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Sunday, March 26, 2023

金融危機は核より怖い

何かいろんなニュースが流れてますが、違和感てんこ盛りです。例えば放送法文書を巡る国会論戦ですが、問題の本質は政府による報道機関への介入問題で、当時の磯崎陽輔首相補佐官の「政治的公平性」への説明を求めていたとされる問題ですが、放送法の「政治的公平性」は放送局の自主的な取り組みを定義したもので、政府による介入はロシアや中国のような報道規制と変わらない訳で、この点をこそ問題にすべきなのに、高市大臣の進退問題に争点がズレていることが気になります。

事実なら「法の支配」を掲げてロシアや中国を批判できない問題ってことです。そして岸田首相がウクライナ政府の招きを受けてキーウ訪問した際にも「法の支配」を連発してましたが、言葉の意味わかってるかい?強力な国家主権を法で縛るという原則を「法の支配」と呼ぶのであって、ロシアや中国はそれに反したことをしている訳で、放送法文書問題はそれに疑義を生じているということなんだけど。

岸田首相のキーウ訪問に関しても報道で公開されてセキュリティへの言及が言われますが、バイデン大統領のキーウ訪問と同じ行程を辿ったようにウクライナ政府の主導っで行われたもので、外国要人来訪の通知はロシア政府にもされていると考えられます。勿論ロシアが無視して攻撃することはあり得ますが、相互承認で外交関係を築くという主権国家の原理から言えば、他国の首脳を死傷させる可能性のある行動は外交上の孤立を招く愚行となる訳で、ロシアもその辺は理解しています。

それより偶然なんでしょうけど習近平総書記のモスクワ訪問と日程が被ったことで、いろいろ憶測を呼んでますが、中ロ接近のニュースを薄めたという意味で一番メリットを得たのはウクライナ政府でしょう。そして中ロの首脳会談で見えてきたのは戦況が劣勢のロシアにとってはある意味渡りに船ではあります。形式的な中立地帯を設定して休戦して兵や装備を立て直す時間稼ぎがしたいのが本音でしょう。但しウクライナ政府が同意するかどうかは微妙ですが、中国にとってはアメリカが失敗した和平協議を中国主導で行ってマウント取るだけでも意味があります。

中国の本音はウクライナが一帯一路の出口に当たり権益を確保したいと同時に、二正面作戦に動けない米軍の弱点として紛争が続く現状は実は有難い訳ですし、またロシア産原油などの資源を安価に買い叩けるし貿易決済に人民元を用いることでロシアを経済的に従属させることすら可能ということでいいことずくめです。先端半導体の供給制限は確かに痛いけれど、自国開発の時間稼ぎになりますし、更に言えば宇宙戦争は終わらないで取り上げたロシアの濃縮ウランの中国への供給というオプションもあり得ます。

とはいえ中国はアメリカでさえ明言できない核の先制使用や非核国への核攻撃の禁止を明言しており、ロシアに対しても核兵器使用をけん制している訳で、中ロ接近は寧ろロシアの核攻撃の可能性を低くしたと見ることができます。そして悪性インフレで成長が鈍化しつつある先進国と比べて尚成長余地があり経済力を縮めてくる訳です。「戦わずして勝つ」孫氏の兵法を百も承知の中国による台湾への軍事行動は当面ないということですね。

他方欧米で同時多発的な銀行不安が広がっております。米シリコンバレー銀行(SVB)破綻に始まる米地方銀行の破綻ですが、FRBが最後の貸し手機能を発動し、連邦政府も預金保護を打ち出して沈静化を図ってますが、事態は予断を許しません。SVBの破綻は典型的な取り付け騒ぎですが、SNS時代の情報拡散スピードがもたらした問題でもあります。

テック・金融が負の共振 米、SVBなど2行の全預金保護:日本経済新聞
SVBはシリコンバレーのテック企業やベンチャーキャピタル(VC)が預金者に名を連ねますが、有望とされるスタートアップ企業は余剰資金を投資に回すから損益は赤字だったりする訳で、通常の銀行はなかなか取引してくれない訳ですが、SVBはそんなテック企業の預金を集めて決済サービスなどの機能を提供してきた訳です。

テック企業やVBは低金利もあって投資資金は社債や株式で調達するから、融資は主に運転資金中心でしたが、スタートアップの株式公開(IPO)で大金を手にしたテック企業やVCの預金が膨張した結果、運用先に困って債券投資を拡大したのですが、FRBの利上げで保有債券に評価損が生じて含み損を抱えた結果、格付けが下がる懸念から債券を売って減損処理をした上、増資を発表したところ、逆に危ないんじゃないかといううわさがSNSで拡がって預金者の企業やVBが預金引き出しに動いたという流れです。続いて破綻したシグネチャー銀行は暗号資産関連の取引が多かったことから価格の乱高下で不安が広がったものです。共にテックと金融の負の連鎖がもたらしたと言えます。

少し長い目で俯瞰すると、リーマンショック以来の金融緩和の継続でマネー流通量が増加し、余剰マネーは資産価格を押し上げた訳で、その結果がスタートアップ企業のIPOでの資金調達を容易にしたということは言えます。低金利で運用先に困ったマネーがVCを通じてスタートアップ企業に流れ込みIPOでさらに膨張という循環が所謂ユニコーンブームをもたらしたとも言えます。FRBの金融引締めや利上げがそれを逆回転させたということですね。但し金融引締めが間違いという意味ではありません。

日本のバブル崩壊も元はといえばプラザ合意から始まる円高対応で日銀が低金利政策を続けた結果、余剰マネーが株や不動産に集まって膨らんだバブルが、国の不動産融資規制と日銀のバブル退治の利上げで弾けたものですが、そもそも長期間の金融緩和でもたらされた余剰マネーは簡単には解消せず、利上げ局面で予想外の動きをする訳です。つまり繰り返されてきたバブル崩壊の始まりと捉えることができます。一方クレディ・スイスの破綻は全く異なる展開です。

サウジファンド、クレディ・スイスで損失 運営に危うさ:日本経済新聞
サウジアラビアのサルマン皇太子による脱産油国政策で、石油精製や石油化学工業の国内立地促進による近代化と共に、金融への傾斜でクレディ・スイスに接近しました。米銀に頼っていては自前の金融業育成はままならず、サウジ・ナショナル銀行(SNB)がクレディ・スイスの株主となって影響力を行使し、国営ファンドの資金運用に注文を付けていたのですが、高利回りを追い求めるハイリスク投資を強要された一方、ECBの利上げでやはり含み損を抱えたものの、SNBは救済を否定し破綻に至ったものです。

但しこちらの破綻処理は問題を孕んでまして、AT1債の無価値化を発表して混乱しています。AT1債とは銀行の中核的的自己資本'(Tier1)としてバーセル銀行委員会によって認められた永久劣後債で、利回りが良い一方、一定条件で減損されたり株式転換されたりするハイリスク債券ですが、弁済順位下位のTier1債権の中で株式が保護されてAT1債が無価値化されるのは、SVBの保有株式の毀損や希薄化を回避したものと見られていて債券保有者の一部が法的手段に訴えるとしています。産油国の無茶な資金運用がもたらした災難ですが、破綻処理にも不透明さを見せております。

そしてAT1債は他の欧州銀行でも多数発行しており、やはりその連想で銀行不安が広がっているという状況にあります。という訳で米と欧州とそれぞれ異なった展開で銀行不安が広がっている訳ですが、邦銀はといえば、やはり爆弾を課開けています。特に地方銀行の行き詰まりは深刻で、金融庁主導で経営統合が進んでますが、地方の過疎化と経済停滞でそもそも融資先が見当たらず、日本国債は日銀の爆買いで市場から締め出され、已む無く外債投資に傾斜してますが、円安で緩和されているとはいえやはり欧米の利上げで含み損を抱えております。ただ日本の場合日銀にリスクが集中しており、超弩級の時限爆弾となっております。

日銀が異次元緩和を続ける過程で財務をか悪化させているのは周知のとおりです。その結果インフレになっても利上げが出来ない現実がある訳で、日本は輸入インフレに直面しております。欧米の銀行不安を受けて為替は円高方向へ動きましたが、22年初頭の115円水準に及ばない129円ですから円安の地合いは変わっておりません。貿易赤字は常態化しており、実需の円安は変わらない訳です。加えて春闘の賃上げ大盤振舞いですが、背景に人手不足がありますが、その結果次なるインフレをもたらすという意味で欧米と同じ状況になりつつあります。

加えて働き方改革2024年問題で運輸業や建設業などの猶予期間終了が目前に迫っております。働き手確保には賃上げしかない状況になってきており、それを先取りするように大都市圏でもバスの減便が相次いでいます。それに留まらず一部バス会社で運賃値上げされており、これまで安定していた交通運賃も値上げラッシュです。

首都圏鉄道7社、運賃一斉値上げ 初乗り10円程度 バリアフリー投資増や需要減に対応:日本経済新聞
JR東日本ではバリアフリー対応上乗せ委運賃10円を電車特定区間に敵将したほか、需要の減少した通勤定期券を値上げする一方で安価なオフピーク定期券を発売して需要誘導を図り輸送力増強投資の抑制を図っております。バリアアフリー課金は東急を除く大手各社も対応する一方、東急は通常運賃の値上げとなります。今回見送った京王、京急も秋に羽和えを予定しております。あと4月には関西各社も値上げを予定しており、やはり今回見送りの南海も秋には値上げ予定です。

その結果値上げに地方議会の同意が必要な公営地下鉄が取り残されるという珍事になり、東京メトロと都営地下鉄の初乗り運賃が久しぶりに揃います。輸入インフレが国内要因にシフトする構図は欧米と共通です。加えて言えば日本が先取りした実質賃金の低下は欧米でも賃上げがインフレ率に追いつかないという形で実現しています。賃上げラッシュの日本でも殆どインフレ率には追い付いておりませんが。

ってことで金融危機の可能性の低さでは中国が頭1つ抜けております。不動産バブルはどうなんだというツッコミはあるでしょうけど、財政も金融も健全度は高いですし、何より経済成長の余地があるので何とかなると見通せます。ということで、核戦争より怖い金融危機が進行中ということですね。潜在成長率が1%割れの日本とは事情が違います。同時にGDP比2%の防衛費増強が如何に無意味かがわかります。あと有事の備えとして平時の財政健全化は欠かせません。高橋是清の財政拡大も平時に戻って縮小しようとして226で暗殺されタガが外れた結果、戦時経済の窮乏化と戦後のハイパーインフレをもたらしたことは重ねて申し上げておきます。

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