終わらないインフレ
米CPIが予想より低かったということでNY株式市場が反発し、ドル円も円高方向に戻しました。市場の見立てとしてはインフレがピークアウトして12月のFOMCの利上げか0.5%と利上げペースの低下が見込まれるということですが、根拠はありません。寧ろ株高をけん制する意味でタカ派姿勢を堅持する可能性があります。
今回のインフレの特徴は原油をはじめとする資源や農産物の価格上昇に伴うもので、何れも供給側の制約で需要に追い付かない状況によるものです。一次産品インフレという訳ですが、工業製品と違って増産が簡単ではないので、需要が供給能力を超えても増産が間に合わず市場価格が上昇することは避けられません。また供給が足りないからと簡単に使用量を減らすのも難しい訳です。加えて金融引締めで増産のための資金調達も困難になりますし。
しかも脱炭素で石油や石炭関連の投資は抑制されていますし、逆にCO2排出量が少ないとされる天然ガスは産地が石油以上に偏っている上、備蓄が難しいという問題もあります。それでも欧州では枯渇した廃ガス田に封入するなどの方法で今冬需要分の備蓄を進めるためにアメリカや中東からの調達も進めており、ガス価格を跳ね上げる原因になっております。
鉄や銅などの金属資源やリンなどの肥料原料など、あらゆる資源が値上がりしています。脱炭素で電池材料のリチウムやコバルト、半導体原料のシリコンなど新たな戦略物資も不足で取り合いという状況です。しかも輸送距離が伸びてタンカーや輸送船の不足も起きている訳で、インフレ終息には時間がかかります。
一方でリーマン後の量的金融緩和の出口を探るタイミングでのコロナ禍で緩和が継続され、また各国の財政出動で財政赤字が拡大したこともあり、緩和縮小が遅れた結果のカネ余りでインフレのマグマがたまっていたという事情もあります。故に米FRBのように政策転換の遅れを意識して急速な引締めに舵を切る結果となった訳ですが、市場に大量供給されたマネーを収縮させるには時間がかかります。故にインフレの勢いを止めるには至らず減速させるのがせいぜいというところです。
一方で引締めの効果は既に出ておりまして、それを象徴するニュースがこれです。
FTX破産、個人への影響焦点 世界では引き出し停止も:日本経済新聞暗号資産交換業最大手FTXが破綻したというニュースですが、元々裏付け資産のない暗号資産への資金流入はカネ余りの結果だった訳で、株式や債券の投資利回りが低下する中での過剰なリスクテイクの結果ですが、そもそも市場の厚みも薄いので、ちょっとした資金流入で価格は高騰するし、資金が引き上げられれば簡単に暴落するという市場構造です。そしてテック企業関連ではこんなニュースも。
[FT]マスク氏、フィンテック参入の野望 Twitterで決済:日本経済新聞マスク氏のTwitter買収に関しては様々な憶測がされており、特に倫理関係のスタッフの大量解雇が話題ですが、決済機能を持たせることで、中国のウィーチャットのような存在になりたいということでしょう。決済データは財布の出し入れのデータですから、それが集積されれば個人の消費性向に合わせた広告などで大きな利益を得られるということでしょう。つまりユーザーの財布の中身をのぞき見される訳で、ユーザーにとってはこちらの方が一大事だと思います。
大量解雇自体は金融引き締めによるテック企業でメタやアルファベットでも行われております。景気後退による広告収入の減少もありますし、投資のための資金調達も今後難しくなりますから、守りに入るのはある意味自然です。それは同時にイノベーションの停滞をもたらすと考えられます。FTXの破綻にも関連しますが、web3の中心的なテクノロジーであるブロックチェーンを軸とするフィンテックも停滞を余儀なくされると見るべきでしょう。マスク氏はこの状況を突破する戦略を持っているかどうかはわかりませんが。
ハイテク企業にとっては逆風ですが、この状況で潤っている企業もあります。典型は石油メジャーです。
石油メジャー4社の純利益6.5兆円 7~9月期:日本経済新聞欧米ではもうけ過ぎ批判があり、財政再建の意味からも超過利潤への課税が議論されております。それに引き換え日本では。
ガソリン補助膨張、環境省は沈黙 脱炭素へ存在感薄く 岩井淳哉:日本経済新聞価格上昇で潤っている石油元売りに補助金を支給して逆を行きます。勿論日本の元売りは直接生産には関与しませんから、専ら在庫評価益による収益の上振れですが、それ以上に問題なのは価格統制による市場の歪みです。本来値上がりすれば消費量が減ることで需給が均衡する筈ですが、それを統制することで消費量は減らず需給を逼迫させますから、インフレを助長します。あと商社も資源高の恩恵を受けますから利益が上振れしており、超過利潤課税で財政出動を抑えることが本来は必要です。オイルショック時の総需要抑制策こそ見習うべきです。同時に緩んだ財政の立て直しも急務です。
政府予算の2割過大 対コロナで急増、規模ありきに疑問年度内執行ができない予算が増えている訳で、それを付け替えることで国債依存の補正予算は要らなくなります。加えて予算の中身の精査が不十分ということでもあります。コロナをダシに財政拡大したツケは増税を含む財政均衡に舵を切るべき局面です。
そのコロナがまた増えてきています。全数把握をやめたので、公式数字以上の感染状況を想定すべきですが、政府は一向に動く気配がありません。このままだとまた医療逼迫を繰り返すことになりそうです。加えてGo To に代わる県民割とやらで旅行需要を押し上げています。その結果JR各社の業績は回復しましたが、人が動けば感染は拡大する訳で、チグハグな事この上ありません。また補助金を敢えてにしてホテル宿泊料が値上がりしており、結局ホテルに補助金を出すのと同じ結果です。それならホテルの休業補償を手厚くしておけばよかったのではないでしょうか。補助金出して無理くり旅行需要を作って感染拡大してりゃ世話無いです。
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