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Sunday, June 04, 2023

果てしない成長ポエム

米財政上限問題が決着しましたが、市場は新たな懸念を抱えます。

米国デフォルト回避に市場安堵 銀行預金減には警戒:日本経済新聞
米国債デフォルトという危機は回避されましたが、同時にバイデン政権の目玉といえるインフラ投資法やインフレ対策法による歳出は抑制されます。これは寧ろ米経済の健全性を担保する意味で有意義ですが、同時に強めの雇用統計でインフレ収束の気配は見えず、FRBの利上げも足踏みはしても打ち止めにはならないということになりますが、この状況で政府の資金繰りのために短期国債の大量発行が行われますが、新発債の表面金利は高いですから、投資家の応札は見込めますが、その結果銀行預金が引き出されることは避けられず、中小銀行に大きなストレスを与えます。

別の視点としてトランプ時代のバイアメリカン法がそのままで、政府補助金の大盤振る舞いもあって先端半導体やEV関連投資を北米地域に囲い込む姿勢も鮮明で、欧州各国から不満が漏れています。例えばEV補助金対象はテスラやフォードなどが中心で、欧州メーカーは渋々米国内のEV投資を余儀なくされてます。特にアメリカが拘るのがバッテリーの北米生産で、中国封じ込めの政治的意図もあります。ならば日本はセーフとならないのは、電力部門の脱炭素化が遅れているから論外。現時点で日産リーフのみ補助対象ということで、日本の出遅れは致命的です。

民主主義対権威主義では見えない本音で指摘した国家総動員法に基づく戦時体制移行の影響で、日本の電力業界は大手電力の支配力が強く、それ故に電気代も高いし再エネ比率も上がらない日本の電力事情が戦前の国家総動員体制の成れの果てであることは指摘しました。当然見直しは必要なんですが、真逆のことが起きています。

原発運転「60年超」可能に GX電源法が成立:日本経済新聞
度々指摘してますが、原発の再稼働が進まないのは問題を抱えた原発が多く、規制委の認可が得られないことによりますが、この法律であまり報道されてませんが、環境省傘下の規制庁を経産省に移管し、認可基準も見直すということです。つまり福島第一原発事故を契機に環境省に移管され運転期限40年その他の規制を緩和するもので、大手電力会社を所管する経産省に認可権限を与えることで、大手電力の意向が通りやすくなるということを意味します。

GXを謳いながら福島の事故を受けて見直された原発行政を後退させたものです。この法律は自公の与党に加え日本維新と国民民主の2党が賛成に回りました。こいつらの正体が見えますね。一方で関西電力は6/4の太陽光電力の出力調整を発表しております。台風一過の晴天で日曜日で製造業も休みということでこうなる訳ですが、原発を含む大規模電源は連続運転を前提とする限り効率的なので、要は自分たちの利益優先の姿勢です。

一方で東日本大震災を機に露呈した地域間連携線の貧弱さは解消されず、日照量の多い九州では早くから太陽光電力が余って出力調整が行われました。所謂九電ショックですが、同時に同じ60hzエリアの九州の再エネリッチ状況は、関西電力にとって脅威に映ったのでしょう。失敗に学ばない国で取り上げた関電などの越境営業抑制のカルテル事件に繋がった可能性があります。

もっと遡ると電気が足りない訳じゃないで述べたJERAのLNG調達減少が厳冬の暖房需要増加で裏目となり、工場等の自家発電電力を卸電力取引所(JPEX)に出す前に買い取った結果、JPEXの相場が高騰し、電力仕入れをJPEXに頼る新電力各社が逆ザヤで破綻や廃業が相次ぎ、大手電力が補償で契約を引き取った結果、新電力の逆ザヤが大手電力を苦しめるブーメランが起きた訳です。独占企業の身勝手が国民生活を振り回した訳です。

50hzエリアでも少なくとも福島、新潟、青森と関東を結ぶ送電線は空いています。それぞれ福島第一第二、柏崎刈羽、東通の各原発の電力を関東へ送るものですが、これを使えば東北エリアの再エネ電力を関東へ送ることは可能ですし、震災で疲弊した東北の復興にも資するものですが、大手電力の先発権で接続はできません。こうした部分にメスを入れずに「電気が足りない」と騒いで原発再稼働に繋げる大手電力の火事場泥棒ぶりです。こうした日本の状況と対比する意味で興味深い論考があります。

大手電力間の競争、機能せず 電力システム改革の課題 松村敏弘・東京大学教授:日本経済新聞
大手電力の既得権として暗黙の地域市場分割が疑われます。対比されるのは南米チリの事例ですが、日本同様南北に長い国土で、北部ほど日照が多く太陽光電力が豊富な一方、首都サンチアゴ周辺に人口や産業が集積している状況で、南北を結ぶ大容量送電線を整備した結果、余剰気味の太陽光電力が有効活用され、電力料金も下がったというものです。太陽光発電はCO2排出ゼロ、限界費用ゼロという優れた特性を有しており、これを活用しない手はない訳です。

原発もCO2排出ゼロと言われますが、それはあくまでも発電中の話で、日本では13か月毎に停止して定期点検を義務付けられております。当然停止中も核燃料の冷却の為に水を循環させて電力を消費しますし、経年劣化による補修もしなければなりません。原発再稼働が進まないのも結局コストとの見合いで、動かすための追加費用がバカにならない訳ですが、一旦パネルを設置してしまえば追加費用無しに出力できる太陽光発電はその点優位にあります。

しかし日本のように電力会社の営業エリアで市場が分割されている場合、太陽光のピーク出力時には卸電力市場の価格を下押ししてしまい、発電事業者に電力供給のインセンティブを失わせてしまいます。その結果特に新規参入の発電事業者ほど影響を受けますし、既存の大手事業者も発電事業への投資をためらう結果、原発再稼働にコストをかけたくないし老朽火力を使い倒してトラブルを誘発したり、また燃料調達を縛るLNGの長期契約を縮小するインセンティブにもなるという悪循環となる訳です。

ということは解決策はシンプルで、地域間連携線の強化による国内市場の統合を進めることで、限界費用ゼロの太陽光発電が全国の電力事業者にあまねく利用される状況を作ればよいということになります。加えて市場安定策としての蓄電設備の増強によって、卸電力市場の市況に合わせた蓄電と放電で差益のサヤ取りが可能になります。例えば山梨県が揚水発電で電気事業を手掛けた結果、安い夜間電力で揚水し卸価格が上がるピークタイムに発電することでサヤ取りして税外収入を稼ぎ、県立美術館を建ててミレーの原画を購入し展示したということも起きています。

但し地域分割市場の維持は大手電力の既得権ですから、当然猛烈な抵抗をすると思いますが、C02削減も進まず料金も高いままの日本で例えば電力消費の大きい半導体生産やEV生産が国際競争力を持たないのは明らかです。TSMC、IBM、サムスンなど日本で半導体生産を表明していますが、何れも破格の補助金目当てでしかありません。GXで原発動かしてもバックアップ電源として燃料やメンテナンスで限界費用が安くない火力依存も続きます。つまり電気料金は下がらない訳です。とすると円安を奇貨に製造業復権も絵空事と言えます。

国家総動員体制が戦後も生き残って高度経済成長をもたらしたのは間違いありませんが、当時はGATTの自由貿易体制下で加工貿易で付加価値を紡ぎ出すというシンプルな条項でした。ベビーブームで若年人口が増えブレトンウッズ体制の固定相場で加工貿易立国でアジアや中東の資源を輸入して製品を主にアメリカへ輸出するという単純な経済構造でしたから、太平洋沿岸に貿易港を整備し臨海工業地帯を造成して企業立地を促すだけで経済は回り高度経済成長が実現した訳です。

その中で東海道新幹線の開業のインパクトも大きかったのは確かで、旅客輸送の効率化に留まらず在来線の貨物輸送も強化され、太平洋べベルト地帯の発展で産業と人口の集積が進みました。その結果農業人口の多かった日本で地方から大都市への人口移動が起こり所謂過密過疎問題を引き起こすことになります。結果的に東京一極集中が続き、コロナ禍で郊外移転は起きたものの、東京一極集中の傾向は今も続きます。

しかし産業構造の変化は容赦なく、かつて世界を席巻した日本の電機産業は凋落し、今EV化で自動車産業も世界に後れを取る状況です。この状況で中央リニアがJR東海の独占力を高めることはあっても経済を活性化させることは考えられません。寧ろ東名阪エリアとその他のエリアの市場分断を引き起こすとすれば、電力市場分断が示すように日本の成長力を棄損する可能性があります。令和の近衛文麿は罪深い。

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