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May 2023

Sunday, May 28, 2023

払い損国家ニッポン

2つの新聞記事に注目しました。

円安・株高の共振、円半年ぶり140円 米景気が左右か:日本経済新聞
低成長で税収増の不思議 22年度、初の70兆円超えへ チャートは語る:日本経済新聞
両者は深くかかわりがあります。円安が一段進みドル円140円を超えました。若干の揺り戻しはあるものの、均衡点が変わった可能性があります。米FRBの利上げ観測が起点ですが、米雇用統計や消費者物価動向が強めに出ていて、打ち止めが期待された利上げが続く可能性が意識された結果、日米金利差の拡大予想で円が売られドルが買われた結果です。

一方の日本では低成長下の税収上ブレという奇妙な現象が起きている訳ですが、3つの要素が積み上がった結果です。1つ目は円安による大手企業の業績上ブレによる法人税収増、2つ目は主に個人事業主の所得税收増、3つ目は物価上昇に伴う消費税収上ブレです。法人税収増は主に円安による輸出大企業の業績が上ブレした結果で、内需企業や中小企業の多くは寧ろ業績を落としています。個人事業主の所得税收増はコロナ禍での持続化給付金や専従者雇用を守る為の雇用調整助成金が寄与したもので、一部内需企業の法人税も同様のことが起きたと見られます。消費税収増は後で取り上げます。

これつまりコロナと円安が起点になっているという点で関連したニュースということになります。特に円安の影響は多岐に亘り、当面反転の見込みはありません。その結果輸出大企業を中心に業績は上向いてますから、日本株の買い材料となる訳で、特にFRBの政策スタンスから迷いのある米株式市場から日本株に資金シフトが起きている結果、株価上昇に繋がった訳で、東京市場は国債市場のサブ市場というポジション故の出来事ですから素直に喜べません。当然海外勢はリニアちゃん気をつけてで取り上げたPBR1倍割れ企業の株主還元策への期待もあります。

てことは輸入インフレは終わらないで庶民の財布から失われた富が輸出大企業に移転して、それが株主還元策で海外投資家に漏出することを意味します。そうなるのは業績が上向いても雇用者報酬を増やさない企業の姿勢によるものです。春闘で賃上げが報じれれてますが、定期昇給込みですから、ベースアップ部分はインフレ率に追いつかず、実質賃金は減る一方です。つまり日本企業は雇用者報酬を減らしながら海外投資家に貢いでいると整理できる訳です。これじゃ低成長から抜け出せる訳がありません。

インフレ下の消費税收増は深刻な問題を提起します。インフレ税という言葉がありますが、インフレで恩恵を受けるのは債務者であり、債権者は損失を被る訳ですが、だから利上げはインフレ退治という側面に留まらず債権者保護の意味もある訳です。日本の最大の債務者は政府であり、日銀の異次元緩和で殆ど金利負担無しに債務を拡大している状況です。これつまり債権者である国民の負担の上に財政運営をしている状況ということです。

消費税増税が批判され消費減税を野党が主張する訳ですが、同じ野党が財政赤字の拡大やインフレを批判しないのはおかしなことです。インフレによる消費税収増は言ってみれば庶民への二重課税ってことです。ならば日銀の低金利政策の見直しこそが重要な筈ですが、詳細は省きますがその日銀は動くに動けない状況にあり、植田新総裁の慎重姿勢もあって具体的な動きはありません。

賃上げもそれ自体が次のインフレを呼び込むことになり所謂インフレスパイラルの入り口にある状況ということになると単純に喜べません。加えて賃上げの結果課税所得区分が上位へ移行する層が一定数いる訳です。その人たちにとっては増税になる訳です。高度成長期ならば定期的に税収区分の見直しによる所得減税が行われましたが、これは成長経済故にできたことで、今のような低成長下では税収の上ブレは、単純に決算剰余金を増やし、防衛費増の財源に転用されますから、多くは高価な米国製兵器の購入に使われ、行政サービスとして国民に戻ることはない訳です。

あと異次元の少子化対策と称する子育て支援策の財源を巡る議論で、社会保険料の流用が言われてますが、社会保険料は法改正を経ずに改定可能、つまり国会審議を経ずに増やせる財源ということは指摘しておきます。例えばコロナ禍で雇用調整助成金を大盤振舞いした結果積み立て不足になった雇用保険で保険料値上げという形で負担が来ます。雇用保険料は労使折半の負担ですから、雇用保険で手当てされた雇用調整助成金が企業や個人事業主に支払われた訳ですが、それなら敢えて雇用を守らず失業給付で直接失業者を救済した方が被雇用者側の負担は軽かったと言えます。つまり誤魔化された訳です。

この手の話はまだまだありますが、きりがないのでこの辺にしておきますが、実はここに日本の病理が隠れています。怪運国債依存症で取り上げた所得の恒等式「所得=消費+投資+純輸出+政府支出」の右辺の最終項の政府支出が税の再分配を示すことを述べましたが、格差を示すジニ係数が日本の場合再分配後の方が悪化していることが以前から言われております。つまり制度が寧ろ格差を助長している現実があります。

という訳で、税の議論でも取られることばかり言われ、それがきちんと再分配されて社会的厚生の向上に繋がる議論がなされない結果、国民はますます貧乏になるという構図です。主権者であり納税者でもある国民のこの自覚のなさが問題解決を困難にしています。その意味で例えば滋賀県の三日月知事が提唱する交通税の議論は注目されます。鉄道などの公共交通の維持に公的な支援が必要な現実があり、滋賀県の場合、具体的には近江鉄道の存続が当面の課題ですが、おそらく北陸新幹線の新大阪延伸で並行在来線として切り離しが言われる湖西線も視野に入っていると思います。

北陸新幹線自体は思い付きレベルの小浜京都ルートの実現可能性の問題もあり当面進展はなさそうですが、仮に米原ルートでも湖西線の切り離しは避けられないでしょうから、それに備えて財源確保ということもあるでしょう。滋賀県としてはJR西日本の路線として維持したい意向があるようですが、その際に上下分離などの対案を示す意味からも財源確保が必要ということでしょう。こうした幹線レベルの路線ですら公的支援なしには維持が難しい中で、やはりというかコロナの影響はより弱体なローカル私鉄にのしかかります。そんなニュースです。

ローカル鉄道「運賃上げ検討」2割どまり 顧客離れ懸念 全国95社調査:日本経済新聞
コロナ禍の乗客減に見舞われJRや大手私鉄では値上げが相次いでおりますが、元々過去の運賃値上げで運賃水準が高い状況の中小ローカル私鉄では乗客離れを助長しかねないという難しい局面にあります。既に自治体の補助金を受け取っている事業者も多数ありますが、条件が厳しく使途も制限されているなど使い勝手は必ずしも良くないということもあります。滋賀県の交通税の取り組みが注目される現状です。

鉄道への補助金の歴史は実は古く、幹線鉄道を想定した私設鉄道法に対してローカルな需要を想定した軽便鉄道法と軽便鉄道補助法がセットで成立して全国に軽便鉄道ブームが起きて政府が見直しを余儀なくされました。鉄道国有化後にほぼ適用事例のなくなった私設鉄道法と統合して地方鉄道法となったのちも地方鉄道補助法として存続しましたが、地方鉄道法では国の買収提案に応じる義務がありましたから、ある意味幹線ルートから外れたローカル線の建設に民間資金を使ったという面もあるでしょう。

そして地方レベルでは大阪市の市営地下鉄建設費を賄う目的で駅予定地周辺700m以内の地権者に受益者負担税を課した事例もあります。これらは建設目的であって維持目的ではないとはいえ、日本でもこうしたことは古くから行われてきたことも確かです。特に大阪市の事例は滋賀県の交通税の先取り的な面もある訳です。税に関する議論がこうした面に及ばない現状は、ただ人々を不幸にするだけとも言えます。という訳で税が課されることが問題なのではなく、払い損なのが問題なのです。そこが見えない議論は限界(horizon)があります。お粗末^_^;。

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Saturday, May 20, 2023

民主主義対権威主義では見えない本音

サミット始まりました。コロナ禍で避けていた遠出を解禁しようと思っていたタイミングで躊躇しております。金融危機は核より怖いから米国発の金融危機や財政上限問題も予断を許さない中で、G7で世界平和を話し合うって言いつつ、紛争当事国のウクライナのゼレンスキー大統領が訪日してG7会合に参加するという形で話題をさらいました。

日本の本音としては中国の台湾進攻リスクを訴えて対中デカップリングを演出したかったところですが、おそらく画を描いたのはフランスのマクロン大統領でしょう。マクロン氏は台湾問題は欧州にとって重要ではないと発言して批判を浴びましたが、ウクライナ問題は欧州にとってそこにある危機なんで、本音ではありますし、ある意味巻き返しを狙ったというのは穿った見方でしょうか。

フランスに限らず欧州諸国はアメリカの腰の引けたウクライナ支援には不満な一方、ロシア産石油やガスに依存してきた歴史から、経済制裁の反作用を受ける立場でもあり、より踏み込んだ軍事支援をしたいのが本音。ウクライナが要望するF16戦闘機の供与をアメリカは渋っておりますが、同盟国の供与を認める形で譲歩してドイツが訓練込みで供与するなど、立場の違いからいろいろ注文を付けている訳です。

アメリカが踏み込めないのはロシアとの核戦争回避の意図はあるものの、中国の台頭の方が気になるし、共和党など保守派の過剰に支援するなという圧力もあり、財政上限問題もその取引材料となっているということもあります。一方で対中強硬姿勢は与野党で意見が一致しやすい問題でもあり、ウクライナに深入りせず対中国にシフトしたいのが本音です。但しわかりにくいですが、少なくともバイデン政権で台湾有事は当面起きないと見ており、あくまでも中国が軍事力による現状変更に動くなら許さないという立場です。

一方中国は台湾独立派の政権掌握などで現状変更するようなら軍事オプションも否定しないよということで、狙いはあくまでも現状維持です。加えて台湾も独立派は一定数居るのは確かですが、中国との分断は台湾経済が成り立たなくなるという現実的な問題もあり、やはり現状維持が本音です。但し万が一に備えた軍備増強支援をアメリカに求めておりますが、アメリカは中国と直接対峙を避ける意味で訓練などは州兵と日本の自衛隊に委託するという流れです。その意味での重大ニュースがあります。

米機密文書流出、過大なアクセス権原因か 州兵の男逮捕:日本経済新聞
通信傍受でワシントン混線さす気球の地政学で指摘した米諜報機関の集めた秘密情報を空軍州兵が閲覧してSNSで拡散したというお粗末な情報漏洩事件ですが、何故か日本ではあまり大きく取り上げられておりません。しかも漏洩情報は多岐に亘り、ウクライナの弾薬の在庫とか中東情勢に関するものとかいろいろですが、その為にウクライナ政府が対ロシア反撃作戦を保留したといった影響が出ています。

加えて台湾有事の軍事作戦シミュレーションもあり、それによると中国は勝てないけれど台湾を援護する米軍と日本の自衛隊のダメージも大きいという結果です。当然中国はこれ見て今は動く時ではないことの裏付けを得たことになります。秘密情報とはいえ実際の軍事作戦では州兵や自衛隊に頼っているから、かなり広く閲覧権限を持たせていたってことでしょう。この辺アメリカらしいといえばらしいですが、怪運国債米国債と欧州劣つ後-!で指摘したように、西側諸国が弱って来るのを待つだけで中国は優位になる訳ですから。

ウクライナ戦争ではインドやブラジルなどが和平仲介に意欲を見せていますが、実現可能性は低いものの、ウクライナにコミットする西側諸国と異なった立場を表明しています。これには意味がありまして、対中であれ対ロであれデカップリングが進めば当事国は経済的に困窮しますが、中立の立場を採れば双方と取引していいとこどりできる訳で、資源輸入国のインドなどは典型ですが、ロシア産の安い石油を手に入れてインド国内で精製して割安な軽油を欧州などに売っている訳で、対ロシア経済制裁の実効性を損ないますが、漁夫の利を得られる現状は寧ろ好都合なんですね。これ中国も同じです。例えば小麦を米国産からロシア産に乗り換えるとかしてますが、中国は現状維持の狙いもあってロシアへの軍事支援は避けている訳です。

ですから世界的な地政学リスクに備えてグローバルサウスを味方につけるというのがG7広島サミットの狙いでしょうけど、そうはならない現実があります。ということでウクライナ戦争は膠着し、資源インフレは収まってきてはいるけれど高止まりは避けられず、それ故資源を輸入に頼る日本は貿易赤字から抜け出せず、国力を消耗することになります。

当然防衛費倍増は国民負担になりますが、一方で台湾有事の自衛隊の立ち位置は米州兵レベルの下請け組織に過ぎない訳で、日本より米国を守る弾除けでしかない訳ですね。故に米国は日本と韓国の核保有を認めない代わりに核の傘強化の口約束で拡大抑止を謳う訳です。ってことで、台湾有事で騒いでいるのはほぼ日本だけというのが実際なんで、地政学リスク拡大もマッチポンプの議論です。とはいえアメリカ様には逆らえないとばかりに防衛三文書を閣議決定した岸田首相は、盧溝橋事件の対応を誤り軍部の強行派に屈して兵員増派した一方、第二次国共合作で反転攻勢に出た国民党とガチンコ勝負になって戦争の泥沼に国を巻き込んだ近衛文麿の轍を踏んでるんじゃないかと危惧します。

で、近衛文麿はそれだけでも重大な誤りを犯した一方、1938年に国家総動員法を成立させて産業再編に手を突っ込んだという意味でも罪深いところです。この結果電力国家管理で国策会社の日本発送電と9つの地域配電会社に再編された電力業界は、戦後処理でGHQの日本発送電解散命令を受けて発送電一体の9電力会社に再編され、強固な地域独占企業となって現在に至ります。その結果原発事故起こすわ原発自治体と不適切な関係を持つわ再生エネ発電の接続拒否するわ自由化で新規参入した新電力各社の顧客情報を閲覧して不正競争するわやりたい放題。日本の電力料金が高いのは原発動かさないからではなくこの地域独占体制故です。

こうしたことは他業界でも多数ありますが、鉄道業界では陸上交通事業調整法による地方鉄道の地域統合と、一方で産業政策上重要な路線の国有化という所謂戦時買収で国鉄に編入された路線も多数あります。陸上交通事業調整法は戦時立法と見做されて、統合主体となった東京急行電鉄が大東急解体で小田急電鉄、京王帝都電鉄、京浜急行電鉄が分離独立し、関西でも京阪神急行電鉄から京阪電気鉄道が分離、近畿日本鉄道から南海電気鉄道が分離(正確には別会社の高野山電気鉄道へ譲渡)といったことが起き、それが多少の変化はありますが現在の大手私鉄を形成している訳です。

そしてこの体制は村上ファンドに狙われた阪神電気鉄道を阪急電鉄が救済して阪急阪神HDとなった以外は変わっておりません。つまり現状維持の力が働いている訳です。地方では福岡県や富山県のように1県1社に近い統合が実現したところは少数派で、結局多数のローカル私鉄が存続することになりますが、産業構造の変化や都市部への人口移動に伴う過疎化でで多くの路線が廃止されています。電力と比べると交通事業への国の関与は手薄だったってことです。

その流れで言えば国鉄改革で誕生した旅客6社と貨物会社のうち上場した旅客4社を除くJR北海道、JR四国、JR貨物への国に支援は見込み薄でしょう。但し変化の兆しもあり、例えばJR九州肥薩線の復旧には河川予算や道路予算の投入が決まっており、JR九州の負担を軽減しています。交通事業基本法や地域公共交通活性化法などの法整備もあって、地域の関与次第で国の予算がつくようにはなっております。例えばJR東日本只見線の復旧は更に自治体による上下分離スキームで復旧が実現してます。

その意味でJR北海道の苦境に対する北海道庁の冷淡さは疑問ですし、北海道新幹線並行在来線問題の膠着もやりようはあるだろうにと思います。そして廃止が宣告された函館本線山線の小樽―余市間では地域から反対の声が上がっております。札幌都市圏の末端であり、やりようによっては存続可能な輸送密度がある区間でもあります。

滋賀県の三日月知事が打ち出す交通税構想など過酷な現実を踏まえた変化が見られます。野口悠紀雄一橋大学名誉教授が国家総動員法に始まる政治体制は政府関与の資本主義計画経済体制として戦後も存続し、高度成長期には歯車がかみ合ってうまくいったものの、その成功体験故に抜け出せないのが今の日本ということです。ってことでキッシーが令和の近衛文麿じゃ期待できないですね。

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Sunday, May 14, 2023

帰省緩和のゴールデンウィーク

ゴールデンウィークの国内旅行は盛況でした。

GWの国内旅行、コロナ前並みに回復 近場より遠方に:日本経済新聞
JR各社で18年比9割超まで回復しており、それを踏まえてかJR各社の株価も上昇局面にあります。新幹線の混雑が報じられた一方、箱根や江の島などの近場は減っているという対照的な動きが見られ、長距離シフトが鮮明です。

コロナで自粛されていた帰省がトレンドだったようで、長距離利用が増えれば流動が輻輳しますから混雑に繋がりますし、JRにとっては客単価の高い利用客が多かったという意味でホクホクでしょう。一方で近場の観光地は振るわず、在来線特急の利用は伸び悩みました。例外は成田エクスプレスですが、航空需要のJ回復の結果ですから、長距離シフトのトレンドの範疇です。

その一方で高速道路はまれにみる大渋滞で、例えば関越道で練馬から藤岡まで渋滞が繋がったという前代未聞のことまで起きました。原油価格が下がって政府補助金の効果もあってガソリン価格がやや下がった結果、需要がマイカーに流れたと考えられます。ただ平日のビジネス需要の戻りは鈍く、GWの混雑を東海道新幹線の輸送力逼迫に結びつけるリニア待望論は根拠がありません。GXに逆行したGW^_^;。

米地銀パックウエスト株2割安 預金1割流出で警戒:日本経済新聞
米地銀を巡る金融不安は続きます。カリフォルニア州地銀パックウエストに市場の関心が集まります。IT集積地故に個人も企業もキャッシュリッチで預金が集まりやすいが故に、資産規模が膨張しがちで運用先に苦労するのはSVBやFRCと同じです。故に市場の不安は消えず、預金保険でカバーされる限度額を超えた口座が多く、snsで噂が拡散されやすく、加えてネットバンキングもITリテラシーの高い預金者が多いから、預金流出が早く進むということもあります。政府の預金全額保護もどこまで可能かが試されます。
バイデン大統領、G7サミット「オンライン出席の可能性」:日本経済新聞
地銀破綻以上に混乱の種となる米財政の崖問題ですが、米政府は公式に否定したものの、こういう報道が出てくること自体が、デフォルト回避の協議が膠着していることを示します。そりゃサミットどころじゃないわな。
岸田文雄首相、タイム誌表紙に 「日本の選択」テーマ:日本経済新聞
怪運国債市場の蓋で指摘したように、日本の防衛三文書でアメリカの拡大抑止方針に満額回答してバイデン大統領の外交成果を示した訳ですから、サミットには参加したい筈ですが、一方で日本の方針転換に違和感を持つ報道がアメリカでもされているということですね。外務省がクレームを入れてタイトルは変わったみたいですが、日本が後戻りできないことにコミットしたことに変わりはありません。
富士通系サービスに障害 コンビニで他人の住民票発行:日本経済新聞
マイナ保険証、別人情報とひも付け事例 「入力時ミス」:日本経済新聞
国内ではマイナンバーカードを巡るニュースが立て続けです。栗鼠殺し?で取り上げたマイナンバーカードの問題点がそのまんま出てきました。コンビニでの証明書発行のトラブルはシステム自体の問題ですし、マイナ保険証の紐付けで入力ミスってことは手入力してたってことですが、システムの最大のセキュリティホールは人という常識に反します。

マイナンバー自体を個人情報の物理的アクセスキーにするだけなら、シンプルで安全なものになるのに、わざわざ金かけて複雑で使いにくくセキュリティも問題という出来損ないを作っちゃったってことです。加えて他人になりすましてマイナンバーカードを取得した事例も報じられております。マイナンバーを示すバーコードだけのカードを本人が携帯して管理するシステムなら、番号のハッキングに注意するだけでなりすましも防げます。いいとこなしのマイナンバーカードです。

ま、そもそも政府が本気でDX進めたいなら、まずは各省庁の公開データの見直しからやるべきでしょう。「神エクセル」とかpdf公開とか、見栄えを整えることに腐心するよりも、汎用性の高いcsvファイルで公開してくれれば、ダウンロードも短時間で済むしエクセルに限らずアクセスその他のデータベースソフトにユーザーが直接読み込ませることで、様々な分析に使えるようにすることで、行政データを所謂ビッグデータとして活用できるようになる訳です。

コロナのHERSYSYでも言えますが、入力項目が多過ぎて保健所作業の手間が拡大して実数の把握には役立たなかったなどの問題もあります。COCOAの不始末もありました。つまり日本政府はDXに関してやることなすこと的外ればかりということです。

平成金融危機出口へ SBI、「新生銀行」を非上場化 瑕疵担保のツケ解消へ一歩:日本経済新聞
日本長期信用銀行と日本債券信用銀行の救済に行き詰った小渕政権で、当時の民主党が提案した金融再生法っを丸呑みして長銀と日債銀の破綻処理が行われました。長銀は米ファンドのリップルウッドHDが引き受けて新生銀行となり、日債銀はソフトバンクが引き受けてあおぞら銀行になりましたが、リップルウッドとの契約で二次損失対応として瑕疵担保特約を入れたことで国会が紛糾しました。

金融再生法で7兆円の公的資金が用意され長銀と日債銀の破綻処理に使われましたが、破綻処理過程で二次損失が発生した場合の損失補償を民法の瑕疵担保条項を準用した結果、リップルウッドはリスク負担なしに長銀を手に入れて利益確定の末に再上場で売り抜けて大儲け。一方優先株として投入された公的資金の返済は進まず今に至った訳ですが、紆余曲折の末筆頭株主となったSBIが新生銀行をTOBで完全子会社化することで、利益剰余金を配当に回さずに優先株消却しようということですね。

そもそも長銀の資産査定が厳格ならば二次損失は無視できた筈ですし、リップルウッドの要求を却下できた筈です。手詰まりを野党提案で突破した小渕政権の柔軟さは評価できますが、執行段階で骨抜きにして後始末に30年以上かかってしまったことに、所謂失われた30年の病巣が見えます。DXの不始末も同じ世界線の出来事に見えます。リニアも同じかな。

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Saturday, May 06, 2023

失敗に学ばない国のGW

今年のゴールデンウィークも終盤ですが、今年は人が出てますね。新幹線の混雑が報じられてますが、それでも18年比8割程度で、やはり完全に元に戻ることはなさそうです。逆にこれだけ人が動き密状態が多発しており、事後のコロナ感染拡大が心配されます。GW前に規制を緩めてGWで感染拡大という昨年一昨年のトレンドを踏襲する可能性はあります。

だから規制を緩めるべきでないということではなく、コロナの危険性はあるとしても、その性質は知られており、注意点も共有されてきてますから、普通の病気としてウィルスと共生する段階にはあると思います。その意味で感染症法上の5類相当への移行は良いのですが、取扱経験のない医療機関での院内感染のリスクは寧ろ増えるということも注意点です。病院に行くときはマスクはマストと考えるべきでしょう。一方で災害です。

石川地震の被害確認急ぐ 相次ぐ揺れ計51回に:日本経済新聞
石川県珠洲市で震度6強、マグニチュード6.5という地震ですが、余震が続いており、熊本地震のように余震の方が強いケースもあり得ますし、地盤が緩んでいる上に、雨の予報が出ていて地滑りなどの恐れもあります。警戒を怠れません。

能登半島の群発地震は昨今目立ちますが、そんな場所に珠洲原発の計画があって、地元の反対でとん挫しましたが、結果的に良かったと言えます。能登半島には志賀原発1,2号機もありますが、こちらも3・11前に1号機はトラブルによる運転停止、2号機は定期点検中だったことで、以後再稼働の為に規制委の審査を受けていますが、敷地内に活断層の疑いがある亀裂が見つかり、審査が通らず運転停止が継続されていたことは幸いです。てことで失敗に学ばない国の続編です。尚、GWはグリーンウォッシュの略で、政府が打ち出すGX戦略はXの手前のWに留まるということです。

活断層ならば1号機はアウト、2号機も耐震強化が必要ですが、地盤の亀裂が活断層ではない証明は所謂悪魔の証明ですから、規制委も門前払いすれば良いものを継続審査している訳です。これ成長しないこどもの日本で取り上げた高浜4号機や敦賀第二、やはり審査が滞っている柏崎刈羽と同じ構図で、再稼働を認めたいのが本音と見ることができます。ならば電力会社としては誤魔化してでも審査をクリアすれば良いとなる訳ですね。

という訳で閣議決定されたGX基本方針で打ち出された原発稼働期間40年の規制緩和で、特に運転停止中の期間をカウントしないことになりますが、これ何らかの理由で審査が滞っている原発ほど長期間稼働となる訳で、危険極まりないものです。加えて言えばそもそも原発が動いているのは関電、中国電、四国電、九電の4社にのみで、他の5社は原発が動いていないけれど、需要を満たしている訳で、例えば東電エリアでは太陽光などの再エネ電力を揚水発電で出力調整して対応している訳で、原発が動いていないから可能な方法です。同じく原発が動いていない中部電ですが、ちょっとした異変がありました。

中部電力が出力制御を実施 三大都市圏で初:日本経済新聞
製造業の空洞化が進む東電エリアと違って一大製造業集積のある中部電エリアでも電力が余って再エネ電力の受け入れを制限しました。ま、考えてみれば北陸電エリアも電力消費の多いアルミ関連産業の集積地ですし、元々水力資源の豊富な地域でもありますし、電力不足を理由に原発動かすという理屈は成り立ちません。燃料費の高騰による採算悪化が本音です。

加えて言えば欧州のGXの本命は省電力であり、広域送電網と蓄電池や水素を利用した出力調整であり、ウクライナ問題に絡むロシア産原油やガスが利用できない現状をそれで乗り切ろうとしています。フランスが原発見直しを打ち出してますが、これも50基ほどある既存原発の老朽化でトラブルが多発し、電力の安定供給が厳しくなっていることによるもので、日本で言われるリプレースを進めるという話です。故に再エネに頼るドイツに回せる余力も乏しくなっており「ドイツはフランスから原発の電力を買っている」というのはウソです。

本気でGXに取り組むなら燃料高対策で石油元売りに補助金を出すことを止めてガソリン価格の上昇を容認することで、鉄道など公共交通へシフトさせる方が効果がありますし、実際石油ショックの時にはそうしたシフトが起きています。またそもそも製造業の海外シフトで需要そのものが減っている状況ですから、無理して原発を動かす必要性は乏しいのが実際です。中部電で言えば再エネ制限して浜岡原発を動かすのはおかしい訳です。

省エネという意味では鉄軌道式の3倍と言われるリニアの電力消費は問題です。ただでさえ人口減少で需要の先行きが不透明なんですから、無理に作る意味は乏しいということになります。それから敦賀以西の北陸新幹線も、建設距離の短い米原ルートが省エネの観点からもベストです。東海道新幹線との保安装置の違いは、ソフトで読み替えることで解決可能ですし、東海道新幹線のダイヤの余力も、名古屋以西は余裕がありますし、場合によってはこだまを名古屋止まりにして開けるとか、ボトルネックとなる大阪運転所(鳥飼)―新大阪間の線増などで対応可能です。またJR西日本の営業キロが短く不利というのは、整備新幹線の場合受益の範囲でのリース料負担というルールで実質変わりません。整備区間の距離が短いことで公金の投入を減らせる効果はありますが。

フランスでは鉄道と重複する国内線航空に規制をかけるなどして鉄道シフトを進めています。こうした実質的な対策を積み重ねて対応することこそ重要なんで、その意味でGXは本来鉄道には追い風になる筈ですがね。

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Wednesday, May 03, 2023

スーパープライムショックの予兆

木から落ちたサルで取り上げたChatGPTですが、憲法上の課題もあります。

進化するAI、憲法揺らす ChatGPTが改憲の論点に 憲法記念日特集:日本経済新聞
具体的には以下の通りです。
13条:幸福追求権、35条:人権の保護→大量の個人データ取得によるプライバシー侵害
前文:国民主権、41条:国会は国権の最高機関→国会審議の形骸化
19条:思想、良心の自由、21条:集会、結社、言論の自由→エコーチェンバーやディープフェイクで個人の意思決定に歪み
25条:健康で文化的な最低限の生活営む権利→デジタルデバイド拡大
今でも国会審議は質問の事前通告に基づいて官僚が作成した答弁書を閣僚が読み上げるだけだったりして、熟議とは程遠いですが、AIで答弁書自動生成となればますます形骸化が進み、実質立法府の意思決定がAIに委ねられてしまうことにもなりかねません。また国家機密に属するデータをどう扱うかなども問題です。上記エントリーで指摘した著作権の保護も問題を孕みますし、加えて期限切れの著作権フリー素材であっても、例えば夏目漱石の文体を学習したAIに小説書かせて「未発表原稿発見!」といった使い方も可能性がある訳で、所謂ディープフェイクの影響は選挙介入、歴史や文化の捏造、本物と見分けのつかない詐欺サイトや詐欺メールなど、現実的に多大な影響があります。本気で規制を考えないとヤバいです。

憲法繋がりであと1つ。災害や疫病などで国会議員の任期延長と法律に準ずる内閣政令発出を可能とする緊急事態条項ですが、国会の会期を延長すれば任期切れでも国会議員の身分は維持されます。そこで熟議を尽くして緊急事態に当たれば良いし、例えば大災害、戦争、疫病などはそれぞれ個別具体法で内閣の権限を定めれば済むことです。憲法改正の必要はありません。必要性を主張する人たちは別の意図があるのでしょう。昨今憲法改正を実施た諸国は圧倒的に権威主義国家が多いことも指摘しておきます。てことで本題です。

米地銀FRC破綻、JPモルガンが買収 過去2番目の規模:日本経済新聞
金融危機は核より怖いで取り上げたシリコンバレー銀行やシグネチャー銀行の破綻時から次はここかと言われていたのがカリフォルニア州のファースト・リパブリック銀行(FRC)でした。当時大手銀行がFRCに預金して支援してましたが、預金流出が止まらず、米当局の迅速な対応で預金保護と大手行JPモルガンへの併合が週末の限られた時間で実行に移され、とりあえずの混乱は回避されました。

FRCはSVBとは違った意味でIT産業との関連が深い銀行です。というのは、預金者や住宅ローンユーザーにIT長者が多く、殆どの預金者が米預金保険機構による保護上限の25万ドル’3千万円)を超えているため、上記のように政府は混乱回避の為に預金全額保護を打ち出さざるを得なかったのですが、保護の必要性が乏しい富裕層の救済となることから、この対応はに国内世論も割れてます。当然民主党左派からの不満もありますが、それ以上にトランプの影響で反エリート主義に染まった野党共和党のネガティブキャンペーンもある訳で、最悪トランプ復活を助ける可能性もあります。

FRCは例えばメタのCEOマーク・ザッカーバーグ氏が住宅ローンを利用したとか、IT長者の取引が多いのですが、理に敏い彼らに選ばれるために預金金利を他行より高めにして、一方住宅ローン金利は低めにしてという形で差別化していた訳ですが、圧倒的な預金量と顧客の信用力故にそんなことが可能だった訳です。FRBの金融緩和や低金利政策も追い風でした。しかしインフレでFRBが金融政策を見直し利上げにシフトした結果、預金金利も住宅ローン金利も上昇した結果、FRCの優位性が損なわれた形となり、元々理に敏いIT長者が離れることになった訳です。FRBがFRCを追い込んだ訳です^_^;。

という訳で、IT長者などの優良顧客(スーパープライム層)を引き付けることが優位にならないという意味で教訓となりますし、保守派の反エリート主義とリベラル派の自由主義尊重という対立でアメリカの政治状況も複雑さを増します。わかりにくいのはアメリカの言う自由主義は経済的自由が優先される傾向が強く、これは伝統的保守派の立場でもあり、故に民主党左派の人権重視路線とは必ずしも相性が良くないということですね。故に国民負担で富裕層を助けることへの抵抗感は左右問わず強い訳です。サブプライムショックがリーマンショックの先駆けとなったように、大規模な金融危機の芽は消えておりません。

これ対岸の火事ではなく、日本でも違った形で表れていることでもあります。東京五輪の落とし物で取り上げたように、政治と行政と企業と地権者の談合の錬金術で潤っているスーパープライム層は存在する訳で、アメリカ以上に直接的に公金を食い物にするタックスイーターが現れている訳で、利権漁りという意味で日本の方が病んでいると言えます。

そして異次元緩和の影響もあって不動産価格の上昇が止まらずバブルとなっており、今や都心に限らず郊外億ションも珍しくない状況で、マイホームが手に入りにくい状況です。地価上昇は日銀の金融緩和によるローン金利の低下と円安による海外投資家の不動産購入の両面で押し上げられており、この傾向は当面続くと考えられます。となると家が買えるのは外国人を含むスーパープライム層に限られる時代となり、アメリカのように彼らの行動変化で経済に激震が走る事態もあり得ます。これはまた地価に裏付けられた大規模再開発のインセンティブも止まらないということです、そんな観点からこれを取り上げます。

JR東日本、品川を「東京の玄関」に 不動産で稼ぐ ビッグBiz解剖㊦:日本経済新聞
JR東日本の変化を取り上げた連載記事で、上でITシフト、中で自動化などを取り上げ、最後に不動産事業を取り上げたものですが、高輪ゲートウエーに限らずJR東日本絡みの再開発事業は目白押しで、例えば渋谷は現在進行中ですし、浜松町や新宿などの再開発案件目白押しで、故に昨今のJR東日本の株価は地価動向に連動した動きを見せております。

これリニアちゃん気をつけてのJR東海とは異なったリスクを抱え込んでいるという評価が可能です。いずれ日本でもスーパープライムショックはやって来る可能性は大いにあります。

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