« バスの細道 | Main | 無視されるシャドーワーク »

Saturday, January 28, 2023

災害は忘れた頃に

バスの細道で取り上げた人口減少時代の資本装備問題のケーススタディにしたい事例です。

最強寒波 ポイント凍結で列車立ち往生、JR西見通し甘く:日本経済新聞
台風直撃予報で計画運休を業界に先駆けて実施したJR西日本にとっては痛恨の判断ミスですが、積雪10㎝を判断基準としていて気象会社の予報が積雪8㎝だったからということのようですが、当然予報は予報で上下にブレるのは普通のことです。せめて予防的にポイント融雪器に火を入れて間引き運転していたら、ここまでは混乱しなかっただけに判断の甘さは問われます。

但し融雪器といっても要は下に仕込んだカンテラに灯油を注して点火するという作業が必要になり、それを始発前の時間帯に行う必要がありますが、保線作業員の募集は年々困難になっており、雪だからと動員かけても集まらなという事情もあります。故に早めの決断が必要だったにも拘らずできなかったということですね。

特に構内配線が複雑な京都駅や湖西線分岐駅の山科駅、車両基地のある向日町駅などでの作業量は膨大ですし、当然コストもかかります。同じJR西日本でも豪雪地帯の北陸や山陰では電気融雪器でスイッチonだけで済みますが、降雪自体の少ない近畿圏ではコスト面からカンテラ融雪器で対応している訳ですが、少なくとも京都駅など運行上の急所となるところの電気融雪器設置は考える余地はあります。

加えて間引き運転もしていなかったので、15本もの駅間立ち往生が発生し、しかも1時間後には乗客を線路に降りして徒歩誘導するという内規がありながら積雪した線路の乗客誘導の困難さを嫌ったのか、運転再開に拘って乗客を長時間閉じ込めたことも重大な判断ミスです。結果的に少なくとも16名が気分が悪くなって救急搬送されることになりました。初動のミスは尾を引きます。

雪といえば東海道新幹線の関ヶ原も難所として有名で、開業後の運転障害の多くが関ヶ原の雪が原因ということで、当時の国鉄は現地の地下水の水利権を買ってそれを水源としたスプリンクラーを設置して融雪するという方法で対応しており、今回も1時間半ほどの遅れで運転は継続されています。2時間以内の遅れなので特急券払い戻しはなく、JR東海としては想定内の出来事だった訳ですが、国鉄時代の遺産に助けられているだけながら、備えの大切さは教えてくれます。

東海道新幹線では2000年豪雨で大失態をやらかしてまして、台風直撃で天白川などの都市河川の氾濫で線路の冠水などで運行が困難になる中、当時の葛西敬之社長の判断で列車運行継続の指令が出された結果、多数の列車が立ち往生して列車内で夜明かしという事態になりました。鉄道会社としては列車を停める判断はしにくいでしょうけど、ある意味民営化のマイナス面という見方もできます。

東海道新幹線の関ヶ原ルートの裏話として岐阜羽島駅と大物政治家大野伴穆の関係などが言われますが、実際は関ヶ原ルートは国鉄が決めたもので、比較ルートは旧東海道に沿った名古屋―京都直結ルートでしたが、鈴鹿山地越えの土被り1,000mの長大トンネル工事を回避するためと、北陸連絡で米原を通すことなどの判断で、現行ルートが選ばれ、関ヶ原の雪対策として手前に駅を設置して運転抑止時の列車収容を狙ったのが岐阜羽島駅ということで、下り副本線が2線になっているのはそのためです。同様に米原駅では上り副本線が2線になっていて、ある程度雪対策は考えられていたものの、開業してみれば運転障害の原因として問題視されてスプリンクラーが後付けされた訳です。JR西日本が今回の失敗をどう総括するかは目を離せません。

工期を意識したのは1964年の東京オリンピックに間に合わせて開業させるという世界銀行の融資条件から工期が5年しかなかったことが決定的だった結果の判断ということで、当時の国鉄は事業の実現可能性を高める現実的な判断をしたことになります。その意味で難工事が予想されていたJR東海の中央リニア南アルプスルートの選択は敢えてリスクを取ったとは言えますが、資金繰りの都合で2017年名古屋開業を目指すなら難易度の低い伊那谷ルートを選ばなかった判断の妥当性には疑問符がつきます。加えて東海地震等に備えて二重化による強靭化対策という面でも疑問符がつくニュースがこちらです。

寒波覆う、新名神の立ち往生解消 北日本で局地的大雪か
積雪予想で中日本高速道路は迷信の通行止めを決めたものの、その結果新名神にクルマが殺到してこちらも積雪で動けなくなった訳で、二重化による強靭化が如何に無意味かってことですね。つまりJR東海にとっての中央リニアは他社の参入を防ぐ以上の意味があるのかという疑問がが湧きます。

リニア60年のウヨ曲折で取り上げた金丸信の鶴の一声の乗った山梨リニア引受の結果、後戻りできなくなっただけとも言えます。加えて難工事の南アルプスルートを選んでしまった失敗は重大です。岐阜羽島のような駅も設置できないから静岡県を黙らせるネタもないし、一部で言われる静岡空港新駅は掛川駅と近すぎて事実上不可能ですしね。寧ろ国鉄の都合で決めた岐阜羽島駅設置を大野伴穆代議士の手柄として花をもたせた国鉄の方が柔軟な対応をしたとも言えます

同様の問題は北陸新幹線延伸問題でも起きていますが、実現可能性の低い小浜京都ルートで恩恵のない滋賀県の湖西線が並行在来線として切り離し対象となっているというのは、どう見ても滋賀県の同意は得られませんし、やはり長大トンネルや京都市街の大深度地下工事など難工事だらけで費用便益比(B/C比)にも疑問が残るしで、JR西日本も自社の権益を最大化したいだけという意図が見えます。国鉄分割民営化の弊害が色々見えてくる現状です。

| |

« バスの細道 | Main | 無視されるシャドーワーク »

ニュース」カテゴリの記事

経済・政治・国際」カテゴリの記事

鉄道」カテゴリの記事

JR」カテゴリの記事

都市間高速鉄道」カテゴリの記事

民営化」カテゴリの記事

鉄道事故」カテゴリの記事

都市交通」カテゴリの記事

Comments

今回のJR西日本の一件は、中央集中型の体制に問題がある気がします。
大手の鉄道会社、とくにJRは運行に関わる判断を輸送指令に集中させ過ぎた結果、
対応の遅れにつながったのではないでしょうか。

たとえば、京急は進路制御を手動で行っているのは有名ですが、
重要なのは運輸指令が細かいところまで口を出さないところにあると思います。
運休や行先変更などは運輸指令が決めて、何番線に入れるかといった細かい判断は運転区や信号扱い所などに委ねています。

輸送指令と駅・乗務員との間にワンクッション置いて、現地に小規模な指令所(京急の運転区に相当)を設け、
融雪器の稼動や停車場の番線などを判断したら良いと思います。
そのための人員が足りないのであれば、ワンマン化や駅の無人化等の合理化で捻出するのも一案かなと。

話が飛躍しますが、政治にも通じる話で、
地方分権、道州制導入が日本の停滞脱却の1つの鍵になる気がします。

Posted by: yamanotesen | Sunday, January 29, 2023 07:51 PM

JR東日本では権限移譲が進んでいると言われますが、安全策として全線運休の判断が多いから、あまり評判は良くないですね。京急に関しては気になるのが精神論が強く、自動化などの資本装備強化には必ずしも積極的ではない点が気になります。自律分散という意味では京阪など関西私鉄に一日の長があり、今回の積雪でも早めの融雪器火入れなどで運行を確保したこととの比較でも、JR西日本の対応は問題ですね。

>yamanotesenさん
>
>今回のJR西日本の一件は、中央集中型の体制に問題がある気がします。
>大手の鉄道会社、とくにJRは運行に関わる判断を輸送指令に集中させ過ぎた結果、
>対応の遅れにつながったのではないでしょうか。
>
>たとえば、京急は進路制御を手動で行っているのは有名ですが、
>重要なのは運輸指令が細かいところまで口を出さないところにあると思います。
>運休や行先変更などは運輸指令が決めて、何番線に入れるかといった細かい判断は運転区や信号扱い所などに委ねています。
>
>輸送指令と駅・乗務員との間にワンクッション置いて、現地に小規模な指令所(京急の運転区に相当)を設け、
>融雪器の稼動や停車場の番線などを判断したら良いと思います。
>そのための人員が足りないのであれば、ワンマン化や駅の無人化等の合理化で捻出するのも一案かなと。
>
>話が飛躍しますが、政治にも通じる話で、
>地方分権、道州制導入が日本の停滞脱却の1つの鍵になる気がします。

Posted by: 走ルンです | Sunday, January 29, 2023 08:53 PM

Post a comment



(Not displayed with comment.)




« バスの細道 | Main | 無視されるシャドーワーク »