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Saturday, December 24, 2022

サンク苦労すのプレゼント

今年もあと1週間ですが、コロナとインフルエンザのツインデミックの兆候が見られます。勝てないのはコロナだけじゃない上に、生りを潜めていたインフルエンザもこの2年の感染者数の少なさが逆に免疫の空白となっている訳ですから無防備な状態です。

ややこしいのはコロナもインフルも表面的な症状は似ており、医療機関の受診のために検査が必要なことです。インフルならば抗ウイルス薬で治療することはできますが、現時点でコロナの特効薬はありません。緊急承認された塩野義のゾコーバを含め使える経口治療薬は3種類に増えましたが、感染初期に症状の進行を遅らせる程度の有効性しかなく、副作用のリスクはそれなりです。

進行を遅らせることで免疫力による自然治癒が狙いですが、当然ながら早期発見早期治療の必要があります。故に行動規制やマスク帰省を撤廃した欧米でも、希望者には公費負担でPCR検査を行う体制を維持しており、行政検査を絞り込んで自費の自主検査に委ねている日本の実情では、そもそもコロナ陽性が確認されないとコロナ専門医療に辿り着けない訳で、実際発熱が確認されて救急搬送のたらい回しや受け入れ拒否が普通に行われております。

当然感染確認が遅れて重症化してしまう訳で、死者数が高止まりしていることに表れております。2類5類の分類問題やマスク解禁などは現実を見ていない議論です。当然年末年始の帰省や旅行は自粛した方が賢明です。特に大都市圏から地方への移動は医療体制の脆弱なエリアでの感染拡大のリスクがあります。今年も巣籠の年末年始を予定しております。

さて、いろいろなニュースがありますが、これを取り上げます。

日銀の金融緩和修正、苦渋のサプライズ 市場は波乱含み:日本経済新聞
実質利上げとかアベノミクス終了とか言われてますが、実態は追い込まれたものです。10年物国債金利の利子率を抑えるイールドカーブコントロール(YCC)の見直しで既にゼロ近辺から0.25%に見直しており、今回それを0.5%まで容認するとしただけです。

そもそもYCCは日銀独自の政策で、中央銀行が制御可能なのは通常1日ものなどの短期金利が中心で、量的緩和は金融きあkンが保有する国債を中銀が買い取ることで通貨量を増やすことで幅広い金利の低下を促すもので、これはFRBやECBでもさあ愛用されましたが、YCCは10年もの国債金利を指標とする長期金利を下げるという意味で量的緩和とは別次元の政策です。

イールドカーブというのは長期の方が金利変動などのリスクがある分、高い利子を約束しないと引き受けられませんから、債券の残存期間をグラフ化すれば短期ほど低く長期ほど高い利子率カーブになる訳ですが、それを期間の長い国債の購入で長期金利も制御しようというそもそも無理筋の政策です。

当然うまくいきませんから欧米では採用が見送られ、日本でも国債の爆買いをしても達成が難しい状況でした。そこへFRBやECBの利上げで内外金利差が出て円安の元凶として批判されましたが、日銀が打ち出したのはYCCの目標金利となる0.25%での国債指値オペで長期金利を維持するというものですが、その結果既発国債の52%と過半数が日銀保有となり、その分流通市場の出玉が減って投機筋が空売りを仕掛けやすい状況になり、実際仕掛けられて維持が難しくなって膝を折ったのが実際です。加えて保有国債に含み損が発生しており、日銀の財務状況の悪化から国債爆買いも持続可能ではありません。アベノミクスの失敗は明らかですが、日銀としては政策の微調整と強弁するしかない訳です。

まあこうなることは予想出来ておりましたが、市場に屈する形での調整なので、市場は反応し、日経平均は下げました。また投機筋の攻撃はこれで打ち止めではありませんので、YCCの維持は困難になるばかりです。お陰で円安は止まり円高に振れてますが、貿易収支の赤字が定着している以上年初のドル円115円といった水準に戻ることはないでしょう。つまりインフレは終わらないってことです。FRBが量的緩和縮小を急ぎ、利上げにも踏み込んだのは、次の経済ショックに備えるノリシロを確保する意味もあった訳ですが、そうしたことに無頓着だった結果、追い込まれて身動きが取れなくなったわけです。言ってみればアベノミクスは多大なサンクコストを残して損切りを余儀なくされたという訳です。

まあ90年代のバブル崩壊から97年の金融危機に至っても銀行の不良債権問題解決に手間取ったことからすれば、日本にはありがちな話ですが、金融以外の分野にもそこここに見られます。例えばこれ。

原発建て替え・運転延長へ転換 政府、GX基本方針:日本経済新聞
やーツッコミどころ満載ですが、同じ日経紙面で2人の専門家がダメ出ししております。
現政権、「政策転換」には値せず 原発政策の行方 橘川武郎・国際大学副学長:日本経済新聞
運転延長、コスト低減限定的 原発政策の行方 大島堅一・龍谷大学教授
橘川氏は新型炉の具体化プランがない状況で、現状関電美浜3号機の建て替えで新型炉が構想されている段階で、計画としては具体化されておらず、コスト面も含めて実現可能性に疑問符がつく中、事故率の高い既存炉の運転延長に事業者を誘導することになりかねないと警鐘を鳴らします。大島氏はその運転延長のための安全対策費の膨張でコスト低減効果は限定的としています。つまりどう転んでも画に描いた餅の脳内フローラのファンタジーでしかないという訳です。

一方で太陽光や風力などの再生可能エネルギーにはあまり言及されておらずバランスを欠きます。現実的には少なくとも太陽光に関しては既にピーク出力時の送電網受け入れを制限されるほどの量を出力している訳で、蓄電や水素生産などでの出力調整や地産地消型の仮想発電所(VPP)の事業化などで安定供給を図るフェーズですが、一方でアジアやオーストラリア産の水素を輸入するとか、輸送によるコスト増や運搬時のCO2排出は見ないふりです。常識的には新型炉の建設は技術面以外にも立地選定や地元了承などの手続きを踏んでから建設すれば10年ぐらいかかる訳で、量産品の太陽光パネルを地面に並べる方が先に市場供給が可能な訳で、実現可能性をまじめに考えている気配はありません。サンクコストの損切りに未練たらたらの原子力村です。

電力網に老朽火力リスク 停止頻発、逼迫解消に懸念も:日本経済新聞
原発再稼働に拘った結果、思ったように再稼働が進まず、老朽火力の長時間稼働で凌いだ結果、補修が間に合わず停止続発となった訳です。電力会社の言い分としては太陽光Yなど再エネの出力が不安定なので火力に頼らざるを得ないと言いますが、老朽火力の主力は石炭火力で、これ鉄道の蒸気機関車(SL)と同じで炉に火を入れてから出力までに時間がかかりますし、停止しても直ちに冷えないからメンテナンスの間合い確保も難しい訳で、ガス火力なら出力の立ち上げも制御も停止も短時間で可能だしメンテナンスも容易な訳で、再エネ受け入れに消極的で火力のリプレースを怠った結果の自業自得です。同様に東日本大震災の時から問題を指摘されながら、今さらの地域間連系線の増強もやっとこれから取り組みますという体たらくです。

それでいて地政学リスクによる輸入化石燃料の高騰で電力会社は赤字に苦しんでいる訳ですから、サンクコストを気にして大損している訳です。サンクコストの損切が出来ずに苦労して得たプレゼントです。ちっとも嬉しくないですが-_-;。経営再建が滞っている東芝もそもそもは原子力事業での失敗で追い込まれた訳ですし、失敗してもそれを認めずに深みにはまるのが今の日本のお家芸なのかもしれません。

その意味で危惧しているのがJR東海が進める中央リニアですが、国鉄時代から開発が続けられ、分割民営化後もJR総研で開発継続され、技術者込みでJR東海に移管されて計画が立ち上がったものの、現状は足踏みしています。静岡県の反対で足止めされているという面ばかりが注目されてますが、そもそも技術的課題や建設コストの上昇や現場でのコロナクラスター感染もあり、外環道調布工区での大深度地下工事のトラブルもあって進まない現実があります。この辺はもう少し掘り下げて別エントリーで取り上げたいと思います。

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