民主主義対権威主義では見えない本音
サミット始まりました。コロナ禍で避けていた遠出を解禁しようと思っていたタイミングで躊躇しております。金融危機は核より怖いから米国発の金融危機や財政上限問題も予断を許さない中で、G7で世界平和を話し合うって言いつつ、紛争当事国のウクライナのゼレンスキー大統領が訪日してG7会合に参加するという形で話題をさらいました。
日本の本音としては中国の台湾進攻リスクを訴えて対中デカップリングを演出したかったところですが、おそらく画を描いたのはフランスのマクロン大統領でしょう。マクロン氏は台湾問題は欧州にとって重要ではないと発言して批判を浴びましたが、ウクライナ問題は欧州にとってそこにある危機なんで、本音ではありますし、ある意味巻き返しを狙ったというのは穿った見方でしょうか。
フランスに限らず欧州諸国はアメリカの腰の引けたウクライナ支援には不満な一方、ロシア産石油やガスに依存してきた歴史から、経済制裁の反作用を受ける立場でもあり、より踏み込んだ軍事支援をしたいのが本音。ウクライナが要望するF16戦闘機の供与をアメリカは渋っておりますが、同盟国の供与を認める形で譲歩してドイツが訓練込みで供与するなど、立場の違いからいろいろ注文を付けている訳です。
アメリカが踏み込めないのはロシアとの核戦争回避の意図はあるものの、中国の台頭の方が気になるし、共和党など保守派の過剰に支援するなという圧力もあり、財政上限問題もその取引材料となっているということもあります。一方で対中強硬姿勢は与野党で意見が一致しやすい問題でもあり、ウクライナに深入りせず対中国にシフトしたいのが本音です。但しわかりにくいですが、少なくともバイデン政権で台湾有事は当面起きないと見ており、あくまでも中国が軍事力による現状変更に動くなら許さないという立場です。
一方中国は台湾独立派の政権掌握などで現状変更するようなら軍事オプションも否定しないよということで、狙いはあくまでも現状維持です。加えて台湾も独立派は一定数居るのは確かですが、中国との分断は台湾経済が成り立たなくなるという現実的な問題もあり、やはり現状維持が本音です。但し万が一に備えた軍備増強支援をアメリカに求めておりますが、アメリカは中国と直接対峙を避ける意味で訓練などは州兵と日本の自衛隊に委託するという流れです。その意味での重大ニュースがあります。
米機密文書流出、過大なアクセス権原因か 州兵の男逮捕:日本経済新聞通信傍受でワシントン混線さすや気球の地政学で指摘した米諜報機関の集めた秘密情報を空軍州兵が閲覧してSNSで拡散したというお粗末な情報漏洩事件ですが、何故か日本ではあまり大きく取り上げられておりません。しかも漏洩情報は多岐に亘り、ウクライナの弾薬の在庫とか中東情勢に関するものとかいろいろですが、その為にウクライナ政府が対ロシア反撃作戦を保留したといった影響が出ています。
加えて台湾有事の軍事作戦シミュレーションもあり、それによると中国は勝てないけれど台湾を援護する米軍と日本の自衛隊のダメージも大きいという結果です。当然中国はこれ見て今は動く時ではないことの裏付けを得たことになります。秘密情報とはいえ実際の軍事作戦では州兵や自衛隊に頼っているから、かなり広く閲覧権限を持たせていたってことでしょう。この辺アメリカらしいといえばらしいですが、怪運国債米国債と欧州劣つ後-!で指摘したように、西側諸国が弱って来るのを待つだけで中国は優位になる訳ですから。
ウクライナ戦争ではインドやブラジルなどが和平仲介に意欲を見せていますが、実現可能性は低いものの、ウクライナにコミットする西側諸国と異なった立場を表明しています。これには意味がありまして、対中であれ対ロであれデカップリングが進めば当事国は経済的に困窮しますが、中立の立場を採れば双方と取引していいとこどりできる訳で、資源輸入国のインドなどは典型ですが、ロシア産の安い石油を手に入れてインド国内で精製して割安な軽油を欧州などに売っている訳で、対ロシア経済制裁の実効性を損ないますが、漁夫の利を得られる現状は寧ろ好都合なんですね。これ中国も同じです。例えば小麦を米国産からロシア産に乗り換えるとかしてますが、中国は現状維持の狙いもあってロシアへの軍事支援は避けている訳です。
ですから世界的な地政学リスクに備えてグローバルサウスを味方につけるというのがG7広島サミットの狙いでしょうけど、そうはならない現実があります。ということでウクライナ戦争は膠着し、資源インフレは収まってきてはいるけれど高止まりは避けられず、それ故資源を輸入に頼る日本は貿易赤字から抜け出せず、国力を消耗することになります。
当然防衛費倍増は国民負担になりますが、一方で台湾有事の自衛隊の立ち位置は米州兵レベルの下請け組織に過ぎない訳で、日本より米国を守る弾除けでしかない訳ですね。故に米国は日本と韓国の核保有を認めない代わりに核の傘強化の口約束で拡大抑止を謳う訳です。ってことで、台湾有事で騒いでいるのはほぼ日本だけというのが実際なんで、地政学リスク拡大もマッチポンプの議論です。とはいえアメリカ様には逆らえないとばかりに防衛三文書を閣議決定した岸田首相は、盧溝橋事件の対応を誤り軍部の強行派に屈して兵員増派した一方、第二次国共合作で反転攻勢に出た国民党とガチンコ勝負になって戦争の泥沼に国を巻き込んだ近衛文麿の轍を踏んでるんじゃないかと危惧します。
で、近衛文麿はそれだけでも重大な誤りを犯した一方、1938年に国家総動員法を成立させて産業再編に手を突っ込んだという意味でも罪深いところです。この結果電力国家管理で国策会社の日本発送電と9つの地域配電会社に再編された電力業界は、戦後処理でGHQの日本発送電解散命令を受けて発送電一体の9電力会社に再編され、強固な地域独占企業となって現在に至ります。その結果原発事故起こすわ原発自治体と不適切な関係を持つわ再生エネ発電の接続拒否するわ自由化で新規参入した新電力各社の顧客情報を閲覧して不正競争するわやりたい放題。日本の電力料金が高いのは原発動かさないからではなくこの地域独占体制故です。
こうしたことは他業界でも多数ありますが、鉄道業界では陸上交通事業調整法による地方鉄道の地域統合と、一方で産業政策上重要な路線の国有化という所謂戦時買収で国鉄に編入された路線も多数あります。陸上交通事業調整法は戦時立法と見做されて、統合主体となった東京急行電鉄が大東急解体で小田急電鉄、京王帝都電鉄、京浜急行電鉄が分離独立し、関西でも京阪神急行電鉄から京阪電気鉄道が分離、近畿日本鉄道から南海電気鉄道が分離(正確には別会社の高野山電気鉄道へ譲渡)といったことが起き、それが多少の変化はありますが現在の大手私鉄を形成している訳です。
そしてこの体制は村上ファンドに狙われた阪神電気鉄道を阪急電鉄が救済して阪急阪神HDとなった以外は変わっておりません。つまり現状維持の力が働いている訳です。地方では福岡県や富山県のように1県1社に近い統合が実現したところは少数派で、結局多数のローカル私鉄が存続することになりますが、産業構造の変化や都市部への人口移動に伴う過疎化でで多くの路線が廃止されています。電力と比べると交通事業への国の関与は手薄だったってことです。
その流れで言えば国鉄改革で誕生した旅客6社と貨物会社のうち上場した旅客4社を除くJR北海道、JR四国、JR貨物への国に支援は見込み薄でしょう。但し変化の兆しもあり、例えばJR九州肥薩線の復旧には河川予算や道路予算の投入が決まっており、JR九州の負担を軽減しています。交通事業基本法や地域公共交通活性化法などの法整備もあって、地域の関与次第で国の予算がつくようにはなっております。例えばJR東日本只見線の復旧は更に自治体による上下分離スキームで復旧が実現してます。
その意味でJR北海道の苦境に対する北海道庁の冷淡さは疑問ですし、北海道新幹線並行在来線問題の膠着もやりようはあるだろうにと思います。そして廃止が宣告された函館本線山線の小樽―余市間では地域から反対の声が上がっております。札幌都市圏の末端であり、やりようによっては存続可能な輸送密度がある区間でもあります。
滋賀県の三日月知事が打ち出す交通税構想など過酷な現実を踏まえた変化が見られます。野口悠紀雄一橋大学名誉教授が国家総動員法に始まる政治体制は政府関与の資本主義計画経済体制として戦後も存続し、高度成長期には歯車がかみ合ってうまくいったものの、その成功体験故に抜け出せないのが今の日本ということです。ってことでキッシーが令和の近衛文麿じゃ期待できないですね。
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