失敗に学ばない国
1日遅れですが、3.11から12年が経ちました。被災地の現状は未だに復興途上ですが、特に福島では放射能汚染の問題もあって、ハード面の整備は進んだものの未だに3万人以上が避難中で人は戻っておりません。避難先で仕事を得て生活基盤が確立すれば、現実的には戻るに戻れない訳です。12年という時間軸の重みです。
一方40年かかると言われた福島第一原発の廃炉事業は停滞しており、予定通りならばあと28年で終わる筈ですが、実際は未だに「40年」と言い続けていて具体的には進んでおらず逃げ水の「40年」のお題目となっております。「処理水放出」が進んでいるという報道ですが、これも単に地上に置くタンクのスペースが無くなったからという理由で、トリチウム以外の核種を含む汚染水を再度フィルターに通して海水で希釈して海底トンネル経由で100m沖へ放出するというものです。「科学的に安全」だそうです。希釈しても放出される汚染物質の総量は減らない訳で、こんな基本を無視した「科学」って何ですか?
そもそも汚染水は福一建屋に地下水が流入することで発生している訳で、その元を絶たなきゃ増えるのは当然のこと。故に凍土壁で遮断するとして国費345億円を投じて1,500本の冷却管を建屋周囲に設置して稼働させたものの、効果は限定的で汚染水の発生はその後も続き、年間数十億円の維持費もかかります。最初からコンクリート止水壁を作る方が結果的に安上がりだったのではないかというのは計画段階から指摘されていてその通りになった訳ですし、汚染水の保管も小型タンクを地上に置くのではなく石油タンクのような大型タンクに貯めて100年後に放出ならば半減期から無害化されますが、コスト減を優先した結果の失敗です。
そして殆ど報道されませんが、フィルターに残るスラッジと言われる固形物の保管問題が実は大変なんです。当然放射性核種を含むスラッジは放置できないので専用容器に入れて保管されておりますが、その保管スペースも逼迫しておりますが、今のところ処分方法も不明です。汚染水保管場所が逼迫するから放出しますと言っても、汚染物質は濃縮された形で残ります。つまり既に次の失敗の種がある訳です。行き当たりばったりで事態は複雑化して解決困難になります。
そんな状況で事故後に決まった原発の原則40年最大60年の期限撤廃が決められました。原発は動かしたいけど新設やリプレースには時間がかかるから今ある原発をとにかく動かそうってことですね。やはりコスト減が狙いですが、つまり老朽化が進む老朽原発を動かす訳で、福島の失敗から何を学んだんだ?しかも脱炭素やエネルギー安全保障や電力逼迫といったトピックをまぶして正当化しようとしていますが、何れも嘘八百です。
老朽原発を安全に動かすには補修が必要ですが、鉄とセメントの塊の原子炉の補修は鉄とセメントの投入が避けられずその製造段階で発生するCO2はカウントされていません。つまり原発で脱炭素は嘘ってことです。エネルギー安全保障を言うならば再エネこそ純国産エネルギーなのにそこはスルーしてます。加えて電力逼迫も嘘が含まれます。
電気が足りない訳じゃないで取り上げた大手電力の既得権が問題を起こしているだけで、実際接続拒否で利用されず捨てられている再エネ電力と、大手電力の先発権で実はガラ空きの送電線がある訳で、需給調整の仕組みを整えれば問題は解決可能なんですが、例えば地域間の連携線整備は進まず、原発再稼働が滞る東電管内では原発需給調整用の揚水発電を利用して再エネを受け入れているものの、その一方で原発のバックアップ用に敢えて残した老朽大型火力発電所は高稼働でダウンしたり、出力調整が容易なガス火力も高稼働で保守点検のスケジュールが重なったりという行き当たりばったりの結果としての予備率低下ということで、原発再稼働以外の対応策がない訳ではありません。
実はエネルギー価格上昇に伴う新電力の廃業ドミノの結果、行き場を失った契約者の補償で大手電力の採算が悪化したことで、なりふり構わず原発再稼働に向かっているという構図です。その結果赤字決算オンパレードとなった訳ですが、これもそもそもLNG価格上昇で予備率が低下して大手電力が自家発電を持つ工場などの余剰電力を卸電力取引所(JEPX)へ出す前に買い取った結果、JPEXの相場高騰で採算悪化して新電力の廃業ドミノが起きた訳である意味自業自得です。加えてこんなニュース。
看板倒れの発送電分離 電力大手の情報漏洩、罰則強化も:日本経済新聞送電線を大手電力の傘下に残したのは、上述の先発権の担保に留まらず再エネ電力の託送料を高額にして自社系列の発電部門を利する利益相反もありますし、新電力と競合関係となる小売り部門でも新電力の契約者情報にアクセス可能だった結果やはり利益相反を生んでいる訳で、そもそも制度設計の失敗です。どうすればよかったか、実は中国に答えがありました。
「結果オーライ」の再エネ振興 中国の産業政策のいま 丸川知雄・東京大学教授 経済教室:日本経済新聞欧州のFITに対応して太陽光パネルを増産したものの、輸出攻勢でダンピング関税を課され、更にFIT期間終了もあって過剰生産能力を持て余して企業救済のために国内普及を促し、また内陸部に偏在する電源と需要地の沿岸部を結ぶ送電線の増強を行った結果、世界一の再エネ大国になったという結果オーライだったということです。
ある意味行き当たりばったりだったとはいえ、元々原材料のポリシリコンは国内調達だし人件費は安いしで、ダンピング関税は明らかに欧州の自国産業保護でもある訳で、その結果窮地に陥り国立銀行の融資の焦げ付きを防ぐ為に国内へ普及させた訳ですが、ウイグルや内モンゴルなど元々土地が広く日照条件の良かった内陸部で普及したものの、やはり送電線接続拒否問題が起きたのは日本と同じですが、国が主導して送電線増強で対応したところが中国らしいところです。歴史的経緯で大手電力の既得権に切り込めない日本が停滞する訳です。
という具合に昨今民業圧迫が目につく中国ですが、民間企業が力を持つ弊害を抱える日本が優れていると言えない皮肉な現実です。新自由主義的に民営化すればうまくいくというロジックも不具合が目につく昨今ですが、そんな観点から注目したいニュースがあります。
地下鉄運賃下げたら乗客数3割増 神戸の「北神線」おカネ知って納得:日本経済新聞グローバルコロナショックで取り上げた北神急行電鉄の神戸市買収による市営地下鉄編入の後日談ですが、コロナ禍にありながら乗客3割増しという驚くべき結果です。勿論上記エントリーで指摘した市営バス再編絡みで乗客を集約できたという側面はあると思いますが、運賃が下がったことのインパクトの大きさを示します。粟生線の乗客減に苦しむ神戸電鉄にとっては乗客減の影響はあるかもしれませんが、寧ろ有馬三田地区からの三宮へのアクセス向上は地域活性化に繋がる訳で、粟生線とは事情が異なります。新開地起点でターミナル立地が必ずしも良くない神戸電鉄にとっては寧ろビジネスチャンスかもしれません。「民から公へ」が成功する可能性は注目されます。
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