« 宇宙戦争は終わらない | Main | 失敗に学ばない国 »

Saturday, March 04, 2023

半導体連合で企業ジョーカー待ち?

気球宇宙だと物騒なニュースが多いですが、朝鮮戦争を契機に日本の戦後復興と再軍備やA級戦犯の恩赦と公職復帰が進んだ1950年代に似ています。その1人が岸信介で、後に首相となって60年安保改定を実現したばかりか、統一教会を日本に呼び込んで未だに多くの人を不幸にしている訳ですが。所謂戦後史の逆コースと呼ばれる時代状況に似てきました。但し朝鮮特需で戦後復興が本格化したこともあり、一般的には景気が上向いた良い時代と見られております。

という訳で55年体制に象徴される自民党による保守長期政権がスタートし、続く高度経済成長時代に接続する訳ですが、人口減少の現在はそんな希望もない中で、半導体を巡る地方の誘致合戦を見ると、同じ期待を抱いているのかと眩暈がします。トランプのジョーカーはゲームでワイルドカードに使われることが多いですが、半導体がどんな未来をもたらすか、冷静に見ましょう。まずはこのニュース。

ラピダス、5兆円投資 北海道・千歳に先端半導体工場:日本経済新聞
米IBMが半導体生産を日本に打診したけど受ける企業が見当たらず、ならばと立ち上げた半導体ファウンドリーのラピダスで、世界最先端の2nmの微細加工に挑戦するということですが、北海道千歳市に誘致が決まりました。

但し課題山積で、立地の決め手は水資源と電力で、半導体生産には欠かせない条件ですが、電力に関しては再エネ電力比率が高いことが評価されたそうですが、おそらく福島第一原発事故以降営業運転されていない泊原発の再稼働を見込んだというのは穿った見方かもしれませんが、あり得ます。脱炭素で欧州が炭素税国境調整を言い出す中、化石燃料依存の日本の製造業が不利になるし、ウクライナ問題でエネルギー価格の高止まりもあるしということも背景にあると思います。というのは、複雑な半導体サプライチェーン構築で有利と言えない北海道を選んだことの説明がつかないからです。

台湾TSMCが熊本県菊陽町の立地を選んだのは明らかで、元々80年代に世界の半導体市場を席巻した日本の半導体産業が多数立地してシリコンアイランドとさえ言われた九州には元々関連産業が多く、特に大口ユーザーのソニーの画像センサー工場に近いことが決め手と考えられますが、北海道にはそうした半導体関連の集積は見られません。2027年の供給開始を想定しているので、それまでに関連産業を呼び込もうということかと思いますが、そもそも国内企業が及び腰だった先端半導体生産がうまくいく保証は現時点ではありません。

半導体は微細化すると歩留まりが悪くなる一方、それ故に歩留まりをうまく抑えれば希少性から高値で売れるということで、チャレンジングな事業です。一方旧世代の汎用半導体は市況商品で値崩れしやすいこともあり、それ故に半導体不足が言われながら増産されにくいというメンドクサイものでもあります。特に汎用品を大量に使う自動車などは大きな影響を受ける訳です。加えてEV化電動化が言われる昨今、サプライヤーも簡単に増産に踏み切れない事情もあります。という訳で自動車の供給制約は当分続くと考えられます。

そして実はウクライナ関連で欧米の軍需産業も半導体不足で兵器支援がだんだん難しくなっています。所謂支援疲れとは違って具体的に兵器生産のサプライチェーンに目詰まりが見え始めています。そんな事情もあってアメリカ政府は半導体の国内生産に拘り、また日米韓台のチップ4連合のグリップを強めようとしているという側面もあります。それに乗っかれば日の丸半導体も復活できるかもという甘い見通しもあるでしょう。

という訳で、軍需品需要が半導体不足を助長している訳ですから、民生品への圧迫は世界規模で起きると考えられますし、また世界的なインフレで主要国中銀の利上げが、半導体産業の追加投資を阻害すると考えられますから、結局政府支援で投資を行う流れということで、この点は日米ともに変わりません。半導体が戦略物資として国家の統制を受ける訳です。そして防衛費倍増を決めた日本にとっては、欲しい兵器がウクライナ優先で後回しにされることを意味します。米中デカップリングのリアルで取り上げた時代遅れの無人偵察機グローバルホークも未だ納品されておりません。

とまああれこれ見ていくと、消耗戦が続く限り世界規模で経済が好転する要素は凡そ見当たりません。戦争が終結して復興が始まるまでは状況は変わらないということですね。地方が企業誘致で夢を見ても、微細加工のナノレベル先端半導体の供給開始までの道のりは遠く、また中国への輸出は無理で売り先も制限される訳ですから、果たして採算に乗るのかどうかも定かではありません。そして半導体不足の意外な影響は自動車や兵器に留まらず鉄道にも及びます。

2020年の五輪開催に間に合う筈だった中央快速線グリーン車が半導体不足で生産が滞っています。グリーン車自体は無動力ですが、ICグリーン券をかざして着席を示す発光ダイオード―のインジケーターなど半導体が多数使われます。JR東日本としては通勤通学需要の低迷で着席サービスによる増収を見込んでいる訳ですが、それが遅れる分収支は厳しくなり地方ローカル線の維持も困難になる訳です。地方の受難は続きます。

| |

« 宇宙戦争は終わらない | Main | 失敗に学ばない国 »

ニュース」カテゴリの記事

経済・政治・国際」カテゴリの記事

鉄道」カテゴリの記事

JR」カテゴリの記事

ローカル線」カテゴリの記事

都市交通」カテゴリの記事

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)




« 宇宙戦争は終わらない | Main | 失敗に学ばない国 »