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January 2023

Saturday, January 28, 2023

災害は忘れた頃に

バスの細道で取り上げた人口減少時代の資本装備問題のケーススタディにしたい事例です。

最強寒波 ポイント凍結で列車立ち往生、JR西見通し甘く:日本経済新聞
台風直撃予報で計画運休を業界に先駆けて実施したJR西日本にとっては痛恨の判断ミスですが、積雪10㎝を判断基準としていて気象会社の予報が積雪8㎝だったからということのようですが、当然予報は予報で上下にブレるのは普通のことです。せめて予防的にポイント融雪器に火を入れて間引き運転していたら、ここまでは混乱しなかっただけに判断の甘さは問われます。

但し融雪器といっても要は下に仕込んだカンテラに灯油を注して点火するという作業が必要になり、それを始発前の時間帯に行う必要がありますが、保線作業員の募集は年々困難になっており、雪だからと動員かけても集まらなという事情もあります。故に早めの決断が必要だったにも拘らずできなかったということですね。

特に構内配線が複雑な京都駅や湖西線分岐駅の山科駅、車両基地のある向日町駅などでの作業量は膨大ですし、当然コストもかかります。同じJR西日本でも豪雪地帯の北陸や山陰では電気融雪器でスイッチonだけで済みますが、降雪自体の少ない近畿圏ではコスト面からカンテラ融雪器で対応している訳ですが、少なくとも京都駅など運行上の急所となるところの電気融雪器設置は考える余地はあります。

加えて間引き運転もしていなかったので、15本もの駅間立ち往生が発生し、しかも1時間後には乗客を線路に降りして徒歩誘導するという内規がありながら積雪した線路の乗客誘導の困難さを嫌ったのか、運転再開に拘って乗客を長時間閉じ込めたことも重大な判断ミスです。結果的に少なくとも16名が気分が悪くなって救急搬送されることになりました。初動のミスは尾を引きます。

雪といえば東海道新幹線の関ヶ原も難所として有名で、開業後の運転障害の多くが関ヶ原の雪が原因ということで、当時の国鉄は現地の地下水の水利権を買ってそれを水源としたスプリンクラーを設置して融雪するという方法で対応しており、今回も1時間半ほどの遅れで運転は継続されています。2時間以内の遅れなので特急券払い戻しはなく、JR東海としては想定内の出来事だった訳ですが、国鉄時代の遺産に助けられているだけながら、備えの大切さは教えてくれます。

東海道新幹線では2000年豪雨で大失態をやらかしてまして、台風直撃で天白川などの都市河川の氾濫で線路の冠水などで運行が困難になる中、当時の葛西敬之社長の判断で列車運行継続の指令が出された結果、多数の列車が立ち往生して列車内で夜明かしという事態になりました。鉄道会社としては列車を停める判断はしにくいでしょうけど、ある意味民営化のマイナス面という見方もできます。

東海道新幹線の関ヶ原ルートの裏話として岐阜羽島駅と大物政治家大野伴穆の関係などが言われますが、実際は関ヶ原ルートは国鉄が決めたもので、比較ルートは旧東海道に沿った名古屋―京都直結ルートでしたが、鈴鹿山地越えの土被り1,000mの長大トンネル工事を回避するためと、北陸連絡で米原を通すことなどの判断で、現行ルートが選ばれ、関ヶ原の雪対策として手前に駅を設置して運転抑止時の列車収容を狙ったのが岐阜羽島駅ということで、下り副本線が2線になっているのはそのためです。同様に米原駅では上り副本線が2線になっていて、ある程度雪対策は考えられていたものの、開業してみれば運転障害の原因として問題視されてスプリンクラーが後付けされた訳です。JR西日本が今回の失敗をどう総括するかは目を離せません。

工期を意識したのは1964年の東京オリンピックに間に合わせて開業させるという世界銀行の融資条件から工期が5年しかなかったことが決定的だった結果の判断ということで、当時の国鉄は事業の実現可能性を高める現実的な判断をしたことになります。その意味で難工事が予想されていたJR東海の中央リニア南アルプスルートの選択は敢えてリスクを取ったとは言えますが、資金繰りの都合で2017年名古屋開業を目指すなら難易度の低い伊那谷ルートを選ばなかった判断の妥当性には疑問符がつきます。加えて東海地震等に備えて二重化による強靭化対策という面でも疑問符がつくニュースがこちらです。

寒波覆う、新名神の立ち往生解消 北日本で局地的大雪か
積雪予想で中日本高速道路は迷信の通行止めを決めたものの、その結果新名神にクルマが殺到してこちらも積雪で動けなくなった訳で、二重化による強靭化が如何に無意味かってことですね。つまりJR東海にとっての中央リニアは他社の参入を防ぐ以上の意味があるのかという疑問がが湧きます。

リニア60年のウヨ曲折で取り上げた金丸信の鶴の一声の乗った山梨リニア引受の結果、後戻りできなくなっただけとも言えます。加えて難工事の南アルプスルートを選んでしまった失敗は重大です。岐阜羽島のような駅も設置できないから静岡県を黙らせるネタもないし、一部で言われる静岡空港新駅は掛川駅と近すぎて事実上不可能ですしね。寧ろ国鉄の都合で決めた岐阜羽島駅設置を大野伴穆代議士の手柄として花をもたせた国鉄の方が柔軟な対応をしたとも言えます

同様の問題は北陸新幹線延伸問題でも起きていますが、実現可能性の低い小浜京都ルートで恩恵のない滋賀県の湖西線が並行在来線として切り離し対象となっているというのは、どう見ても滋賀県の同意は得られませんし、やはり長大トンネルや京都市街の大深度地下工事など難工事だらけで費用便益比(B/C比)にも疑問が残るしで、JR西日本も自社の権益を最大化したいだけという意図が見えます。国鉄分割民営化の弊害が色々見えてくる現状です。

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Saturday, January 21, 2023

バスの細道

鉄道以上にコロナ禍による乗客減に加えてドライバー不足も深刻なバス事業ですが、ホリデーイールドマネジメントで取り上げた関越道ツアーバス事故から10年の節目の年です。当時は旅行会社がツアー募集の形で毎日運行する乗合類似行為として、公共交通である高速乗合バスに寄せる形で競争政策として新規参入を認めつつ、安全対策は乗合バス並みの厳格さを求め、抜き打ち監査などを実施して事業者のレベルアップが図られた筈ですが、実態は事業者毎に問題を抱えているケースがあることはドルは我々の通貨だがで取り上げた2件のバス事故で問題が顕在化しています。あおい交通は乗合新免事業者として空港連絡バスを運行中の事故で、以前から運転が粗いと言われていましたし、実際事故後の監査で不備が見つかっています。

クラブツーリズムは乗合バスではなくツアーバスですが、7年前の碓氷峠スキーバス事故と類似の不慣れなドライバーによる事故という意味で、教訓が生かされておりません。ツアーのスケジュールがタイトすぎる点が指摘されており、旅行会社の添乗員が若いドライバーに急ぐようプレッシャーをかけていたということです。しかも有料の富士スバルラインを避けたコース設定でもあり、その面でも疑問を禁じ得ません。最近のバスのシフトレバーの標準でもあるフィンガーコントロールは高速ではロックされてシフトチェンジできず、この事故では下り坂でニュートラルのまま暴走してフットブレーキ多用でフェード現象を起こしたということですから、ツアー会社の責任は重大です。

そんな中で首都圏のバスのドライバー不足で減便が相次いでますし、コロナ禍の乗客減で高速バス事業から大手事業者が撤退する流れから、相対的に安全性に疑念のある新免事業者の比重が増しているのは困った問題です。いずれ鉄道同様に運賃値上げもあり得る状況でしょう。実際空港連絡バスの運賃は値上げ改定が相次いでいます。

そんな中で逆に値下げされた事例があります。京急バスの船50大船駅桔梗山線で、ポニー号の愛称で呼ばれ、デマンド運行区間を有する特徴的な路線でしたが、デマンド区間を通常運行に切り替え、関連設備を撤去して割増運賃を無くしたもので、初乗り200円が180円に値下げされております。デマンド関連設備自体は国の補助金を得て設置されたものですが、経年による設備更新を省いたものと考えられます。しかしそれ以上に割増運賃時代と様変わりした乗客の少なさが見て取れます。コロナ禍による利用減が値下げをもたらした可能性はあります。

乗合バス事業者はそれでも例えば環境定期券のような柔軟なサービスで需要の掘り起こしを続けており、また国際興業を皮切りに導入された金額式IC定期券のようなサービスもあります。これは購入すると手持ちのSuicaやPASMOなどに情報を書き込んで金額区間内で繰り返し乗車でき、金額オーバーの場合は差額を引き落とすというもので、都区内などはプラス100円の一律となるというサービスですが、定期券制度を活用したサブスクリプションサービスという見方も可能であり、鉄道の定期券制度より柔軟な運用となっております。この辺は鉄道も見習ってほしいところです。

一方で空港連絡バスなど取れるところでは取る姿勢もあり、メリハリが効いています。この辺はJR西日本のAシート拡充やJR東日本の在来線特急強化と同じ流れですが、JR東日本の場合、湘南ライナーを廃止して特急湘南に置き換えるという実質値上げが乗客の支持を得たという判断のようです。

JR東日本の場合、座席予約システムと連動したLED表示を利用して車内改札を省略するなどしており、相応の資本装備をして実現している点は怪運国債依存症で示した資本装備増強に当たります。京急ぴにー号の値下げで設備撤去でコストダウンを狙ったのとは逆ですが、鉄道にしろバスにしろまだまだ打つ手はある訳です。

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Saturday, January 14, 2023

怪運国債依存症

色々ヤバいニュースが多いですが、年末に勝てないのはコロナだけじゃないで取り上げたコロナ感染は案の定拡大しています。特に死者数の多さには怒りを覚えます。

コロナ死者最多520人 国内20万3361人感染:日本経済新聞
第8波と言われる今の感染拡大ですが、遺伝子検査では第7波と同様 BA.5 が主流で、第7波の残りの性格が強いのですが、昨年コロナは万病の素らしいで指摘した問題は何も解決されない中で、大きく変わったのは、第7波が主に家庭内クラスター感染だったことで、家族単位での隔離で感染が止められた一方、今回は医療従事者や老人看護施設などでのクラスター感染が多いのが特徴です。

家庭内クラスターならば当該世帯の自粛で感染拡大は止められますし、リスクの多い子供のワクチン接種も親が接種を済ませることで子どもは接種無しでも感染リスクを減らせるということもあり、加えて公的な感染者数の全数把握も、出来ていたかはともかく、国民の行動自粛を促す指標になっていた面はあります。

それを止めてしまった今回は行動自粛の指標を失い警戒が緩んだ面はあります。その結果コロナ感染者の発見が遅れて手遅れになってから救急搬送されて医療関係者にクラスター感染をもたらし、医療と関連の強い介護施設でも同様の状況が起きている訳です。つまり収束しきれなかった第7波の残り火なんですが、そのタイミングで主にアメリカで発生した XBB,1,5 のが国内で確認されており、感染力は在来種の20倍とも言われ既

絶望の少子化対策で人口減少が国力を低下させる現実を指摘しましたが、繰り返しますが、生産年齢人口の減少で労働力も購買力も減って成長どころか収縮へ向かう局面での少子化対策は寧ろ現役世代の負担になるということを述べました。誤解のないように少子化対策としてではなく子育て支援は国民の権利の実現という意味で必要なことで、少子化対策と切り離して議論すべきですが、同時に生産性向上も省力化投資が中心ということも述べました。規模の経済を狙う大規模投資よりも、既存のリソースを活かした新たな付加価値の創出が大事ってことです。リニアよりぬれ煎餅です。

加えて言えばこうしたタイミングでの軍備増強は最悪です。実際失敗した国があります。ロシアって言うんですが。ソビエト解体後の核装備を継承して軍事大国のイメージが強いロシアですが、ことロシア人に限って言えば少子化による人口減少が急で、チェチェンなどの元々の少数民族とソビエト時代の強制移住でロシア領内に住む他民族を含む多民族国家故にロシア人以外で人口が増えてバランスしている状況で、ウクライナ侵攻でもチェチェンのカディロフ首長が率いる部隊や民間軍事会社ワグネルの関与抜きにはできなかったですし、ロシア正規軍の劣勢に見るように、元々人口が減っていて兵力が低下していることが明らかになりました。それでいて軍事作戦もデタラメです。

[FT]ロシア軍幹部への批判強まる 砲撃で死者多数:日本経済新聞
弾薬庫は敵の攻撃能力を削ぐ意味で攻撃の評手ににされやすい訳で、隣に兵舎というのは常識外なんですが、それが出来ていない程ロシア軍が劣化しているのか、単に人命を軽く見ているのか、ロシアの場合あり得ますが、兵を失うのも損失です。こういう状況で戦争なんかやっちゃいけませんね。

で、日本ですが、防衛費増額の財源問題で与党内がゴタゴタしてますが、そんな中で国債の60年償還ルールの見直しという議論が出ているようです。

国債60年償還見直しに慎重 鈴木財務相「信用に影響」:日本経済新聞
元々法律で認められているのは建設国債においてで、単年度主義の公会計では建設工事が複数年度にまたがる公共インフラの場合一括計上は困難になるため、建設国債を財源に充てることが認められており、その償還ルールが60年償還ルールですが、90年代半ば以降の金融危機その他の財政需要を賄うために特例国債と言われる赤字国債にも援用されるようになったもので、毎年度既存の赤字国債を借り換える措置を予算化して予算関連法で合法化するという手続きを踏んでいます。

その結果歴代政権で踏襲された国債借換え費として膨張し、23年度予算では16.7兆円にも及びます。建設国債の対象となる公共事業費は6兆円程度ですから完全に逆転しています。喩えて言えばいろいろ物入りだからローン組んで凌いでいる状況ですが、その結果膨張した借換え費を防衛予算に回せないかという語論が飛び出した訳です。新車買いたいから住宅ローンの支払い止めて自動車ローンに回せという議論で空いた口がふさがりません。住宅ローンなら一括返済を求められます。

てことで国債依存にどっぷり漬かった日本ですが、そんな日本の国債市場に異変が起きております。

長期金利上限超え、一時0.545% 13日の国債購入5兆円に:日本経済新聞
異次元緩和で国債飼いまくって残高の55%を日銀が保有していて流動性が低下した結果、値動きが粗くなっております。つまり投機筋の空売りも仕掛けやすい訳です。YYCの持続性に疑問が持たれている状況で、いずれYYCの見直しは避けられませんが、そうなると異次元緩和で抑えられてきた国債金利の上昇は国債利払い費の膨張という形で財政を圧迫します。23年度予算では8.5兆円の利払い費が計上されておりますが、金利動向如何では倍増またはそれ以上もあり得ます。つまり今後財政がより窮屈になる訳です。

財政拡大を唱える人たちに言わせると国債は固定金利だから影響はないとか、9割が国内で消化されているから問題ないとか言われますが、固定金利は既発債限定で、今後発行される新発債の金利上昇は避けられませんし、国内といっても過半を日銀が保有してその他も銀行や保険会社などの機関投資家が保有していて、彼らにとっては国債は担保価値があるから簡単に手放せませんから、結果的に流動性が低下することになります。その結果投機筋に狙い撃ちされて評価額が下がれば担保価値も下がる訳で、そうなると評価損の引き当てが必要になり、ただでさえ低金利で利ザヤが圧迫されている中で利益を削ることになります。この点は日銀も同じですが。

あとありがちなのが所得の恒等式「所得=消費+投資+純輸出+政府支出」の右項の「政府支出」を財政赤字と勘違いしている議論です。この恒等式では財源を問題にしておらず、税収が財源の場合は所得の再配分を意味する訳です。所得は三面合一の原則でGDPと等価ですから、財政支出を増やせばGDPが増えると勘違いしている訳です。また減税も財政による再配分が無くなるだけですから、GDPを増やしも減らしもしません。これ経済学の常識です。

但し国債発行による財政支出の増加はGDPを増やす効果があります。というのは、国債は将来の税収を担保に発行されますから、国債の発行残高分だけ将来の税収を減らす訳で、これつまり給料の前借りのようなものです。その意味で日本は既に年収に2倍以上の前借りをしている状況ということで、将来の税収を取り崩している訳です。将来世代へのツケというのは将来GDPの先食いという意味でもあります。

そして人口減少の帰結としてGDPの縮減は避けられないとすると、将来世代の負担は重くなる訳ですね。今生きている年寄りはどうせそれまで生きてはいないから無責任なことを言うのかもしれませんが、若い人が同調するのは不思議です。という訳で、国債依存もそろそろ限界というのが実際です。忘れてならないのは高橋是清が体張って守った財政規律を226の反乱分子による殺害をいいことに戦時国債乱発した結果、ハイパーインフレが起きたのは戦後復興の過程で経済が上向いてからです。財政出動で経済を支えろという議論も、結局国民にツケ回しすることにしかならないのは歴史の教えるところです。今の日本もいよいよか。怪しいウンコクサイ時代が始まります。

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Saturday, January 07, 2023

絶望の少子化対策

前エントリーの戻らない混雑 にも関連する問題ですが、政府や都が少子化対策を打ち出した新年ですが、釘を刺しておきたいと思います。岸田首相が新年記者会見で「異次元の少子化対策」に旧統一教会が名付け親の子ども家庭庁が中心にとか、家父長的パターナリズムが前提で欧米標準の婚外子の法的保護な眼中にないでしょうし、悪い冗談としか思えません。中身も児童手当の恒久化とか不妊治療の無料化とか、目新しいものはなく、どこが異次元なんだか。

加えて小池東京都知事が18歳以下への月5,000円の支給ですが、年間6万円ってことですね。東京都は合計特殊出生率が47都道府県中最下位であり、コロナ禍前は転入人口の増加による社会像で人口増加が続いていた訳ですが、コロナ禍で転出が増えて危機感を覚えた訳ではないでしょうが、子育て支援を強化して子育て世代に選ばれることを狙ったものということです。

しかし東京の出生率の低さは住居費の高さが一番のネックです。賃貸の賃料が高い上に分譲マンションの値上がりも続いており、子育て世代の年収では高根の花です。共稼ぎのパワーカップルならば何とかなるとしても、子供が出来たら手狭になるから郊外に引っ越すということも起こります。そう考えると年間6万円程度の支援では焼け石に水です。

加えて教育費の負担もあります。少子千万!でも取り上げましたが、教育費の負担、特に大学の学費の値上がりは、貧困世帯の子供の将来を閉ざします。子供を産み育てる環境は障害だらけです。それをどうにかするのではなく小手先で何とかしようということですから効果は期待できません。

そもそも少子化対策がなぜ必要なのか?ですが、人口減少を止めたいからなんですが、人口減少の影響は結局経済成長の制約要因になるから何とかしたいということになる訳です。成長のために子供を増やせって、人間は機械じゃないです。より重要なのは労働力として見込める生産年齢人口の減少が問題なんですが、こんなこと70年代から言われてきたことが実現しているだけの話で、これまで何の手も打たれてこなかった結果でもあります。

15-64歳の生産年齢人口の減少は90年代後半から起きている訳で、凡そ四半世紀で3,000万人減っており、年平均60万人という規模です。その結果労働力の投入量が減って供給制約となる一方、家計所得も国全体では減少する訳ですから、消費が縮小して需要制約も起こる訳で、需給両面の制約要因となって経済を下押しする訳ですから、ありきたりな成長戦略ではどうにもなりません。前エントリーの末尾でリニアを作る作業員の不足と完成後の利用客の不足を指摘しましたが、将にこれです。

そして少子化対策は、高齢人口を支える現役世代に更に扶養人口を増やして負担を増やすことにしかならない訳で、現役世代の困窮化はそれ自体少子化をもたらしますし、支えられる高齢者世代の社会保障圧迫で不満となるばかりか、それを見せられる現役世代の将来不安をもたらす訳です。それもこれも経済成長を前提とした対策故のミスマッチなんです。

労働力の投入量の減少を補うための移民受け入れも、年平均60万人もの穴を埋めるのは現実的に無理な訳で、唯一可能なのは資本装備を増やして労働力不足を補い、労働生産性を高めて現役世代の賃金を上げることで、1人当たりGDPの水準を維持することのみが可能なことです。仮に移民を受け入れるにしても稼げない国に行きたい外国人はいない訳で、海外からの転入人口を増やすことにも繋がります。

つまりリニアのような大規模インフラの整備よりも、省力化に資するデジタル投資など、労働生産性を高めて賃金上昇につながる投資を行うことが重要です。限られた労働力を例えば軍事部門に張り付けたり、国立競技場のように維持費が高く低稼働なハコモノを作ったりすることは何の役にも立ちません。

その意味でDX推進は総論としては良いのですが、国民にマイナンバーカードを持たせることなどは無意味です。これは栗鼠殺し?の論点ですが、そもそも国民の個人データを国が管理する必要はない訳で、本人に鍵を持たせて必要な時だけ本人の意思で使う形にすれば十分なんで、それならシステムの維持費も低廉で済みますし、情報漏洩のリスクも減りますから、セキュリティにコストをかけずに済みます。これ良い見本がが目の前にありますよね。中国っていうんですがコロナに敗けた国で示したように大量の国民データの処理には高いコストがかかります。

当然大量輸送に優位性がある鉄道にとっては存続が難しい時代ですが、新しい動きも徐々に出てきています。

無人駅、5割に迫る グランピングやエビ養殖に活用:日本経済
コスト削減のための無人駅化は進みますが、その結果不要となった駅舎や隣接する土地の活用の事例が少数ながら出てきていることです。コストダウンだけだといずれ支え切れずに廃線ということもあり得ますが、駅を別の用途で活用して人を駅へ呼ぶとか、地域の必要なインフラにするとかですね。

これだけでどうにかなる訳ではありませんが、発想としてはローカル線のプラットフォーム化とでも言いますか、ローカル線の存在を前提とした地域ならではの付加価値創造が可能ならば、そこで得た富でローカル線の赤字補填も現実的な話になります。グーグルやフェイスブックがサービスは無料提供して広告費で稼ぐみたいなものをイメージすればわかりやすいと思います。

加えてえちぜん鉄道や岳南電車で取り組む電力託送事業とか銚子電気鉄道のぬれ煎餅とかもこのジャンルに入ると思いますが、更に駅に充電しテーションを併設してEVレンタルとか地域5Gシステムを構築してリモートワーカーを集めるとか、アイデアはいろいろあると思いますが、重要なのは地域の特性を生かした他にないものを生み出せるかどうかだと思います。その結果地方の人口減少が止まれば、中長期では人口減少の底打ちにもつながります。まあそこへ至るには時間がかかりますが、どのみち子供が増えたところで労働力となるのは20年後とかですから、回り道のようで有効性は高いと言えます。こうした構想が出せるならば「異次元」と言えるかもしれませんが。

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Tuesday, January 03, 2023

戻らない混雑

コロナ禍で初の行動制限のない年末年始ですが、銀座や梅田の人出はコロナ前の2割減と元には戻りません。実際感染者数も死者数も増え、救急搬送の滞りが報じられる中では無理もありません。コロナを克服できていない現実です。そして生産年齢人口の減少で通勤客も減る傾向はありますから、コロナ禍が収束してもこれが新常態ぐらいに考えておくべきでしょう。そんな中で都市通勤鉄道の混雑率に異変が起きています。

日暮里・舎人ライナー、混雑率トップで赤字 東京都に誤算:日本経済新聞
混雑率1位は日暮里舎人ライナー(赤土小学校―西日暮里)144%、2位は西鉄貝塚線(名島―貝塚)140%、3位JR武蔵野線Z((東浦和―南浦和)137%、4位JR埼京線(板橋―池袋)131.8%、5位JR可部線(可部―広島)131.6%と様変わり。常連だった東京メトロ東西線も東急田園都市線も出てきません。コロナ禍がもたらした大異変を実感します。

ゴムタイヤ駆動のAGTで荷重制限のある日暮里舎人ライナーの144%はおそらく改札制限を伴う水準と考えられます。その結果車両増備や座席のロングシート化などの輸送力増強に追われ、当初計画の2023年度単年度黒字化は実現できない状況で、加えて初期車両の更新時期になり費用の負担で当面黒字転換は見込めない状況です。事業者の東京都交通局にとっては大誤算です。

都交通局は地下鉄都営大江戸線の勝どき駅の予想外の混雑が思い出されますが、沿線に集客スポットを複数抱える大江戸線と比べると、沿線にこれといった集客スポットがなく、専ら日暮里や西日暮里でJRや地下鉄に乗り継ぐ片輸送の通勤客ばかりで所謂集中率の高い非効率な路線という点でも不利な条件です。寧ろこの点は旧国鉄香椎操車場跡地開発で潤った西鉄貝塚線にも見劣りります。

その西鉄貝塚線も宮地岳線と呼ばれていた時代の香椎ヤード再開発で、都市計画による連続立体化事業での150億円の自己負担が重いということで、市営地下鉄秋塚線との相互直通を示唆されながら、追加負担を回避して相互直通を諦めたのですが、単線で増発が困難なこともあり、他線が混雑率を下げた中で残ったってことでしょう。混雑路線として名高い埼京線が辛うじて残ったものの、時代の変化を実感します。

そんな中で地方の崩壊で取り上げたように都市鉄道整備計画が目白押しなのが気になります。これから整備される路線は元を取るのが困難になると見込まれます。その中で今年3月開業の東急/相鉄新横浜線の動向は注目されます。新横浜線の場合は集客拠点としての新横浜がありますから、ある程度の営業成績は残せると思いますが、同エントリーで取り上げた豊住線や南北線延伸、湾岸地下鉄などは厳しい現実が待ち受けます。一方で関西の動きです。

JR西日本、奈良線増便や着座サービス拡大 23年春から:日本経済新聞
奈良線複線化による増発と梅田貨物駅跡地開発のうめきた2期で新地下駅開業となり、うめきた新駅は大阪駅と地下通路で繋がり、特急はるかやくろしおが停車する外、おおさか東線が新大阪から延長して折り返すことなど、運行体制が大きく変化します。他にも快速電車の有料着席サービス拡大などもあり、増収を睨んだ攻めも部分もありますが、全体としては微減というメリハリ型のダイヤ改正です。

これはJR西日本に留まらずJR東日本でも在来線特急の拡充などが見られ、明らかに客単価アップを狙ったものですが、乗客減が明らかな中では民間企業としてこの方向性は納得できます。加えてコロナ減便でリソースに余裕があるということでもあります。運輸業の収支好転が見込みにくい中で攻めているとは言えますが、同時に減便もしている訳で、この傾向は今後も続くと考えられます。

気になるのがうめきた新駅はなにわ筋線が乗り入れる予定なんですが、JRと南海の協議が続いており、2018年に環境アセスメント手続きが始まりましたが、事業着手はまだ先ですから、当然2025年の大阪万博には間に合いません。それどころかトンネル躯体が完成済みと言われる大阪メトロ中央線の夢洲延伸も怪しい雲行きです。

というのも予算が限られていてゼネコン各社が及び腰になっていることと、CGで示された構想図に基づいて具体化されたため、細かな詰めが出来ておらず、施工困難な部分も多数あるという状況です。加えて生産年齢人口の減少による作業員確保の問題もあり、万博パビリオンもできるのかどうか危ぶまれております。大阪地盤の大林組と竹中工務店が積極的ではないようで、万博関連で入札不調が相次いでいます。ど素人のお絵かきには付き合いきれないってことですね。

そして気になるのがなにわ筋線は大阪メトロの稼ぎ頭である御堂筋線と競合することです。只でさえ乗客が減少する中で、競合路線の開業は下手すれば赤字転落もあり得る訳で、大阪市の地下鉄民営化と大阪府の泉北高速鉄道売却で得た資金が投入されることを考えると、明るい展望を描けません。生産年齢人口の減少は輸送需要の低下のみならず、インフラ投資を困難にするという両面で経済を下押しします。

この辺リニア60年のウヨ曲折の工事の遅れも同じ背景ですし、それ以上に完成後の輸送需要の見込み違いもある訳です。人口減少下では労働力の減少を資本装備でカバーして生産性を高め賃金を上げる必要がありますが、資本装備強化のための投資は主に省力化が中心となります。新たなインフラを作ってもメンテナンスする人がいなければ経済を寧ろ冷やします。

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