付けし、混乱の責任を取って1か月半で退陣し、後任のスナク首相が財政規律重視を抱えて市場も落ち着きました。

「欧米と違って日本は不況だから利上げはできない」という珍説が開陳されてますが、Brexitの失敗で経済ガタガタのイギリスでBOEは0.75%の利上げを決めて政策金利は3%を越えました。中銀にはインフレ退治して通貨の信任を守るというミッションがある訳で、BOEはそれに忠実です。インフレは貨幣価値の低下を意味しますから信認を維持する必要がある訳です。一方でインフレは通貨への課税の意味もあり、財政赤字を抱える政府にはインフレで政府債務を建言するインセンティブが働きます。

円安の不都合な真実で指摘した日本企業の海外売上げが国内送金されていないことを指摘しましたが、この部分は国内で流通しない訳ですからGDPには反映されません。しかし元大蔵官僚の某教授によれば円安で企業収益が改善してGDPが上向き法人税収も増えているというあからさまなウソを公然と述べてます。しかしそれも現実が否定しています。

トヨタが2年ぶり減益、今後の見通しは?:日本経済新聞
ついにトヨタも減益です。インフレによる原材料高の影響を円安メリットでカバーしきれなかった訳で、仕入れから加工工程を経てロールアウトして販売に結びつくまでの時間差で説明がつきます。トヨタだからこの程度で済んでいる可能性もありますが、鉄鋼大手の日鉄が増益の一方JFEは減益とか、企業によって濃淡はありますが、円安が続けば企業業績にマイナスに働くことは避けられないでしょう。あと上記エントリーで指摘した円安による地価上昇も先が見え始めています。
オフィス賃料下期、東京11年ぶり下落幅 在宅勤務が定着:日本経済新聞
記事では八重洲ミッドタウンのオフィステナント募集が停滞していることを取り上げております。コロナで在宅勤務が定着したことから、地価の高い都心のオフィスを縮小したり撤退したりする企業が増えて、思うようにテナントが集まらないということです。

来年3月のグランドオープンまでには埋めると三井不動産は強気ですが、先行開業した地下の八重洲バスターミナルと飲食テナントは好調で好立地を示しますが、オフィス需要の減速は在宅勤務のみならず生産年齢人口の減少で今後も続くと見込まれる一方、都内各地に再開発で多数のオフィスビルが計画されており、オフィスは増えこそすれ減ることはないとすると、早晩需要が頭打ちになると見込まれます。また地価上昇はマンション価格の上昇もあり、また在宅勤務を前提とした郊外の戸建て需要も旺盛ですが、それもそろそろ終わるかもしれません。

住宅ローン膨張220兆円 金利上昇にリスク チャートは語る:日本経済新聞
既に住宅は空き家3割と言われるほど余剰なのに、低金利と住宅ローン減税の影響で強気の販売が続き、加えて英米のような中古市場の不備もあって新築住宅が増えている訳ですが、ここへ来て長期金利の上昇を抑えきれず、変動金利の契約が多いこともあって家計の破綻が現実味を帯びてきています。これも人口減少で住宅が余る現実を無視した政策の失敗です。

ということは、鉄道事業で軒並み赤字のJR各社による不動産事業への傾斜も、先行きはあまり明るくない可能性があります。ま、こういう事情なので日銀が簡単に金融緩和に舵を切れないということはありますが、そうなると住宅ローン債権を抱える銀行も困る訳で、住宅ローン発の金融危機もあり得ます。余剰な住宅を担保差し押さえしても債権回収は困難を極めるでしょう。異次元緩和の重大な副作用です。

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