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Sunday, July 02, 2023

オリガルヒの叛乱

先週の出来事ですが、大きな出来事ですので取り上げます。

ワグネル、武装蜂起を停止 プリゴジン氏はベラルーシへ:日本経済新聞
ワグネルの叛乱でロシアのクーデターや政権転覆もあり得たという分析もありますが、疑問でした。結果的にベラルーシのルカシェンコ大統領の仲裁で衝突を回避した訳ですが、プーチン大統領から見れば飼い犬に噛まれたような災難と同時に格下扱いのベラルーシの仲裁を受け入れたことになります。

ワグネル創業者のブリゴジン氏ですが、多数の企業を支配下におさめる新興財閥(オリガルヒ)でもあります。ホットドッグ屋台から事業を興し、高級レストラン経営に至って政府要人が来店し、ブーチン氏とはその時知り合い、気に入られて便宜を図られて台頭し、プーチン氏が大統領になって我が世の春を謳歌してきた訳ですが、民間軍事会社とされるワグネル以外にもレストランやケータリングの会社からメディア企業まで多数の企業を支配下に置き、ロシア発のフェイクニュース拡散などでロシア政府を助けてきたズブズブの関係にありました。

ワグネルの兵士は受刑者の減刑や赦免でリクルートするなどしており、元々アウトローで且つ練度も高いということで、弱体化したロシア正規軍を助ける存在でもありました。ロシアの言うウクライナへの特別軍事作戦でも活躍し、民間人への攻撃などの残虐行為も厭わないその姿勢はロシア国内では報じられず英雄扱いされていただけに、ロシアの国内世論も動揺しています。加えて特別軍事作戦の大義名分としたロシア系住民に対する虐待もウソとバラしちゃうしで、外から見ると何があったの?という話ですが、ロシアのオリガルヒという文脈で見れば謎は解けます。

オリガルヒとは主にソビエト解体後の新興財閥を指す言葉ですが、改革開放で国有企業が次々に民営化される中で、政権に取り入って経営権を取得して財を成したという意味で政治との癒着が特徴ですが、同時にグローバル化の恩恵で事業を拡大して行く中で、政権との軋轢で批判に回るなどして揺さぶる存在でもあります。実際そうしたオリガルヒの叛乱は繰り返されており、政権と対立して海外に亡命して亡命先で謎の死を遂げた富豪が複数存在します。ロシア当局の関与が疑われております。

今回はウクライナ紛争中でウクライナの反転攻勢中という微妙なタイミングということもあって世界を騒がせましたが、劣勢なロシア側で弾薬などの補給が正規軍が優先されたことへの不満が昂じていた訳ですが、とはいえ恩義のあるブーチン氏に弓退く訳にはいかず、側近のショイグ国防相とゲラシモフ参謀総長の解任を求めた行動という訳で、体制内のゴタゴタです。つまりクーデターに発展する可能性はほぼ皆無だったと言えます。

とはいえプーチン氏がショイグ、ゲラシモフ両氏を更迭することは考えられず、逆に潰されるぞということでベラルーシのルカシェンコ大統領が説得してブリゴジン氏はベラルーシが身柄を保護することで矛を収めさせたという流れです。ロシアにとっては格下とはいえ数少ない同盟国の仲裁を受け入れるしかなく、ベラルーシから見ればロシアに大きな貸しを作った形となります。同盟国が保護する以上過去の叛乱オリガルヒのように暗殺(多分^_^;)を仕掛けるのも憚られます。ブリゴジン氏は丁度ロシアが保護するアメリカ人のスノーデン氏のような存在になります。

そしてワグネルとしてはシリアやアフリカのマリやスーダンなど資源国の政権に食い込んで利権を得ており、そちらの活動が制限されなければ存続可能であり、ベラルーシにとっては金の卵を産む鶏を手に入れたようなものです。ロシア国内に残るワグネル軍ですが、今回の叛乱劇では正規軍士官が便宜を図ったりしており、正規軍に統合しても軍の統制はかなりギクシャクするでしょう。この面を捉えて日本の226事件との類似性も指摘されますが、高橋是清の財政均衡策への反発とはいえ北一輝というイデオローグに共感した青年将校とはかなり異なった動機です。

という訳でウクライナの反転攻勢でロシアの敗戦という希望から、ウクライナはNATO加盟を希望しております。ベラルーシが立場を強めることは欧州にとっては1つ不安定要因となる訳で、ウクライナのNATO加盟で均衡を図るという面は確かにありますし、NATO加盟の前提として現在の戦闘状態は終息させる必要がありますし、ウクライナが希望する領土の奪還もあきらめる必要があります。加えてトルコなどの反対もあるでしょうし、簡単にできることではありません。しかし一方で戦後処理に関する動きがあることも確かです。

ウクライナ鉄道網、欧州と規格共通に G7交通相会合
ロシアの黒海海上封鎖でウクライナ産の小麦その他の資源輸出が滞ったのはウクライナの鉄道がロシアンゲージの1,520㎜で欧州の国際標準軌4ft8in1/2(1,435㎜)の間で台車交換が発生し輸送量が限られることから、ウクライナの鉄道の改軌をG7主導で進めようという会合です。斎藤国交相は日本のローカル線問題に言及して不興を買ったようですが^_^;。

オリガルヒはウクライナにもいて政治との癒着どころかオリガルヒ出身の政治家が大手を振るって汚職に勤しむどうしようもない状況で、バイデン大統領の次男を含む世界各国の投資家が関与したりしていましたが、それ故に親ロと親欧米派に分かれて政争を繰り返し国民を呆れさせてきたグダグダな状態だった訳で、故にロシアに隙を突かれてクリミアを奪われたりした訳ですが、その結果オリガルヒならざるゼレンスキー氏が中間層の支持で大統領になれたということもあります。その意味でオリガルヒの存在はロシア特有のものとは言い難く、例えばアリババ創業者の馬雲氏のように中国政府の逆鱗に触れて更迭されるというようなことも起きます。新興国にありがちな話ではあります。

しかし先進国も企業や投資家が取引で関与していることもあります。元々企業や投資家の政治関与はアメリカでもロビイストの活動を通じて都合の良い法律を通したり規制緩和を求めたりは普通にある訳で、彼らは新興国でも当然のごとく同じことをします。寧ろオリガルヒは彼らに倣って政治関与しているとも見ることができます。上記のウクライナ鉄道の改軌問題も、市場アクセスを都合よく行うという視点はあります。

逆にこうしたG7会合に参加しながら鬼が笑う2024年で指摘した日本の鉄道貨物に対する政府の対応を自省することがないのは困ったものです。鉄道貨物を失えば日本のウクライナといえる北海道経済は停滞します。それがわからない政治の貧困です。その一方でこんなことが起きます。

電動キックボード普及へ加速 街中・観光390億円市場に:日本経済新聞
クルマの自動運転のレベル4や電動キックボードなどの規制緩和を盛り込んだ改正道交法が前倒しで今月1日から施行されました。交通崩壊 (新潮新書)市川嘉一著で拙速な規制緩和を危惧していますが、同書によれば審議会での検討段階では慎重な意見があったものの、最終報告書には反映されず閣議決定され国会審議もそこそこに可決成立したもので、レンタル事業者の要求で自民党MaaS議連など運輸族議員の圧力が働いたものと見られます。新産業創出の大義名分ですが、自転車同様歩道走行を容認するもので、走行安定性に問題がありながら無免許ヘルメット無しとした点は問題があります。現場の警察官には事故多発を危惧する声があります。

昨今例えば北陸新幹線敦賀以西で議論のまとまらないルート案で小浜京都ルートに調査費を計上させたりしてやりたい放題の与党運輸族ですが、これもJR西日本の意向を受けたもので、それによって並行在来線として切り離される湖西線を抱える滋賀県は蚊帳の外だし、そもそも関西広域連合で合意した米原ルートはガン無視ということで、意思決定手続き上もd内だらけです。こんなことがまかりと売るのは結局有権者の投票行動の結果ですが、オリガルヒ同士の対立に嫌気してゼレンスキー大統領を選んだウクライナ国民を見倣えと言いたいところです。

余談ですが国鉄分割民営化以後JR東海の経営を掌握して政治に関与した故葛西敬之氏をイメージすればオリガルヒは理解しやすいですね。

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