処理水海洋放出で見えた「新しい戦前」
タイトルの「新しい戦前」という表現は好きじゃありません。GHQの占領政策で強制された「戦後民主主義」が実感のないまま形骸化した現実を見せられて寧ろ後者こそイリュージョンではないかと突っ込みたくなります。勿論主権者たる国民の自覚が足りない結果ですが、戦前の統治システムを温存してきた現実が顕在化したことは、統治する側のなりふり構わない姿勢を露骨にしています。
サイドバーで取り上げた特捜検察の正体 (講談社現代新書)で著者の弘中惇一郎氏は村木厚子事件やゴーン事件の弁護を受任した弁護士で、多くの特捜事件を受任した経験をまとめて強引な操作姿勢を明らかにしておりますが、電気が足りない筈ではで取り上げた秋本真利議員の贈収賄疑惑でも日本風力開発社長が証言を覆したことがおそらく検察のリークで報じられました。村木事件の関係者の自白調書が公判で本人から否定されたり証拠捏造されたプロセスに似ています。
背景として秋田県などの洋上風力事業の1回目入札で陸上風力で実績のある日本風力開発やデンマーク風力大手べスタスなどが有力視されていた中で、三菱商事グループが安値落札で案件を独占したことに端を発します。発電単価が日本風力開発の半値程という明らかな赤字落札で、権益独占に意図があると見られておりました。その結果業界団体で内輪揉めとなり2回目の入札を延期して基準を見直したうえでやり直しとなる直前の東京地検特捜部の告発ということで、匂います。
脱炭素でエネルギービジネスの見直しが避けられない総合商社の利権保護よりも、実績のある内外の風力会社に担わせて風車など現時点では輸入に頼らざるを得ない中で、円安で輸送費も含めて割高となる輸入品よりも、国内メーカーの育成という観点からも、商社系の事業者よりも経験値のある専業会社の方がふさわしいと思うんですが、とりあえず訴訟を抱えた日本風力開発は2回目入札を降りざるを得なくなり、結果的に商社系が漁夫の利を得ます。
こうした不透明な問題は多数ありますが、何故という問いを発することは忘れてはいけません。それによって隠れていた問題点が表に出ることはままある訳ですし。上記エントリーでリンクを張ったハーバービジネスオンラインの記事でトリチウム以外の核種が遺っていることが河北新報にすっぱ抜かれて公聴会が大荒れになり、漁協の同意なしには放出はしないと約束したこともスルーして政府と東電の言い分だけを伝えるメディアの対応は疑問だらけです。
「廃炉」目標まで30年、原発処理水の放出開始:日本経済新聞廃炉作業を40年で終える目標に対して、現時点で処理水問題がハードルになっていることは確かですが、元々はメルトダウンした燃料デブリに地下水や雨水が接触して汚染水になった訳で、地下水流入を防ぐ目的で凍土壁が作られたものの遮断には至らず、今でも増え続けており、タンクの置き場がないと騒いでいる訳ですが、最初から石油備蓄用の大型タンクを用意すれば問題をクリアできましたし、そもそもALPSで処理しきれないのはトリチウムだけではないという重要情報を敢えて説明せずにトリチウムの安全性ばかり強調している訳で、それによって問題にフィルターがかけられてしまうことが問題なんです。
残留核種の完全除去(少なくとも検出限界以下)とすることが事実上難しい中で、とりあえず「安全な水」から放出して、世論の関心のある間は海水検査で「基準を超える汚染はありません」と言い続ければいずれ世間は忘れてくれるってことですね。WHOやIAEAの検査もサンプル水を東電が提供しヒアリングしただけですから、科学的な反証可能性を満たしません。中国や韓国のみならず核実験で汚染された南太平洋の島嶼国も反発しています。加えて中国の水産品禁輸で漁業犯傾斜が悲鳴を上げてます。
中国の禁輸、豊洲動揺 ホタテ3割安「影響いつまで」:日本経済新聞量販店やネット販売でシェアが低下する水産市場の頼みの綱が輸出拡大だった訳ですが、完全に冷水を浴びせられました。中国の過剰反応とはいえ事前に警告していた中でも日本政府の意思決定の結果ですから、中国をせめても仕方ありません。寧ろ東電のために民間の企業努力を潰したとも言えます。
また中国の原発でトリチウム水を海洋放出しており、濃度は福島より高いということも度々取り上げられてますが、正常運転されている原発の冷却水に中性子照射の結果として発生するトリチウムと、燃料デブリに触れた汚染水をフィルターで処理したものを同列に見ても意味がありません。問題なのはトリチウム以外の多種多様な残留核種なんですから。言ってみれば日本のメディアは政府と東電の思惑通りにトリチウム安全キャンペーンをしているようなもので、米NYタイムズでは「薄めた汚染水」と報じており、寧ろ正確な情報を伝えています。
てことでここまで日本のメディアは劣化したってことです。都合の悪いことは報じずまるで戦前の大本営発表ではないかってことです。本来政府発表に疑問を持ち突っ込んで取材し報道するのがメディアの本来の役割です、その意味では処理水問題での河北新報やアルプスの盛土ハイキでリニア工事の不都合な真実を報じた信濃毎日新聞など地方紙にはまだ社会の木鐸としての気概が残っているようです。
鉄道誕生から延々つづく「二重行政」とは!? 役人の縄張り争いに"手打ちの条件"…非効率生んだ「2つの法律」:乗り物ニュース気概を感じる若き鉄道ライターの枝久保氏の論考ですが、鉄道と軌道の2つの法律のせめぎあいに見る中央省庁の角逐をザックリ整理していて目の付け所が秀逸です。奇しくも本日宇都宮ライトレールの開業日ですが、75年ぶりの路面電車新規開業で軌道法の呪縛が復活しました。モノレールやAGTなど鉄道事業法と軌道法のいいとこ取りが見られる一方、併用軌道前提の路面電車では最高速40km/h縛りで本来の性能を発揮できないばかりか、将来のスピードアップを見込んで作った鬼怒川橋梁前後の新設軌道区間が結果的に事業費を押し上げB/C比を悪化させたのに、新設軌道区間も40㎞/h縛りです。
というのは鉄道事業法が軽便鉄道法から地方鉄道法を経て国鉄民営化で鉄道事業法へと時代毎に見直され進化した一方、軌道法は大正時代の古い条文のまま大した見直しもされずにきたツケが出ました。富山で成功した上下分離も寧ろ公金のB/C比縛りで反対の声が出るなどして難産となりました。元を質せば役所同士の縄張り争いの結果ですが、課題を残します。
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