アルプスの盛土ハイキ
盛土の灰色すぎる夜叉で規制強化された盛土ですが、長野県阿智村清内路地区にあるクララ沢である問題が起きています。サイドバーで取り上げた土の声を 「国策民営」リニアの現場から:信濃毎日新聞編集局著で取り上げられてますが、阿智川の支流黒川に流れ込む小さな沢で、中央リニアの中央アルプストンネルの斜坑萩野平非常口から搬出される発生残土処分先としてJR東海が検討中ですが、地権者への提案のない状況でボーリング調査や測量が進みJR東海自身も処分先として検討していることを認めています。
ところがここが山腹崩壊や地滑りの危険のある「崩壊土砂流出危険地区」と県が指定しているところで、住民に不安が広がっています。指定地域とはいえ法的な規制はなく地権者との合意が成立すれば問題ないのですが、住民説明会も開かず既成事実を積み上げるJR東海の姿勢に住民の不安と困惑は広がっています。1961年に36災害と称する大規模土石流災害の経験のある下伊那地区住民にとってはセンシティブな問題です。残土埋めて「クララが立った」ぢゃねーだろ(怒)。
これ大井川の水問題とも共通しますが、住民感情を逆撫でして軋轢を生むのはJR東海の姿勢にあると言えます。但し残土問題の複雑さは、残土は資源として活用されることが法律で定められていて、元々地形の険しい伊那地区では谷を埋めて開発用地を生み出す期待も一方であるし、また残土を運ぶダンプカーが地域の生活道路を走ることを避ける意味で地域内処分を求める意見もあり、一筋縄では解決できない問題でもあります。
だからこそ住民にリスクも含めた丁寧な説明をしながら着地点を見出す姿勢が大事なんですが、残念ながらそうなってはおりません。大井川の水問題や残土問題に限りませんが、JR東海の情報開示姿勢はお世辞にも十分とは言えません。上記書籍のサブタイトルにある「国策民営」の影響なのでしょう。
中央リニア事業は全国新幹線鉄道整備法(全幹法)に基づく国策事業であり、3兆円の財政投融資資金融資しも受けている訳ですが、JR東海単独の民間事業という特殊なスキームです。整備新幹線ならば事業主体は鉄道建設・運輸施設整備推進機構(鉄道・運輸機構)という独立行政法人が担い、その名の通り鉄道建設に特化した公的主体ですから、情報開示義務を負いますが、民間企業であるJR東海は「社外秘」を盾に情報開示に消極的な姿勢を見せています。
また国鉄分割民営化後には、山梨リニア二期工事ぐらいしか建設事業の経験がなく、国鉄時代の建設事業のスキルは継承されていないということもあります。その結果が名古屋リニヤ談合だがやの談合事件や岐阜県工区瀬戸トンネルの崩落死傷事故など、施主であるJR東海の姿勢に関わる問題が噴出しています。残土問題でもJR東海の発表では東京―名古屋間で5.680立米(東京ドーム48個分)の7割以上は活用先や処分先が決まっているとしていますが、その内訳は非公開ですし、長野県内分974立米については3割しか決まっておりません。加えてヒ素やホウ素などの毒物を含有した要対策土は大鹿村の仮置き場に積み上げられて処分保留と難題山積です。
熱海の事故を受けて盛土の規制は強化されて、JR東海も排水パイプを埋め込み土留め擁壁で崩落を防ぐ対策は示しますが、経年劣化がありますから、埋めた後もメンテナンスが必要です。しかしその責任と費用は誰が負担するのかは曖昧です。地震で盛土崩落の東名高速で取り上げましたが、公的インフラとして減価償却の対象外とされた高速道路に対して、事業用資産として減価償却資金で補修とメンテナンスを重ねた東海道新幹線の盛土との違いが明らかになった出来事でした。つまり利益の出る東海道新幹線の盛土は丁寧に保守されメンテナンスされる訳ですが、過疎に悩む地元自治体に押し付けて知らん顔とすれば悪質極まりない話です。
そして地域活性化の期待からリニア誘致の陳情を重ねた長野県の動きの鈍さもあります。基本的に民と民の問題として住民のの不安に寄り添う姿勢を見せておりません。この点は静岡県とは大違いですが、それでもJR東海への不満はあちこちで噴出してます。例えばいいだといちだの一字違いの長野県駅が結局飯田市上郷飯沼・座光寺地区に決まり、集落の住民の移転が進みますが、名産の市田柿の産地に波風を立てています。
一方、飯田線飯田駅併設を希望し、河岸段丘上の市街地再開発の種地として飯田駅の貨物施設跡地を国鉄清算事業団から飯田市が買い取り、現在駅前駐車場となっておりますが、バブル崩壊で地価下落で含み損が出ている一方、郊外商業施設が増えて市街地が空洞化しており、梯子を外された格好になっており、期待した商業関係者からは「話が違う」と恨み節。そもそも全幹法は地域開発に資することを目的としていた筈ですが。
という訳で、リニアは誰を幸福にするの?教えておじいさん^_^:。
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