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March 2023

Sunday, March 26, 2023

金融危機は核より怖い

何かいろんなニュースが流れてますが、違和感てんこ盛りです。例えば放送法文書を巡る国会論戦ですが、問題の本質は政府による報道機関への介入問題で、当時の磯崎陽輔首相補佐官の「政治的公平性」への説明を求めていたとされる問題ですが、放送法の「政治的公平性」は放送局の自主的な取り組みを定義したもので、政府による介入はロシアや中国のような報道規制と変わらない訳で、この点をこそ問題にすべきなのに、高市大臣の進退問題に争点がズレていることが気になります。

事実なら「法の支配」を掲げてロシアや中国を批判できない問題ってことです。そして岸田首相がウクライナ政府の招きを受けてキーウ訪問した際にも「法の支配」を連発してましたが、言葉の意味わかってるかい?強力な国家主権を法で縛るという原則を「法の支配」と呼ぶのであって、ロシアや中国はそれに反したことをしている訳で、放送法文書問題はそれに疑義を生じているということなんだけど。

岸田首相のキーウ訪問に関しても報道で公開されてセキュリティへの言及が言われますが、バイデン大統領のキーウ訪問と同じ行程を辿ったようにウクライナ政府の主導っで行われたもので、外国要人来訪の通知はロシア政府にもされていると考えられます。勿論ロシアが無視して攻撃することはあり得ますが、相互承認で外交関係を築くという主権国家の原理から言えば、他国の首脳を死傷させる可能性のある行動は外交上の孤立を招く愚行となる訳で、ロシアもその辺は理解しています。

それより偶然なんでしょうけど習近平総書記のモスクワ訪問と日程が被ったことで、いろいろ憶測を呼んでますが、中ロ接近のニュースを薄めたという意味で一番メリットを得たのはウクライナ政府でしょう。そして中ロの首脳会談で見えてきたのは戦況が劣勢のロシアにとってはある意味渡りに船ではあります。形式的な中立地帯を設定して休戦して兵や装備を立て直す時間稼ぎがしたいのが本音でしょう。但しウクライナ政府が同意するかどうかは微妙ですが、中国にとってはアメリカが失敗した和平協議を中国主導で行ってマウント取るだけでも意味があります。

中国の本音はウクライナが一帯一路の出口に当たり権益を確保したいと同時に、二正面作戦に動けない米軍の弱点として紛争が続く現状は実は有難い訳ですし、またロシア産原油などの資源を安価に買い叩けるし貿易決済に人民元を用いることでロシアを経済的に従属させることすら可能ということでいいことずくめです。先端半導体の供給制限は確かに痛いけれど、自国開発の時間稼ぎになりますし、更に言えば宇宙戦争は終わらないで取り上げたロシアの濃縮ウランの中国への供給というオプションもあり得ます。

とはいえ中国はアメリカでさえ明言できない核の先制使用や非核国への核攻撃の禁止を明言しており、ロシアに対しても核兵器使用をけん制している訳で、中ロ接近は寧ろロシアの核攻撃の可能性を低くしたと見ることができます。そして悪性インフレで成長が鈍化しつつある先進国と比べて尚成長余地があり経済力を縮めてくる訳です。「戦わずして勝つ」孫氏の兵法を百も承知の中国による台湾への軍事行動は当面ないということですね。

他方欧米で同時多発的な銀行不安が広がっております。米シリコンバレー銀行(SVB)破綻に始まる米地方銀行の破綻ですが、FRBが最後の貸し手機能を発動し、連邦政府も預金保護を打ち出して沈静化を図ってますが、事態は予断を許しません。SVBの破綻は典型的な取り付け騒ぎですが、SNS時代の情報拡散スピードがもたらした問題でもあります。

テック・金融が負の共振 米、SVBなど2行の全預金保護:日本経済新聞
SVBはシリコンバレーのテック企業やベンチャーキャピタル(VC)が預金者に名を連ねますが、有望とされるスタートアップ企業は余剰資金を投資に回すから損益は赤字だったりする訳で、通常の銀行はなかなか取引してくれない訳ですが、SVBはそんなテック企業の預金を集めて決済サービスなどの機能を提供してきた訳です。

テック企業やVBは低金利もあって投資資金は社債や株式で調達するから、融資は主に運転資金中心でしたが、スタートアップの株式公開(IPO)で大金を手にしたテック企業やVCの預金が膨張した結果、運用先に困って債券投資を拡大したのですが、FRBの利上げで保有債券に評価損が生じて含み損を抱えた結果、格付けが下がる懸念から債券を売って減損処理をした上、増資を発表したところ、逆に危ないんじゃないかといううわさがSNSで拡がって預金者の企業やVBが預金引き出しに動いたという流れです。続いて破綻したシグネチャー銀行は暗号資産関連の取引が多かったことから価格の乱高下で不安が広がったものです。共にテックと金融の負の連鎖がもたらしたと言えます。

少し長い目で俯瞰すると、リーマンショック以来の金融緩和の継続でマネー流通量が増加し、余剰マネーは資産価格を押し上げた訳で、その結果がスタートアップ企業のIPOでの資金調達を容易にしたということは言えます。低金利で運用先に困ったマネーがVCを通じてスタートアップ企業に流れ込みIPOでさらに膨張という循環が所謂ユニコーンブームをもたらしたとも言えます。FRBの金融引締めや利上げがそれを逆回転させたということですね。但し金融引締めが間違いという意味ではありません。

日本のバブル崩壊も元はといえばプラザ合意から始まる円高対応で日銀が低金利政策を続けた結果、余剰マネーが株や不動産に集まって膨らんだバブルが、国の不動産融資規制と日銀のバブル退治の利上げで弾けたものですが、そもそも長期間の金融緩和でもたらされた余剰マネーは簡単には解消せず、利上げ局面で予想外の動きをする訳です。つまり繰り返されてきたバブル崩壊の始まりと捉えることができます。一方クレディ・スイスの破綻は全く異なる展開です。

サウジファンド、クレディ・スイスで損失 運営に危うさ:日本経済新聞
サウジアラビアのサルマン皇太子による脱産油国政策で、石油精製や石油化学工業の国内立地促進による近代化と共に、金融への傾斜でクレディ・スイスに接近しました。米銀に頼っていては自前の金融業育成はままならず、サウジ・ナショナル銀行(SNB)がクレディ・スイスの株主となって影響力を行使し、国営ファンドの資金運用に注文を付けていたのですが、高利回りを追い求めるハイリスク投資を強要された一方、ECBの利上げでやはり含み損を抱えたものの、SNBは救済を否定し破綻に至ったものです。

但しこちらの破綻処理は問題を孕んでまして、AT1債の無価値化を発表して混乱しています。AT1債とは銀行の中核的的自己資本'(Tier1)としてバーセル銀行委員会によって認められた永久劣後債で、利回りが良い一方、一定条件で減損されたり株式転換されたりするハイリスク債券ですが、弁済順位下位のTier1債権の中で株式が保護されてAT1債が無価値化されるのは、SVBの保有株式の毀損や希薄化を回避したものと見られていて債券保有者の一部が法的手段に訴えるとしています。産油国の無茶な資金運用がもたらした災難ですが、破綻処理にも不透明さを見せております。

そしてAT1債は他の欧州銀行でも多数発行しており、やはりその連想で銀行不安が広がっているという状況にあります。という訳で米と欧州とそれぞれ異なった展開で銀行不安が広がっている訳ですが、邦銀はといえば、やはり爆弾を課開けています。特に地方銀行の行き詰まりは深刻で、金融庁主導で経営統合が進んでますが、地方の過疎化と経済停滞でそもそも融資先が見当たらず、日本国債は日銀の爆買いで市場から締め出され、已む無く外債投資に傾斜してますが、円安で緩和されているとはいえやはり欧米の利上げで含み損を抱えております。ただ日本の場合日銀にリスクが集中しており、超弩級の時限爆弾となっております。

日銀が異次元緩和を続ける過程で財務をか悪化させているのは周知のとおりです。その結果インフレになっても利上げが出来ない現実がある訳で、日本は輸入インフレに直面しております。欧米の銀行不安を受けて為替は円高方向へ動きましたが、22年初頭の115円水準に及ばない129円ですから円安の地合いは変わっておりません。貿易赤字は常態化しており、実需の円安は変わらない訳です。加えて春闘の賃上げ大盤振舞いですが、背景に人手不足がありますが、その結果次なるインフレをもたらすという意味で欧米と同じ状況になりつつあります。

加えて働き方改革2024年問題で運輸業や建設業などの猶予期間終了が目前に迫っております。働き手確保には賃上げしかない状況になってきており、それを先取りするように大都市圏でもバスの減便が相次いでいます。それに留まらず一部バス会社で運賃値上げされており、これまで安定していた交通運賃も値上げラッシュです。

首都圏鉄道7社、運賃一斉値上げ 初乗り10円程度 バリアフリー投資増や需要減に対応:日本経済新聞
JR東日本ではバリアフリー対応上乗せ委運賃10円を電車特定区間に敵将したほか、需要の減少した通勤定期券を値上げする一方で安価なオフピーク定期券を発売して需要誘導を図り輸送力増強投資の抑制を図っております。バリアアフリー課金は東急を除く大手各社も対応する一方、東急は通常運賃の値上げとなります。今回見送った京王、京急も秋に羽和えを予定しております。あと4月には関西各社も値上げを予定しており、やはり今回見送りの南海も秋には値上げ予定です。

その結果値上げに地方議会の同意が必要な公営地下鉄が取り残されるという珍事になり、東京メトロと都営地下鉄の初乗り運賃が久しぶりに揃います。輸入インフレが国内要因にシフトする構図は欧米と共通です。加えて言えば日本が先取りした実質賃金の低下は欧米でも賃上げがインフレ率に追いつかないという形で実現しています。賃上げラッシュの日本でも殆どインフレ率には追い付いておりませんが。

ってことで金融危機の可能性の低さでは中国が頭1つ抜けております。不動産バブルはどうなんだというツッコミはあるでしょうけど、財政も金融も健全度は高いですし、何より経済成長の余地があるので何とかなると見通せます。ということで、核戦争より怖い金融危機が進行中ということですね。潜在成長率が1%割れの日本とは事情が違います。同時にGDP比2%の防衛費増強が如何に無意味かがわかります。あと有事の備えとして平時の財政健全化は欠かせません。高橋是清の財政拡大も平時に戻って縮小しようとして226で暗殺されタガが外れた結果、戦時経済の窮乏化と戦後のハイパーインフレをもたらしたことは重ねて申し上げておきます。

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Saturday, March 18, 2023

田代の水は山をも越すが水に流せぬ大井川

箱根馬子唄ならぬリニア迷子唄^_^;。リニア60年のウヨ曲折の続編です。

リニア工事中の水量減解消、JR東海が静岡自治体に説明へ:日本経済新聞
上記エントリーでも取り上げた大井川の水問題での東電田代ダムの取水量調整でJR東海が東電と協議することを前提とした説明をするということですが、すんなり進むとは思えません。田代ダムは大井川最上流の田代にダムを作って導水管で山梨県の冨士川系の早川へ落として水力発電を行うという目論見で建設され1928年に完成した大井川水系では初の本格的ダムです。つまり元々田代ダムの水は古くから山梨県に送水されていた訳ですが、これが後年大井川で水利権争いの種になります。

早川電力は後に東京電灯に吸収され、更に電力国家管理で日本発送電に摂取され、戦後GHQ の日本発送電の解散命令で後に東京電力となる関東配電に引き継がれ今に至ります。こうした歴史過程もあって大井川水系では田代ダムのみが東電で他は中部電力という形になり、水力の一河川一社の原則から外れております。大井川水系は多数のダムが作られました。余談ですが大井川鉄道は元々電源開発のための鉄道として電力資本で作られたから、ローカル私鉄としては重厚な設備で整備されており、SL列車の運行が可能なのもそのお陰です。

そんな事情からダムの取水で大井川の渇水が問題視され、特に1955年に田代ダムの取水量が当初の毎秒2.92トンから4.99トンに増やすよう東電が静岡県に申請し、静岡県は流域自治体の同意を得ずに認可したために流域住民が反発し、東電や中部電力に河川維持放流を求める運動に発展し、住民の座り込みなど実力行使にまで発展する騒ぎになりました。特に山梨県で発電事業を営む東電の態度は頑なだったようです。1997年の河川法改正で河川環境の維持が義務化されたのを受けて2006年委解決しましたが、水利権問題の解決は半世紀を越えました。

といった係争の歴史を踏まえると、JR東海は将に地雷を踏んだ訳ですが、同時に東電も過去の係争の経緯から流域関係者の了承を前提に協議するとしており、静岡県は東電の協力の確約を求めているということで、JR東海が話をまとめるハードルは高いと言えます。そもそも東電が今償却前収支の赤字、つまりキャッシュフローの欠損という深刻な事態に直面しており、取水制限にすんなり応じられる状況にはありません。という訳ですから、まだまだもめます。

という訳で視界不良な中央リニア事業ですが、河川法改正が大井川の水利権問題の解決を後押ししたように、法律的に打開する可能性は考える余地があります。但しその前にそもそも中央リニア事業の法的位置づけがどうなっているのかについて、あまり取り上げられることはありませんが、問題を多数含みます。

事業の根拠法機は全国新幹線鉄道整備法(全幹法)ですが、元々国鉄が事業主体となる前提で作られた法律で、基本計画線の公示や整備計画策定のための調査指示、分割民営化後に見直され、所謂整備新幹線スキームと呼ばれ、鉄道建設・運輸施設整備支援機構が建設主体となって建設費を国と地方が負担し、事業者は受益の範囲リース料を30年間支払うこと公的負担を軽減する形ですが、中央新幹線に限ってはJR東海が建設主体となっており、公費の投入はない形ですが、そのことがJR東海に地元軽視姿勢をもたらした可能性はあります。

元々1970年に成立した全幹法は高速道路整備と並ぶ国土総合開発計画と連動した国土軸形成のための法律であり、地域開発に資することを目標としている訳で、その観点から見ればリニアのメリットを受けず大井川の水問題に留まらず環境破壊や事故災害時の乗客救援の責任まで負わされる静岡県が反対するもの無理もない話なんですが、死去した葛西名誉会長を筆頭に幹部の国鉄OBが国鉄時代のノリで事業を進めようとして静岡県で躓いたという見方は可能です。とはいえ現実的に静岡県内にリニアの中間駅を設置するのは無理ですし、国鉄流バーター主義では対応できない訳ですね。

加えて言えばそもそも中央新幹線は2011年にJR東海の発議で整備計画線に昇格したように、元々基本計画線の中でも優先順位の低い路線だった訳です。JR東海としては稼ぎ頭の東海道新幹線と競合する路線をJR東日本や西日本といった他社に参入されたくなかったという動機付けが強かったと思いますし、それ以上に一定のシェアを維持する東阪間の航空のシェアを奪って独占したかったということがあります。つまり全幹法を利用した輸送シェア独占を目論んだってことですね。

よく言われる国土強靭化策としての二重化の機能は北陸新幹線に託されており、また東海地震対策という意味ではリニアのルートはほぼ想定震災域に被っており、敢えて中央新幹線を急いで作る必要性は乏しい中で、リニアという技術革新を売りに国に認めされたという意味で、全幹法の趣旨をかなり逸脱した存在であるということになります。

東海道新幹線の輸送逼迫もJR東海ののぞみ増強や品川新駅開業などJR東海自身の追加投資によるもので、実際90年代には輸送量の伸びが止まって一度シェアを落としています。余談ですが日本の上場企業のPBR1倍以下、つまり解散価値以下企業の中にJR東海がリストアップされています。意外ですがPERの水準は高いので東海道新幹線へのてこ入れで資産価値が高まった結果、時価総額を上回ったってことでしょうけど皮肉な結果です。

二重化の観点から言えば来年敦賀まで開通する北陸新幹線の関西アクセスルートで揉めてますが、二重化の観点からは米原ルート一択です。特に難工事が予想される小浜京都ルートは事業費もかかるし整備期間も長くなるし、公費負担分の費用便益比(B/C比)が1を割ると予想される一方、距離が短く建設費も低廉でB/C比も2近く、また並行在来線の湖西線問題でも地元滋賀県との協議の可能性が高まります。三日月知事が唱える交通税も、近江鉄道支援に留まらず湖西線問題に備える意味があるとすれば、納税者に負担を求める滋賀県にメリットのない小浜京都ルートでは論外ですね。JR西日本はJR東海のリニアの躓きを学んでいませんね。

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Sunday, March 12, 2023

失敗に学ばない国

1日遅れですが、3.11から12年が経ちました。被災地の現状は未だに復興途上ですが、特に福島では放射能汚染の問題もあって、ハード面の整備は進んだものの未だに3万人以上が避難中で人は戻っておりません。避難先で仕事を得て生活基盤が確立すれば、現実的には戻るに戻れない訳です。12年という時間軸の重みです。

一方40年かかると言われた福島第一原発の廃炉事業は停滞しており、予定通りならばあと28年で終わる筈ですが、実際は未だに「40年」と言い続けていて具体的には進んでおらず逃げ水の「40年」のお題目となっております。「処理水放出」が進んでいるという報道ですが、これも単に地上に置くタンクのスペースが無くなったからという理由で、トリチウム以外の核種を含む汚染水を再度フィルターに通して海水で希釈して海底トンネル経由で100m沖へ放出するというものです。「科学的に安全」だそうです。希釈しても放出される汚染物質の総量は減らない訳で、こんな基本を無視した「科学」って何ですか?

そもそも汚染水は福一建屋に地下水が流入することで発生している訳で、その元を絶たなきゃ増えるのは当然のこと。故に凍土壁で遮断するとして国費345億円を投じて1,500本の冷却管を建屋周囲に設置して稼働させたものの、効果は限定的で汚染水の発生はその後も続き、年間数十億円の維持費もかかります。最初からコンクリート止水壁を作る方が結果的に安上がりだったのではないかというのは計画段階から指摘されていてその通りになった訳ですし、汚染水の保管も小型タンクを地上に置くのではなく石油タンクのような大型タンクに貯めて100年後に放出ならば半減期から無害化されますが、コスト減を優先した結果の失敗です。

そして殆ど報道されませんが、フィルターに残るスラッジと言われる固形物の保管問題が実は大変なんです。当然放射性核種を含むスラッジは放置できないので専用容器に入れて保管されておりますが、その保管スペースも逼迫しておりますが、今のところ処分方法も不明です。汚染水保管場所が逼迫するから放出しますと言っても、汚染物質は濃縮された形で残ります。つまり既に次の失敗の種がある訳です。行き当たりばったりで事態は複雑化して解決困難になります。

そんな状況で事故後に決まった原発の原則40年最大60年の期限撤廃が決められました。原発は動かしたいけど新設やリプレースには時間がかかるから今ある原発をとにかく動かそうってことですね。やはりコスト減が狙いですが、つまり老朽化が進む老朽原発を動かす訳で、福島の失敗から何を学んだんだ?しかも脱炭素やエネルギー安全保障や電力逼迫といったトピックをまぶして正当化しようとしていますが、何れも嘘八百です。

老朽原発を安全に動かすには補修が必要ですが、鉄とセメントの塊の原子炉の補修は鉄とセメントの投入が避けられずその製造段階で発生するCO2はカウントされていません。つまり原発で脱炭素は嘘ってことです。エネルギー安全保障を言うならば再エネこそ純国産エネルギーなのにそこはスルーしてます。加えて電力逼迫も嘘が含まれます。

電気が足りない訳じゃないで取り上げた大手電力の既得権が問題を起こしているだけで、実際接続拒否で利用されず捨てられている再エネ電力と、大手電力の先発権で実はガラ空きの送電線がある訳で、需給調整の仕組みを整えれば問題は解決可能なんですが、例えば地域間の連携線整備は進まず、原発再稼働が滞る東電管内では原発需給調整用の揚水発電を利用して再エネを受け入れているものの、その一方で原発のバックアップ用に敢えて残した老朽大型火力発電所は高稼働でダウンしたり、出力調整が容易なガス火力も高稼働で保守点検のスケジュールが重なったりという行き当たりばったりの結果としての予備率低下ということで、原発再稼働以外の対応策がない訳ではありません。

実はエネルギー価格上昇に伴う新電力の廃業ドミノの結果、行き場を失った契約者の補償で大手電力の採算が悪化したことで、なりふり構わず原発再稼働に向かっているという構図です。その結果赤字決算オンパレードとなった訳ですが、これもそもそもLNG価格上昇で予備率が低下して大手電力が自家発電を持つ工場などの余剰電力を卸電力取引所(JEPX)へ出す前に買い取った結果、JPEXの相場高騰で採算悪化して新電力の廃業ドミノが起きた訳である意味自業自得です。加えてこんなニュース。

看板倒れの発送電分離 電力大手の情報漏洩、罰則強化も:日本経済新聞
送電線を大手電力の傘下に残したのは、上述の先発権の担保に留まらず再エネ電力の託送料を高額にして自社系列の発電部門を利する利益相反もありますし、新電力と競合関係となる小売り部門でも新電力の契約者情報にアクセス可能だった結果やはり利益相反を生んでいる訳で、そもそも制度設計の失敗です。どうすればよかったか、実は中国に答えがありました。
「結果オーライ」の再エネ振興 中国の産業政策のいま 丸川知雄・東京大学教授 経済教室:日本経済新聞
欧州のFITに対応して太陽光パネルを増産したものの、輸出攻勢でダンピング関税を課され、更にFIT期間終了もあって過剰生産能力を持て余して企業救済のために国内普及を促し、また内陸部に偏在する電源と需要地の沿岸部を結ぶ送電線の増強を行った結果、世界一の再エネ大国になったという結果オーライだったということです。

ある意味行き当たりばったりだったとはいえ、元々原材料のポリシリコンは国内調達だし人件費は安いしで、ダンピング関税は明らかに欧州の自国産業保護でもある訳で、その結果窮地に陥り国立銀行の融資の焦げ付きを防ぐ為に国内へ普及させた訳ですが、ウイグルや内モンゴルなど元々土地が広く日照条件の良かった内陸部で普及したものの、やはり送電線接続拒否問題が起きたのは日本と同じですが、国が主導して送電線増強で対応したところが中国らしいところです。歴史的経緯で大手電力の既得権に切り込めない日本が停滞する訳です。

という具合に昨今民業圧迫が目につく中国ですが、民間企業が力を持つ弊害を抱える日本が優れていると言えない皮肉な現実です。新自由主義的に民営化すればうまくいくというロジックも不具合が目につく昨今ですが、そんな観点から注目したいニュースがあります。

地下鉄運賃下げたら乗客数3割増 神戸の「北神線」おカネ知って納得:日本経済新聞
グローバルコロナショックで取り上げた北神急行電鉄の神戸市買収による市営地下鉄編入の後日談ですが、コロナ禍にありながら乗客3割増しという驚くべき結果です。勿論上記エントリーで指摘した市営バス再編絡みで乗客を集約できたという側面はあると思いますが、運賃が下がったことのインパクトの大きさを示します。粟生線の乗客減に苦しむ神戸電鉄にとっては乗客減の影響はあるかもしれませんが、寧ろ有馬三田地区からの三宮へのアクセス向上は地域活性化に繋がる訳で、粟生線とは事情が異なります。新開地起点でターミナル立地が必ずしも良くない神戸電鉄にとっては寧ろビジネスチャンスかもしれません。「民から公へ」が成功する可能性は注目されます。

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Saturday, March 04, 2023

半導体連合で企業ジョーカー待ち?

気球宇宙だと物騒なニュースが多いですが、朝鮮戦争を契機に日本の戦後復興と再軍備やA級戦犯の恩赦と公職復帰が進んだ1950年代に似ています。その1人が岸信介で、後に首相となって60年安保改定を実現したばかりか、統一教会を日本に呼び込んで未だに多くの人を不幸にしている訳ですが。所謂戦後史の逆コースと呼ばれる時代状況に似てきました。但し朝鮮特需で戦後復興が本格化したこともあり、一般的には景気が上向いた良い時代と見られております。

という訳で55年体制に象徴される自民党による保守長期政権がスタートし、続く高度経済成長時代に接続する訳ですが、人口減少の現在はそんな希望もない中で、半導体を巡る地方の誘致合戦を見ると、同じ期待を抱いているのかと眩暈がします。トランプのジョーカーはゲームでワイルドカードに使われることが多いですが、半導体がどんな未来をもたらすか、冷静に見ましょう。まずはこのニュース。

ラピダス、5兆円投資 北海道・千歳に先端半導体工場:日本経済新聞
米IBMが半導体生産を日本に打診したけど受ける企業が見当たらず、ならばと立ち上げた半導体ファウンドリーのラピダスで、世界最先端の2nmの微細加工に挑戦するということですが、北海道千歳市に誘致が決まりました。

但し課題山積で、立地の決め手は水資源と電力で、半導体生産には欠かせない条件ですが、電力に関しては再エネ電力比率が高いことが評価されたそうですが、おそらく福島第一原発事故以降営業運転されていない泊原発の再稼働を見込んだというのは穿った見方かもしれませんが、あり得ます。脱炭素で欧州が炭素税国境調整を言い出す中、化石燃料依存の日本の製造業が不利になるし、ウクライナ問題でエネルギー価格の高止まりもあるしということも背景にあると思います。というのは、複雑な半導体サプライチェーン構築で有利と言えない北海道を選んだことの説明がつかないからです。

台湾TSMCが熊本県菊陽町の立地を選んだのは明らかで、元々80年代に世界の半導体市場を席巻した日本の半導体産業が多数立地してシリコンアイランドとさえ言われた九州には元々関連産業が多く、特に大口ユーザーのソニーの画像センサー工場に近いことが決め手と考えられますが、北海道にはそうした半導体関連の集積は見られません。2027年の供給開始を想定しているので、それまでに関連産業を呼び込もうということかと思いますが、そもそも国内企業が及び腰だった先端半導体生産がうまくいく保証は現時点ではありません。

半導体は微細化すると歩留まりが悪くなる一方、それ故に歩留まりをうまく抑えれば希少性から高値で売れるということで、チャレンジングな事業です。一方旧世代の汎用半導体は市況商品で値崩れしやすいこともあり、それ故に半導体不足が言われながら増産されにくいというメンドクサイものでもあります。特に汎用品を大量に使う自動車などは大きな影響を受ける訳です。加えてEV化電動化が言われる昨今、サプライヤーも簡単に増産に踏み切れない事情もあります。という訳で自動車の供給制約は当分続くと考えられます。

そして実はウクライナ関連で欧米の軍需産業も半導体不足で兵器支援がだんだん難しくなっています。所謂支援疲れとは違って具体的に兵器生産のサプライチェーンに目詰まりが見え始めています。そんな事情もあってアメリカ政府は半導体の国内生産に拘り、また日米韓台のチップ4連合のグリップを強めようとしているという側面もあります。それに乗っかれば日の丸半導体も復活できるかもという甘い見通しもあるでしょう。

という訳で、軍需品需要が半導体不足を助長している訳ですから、民生品への圧迫は世界規模で起きると考えられますし、また世界的なインフレで主要国中銀の利上げが、半導体産業の追加投資を阻害すると考えられますから、結局政府支援で投資を行う流れということで、この点は日米ともに変わりません。半導体が戦略物資として国家の統制を受ける訳です。そして防衛費倍増を決めた日本にとっては、欲しい兵器がウクライナ優先で後回しにされることを意味します。米中デカップリングのリアルで取り上げた時代遅れの無人偵察機グローバルホークも未だ納品されておりません。

とまああれこれ見ていくと、消耗戦が続く限り世界規模で経済が好転する要素は凡そ見当たりません。戦争が終結して復興が始まるまでは状況は変わらないということですね。地方が企業誘致で夢を見ても、微細加工のナノレベル先端半導体の供給開始までの道のりは遠く、また中国への輸出は無理で売り先も制限される訳ですから、果たして採算に乗るのかどうかも定かではありません。そして半導体不足の意外な影響は自動車や兵器に留まらず鉄道にも及びます。

2020年の五輪開催に間に合う筈だった中央快速線グリーン車が半導体不足で生産が滞っています。グリーン車自体は無動力ですが、ICグリーン券をかざして着席を示す発光ダイオード―のインジケーターなど半導体が多数使われます。JR東日本としては通勤通学需要の低迷で着席サービスによる増収を見込んでいる訳ですが、それが遅れる分収支は厳しくなり地方ローカル線の維持も困難になる訳です。地方の受難は続きます。

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