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Saturday, August 05, 2023

BSJストラクチャー

巷で話題のビッグモーターですが、ありがちな企業のコンプライアンス問題で見るよりブルシットジョブ型雇用の国の視点で捉えるとわかりやすい構造化されたブルシットジョブ(以下BSJと略す)ということです。過剰な修理ノルマが達成できないと降格されるからクルマに傷をつけるとか、落ち葉1枚で降格されるから除草剤撒いて街路樹を枯れさせるとか、典型的なBSJですが、これらによってお金が動いてGDPだの成長率だのといった経済統計に反映されていることは指摘しておきます。

細部には立ち入りませんが、過剰修理で修理代金は保険料から支払われるから確実ですし、保険料を支払った保険会社も、事後に契約者の等級を変えて保険料を値上げして回収しますから、自らの懐は痛まない訳で、特に損保ジャパンとの関係が密だったといわれておりますが、保険会社がどこまで意識的にコミットしたかは不明です。加えて未公開の同族企業ですから、オーナーの役職退任で雇われ新社長が矢面に立つだけで実質的にガバナンスは変わりません。BSJで成長に下駄を履かせることは可能ですが、国民経済的にはマイナスなのは言うまでもありません。てことでこのニュースを取り上げます。

マイナ証明書誤交付、裏に「富士通のスパゲティコード」 混乱マイナンバー(3):日本経済新聞
こちらも話題のマイナンバーカードですが、システムベンダーの富士通が作ったシステムが典型的なスパゲティコードであることが指摘されてます。麺のように絡み合って複雑なプログラムを指す言葉ですが、原因はITに疎いお偉いさんの思いつきによる口出し。本来厳格な要件定義に従って行われるシステム開発がグチャグチャになって本来の機能を発揮できなくなるというもので、度々指摘してきたようにシステムがポンコツだから直しようがないってことです。

これITあるあるなんですが、システム開発の失敗には必ずこうした問題が隠れていて、しかもIT土方と言われる多重下請け構造の中で現場のエンジニアがどれだけ涙したかは計り知れません。こんなですからDXがうまくいかない訳です。マイナンバーカードは言ってみれば導入をしくじった住基カードののシステムを下敷きにして政治サイドから数々の注文が付けられたという開発環境で、まともなものが出来る訳がありません。当然エンジニアの待遇も劣悪で、気の利いた人は海外企業に転職し、ストックオプションを含む高額報酬で活躍します。

故に米カリフォルニア州で起きたのが、シリコンバレーの企業が従業員送迎バスドライバーを高額報酬で募集した結果、公共の乗合バスドライバーが転職して減便を余儀なくされました。日本でもドライバー不足による減便は都市部でも進行してますが、公共事業や都市再開発でダンプドライバーが大量募集された結果、バスやトラックのドライバーが転職しました。結果は似ていてもBSJストラクチャーは国によって異なった構造があります。公共事業は最早民間事業を圧迫しているとも言えますし、また民間資本で行われる再開発事業も問題だらけです。

民需なき「官製再開発」広がる 3割で自治体が施設購入 ゆがむ官製都市 NIKKEI Investigation:日本経済新聞
民間事業者の参入が必要な再開発事業ですが、民間誘致のために国や自治体が補助金を付けて誘致することも行われ、そうしてできた再開発ビルにテナントが集まらず、自治体が一部床面を買い取って辻褄を合わせるといったことが起きていて、誘致の補助金と事後の床面買い取り費用で二重負担になっているケースが出てきています。

小泉構造改革の目玉として民間資本による都市再開発の活性化を狙い、容積率緩和などの促進策を採り、公共事業依存の強い建設業の民需シフトを狙った訳ですが、その結果談合が横行した公共事業と違ってコストにシビアな民間事業では入札で叩かれて価格下落に見舞われます。地価との連動性が高かった建設費は地価下落の影響も受けました。加えての日銀の低金利政策で再開発は盛んになりました。鉄道ではつくばエクスプレスが建設費が少なく済んだことで開業後の好業績を支えてますし、一方で沿線開発が急で開業後の追加投資に追われ、懸案の東京駅延伸は地価の上昇と建設費、資材費の高騰で困難になっているというジレンマを抱えています。そして低金利政策の検証を宣言した植田日銀が3回目の政策決定会合で動きました。

日銀、金利操作を修正 長期金利0.5%超え容認:日本経済新聞
タイミングとしては米FOMCの0.25%利上げを発表した直後ですから、ここで動かなければ日銀の政策検証の本気度も問われかねないところでやっと動いた訳ですが、その後の動きを見ると遅きに失した感があります。日銀発表では緩和継続のニュアンスが強く出ており、YCCは見直されたものの停止には至らず、単に変動幅越え容認に留まっていていかにも中途半端です。故に見直しの根拠としての円安阻止の効果は薄く、やはり欧米に比べて緩和姿勢が維持されていて円安の地合いは変わらずということになりました。

寧ろフィッチによる米交差格下げの影響もあって米長期金利が上昇して効果を相殺してしまいました。ただ米国債の格下げは新興国にとっては資本逃避の抑制になりますし、インフレ率の低下もあって利下げにシフトし始めたことで、寧ろ欧米の高金利が際立つ状況になり鶴あります。しかも高金利下での再エネ投資やEV投資という経済的に負荷のかかることをやっている訳で、今のところリーマンショック後の緩和マネーが残っているからやり繰り出来ている訳ですが、大変なやせ我慢ではあります。ある意味緩和マネーでバブルを膨らませるよりはマシなあり方ではあります。本気の気候変動対策は社会的有用労働の度合いを増してBSJストラクチャーを縮小させる効果は期待できます。

例えば怪運国債市場の蓋で取り上げて今になって「間に合わない」と騒ぎ始めた大阪万博のドタバタや、あるいは東京五輪の落とし物に見るBSJストラクチャーの深刻さ。よく考えたら東京都がやっていることは街路樹枯らしたビッグモーターと何が違うんだって話です。てことで鉄分はつくばエクスプレスのみですが^_^;。

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