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Sunday, November 06, 2022

インフレの不都合な真実

世界的なインフレで、アメリカでリベラル派が飛びついた現代貨幣理論(MMT)は一瞬にして否定されました。逆に現在のインフレが過度な財政出動による財政インフレではないかという議論が保守派を中心に言われ始めました。注意が必要なのは今月の中間選挙向けの政権へのネガティブキャンペーンの要素もあるのですが、トランプ政権からバイデン政権にかけて財政を拡大したことは確かな訳で、頭から否定することも難しいと言えます。

その一方で相変わらずMMT信者が多い日本の現状には眩暈がします。曰く「税収は財源ではない」そうですが、国家の課税に対して国家が受け取ることを約することが所謂法定通貨の定義であり、紙切れが価値を持つ最大の理由です。つまり課税が無ければ貨幣流通に伴う信用創造が働かない訳で、こんな初歩の初歩の原理を無視した議論が大手を振ってまかり通るのは異常です。

という訳でそもそもMMTの議論でも「インフレになったら財政を引き締めらば良い」と言われている筈なのにそれは無視して30兆円規模の総合経済対策とやらが閣議決定されました。イギリスでは財源の裏付けを欠く財政種痘同を打ち出したトラス政権が債券市場を混乱させてイングランド銀行(BOE)が英国債を緊急買い付けし、混乱の責任を取って1か月半で退陣し、後任のスナク首相が財政規律重視を抱えて市場も落ち着きました。

「欧米と違って日本は不況だから利上げはできない」という珍説が開陳されてますが、Brexitの失敗で経済ガタガタのイギリスでBOEは0.75%の利上げを決めて政策金利は3%を越えました。中銀にはインフレ退治して通貨の信任を守るというミッションがある訳で、BOEはそれに忠実です。インフレは貨幣価値の低下を意味しますから信認を維持する必要がある訳です。一方でインフレは通貨への課税の意味もあり、財政赤字を抱える政府にはインフレで政府債務を建言するインセンティブが働きます。

円安の不都合な真実で指摘した日本企業の海外売上げが国内送金されていないことを指摘しましたが、この部分は国内で流通しない訳ですからGDPには反映されません。しかし元大蔵官僚の某教授によれば円安で企業収益が改善してGDPが上向き法人税収も増えているというあからさまなウソを公然と述べてます。しかしそれも現実が否定しています。

トヨタが2年ぶり減益、今後の見通しは?:日本経済新聞
ついにトヨタも減益です。インフレによる原材料高の影響を円安メリットでカバーしきれなかった訳で、仕入れから加工工程を経てロールアウトして販売に結びつくまでの時間差で説明がつきます。トヨタだからこの程度で済んでいる可能性もありますが、鉄鋼大手の日鉄が増益の一方JFEは減益とか、企業によって濃淡はありますが、円安が続けば企業業績にマイナスに働くことは避けられないでしょう。あと上記エントリーで指摘した円安による地価上昇も先が見え始めています。
オフィス賃料下期、東京11年ぶり下落幅 在宅勤務が定着:日本経済新聞
記事では八重洲ミッドタウンのオフィステナント募集が停滞していることを取り上げております。コロナで在宅勤務が定着したことから、地価の高い都心のオフィスを縮小したり撤退したりする企業が増えて、思うようにテナントが集まらないということです。

来年3月のグランドオープンまでには埋めると三井不動産は強気ですが、先行開業した地下の八重洲バスターミナルと飲食テナントは好調で好立地を示しますが、オフィス需要の減速は在宅勤務のみならず生産年齢人口の減少で今後も続くと見込まれる一方、都内各地に再開発で多数のオフィスビルが計画されており、オフィスは増えこそすれ減ることはないとすると、早晩需要が頭打ちになると見込まれます。また地価上昇はマンション価格の上昇もあり、また在宅勤務を前提とした郊外の戸建て需要も旺盛ですが、それもそろそろ終わるかもしれません。

住宅ローン膨張220兆円 金利上昇にリスク チャートは語る:日本経済新聞
既に住宅は空き家3割と言われるほど余剰なのに、低金利と住宅ローン減税の影響で強気の販売が続き、加えて英米のような中古市場の不備もあって新築住宅が増えている訳ですが、ここへ来て長期金利の上昇を抑えきれず、変動金利の契約が多いこともあって家計の破綻が現実味を帯びてきています。これも人口減少で住宅が余る現実を無視した政策の失敗です。

ということは、鉄道事業で軒並み赤字のJR各社による不動産事業への傾斜も、先行きはあまり明るくない可能性があります。ま、こういう事情なので日銀が簡単に金融緩和に舵を切れないということはありますが、そうなると住宅ローン債権を抱える銀行も困る訳で、住宅ローン発の金融危機もあり得ます。余剰な住宅を担保差し押さえしても債権回収は困難を極めるでしょう。異次元緩和の重大な副作用です。

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