ブルシットジョブ型雇用の国
デジ足らん国のデジタルジャック(DX)で取り上げたマイナンバーカードのトラブルはその後も続いております。いちいち取り上げませんが、トラブルの発生率が低いとか、人的ミスでシステムの問題じゃないといった擁護論がありますが、要件定義がいい加減だからカードのICチップへの紐付けを手入力でやってミスを誘発しているのはシステムの問題ですし、個人データを流出させて危険に晒すのはそもそもセキュリティに無頓着だからです。端末に前の人のデータが残るとか保険証の紐付けも自治体職員の手入力だったりして、しかも地方交付税減らすぞと脅して尻叩く一方、問題が発覚しても責任取らないじゃ、ますます不信感を生みます。
てことで内閣支持率ダダ下がりで解散できなかった岸田政権ですが、マイナカード推進派に言わせればカードのトラブルより増税が嫌われたという解釈のようですが、防衛増税にも踏み込めず、当面決算剰余金を充てることで誤魔化そうとしております。コロナ禍に乗じて予備費を積み増してますから、当初予算で赤字国債を発行していて決算で余ったから防衛費に回すでは結局国債の財源化ですし、決算剰余金は基本的に次年度の赤字国債発行の圧縮に使われますから、それを流用することで二重に国債の財源化になっています。誤魔化しばかりです。そして社会保障改革でも誤魔化しです。
年収の壁どうなる パート「働き損」解消、50万円の奇策年収の壁問題はやや複雑なんですが、かつて103万円の壁が言われましたが、これは実際は壁でも何でもなくて、当時の基礎控除38万円+給与所得控除65万円の合計額を上回ると所得税が課税されるというものですが、所得税はあくまで課税所得つまり控除を超えた部分にかかるだけで、しかも最低税率5%ですから、稼ぎ過ぎて手取りが減る訳ではなく、単に税金が引かれるだけです。但し地方税の住民税は基礎控除100万円で1年遅れの負担となりますので、それで驚くケースもあります。
一方社会保険料はいきなり負担となり、従業員数区分で106万円と130万円の壁が生じますが、100人以下が130万円で101人以上が106万円ですが、人数区分が1,000人から100人に変わったことで、例えばスーパーの主婦パートの多くが106万円の壁に捕まるということで、シフトを減らす動きが出ているということですが、この議論には違和感があります。
問題の根底には専業主婦の特権と言える第3号被保険者問題が潜んでいます。被用者年金の配偶者は自己負担無しに基礎年金加入者として扱われ、老齢基礎年金の受給資格を得ますが、パート労働者の厚生年金加入が制度化されて社保加入が事業主に義務付けられた結果、シフトを減らして人手不足になるということで、該当企業から悲鳴が上がった訳です。
これ単純化すれば主婦パートが第3号被保険者から第2号被保険者に変わり、結果的に老齢年金の受給額が増えたり、あるいは第3号被保険者は対象外の妊娠出産一時金の受給資格を得ますし、加えて雇用保険への加入もある訳ですから、例えば勤め先の廃業などで職を失った場合も失業保険の受取も可能なんで、こうした負担と受給の関係をきちんと説明できていない結果でしかない訳です。まあ事業主側の本音としては事業主負担が増えることへの抵抗感を言い換えている可能性はあります。だから対策も雇用保険を使って事業主に補助する形になっていると見ることができます。
あと当然ながら第3号被保険者制度の見直しが連動していない結果でもあり、付け焼刃で制度を弄って混乱させているというのが実態です。こうしたことを放置する一方、少子化対策と称して児童手当の拡充を進めてますが、こちらも財源問題で右往左往しており、別の社会保険会計からの付け替えなどの姑息な対応が意図されております。これが危険なのは認めてしまえば国会審議無しに財源を拡大できてしまう訳で、財政民主主義に反します。
こうした制度の複雑さは、歴史を辿れば近衛文麿政権が進めた国家総動員体制に行き着きます。年金と国鉄の意外な関係で示したように、元々厚生年金制度は日中戦争激化に伴う戦費調達木庭だったことと、当時のサラリーマンが良い待遇を求めて頻繁に転職していたことから、転職が不利になる制度として設計されたもので、元々が軍人から文民に拡大した国の恩給制度の民間版として制度設計されております。勘のいい方は分かると思いますが、日本の雇用形態の特徴と言われるメンバーシップ型雇用の原型が形作られたものです。つまり元々日本はジョブ型雇用の国だったのですが、戦時体制と共に失われました。
より正確に言えば、雛形は軍隊にあって、文民の官僚に波及し、それを民間に平行移動させたものです。そして戦後国民皆保険の建前から個人事業主を包摂する目的で国民年金が制度化されましたが、厚生年金や恩給から始まった共済年金が世帯単位で制度化されたのに対して個人単位となり、故に個人事業主の配偶者も国民年金に加入せざるを得ない状況の一方、厚生年金と共済年金には寡婦年金が制度に盛り込まれております。第3号被保険者の老齢年金は基礎年金と寡婦年金の多い方が適用され、高給取りの配偶者としての専業主婦は優遇されています。
そもそもジョブ型雇用が可能になるためには企業単位を越えた外部労働市場の存在が欠かせませんが、大正昭和期の日本は第一次大戦特需による経済成長と関東大震災の復興需要で成長軌道に乗りながら、反動の昭和恐慌と続く大恐慌で停滞していた時期でもあり、工業化と都市化が進んだ時代でもあります。その結果の電力過当競争や大都市圏の電鉄ブームというイノベーションが進行し、その事業に特化したスペシャリストの需要が増した結果のジョブ型雇用だったという意味で、自然発生的なものだったのでしょう。
首都圏で言えば京成電気軌道の高速電車化と千葉延伸と成田延伸、東武鉄道の電化と日光進出、武蔵野鉄道の電化、京王電軌の子会社玉南電気鉄道による八王子進出、目黒蒲田電鉄や東京横浜電鉄の事業拡大、湘南電気鉄道の開業、小田原急行鉄道の開業、川越鉄道の電化と村山線による高田馬場進出で商号を西武鉄道に変更などがあり、微妙に時期がズレていて特に小田急の開業スタッフは開業後川越鉄道に移って旧西武鉄道の成立に寄与するという形で繋がっております。こうしたダイナミズムは戦時体制で失われました。
そして時は移り日本でもジョブ型雇用が言われるようになりましたが、スペシャリストの能力評価が伴わないからうまく機能せず、新卒採用でスペシャリストを囲い込み優遇する一方、長年勤務の中高年社員は55歳で役職定年で部課長もヒラ待遇で減給、それでも60歳の定年と65歳の年金受給を繋ぐ再雇用のために年下上司の忖度するなんちゃってジョブ型雇用が横行しております。つまりスペシャリストとして会社に貢献するのではなく会社に居続けるための仕事ってことですね。こういうのをブルシットジョブ、日本語で言えばクソどうでもいい仕事となる訳です。マイナカードの紐付け作業を押し付けられる自治体職員も同じですね。これじゃ経済停滞は続きます。
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