中国バブル崩壊を喜ぶ大人たち
戦争を知らない大人たちで敢えて踏み込まなかった話題です。中国不動産大手の中国恒大集団の米破産法15条申請や碧桂園のデフォルト危機などの報道でいよいよ中国不動産バブル崩壊が言われますが、何れも外貨債務の整理であって、資本流出を防ぐ為です。国内の人民元建て債務にはメスが入れられておりません。
故にバブルの後始末が進まず日本のように長期停滞に陥るんじゃないかと言われており、実際デフレ的な物価下落が見られたり、若年層の失業率が高止まりしたりしてますし、同じタイミングで生産年齢人口の減少も起きており、まるで90年代の日本を早送りしているように見えます。実際中国経済は成長鈍化が見られます。但し日本と違って不動産デベロッパーはマンション建設前に全室完売して建設費に充てるということをしてきたため、契約して代金決済を済ませながら引き渡しを受けられない人が多く、それに対する政府の限定的な救済はあり得ます。
それでも4%台の成長率を実現している訳で、中国がゼロコロナ政策を続けて経済活動を抑制してきたことと、にも拘らず財政的な補償措置が取られていないことを考えると、驚異的な成長率です。人口規模の大きさが生むダイナミズムでしょう。不動産バブルが弾けてなおこの水準ということは日本とはかなり異なります。絶好調の米経済を追いかけるスピードは落ちるでしょうけど、ほぼ横ばいの日本より高い成長率は維持されて日本は置いて行かれるということですね。
ただ課題は様々あります。そもそもの不動債バブル拡大はリーマンショックで世界各国が軒並み停滞した中で、当時の胡錦涛政権による5兆元(当時レートで57兆円)の財政出動を発表し実行したことによります。これ80年代の米経済停滞の救済策として行われたプラザ合意によるドル買い協調介入と、その後の貿易収支改善策としての内需拡大要請で、日銀の低金利政策と政府の財政出動が行われました。プラザ合意による円高で購買力が増した日本は好況に沸きますが、それでいて円高による輸入物価の低下でインフレにはならず、故に低金利政策は長期化します。その結果カネ余りで不動産投資が活発化し、本業がさえない企業の含み資産拡大で株が買われ、所謂バブル経済となります。
中国でも財政出動で主にインフラ投資が活発化し、高速鉄道や高速道路が張り巡らされ、その結果鉄鋼やセメントの政策が活発になり、それを受けた地方政府の開発熱が進みます。社会主義国の中国は土地は交友が前提ですが、地方政府の開発資金として土地使用権が売りに出され、民間デベロッパーが買って開発し完成前に完売という形で資金循環が起こりましたが、多くの副作用もありました。
一つは腐敗の蔓延で、地方政府にとっては土地使用料の売り出しは無から財政資金を生み出す錬金術として多用され、農地から農民を追い出して売り出すようなことも起こります。そして地方官吏と民間デベロッパーの癒着が起きるのはお約束で、胡錦涛政権末期にはかなりひどい状況だったようです。習近平政権の反腐敗運動はその尻拭いだったってことですね。
また鉄鋼やセメントの過剰生産問題もあり、その対策として海外インフラ事業への進出を狙ったのが一帯一路であり、資金面を支えるAIIBです。この辺は中国の軍事的拡張と結び付ける議論もありますが、実態は国内の過剰生産能力対策の意味合いが強く、故に往々にして相手国の事情を無視した強引なこともあったのは確かです。しかしスリランカで言われた債務のワナは寧ろ先進国が投資を渋ったから中国が出てきたもので、AIIBの融資判断がガバガバだったことは間違いいありませんが、それ以上でも以下でもありません。
あと社会保障の不備の問題もあります。生産年齢人口の減少で社会保障政策の維持が難しいのは先進国も共通ですが、中国はその人口規模の大きさもあって社会保障の充実が難しいし、そもそも中国の国民は政府を信用してません。故にある意味自助の精神が根付いており、住宅の取得はある意味その対策でもある訳です。政治や経済がどうなろうが住むところが確保されていることの安心感もあります。加えて不動産価格の上昇で転売して差益を得た人も出てきて投資目的の住宅取得も増えた訳です。習近平政権で共同富裕を謳い不動産投資を規制したことは理由がある訳です。
その意味でアメリカの対中経済制裁や制裁関税を撤廃して欲しいのは本音ですが、トランプからバイデンに政権が動いても制裁は解除されず、寧ろ強化されてますが、実は抜け道があります。ラオスやカンボジアなど東南アジア諸国で謎の企業が立ち上がっており、中国から輸入した商品をパッケージを変えてアメリカに輸出することで偽装しているもので、アメリカも中国との全面禁輸は無理なのでスルーされているということで、寧ろ米中の経済的な繋がりは強くなっております。
特に資本財と呼ばれる機械製品は中国が近年輸出を増やしてきた分野で、アメリカも中国依存から抜けられない訳です。これは日本も同様で、というか日本の貿易統計で機械製品がほとんどの国に対して黒字なのに対中国だけ赤字です。つまり中国依存から抜けられない訳で、デカップリングは掛け声だけです。ロシアの石油輸入で下支えしてるし、今や中国無くして世界は成り立たない現実があります。但し武器供与はせず、故にロシアは北朝鮮を頼らざるを得ないし、同盟国のアルメニアがアゼルバイジャンの侵攻に遭っても助けられない現実があります。カザフスタンの内乱で中国を出し抜いたロシアの姿はありません。
てことで膠着しているウクライナ情勢ですが、アメリカが武器支援を小出しにしているのは、ロシアが核保有国という事情もさることながら、オバマ政権で方向づけられた対中国の米軍のアジアシフトが進まないこともあり、生産能力の制約もあって気前よく最新兵器を出せない事情もあります。これは中国にとっては心地よい状況ですから、国内経済の不振を理由に台湾進攻するというナラティブは現実的にあり得ません。それを理解できない大人たちの放言は聞き流しましょう。
胡錦涛政権で建設が進んだ高速鉄道も収支は赤字でお荷物になっておりますが、国有企業だから問題視されません。そもそも高速鉄道は江沢民時代の朱鎔基首相の肝いりで、日本の新幹線を参考に旅客輸送を高速鉄道に集約して空いた在来線を貨物輸送インフラにするという、田中角栄の日本列島改造論を参考にしたもので、在来線も4ft8in1/2(1,435㎜)の国際標準軌で新在直通も可能だったことから、短期間で高速鉄道網を整備することが計画されて胡錦涛時代に実現したものです。徹軌道式高速鉄道よりリニアを推進すべしという意見もあり独トランスラピートのライセンスで上海空港リニアを建設したものの後が続かず朱鎔基首相の実務家としての見識を示します。
この点は日本のアイデアで中国が先へ進んだ訳ですが、日本は国鉄分割民営化で列島改造は葬り去られました。整備新幹線スキームで事業は継続されましたが、仮に国鉄分割民営化されずに国鉄が新幹線整備を進めていたとすると、結局赤字を拡大する結果になったであろうことは中国の高速鉄道網が教えてくれます。そしてこのニュース。
JRが外国人パスを大幅値上げ 訪日客価格、手本は途上国 編集委員 石鍋仁美:日本経済新聞民営化されたJRではなりふり構わずの増収策。手本は途上国ということで、訪日外国人の増加は円安によるディスカウントの影響ですからその分日本の停滞の象徴でもあります。
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