払い損国家ニッポン
2つの新聞記事に注目しました。
円安・株高の共振、円半年ぶり140円 米景気が左右か:日本経済新聞
低成長で税収増の不思議 22年度、初の70兆円超えへ チャートは語る:日本経済新聞両者は深くかかわりがあります。円安が一段進みドル円140円を超えました。若干の揺り戻しはあるものの、均衡点が変わった可能性があります。米FRBの利上げ観測が起点ですが、米雇用統計や消費者物価動向が強めに出ていて、打ち止めが期待された利上げが続く可能性が意識された結果、日米金利差の拡大予想で円が売られドルが買われた結果です。
一方の日本では低成長下の税収上ブレという奇妙な現象が起きている訳ですが、3つの要素が積み上がった結果です。1つ目は円安による大手企業の業績上ブレによる法人税収増、2つ目は主に個人事業主の所得税收増、3つ目は物価上昇に伴う消費税収上ブレです。法人税収増は主に円安による輸出大企業の業績が上ブレした結果で、内需企業や中小企業の多くは寧ろ業績を落としています。個人事業主の所得税收増はコロナ禍での持続化給付金や専従者雇用を守る為の雇用調整助成金が寄与したもので、一部内需企業の法人税も同様のことが起きたと見られます。消費税収増は後で取り上げます。
これつまりコロナと円安が起点になっているという点で関連したニュースということになります。特に円安の影響は多岐に亘り、当面反転の見込みはありません。その結果輸出大企業を中心に業績は上向いてますから、日本株の買い材料となる訳で、特にFRBの政策スタンスから迷いのある米株式市場から日本株に資金シフトが起きている結果、株価上昇に繋がった訳で、東京市場は国債市場のサブ市場というポジション故の出来事ですから素直に喜べません。当然海外勢はリニアちゃん気をつけてで取り上げたPBR1倍割れ企業の株主還元策への期待もあります。
てことは輸入インフレは終わらないで庶民の財布から失われた富が輸出大企業に移転して、それが株主還元策で海外投資家に漏出することを意味します。そうなるのは業績が上向いても雇用者報酬を増やさない企業の姿勢によるものです。春闘で賃上げが報じれれてますが、定期昇給込みですから、ベースアップ部分はインフレ率に追いつかず、実質賃金は減る一方です。つまり日本企業は雇用者報酬を減らしながら海外投資家に貢いでいると整理できる訳です。これじゃ低成長から抜け出せる訳がありません。
インフレ下の消費税收増は深刻な問題を提起します。インフレ税という言葉がありますが、インフレで恩恵を受けるのは債務者であり、債権者は損失を被る訳ですが、だから利上げはインフレ退治という側面に留まらず債権者保護の意味もある訳です。日本の最大の債務者は政府であり、日銀の異次元緩和で殆ど金利負担無しに債務を拡大している状況です。これつまり債権者である国民の負担の上に財政運営をしている状況ということです。
消費税増税が批判され消費減税を野党が主張する訳ですが、同じ野党が財政赤字の拡大やインフレを批判しないのはおかしなことです。インフレによる消費税収増は言ってみれば庶民への二重課税ってことです。ならば日銀の低金利政策の見直しこそが重要な筈ですが、詳細は省きますがその日銀は動くに動けない状況にあり、植田新総裁の慎重姿勢もあって具体的な動きはありません。
賃上げもそれ自体が次のインフレを呼び込むことになり所謂インフレスパイラルの入り口にある状況ということになると単純に喜べません。加えて賃上げの結果課税所得区分が上位へ移行する層が一定数いる訳です。その人たちにとっては増税になる訳です。高度成長期ならば定期的に税収区分の見直しによる所得減税が行われましたが、これは成長経済故にできたことで、今のような低成長下では税収の上ブレは、単純に決算剰余金を増やし、防衛費増の財源に転用されますから、多くは高価な米国製兵器の購入に使われ、行政サービスとして国民に戻ることはない訳です。
あと異次元の少子化対策と称する子育て支援策の財源を巡る議論で、社会保険料の流用が言われてますが、社会保険料は法改正を経ずに改定可能、つまり国会審議を経ずに増やせる財源ということは指摘しておきます。例えばコロナ禍で雇用調整助成金を大盤振舞いした結果積み立て不足になった雇用保険で保険料値上げという形で負担が来ます。雇用保険料は労使折半の負担ですから、雇用保険で手当てされた雇用調整助成金が企業や個人事業主に支払われた訳ですが、それなら敢えて雇用を守らず失業給付で直接失業者を救済した方が被雇用者側の負担は軽かったと言えます。つまり誤魔化された訳です。
この手の話はまだまだありますが、きりがないのでこの辺にしておきますが、実はここに日本の病理が隠れています。怪運国債依存症で取り上げた所得の恒等式「所得=消費+投資+純輸出+政府支出」の右辺の最終項の政府支出が税の再分配を示すことを述べましたが、格差を示すジニ係数が日本の場合再分配後の方が悪化していることが以前から言われております。つまり制度が寧ろ格差を助長している現実があります。
という訳で、税の議論でも取られることばかり言われ、それがきちんと再分配されて社会的厚生の向上に繋がる議論がなされない結果、国民はますます貧乏になるという構図です。主権者であり納税者でもある国民のこの自覚のなさが問題解決を困難にしています。その意味で例えば滋賀県の三日月知事が提唱する交通税の議論は注目されます。鉄道などの公共交通の維持に公的な支援が必要な現実があり、滋賀県の場合、具体的には近江鉄道の存続が当面の課題ですが、おそらく北陸新幹線の新大阪延伸で並行在来線として切り離しが言われる湖西線も視野に入っていると思います。
北陸新幹線自体は思い付きレベルの小浜京都ルートの実現可能性の問題もあり当面進展はなさそうですが、仮に米原ルートでも湖西線の切り離しは避けられないでしょうから、それに備えて財源確保ということもあるでしょう。滋賀県としてはJR西日本の路線として維持したい意向があるようですが、その際に上下分離などの対案を示す意味からも財源確保が必要ということでしょう。こうした幹線レベルの路線ですら公的支援なしには維持が難しい中で、やはりというかコロナの影響はより弱体なローカル私鉄にのしかかります。そんなニュースです。
ローカル鉄道「運賃上げ検討」2割どまり 顧客離れ懸念 全国95社調査:日本経済新聞コロナ禍の乗客減に見舞われJRや大手私鉄では値上げが相次いでおりますが、元々過去の運賃値上げで運賃水準が高い状況の中小ローカル私鉄では乗客離れを助長しかねないという難しい局面にあります。既に自治体の補助金を受け取っている事業者も多数ありますが、条件が厳しく使途も制限されているなど使い勝手は必ずしも良くないということもあります。滋賀県の交通税の取り組みが注目される現状です。
鉄道への補助金の歴史は実は古く、幹線鉄道を想定した私設鉄道法に対してローカルな需要を想定した軽便鉄道法と軽便鉄道補助法がセットで成立して全国に軽便鉄道ブームが起きて政府が見直しを余儀なくされました。鉄道国有化後にほぼ適用事例のなくなった私設鉄道法と統合して地方鉄道法となったのちも地方鉄道補助法として存続しましたが、地方鉄道法では国の買収提案に応じる義務がありましたから、ある意味幹線ルートから外れたローカル線の建設に民間資金を使ったという面もあるでしょう。
そして地方レベルでは大阪市の市営地下鉄建設費を賄う目的で駅予定地周辺700m以内の地権者に受益者負担税を課した事例もあります。これらは建設目的であって維持目的ではないとはいえ、日本でもこうしたことは古くから行われてきたことも確かです。特に大阪市の事例は滋賀県の交通税の先取り的な面もある訳です。税に関する議論がこうした面に及ばない現状は、ただ人々を不幸にするだけとも言えます。という訳で税が課されることが問題なのではなく、払い損なのが問題なのです。そこが見えない議論は限界(horizon)があります。お粗末^_^;。
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