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June 2023

Sunday, June 25, 2023

鬼が笑う2024年

今年10月からのインボイス制度を巡り、声優やクリエーターなどフリーランスからの反対の声が出ています。売上1,000万円未満の非課税事業者の所謂益税問題も解消が狙いですが、それ自体は消費税導入時からの制度上の積み残しですから、見直しはいずれ必要なことではあります。加えて食料品等の軽減税率導入で、経理処理が複雑になったこともあり、やっと制度見直しとなった訳ですが、問題は別のところにあります。

1つはフリーランスと呼ばれる零細個人事業主の問題ですが、場合によっては契約書も交わさず報酬も曖昧だったりという弱い立場にあることがあり、インボイス制度導入で課税事業者を選択しなければ取引から排除される可能性があります。勿論インボイス制度自体の狙いが非課税事業者の排除にある訳ですが、問題は課税義務を負うにはあまりに弱い経済主体であることで、課税義務が生じたからといって取引先に報酬の増額を要求しにくいことがあります。

この辺欧州の付加価値税でうまくいっているからということで正当化できない問題でして、何故ならば欧州では強固な産業別、職業別組合があり、中小零細企業に加えて個人事業主も加盟していて、中央労使交渉の結果の順守が求められますから、制度的に保護されている訳で、日本で同じことをやってもフリーランスを保護する仕組みがないから泣き寝入りの現実がある訳です。

加えて電帳法対応を求められ、仮に課税事業者を選択して税額を明示した適格請求書を発行しても、その控えを電子帳簿として7年間保管する義務を負います。また仕入れや経費で受け取ったインボイスもスキャナーで電子化して同様に7年保管を求められますが、当然ながらそれに伴うIT機器の購入やセキュリティ対策も求められ、それらがコスト増要因となる訳です。つまり納税するためにコスト負担が生じる訳です。

大企業ならばクラウドサービスで対応可能な事でも零細企業や個人事業主ではハードルが高い訳です。これもやはり紙で保管が可能な欧州とは事情が異なります。真面目に納税しようとすると壁に突き当たるって冗談みたいな状況です。まるでデジ足らん国のデジタルジャック(DX)を地で行く話です。来年秋の紙の保険証廃止に通じる愚策です。

一方で東京都が打ち出した新築家屋の太陽光発電設置義務では、当然一般住宅からの電力調達が起きる訳ですが、住宅所有者が課税事業者登録するとは思えませんが、そこは再エネ支援金として電気料金に上乗せされますから、電力会社は無傷で契約者に価格転嫁できてしまいます。再エネ活用は大事ですが、こうした運用面で大企業ほど優遇される仕組みは問題です。

来年の2024年はいろいろな意味でこの国の進路に重大な障害が生じるという意味で、覚悟しといた方がよさそうです。まずはインフレですが、3%を超えるインフレが依然として続いてますが、日銀が政策を見直す気配はありません。少なくともYCCの停止は最低限必要です。というのはYCCが続く限り日米金利差による円安が続き、輸入物価を押し上げますから、インフレは止まりません。

例えば海外勢の日本国債購入が増えてますが、円安で買いやすくなっていて、為替予約でリスクヘッジすることで、実質円資金を借りたのと同じことになり、日本国債を担保に外貨を調達して運用すれば、実質的に金利差をさや取り出来てしまう訳で、キャリートレードと同じです。長期金利を低いまま放置すればこうして簡単に稼げる訳で、その結果日本の富が海外に染み出す訳です。

その一方で実需の貿易決済では円安で輸入物価が上昇し、日本企業は価格転嫁を進めてますから、結果的にインフレは止まらない訳です。そしてインフレは見かけ上の売上を増やしますし、便乗値上げも含めて価格転嫁することで企業は儲けられる一方、インフレ率に届かないベースアップで実質賃金は下がる一方です。売り上げや企業利益だけ見ていると一見景気が良いように見えますが、国民の窮乏化は進む訳です。

そして物流2024年問題が控えます。トラックドライバーなど働き方改革で例外とされた物流や建設などの猶予期間が終了する結果、今でも深刻なドライバー不足が助長されると言われています。しかしこれ変なのは時短によるドライバーの収入を補償する話は出てこないんですよね。建設も同じですが、多重下請けで安値受注が横行している結果、長時間働かないと稼げないというドライバーの置かれた状況を悪化させますから、時短によって廃業するドライバーも多数出ると考えられます。つまりトラック依存の物流システムが維持できなくなるということです。トラック業界の様々な問題を解決することなしにはどうにもなりません。そんなときに起きた事故のニュースです。

バスとトラック正面衝突、乗客ら5人死亡 北海道・八雲:日本経済新聞
事故原因の解明はこれからですが、中央線オーバーのトラック側の重過失は間違いないところで、今後の捜査でドライバーの勤務状況などが明らかになると思います。加えてこの区間は長い直線路で速度超過しやすく、風景が単調で睡眠を誘いやすいという事故多発地帯とも報じられており、特段の対策は取られていなかったということです。尚、バスを運行する北都交通(札幌市)は空港リムジンバスや都市間高速バスを長年手掛けており、信頼できる事業者です。

例えばハンプと呼ばれる舗装面のコブを設置するとか、センサーで速度超過を感知して警報を鳴らすとか、敢えてクランクカーブを設けて注意喚起するとか、道路側の対策は必要でしょう。しかしここは北海道新幹線の並行在来線区間として存廃が協議されている区間でもあります。仮に鉄道貨物輸送が存続できなければ道路交通の負荷が高まりトラック便で吸収することは不可能です。故に鉄道貨物存続が必要不可欠ですが、一方で青函トンネル区間の新幹線の速度制限問題から貨物廃止も言われます。

こうしたことから国として何らかの対策を打ち出す必要がありますが、整備新幹線は地元とJRの問題として国は対応に消極的です。確かに地域が整備新幹線を欲しがらなければ起きなかった問題ではありますが、ことここに及んでそんなお題目を唱えて鉄道貨物を衰退させて北海道経済に打撃を与え、またトラックの増加で道路交通をマヒさせる可能性、更にトラックのヤミ残業で過労運転が横行し事故多発など、リスク要因は挙げればきりがありません。加えて北海道庁もこの問題では動きが鈍いということもあります。

ちなみに貨物列車1列車の輸送能力は10tトラック40台相当ですから、鉄道貨物を止めた時のトラック輸送にかかる負荷は大きくなります。逆に言えば鉄道貨物に集約できればトラック輸送の負荷を大きく減らせるということでもあります。ということで、来年に限らない先の話ですが、鬼が笑うぞ!

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Saturday, June 17, 2023

デジ足らん国のデジタルジャック(DX)

栗鼠殺し?帰省緩和のゴールデンウィークで取り上げたマイナンバーカードが絶賛炎上中です。問題点は明らかで、システムがポンコツ過ぎることに尽きます。マイナンバーそのものは個人情報といっても直接紐づけられている個人データは氏名、住所、性別、生年月日のみで、法律で税務申告、社会保障、災害対策に使われることが規定されているのみです。しかしマイナンバーカードはそれとは別物でICチップで様々な機能を紐づけられる仕様で、しかもマイナポータルへのアクセスデータは企業にも開放されるという代物です。今回の法改正で省令改正で可能になっており、国会審議が不要になります。

はっきり言いますがCOCOAやHERSYS同様システム開発手前の要件定義がいい加減で個人情報ダダ洩れです。しかも既に他人に成り済ましてマイナンバーカードを作って悪用したケースも報じられております。カードを作らず番号を他人に見せずにするしか自衛手段はありません。マイナンバー自体は本人確認のツールの1つに過ぎず、提示も任意ですから、従来通り免許証や健康保険証、母子手帳、パスポートなどでも構いません。

それで国民の不安から内閣支持率が下がって、報道では今国会での解散がなくなった訳ですが、それでも見直しは行わないどころか保険証の廃止や免許証や母子手帳との紐付けまで打ち出している訳です。つまり他の本人確認手段もマイナンバーカードに紐付けすることを謳っている訳で、マイナンバーカードを軸にあらゆる公的個人データが芋づる式にハックされる可能性もあります。分散管理がセキュリティの常識ですが、完全にそれに逆行しています。明らかに別の意図があるとしか思えません。

例えば公金受取口座の紐付けは、個人金融資産の把握が狙いでしょう。本当は全ての個人口座の紐付けがしたいのでしょうけど、そこまでしなくても課税情報などは国が握っている訳です。払い損国家ニッポンで取り上げたように、インフレが債権者から債務者への富の移転を意味する訳で、防衛費増や少子化対策のバラマキで財政拡大が見込まれる中で、最大の債務者である政府が債権者である国民の個人金融資産を把握する事態が如何に危ういかは指摘しておきます。国は非常事態を宣言して個人口座を凍結することがたやすくできる状況ってことです。

実際戦後のハイパーインフレ期の預金封鎖と新円切替で国民の資産が強奪されたようにこの国には前科があります。しかもデジタルでそれが可能となればなるほどDXに熱心になる訳ですが、本当はデジタルトランスフォーメーションじゃなくてタイトルのようなデジタルジャックが狙いなんでしょう。そうすると日銀の緩和継続の下で財政拡大しても財政インフレで痛みはなく、いよいよになれば預金封鎖で政府債務をチャラにすることすら可能になります。また別の視点ですが、こんなニュースもあります。

ロシア、電子招集令状導入へ 徴兵逃れ対策を強化:日本経済新聞
かねて劣勢が伝えられる対ウクライナの特別軍事作戦ですが、招集逃れもあって兵士が集まらないということで電子招集という奥の手を繰り出しました。少子化で隊員が集まらない自衛隊の勧誘にマイナンバーカードが使われることは当然考えられます。

特に学校の成績が残念な児童が狙い撃ちされ、除隊後の就職に有利とかの甘言を並べて勧誘するぐらいのことはやるでしょう。学校成績の紐付けも言われており、今でも狙い撃ち勧誘はされてます。岐阜の射撃場の事件のようなことも起こる訳です。マイナンバーカード作っちゃった人は返納届提出で返納できるそうですから、自治体窓口で手続きすることをお勧めします。

横浜新交通逆走で3人書類送検 設計不備、業過致傷容疑:日本経済新聞
自動運転にブレーキ? シーサイドラインの逆走事故で、設計を担当した東急車両の当時の社員3人が設計ミスを理由に書類送検されました。起訴されて公判になれば詳細情報が明らかになりますが、デジタルを前提とした自動運転で非常事態をどこまで想定しシステムを作り込むかは難しい問題です。システム開発の手前の要件定義から見ていかないと本当の原因は掴めません。引き続き注目すべきニュースです。

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Saturday, June 10, 2023

アルプスの盛土ハイキ

盛土の灰色すぎる夜叉で規制強化された盛土ですが、長野県阿智村清内路地区にあるクララ沢である問題が起きています。サイドバーで取り上げた土の声を 「国策民営」リニアの現場から:信濃毎日新聞編集局著で取り上げられてますが、阿智川の支流黒川に流れ込む小さな沢で、中央リニアの中央アルプストンネルの斜坑萩野平非常口から搬出される発生残土処分先としてJR東海が検討中ですが、地権者への提案のない状況でボーリング調査や測量が進みJR東海自身も処分先として検討していることを認めています。

ところがここが山腹崩壊や地滑りの危険のある「崩壊土砂流出危険地区」と県が指定しているところで、住民に不安が広がっています。指定地域とはいえ法的な規制はなく地権者との合意が成立すれば問題ないのですが、住民説明会も開かず既成事実を積み上げるJR東海の姿勢に住民の不安と困惑は広がっています。1961年に36災害と称する大規模土石流災害の経験のある下伊那地区住民にとってはセンシティブな問題です。残土埋めて「クララが立った」ぢゃねーだろ(怒)。

これ大井川の水問題とも共通しますが、住民感情を逆撫でして軋轢を生むのはJR東海の姿勢にあると言えます。但し残土問題の複雑さは、残土は資源として活用されることが法律で定められていて、元々地形の険しい伊那地区では谷を埋めて開発用地を生み出す期待も一方であるし、また残土を運ぶダンプカーが地域の生活道路を走ることを避ける意味で地域内処分を求める意見もあり、一筋縄では解決できない問題でもあります。

だからこそ住民にリスクも含めた丁寧な説明をしながら着地点を見出す姿勢が大事なんですが、残念ながらそうなってはおりません。大井川の水問題や残土問題に限りませんが、JR東海の情報開示姿勢はお世辞にも十分とは言えません。上記書籍のサブタイトルにある「国策民営」の影響なのでしょう。

中央リニア事業は全国新幹線鉄道整備法(全幹法)に基づく国策事業であり、3兆円の財政投融資資金融資しも受けている訳ですが、JR東海単独の民間事業という特殊なスキームです。整備新幹線ならば事業主体は鉄道建設・運輸施設整備推進機構(鉄道・運輸機構)という独立行政法人が担い、その名の通り鉄道建設に特化した公的主体ですから、情報開示義務を負いますが、民間企業であるJR東海は「社外秘」を盾に情報開示に消極的な姿勢を見せています。

また国鉄分割民営化後には、山梨リニア二期工事ぐらいしか建設事業の経験がなく、国鉄時代の建設事業のスキルは継承されていないということもあります。その結果が名古屋リニヤ談合だがやの談合事件や岐阜県工区瀬戸トンネルの崩落死傷事故など、施主であるJR東海の姿勢に関わる問題が噴出しています。残土問題でもJR東海の発表では東京―名古屋間で5.680立米(東京ドーム48個分)の7割以上は活用先や処分先が決まっているとしていますが、その内訳は非公開ですし、長野県内分974立米については3割しか決まっておりません。加えてヒ素やホウ素などの毒物を含有した要対策土は大鹿村の仮置き場に積み上げられて処分保留と難題山積です。

熱海の事故を受けて盛土の規制は強化されて、JR東海も排水パイプを埋め込み土留め擁壁で崩落を防ぐ対策は示しますが、経年劣化がありますから、埋めた後もメンテナンスが必要です。しかしその責任と費用は誰が負担するのかは曖昧です。地震で盛土崩落の東名高速で取り上げましたが、公的インフラとして減価償却の対象外とされた高速道路に対して、事業用資産として減価償却資金で補修とメンテナンスを重ねた東海道新幹線の盛土との違いが明らかになった出来事でした。つまり利益の出る東海道新幹線の盛土は丁寧に保守されメンテナンスされる訳ですが、過疎に悩む地元自治体に押し付けて知らん顔とすれば悪質極まりない話です。

そして地域活性化の期待からリニア誘致の陳情を重ねた長野県の動きの鈍さもあります。基本的に民と民の問題として住民のの不安に寄り添う姿勢を見せておりません。この点は静岡県とは大違いですが、それでもJR東海への不満はあちこちで噴出してます。例えばいいだといちだの一字違いの長野県駅が結局飯田市上郷飯沼・座光寺地区に決まり、集落の住民の移転が進みますが、名産の市田柿の産地に波風を立てています。

一方、飯田線飯田駅併設を希望し、河岸段丘上の市街地再開発の種地として飯田駅の貨物施設跡地を国鉄清算事業団から飯田市が買い取り、現在駅前駐車場となっておりますが、バブル崩壊で地価下落で含み損が出ている一方、郊外商業施設が増えて市街地が空洞化しており、梯子を外された格好になっており、期待した商業関係者からは「話が違う」と恨み節。そもそも全幹法は地域開発に資することを目的としていた筈ですが。

という訳で、リニアは誰を幸福にするの?教えておじいさん^_^:。

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Sunday, June 04, 2023

果てしない成長ポエム

米財政上限問題が決着しましたが、市場は新たな懸念を抱えます。

米国デフォルト回避に市場安堵 銀行預金減には警戒:日本経済新聞
米国債デフォルトという危機は回避されましたが、同時にバイデン政権の目玉といえるインフラ投資法やインフレ対策法による歳出は抑制されます。これは寧ろ米経済の健全性を担保する意味で有意義ですが、同時に強めの雇用統計でインフレ収束の気配は見えず、FRBの利上げも足踏みはしても打ち止めにはならないということになりますが、この状況で政府の資金繰りのために短期国債の大量発行が行われますが、新発債の表面金利は高いですから、投資家の応札は見込めますが、その結果銀行預金が引き出されることは避けられず、中小銀行に大きなストレスを与えます。

別の視点としてトランプ時代のバイアメリカン法がそのままで、政府補助金の大盤振る舞いもあって先端半導体やEV関連投資を北米地域に囲い込む姿勢も鮮明で、欧州各国から不満が漏れています。例えばEV補助金対象はテスラやフォードなどが中心で、欧州メーカーは渋々米国内のEV投資を余儀なくされてます。特にアメリカが拘るのがバッテリーの北米生産で、中国封じ込めの政治的意図もあります。ならば日本はセーフとならないのは、電力部門の脱炭素化が遅れているから論外。現時点で日産リーフのみ補助対象ということで、日本の出遅れは致命的です。

民主主義対権威主義では見えない本音で指摘した国家総動員法に基づく戦時体制移行の影響で、日本の電力業界は大手電力の支配力が強く、それ故に電気代も高いし再エネ比率も上がらない日本の電力事情が戦前の国家総動員体制の成れの果てであることは指摘しました。当然見直しは必要なんですが、真逆のことが起きています。

原発運転「60年超」可能に GX電源法が成立:日本経済新聞
度々指摘してますが、原発の再稼働が進まないのは問題を抱えた原発が多く、規制委の認可が得られないことによりますが、この法律であまり報道されてませんが、環境省傘下の規制庁を経産省に移管し、認可基準も見直すということです。つまり福島第一原発事故を契機に環境省に移管され運転期限40年その他の規制を緩和するもので、大手電力会社を所管する経産省に認可権限を与えることで、大手電力の意向が通りやすくなるということを意味します。

GXを謳いながら福島の事故を受けて見直された原発行政を後退させたものです。この法律は自公の与党に加え日本維新と国民民主の2党が賛成に回りました。こいつらの正体が見えますね。一方で関西電力は6/4の太陽光電力の出力調整を発表しております。台風一過の晴天で日曜日で製造業も休みということでこうなる訳ですが、原発を含む大規模電源は連続運転を前提とする限り効率的なので、要は自分たちの利益優先の姿勢です。

一方で東日本大震災を機に露呈した地域間連携線の貧弱さは解消されず、日照量の多い九州では早くから太陽光電力が余って出力調整が行われました。所謂九電ショックですが、同時に同じ60hzエリアの九州の再エネリッチ状況は、関西電力にとって脅威に映ったのでしょう。失敗に学ばない国で取り上げた関電などの越境営業抑制のカルテル事件に繋がった可能性があります。

もっと遡ると電気が足りない訳じゃないで述べたJERAのLNG調達減少が厳冬の暖房需要増加で裏目となり、工場等の自家発電電力を卸電力取引所(JPEX)に出す前に買い取った結果、JPEXの相場が高騰し、電力仕入れをJPEXに頼る新電力各社が逆ザヤで破綻や廃業が相次ぎ、大手電力が補償で契約を引き取った結果、新電力の逆ザヤが大手電力を苦しめるブーメランが起きた訳です。独占企業の身勝手が国民生活を振り回した訳です。

50hzエリアでも少なくとも福島、新潟、青森と関東を結ぶ送電線は空いています。それぞれ福島第一第二、柏崎刈羽、東通の各原発の電力を関東へ送るものですが、これを使えば東北エリアの再エネ電力を関東へ送ることは可能ですし、震災で疲弊した東北の復興にも資するものですが、大手電力の先発権で接続はできません。こうした部分にメスを入れずに「電気が足りない」と騒いで原発再稼働に繋げる大手電力の火事場泥棒ぶりです。こうした日本の状況と対比する意味で興味深い論考があります。

大手電力間の競争、機能せず 電力システム改革の課題 松村敏弘・東京大学教授:日本経済新聞
大手電力の既得権として暗黙の地域市場分割が疑われます。対比されるのは南米チリの事例ですが、日本同様南北に長い国土で、北部ほど日照が多く太陽光電力が豊富な一方、首都サンチアゴ周辺に人口や産業が集積している状況で、南北を結ぶ大容量送電線を整備した結果、余剰気味の太陽光電力が有効活用され、電力料金も下がったというものです。太陽光発電はCO2排出ゼロ、限界費用ゼロという優れた特性を有しており、これを活用しない手はない訳です。

原発もCO2排出ゼロと言われますが、それはあくまでも発電中の話で、日本では13か月毎に停止して定期点検を義務付けられております。当然停止中も核燃料の冷却の為に水を循環させて電力を消費しますし、経年劣化による補修もしなければなりません。原発再稼働が進まないのも結局コストとの見合いで、動かすための追加費用がバカにならない訳ですが、一旦パネルを設置してしまえば追加費用無しに出力できる太陽光発電はその点優位にあります。

しかし日本のように電力会社の営業エリアで市場が分割されている場合、太陽光のピーク出力時には卸電力市場の価格を下押ししてしまい、発電事業者に電力供給のインセンティブを失わせてしまいます。その結果特に新規参入の発電事業者ほど影響を受けますし、既存の大手事業者も発電事業への投資をためらう結果、原発再稼働にコストをかけたくないし老朽火力を使い倒してトラブルを誘発したり、また燃料調達を縛るLNGの長期契約を縮小するインセンティブにもなるという悪循環となる訳です。

ということは解決策はシンプルで、地域間連携線の強化による国内市場の統合を進めることで、限界費用ゼロの太陽光発電が全国の電力事業者にあまねく利用される状況を作ればよいということになります。加えて市場安定策としての蓄電設備の増強によって、卸電力市場の市況に合わせた蓄電と放電で差益のサヤ取りが可能になります。例えば山梨県が揚水発電で電気事業を手掛けた結果、安い夜間電力で揚水し卸価格が上がるピークタイムに発電することでサヤ取りして税外収入を稼ぎ、県立美術館を建ててミレーの原画を購入し展示したということも起きています。

但し地域分割市場の維持は大手電力の既得権ですから、当然猛烈な抵抗をすると思いますが、C02削減も進まず料金も高いままの日本で例えば電力消費の大きい半導体生産やEV生産が国際競争力を持たないのは明らかです。TSMC、IBM、サムスンなど日本で半導体生産を表明していますが、何れも破格の補助金目当てでしかありません。GXで原発動かしてもバックアップ電源として燃料やメンテナンスで限界費用が安くない火力依存も続きます。つまり電気料金は下がらない訳です。とすると円安を奇貨に製造業復権も絵空事と言えます。

国家総動員体制が戦後も生き残って高度経済成長をもたらしたのは間違いありませんが、当時はGATTの自由貿易体制下で加工貿易で付加価値を紡ぎ出すというシンプルな条項でした。ベビーブームで若年人口が増えブレトンウッズ体制の固定相場で加工貿易立国でアジアや中東の資源を輸入して製品を主にアメリカへ輸出するという単純な経済構造でしたから、太平洋沿岸に貿易港を整備し臨海工業地帯を造成して企業立地を促すだけで経済は回り高度経済成長が実現した訳です。

その中で東海道新幹線の開業のインパクトも大きかったのは確かで、旅客輸送の効率化に留まらず在来線の貨物輸送も強化され、太平洋べベルト地帯の発展で産業と人口の集積が進みました。その結果農業人口の多かった日本で地方から大都市への人口移動が起こり所謂過密過疎問題を引き起こすことになります。結果的に東京一極集中が続き、コロナ禍で郊外移転は起きたものの、東京一極集中の傾向は今も続きます。

しかし産業構造の変化は容赦なく、かつて世界を席巻した日本の電機産業は凋落し、今EV化で自動車産業も世界に後れを取る状況です。この状況で中央リニアがJR東海の独占力を高めることはあっても経済を活性化させることは考えられません。寧ろ東名阪エリアとその他のエリアの市場分断を引き起こすとすれば、電力市場分断が示すように日本の成長力を棄損する可能性があります。令和の近衛文麿は罪深い。

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