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September 2023

Sunday, September 24, 2023

中国バブル崩壊を喜ぶ大人たち

戦争を知らない大人たちで敢えて踏み込まなかった話題です。中国不動産大手の中国恒大集団の米破産法15条申請や碧桂園のデフォルト危機などの報道でいよいよ中国不動産バブル崩壊が言われますが、何れも外貨債務の整理であって、資本流出を防ぐ為です。国内の人民元建て債務にはメスが入れられておりません。

故にバブルの後始末が進まず日本のように長期停滞に陥るんじゃないかと言われており、実際デフレ的な物価下落が見られたり、若年層の失業率が高止まりしたりしてますし、同じタイミングで生産年齢人口の減少も起きており、まるで90年代の日本を早送りしているように見えます。実際中国経済は成長鈍化が見られます。但し日本と違って不動産デベロッパーはマンション建設前に全室完売して建設費に充てるということをしてきたため、契約して代金決済を済ませながら引き渡しを受けられない人が多く、それに対する政府の限定的な救済はあり得ます。

それでも4%台の成長率を実現している訳で、中国がゼロコロナ政策を続けて経済活動を抑制してきたことと、にも拘らず財政的な補償措置が取られていないことを考えると、驚異的な成長率です。人口規模の大きさが生むダイナミズムでしょう。不動産バブルが弾けてなおこの水準ということは日本とはかなり異なります。絶好調の米経済を追いかけるスピードは落ちるでしょうけど、ほぼ横ばいの日本より高い成長率は維持されて日本は置いて行かれるということですね。

ただ課題は様々あります。そもそもの不動債バブル拡大はリーマンショックで世界各国が軒並み停滞した中で、当時の胡錦涛政権による5兆元(当時レートで57兆円)の財政出動を発表し実行したことによります。これ80年代の米経済停滞の救済策として行われたプラザ合意によるドル買い協調介入と、その後の貿易収支改善策としての内需拡大要請で、日銀の低金利政策と政府の財政出動が行われました。プラザ合意による円高で購買力が増した日本は好況に沸きますが、それでいて円高による輸入物価の低下でインフレにはならず、故に低金利政策は長期化します。その結果カネ余りで不動産投資が活発化し、本業がさえない企業の含み資産拡大で株が買われ、所謂バブル経済となります。

中国でも財政出動で主にインフラ投資が活発化し、高速鉄道や高速道路が張り巡らされ、その結果鉄鋼やセメントの政策が活発になり、それを受けた地方政府の開発熱が進みます。社会主義国の中国は土地は交友が前提ですが、地方政府の開発資金として土地使用権が売りに出され、民間デベロッパーが買って開発し完成前に完売という形で資金循環が起こりましたが、多くの副作用もありました。

一つは腐敗の蔓延で、地方政府にとっては土地使用料の売り出しは無から財政資金を生み出す錬金術として多用され、農地から農民を追い出して売り出すようなことも起こります。そして地方官吏と民間デベロッパーの癒着が起きるのはお約束で、胡錦涛政権末期にはかなりひどい状況だったようです。習近平政権の反腐敗運動はその尻拭いだったってことですね。

また鉄鋼やセメントの過剰生産問題もあり、その対策として海外インフラ事業への進出を狙ったのが一帯一路であり、資金面を支えるAIIBです。この辺は中国の軍事的拡張と結び付ける議論もありますが、実態は国内の過剰生産能力対策の意味合いが強く、故に往々にして相手国の事情を無視した強引なこともあったのは確かです。しかしスリランカで言われた債務のワナは寧ろ先進国が投資を渋ったから中国が出てきたもので、AIIBの融資判断がガバガバだったことは間違いいありませんが、それ以上でも以下でもありません。

あと社会保障の不備の問題もあります。生産年齢人口の減少で社会保障政策の維持が難しいのは先進国も共通ですが、中国はその人口規模の大きさもあって社会保障の充実が難しいし、そもそも中国の国民は政府を信用してません。故にある意味自助の精神が根付いており、住宅の取得はある意味その対策でもある訳です。政治や経済がどうなろうが住むところが確保されていることの安心感もあります。加えて不動産価格の上昇で転売して差益を得た人も出てきて投資目的の住宅取得も増えた訳です。習近平政権で共同富裕を謳い不動産投資を規制したことは理由がある訳です。

その意味でアメリカの対中経済制裁や制裁関税を撤廃して欲しいのは本音ですが、トランプからバイデンに政権が動いても制裁は解除されず、寧ろ強化されてますが、実は抜け道があります。ラオスやカンボジアなど東南アジア諸国で謎の企業が立ち上がっており、中国から輸入した商品をパッケージを変えてアメリカに輸出することで偽装しているもので、アメリカも中国との全面禁輸は無理なのでスルーされているということで、寧ろ米中の経済的な繋がりは強くなっております。

特に資本財と呼ばれる機械製品は中国が近年輸出を増やしてきた分野で、アメリカも中国依存から抜けられない訳です。これは日本も同様で、というか日本の貿易統計で機械製品がほとんどの国に対して黒字なのに対中国だけ赤字です。つまり中国依存から抜けられない訳で、デカップリングは掛け声だけです。ロシアの石油輸入で下支えしてるし、今や中国無くして世界は成り立たない現実があります。但し武器供与はせず、故にロシアは北朝鮮を頼らざるを得ないし、同盟国のアルメニアがアゼルバイジャンの侵攻に遭っても助けられない現実があります。カザフスタンの内乱で中国を出し抜いたロシアの姿はありません。

てことで膠着しているウクライナ情勢ですが、アメリカが武器支援を小出しにしているのは、ロシアが核保有国という事情もさることながら、オバマ政権で方向づけられた対中国の米軍のアジアシフトが進まないこともあり、生産能力の制約もあって気前よく最新兵器を出せない事情もあります。これは中国にとっては心地よい状況ですから、国内経済の不振を理由に台湾進攻するというナラティブは現実的にあり得ません。それを理解できない大人たちの放言は聞き流しましょう。

胡錦涛政権で建設が進んだ高速鉄道も収支は赤字でお荷物になっておりますが、国有企業だから問題視されません。そもそも高速鉄道は江沢民時代の朱鎔基首相の肝いりで、日本の新幹線を参考に旅客輸送を高速鉄道に集約して空いた在来線を貨物輸送インフラにするという、田中角栄の日本列島改造論を参考にしたもので、在来線も4ft8in1/2(1,435㎜)の国際標準軌で新在直通も可能だったことから、短期間で高速鉄道網を整備することが計画されて胡錦涛時代に実現したものです。徹軌道式高速鉄道よりリニアを推進すべしという意見もあり独トランスラピートのライセンスで上海空港リニアを建設したものの後が続かず朱鎔基首相の実務家としての見識を示します。

この点は日本のアイデアで中国が先へ進んだ訳ですが、日本は国鉄分割民営化で列島改造は葬り去られました。整備新幹線スキームで事業は継続されましたが、仮に国鉄分割民営化されずに国鉄が新幹線整備を進めていたとすると、結局赤字を拡大する結果になったであろうことは中国の高速鉄道網が教えてくれます。そしてこのニュース。

JRが外国人パスを大幅値上げ 訪日客価格、手本は途上国 編集委員 石鍋仁美:日本経済新聞
民営化されたJRではなりふり構わずの増収策。手本は途上国ということで、訪日外国人の増加は円安によるディスカウントの影響ですからその分日本の停滞の象徴でもあります。

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Sunday, September 17, 2023

国際問題になった東京五輪の落とし物

東京五輪の落とし物の続きですが、ユネスコの諮問機関のNGOイコモスから神宮外苑の再開発撤回が要求されました。

神宮外苑再開発、イコモスが撤回要求 事業者や東京都に:日本経済新聞
富士山をはじめ世界遺産登録でお世話になったイコモスからの撤回要求ですから、スルーはできないでしょう。

おさらいですが、神宮外苑は明治天皇の崩御を悼む日本国民の寄進によって実現したもので、国民にとっては倒幕で維新、開化を実現させた偉い人程度の認識でしょうけど、広く国民から敬われていた存在でした。そんな国民の声を踏まえて当時の政府は開発制限で地権者の権利を制限する風致地区を制度化してその指定第1号としました。その結果緑地の保全や建設物の高さ制限が課されており、神宮球場や秩父宮ラグビー場、国立競技場などのスポーツ施設もその規制の範囲内で作られたものでした。

Undoしたい大草原wwwの小さな森のザハ案撤回騒動を覚えている人は多いと思いますが、あまり報じられておりませんが、当初旧国立競技場を改修して使うとしていた五輪招致がいつの間にか新国立競技場建設となり、旧国立競技場はあれよあれよと解体されて、工事の難易度が高いザハ案が撤回されたものの、同じ規模の隈研吾案に落ち着いたというアレですね。

実は事前に神宮外苑エリアの高さ制限緩和の都市計画変更が行われていて、謂わば新国立競技場はその露払いで、故にあの規模の新競技場が必要だったってことです。お陰でキャパが大きすぎてレンタル料も高く稼働率スカスカのお荷物になった訳ですが、高さ制限緩和で高層ビル建設が可能になれば。商業施設を誘致して高額のテナント料が稼げますから、少数の民間地権者を利する訳です。

実際三井不動産が高層ビル建設を表明してますし、一方で高層化を快く思わない明治神宮に対しては高さ制限緩和で生み出された容積率の過剰分を隣接する伊藤忠商事に譲渡して譲渡益を得ることで黙らせるという具合に実に悪知恵の詰まった再開発計画です。立案したのは萩生田光一議員で五輪招致委員長の森喜朗が後押ししたものです。ちなみに五輪汚職で招致委員などの刑事訴追がされてますが、萩生田光一も森喜朗もお咎めなしで単なるガス抜きですね。

こういう事情があるので、コロナ禍で1年延期してしかも無観客でも、五輪をやらないわけにはいかなかったし、その裏でこうした悪事が進行していたけど、スポーツを餌にメディアも沈黙していたしで、結局国民の知らないところで進んだ再開発計画というところもイコモスも問題視しています。五輪をダシにした再開発が問われます。

イコモスに関しては世界胃酸でとろける文化散財万歳で取り上げた軍艦島の世界遺産登録で英文の説明に韓国がクレームをつけたことで揉めたこともありましたが、一応日本の主張に沿った決着を見ております。その意味でイコモスからのクレームへの対応は難しいところがあります。

国際ルールを盾に政府の姿勢を正当化する姿勢はALPS処理水海洋放出でIAEAを利用したりしてますが、IOCも利用されただけってことで、国際ルールの都合の良いチェリーピッキングということが言えます。国も都も対応を誤れば国際世論を敵に回すことになりかねません。どうなるでしょうか。

一方五輪汚職で電通の指名停止もあって工程管理がグダグダになっている大阪万博ですが、怪運国債市場の蓋で述べたように工事が進まずいよいよ開催が危ぶまれてます。しかも夢洲の地盤沈下で土壌改良が追い付かないってはて、これ辺野古と同じような状況で土壌改良しないとパビリオン建設も困難ですし、建設資材の搬入路は橋とトンネルが1ずつですし電気もガスも水道も無いからトイレも浄化槽が必要と何だかウンコ臭い現状です。地下鉄中央線の公示も滞っております。

こうして見ると維新のザル頭ぶりが目につきます。所詮底の浅い小悪党で関西財界も腰が引けてます。政府が乗り出してゼネコンへの協力要請をしたりしてますが、図面すら開示されない工事を請負うことはできません。結局政府と大阪府/大阪市の責任のなすり合いになりそうですね。なにわ無くとも江戸村先五輪ですよで示唆したように、どこか間抜けな維新です。まあ阪神のアレで浮かれとりゃええわい。フランチャイズを失うヤクルトの優勝は遠のくでしょうから、留飲を下げられます。

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Sunday, September 10, 2023

どうする縦割り

ジャニーズ問題ですがBSJストラクチャーで取り上げたビックモーター問題と似ています。非公開のオーナー企業でオーナー社長が役職を退いてイエスマンの雇われ社長を立てたところはそのまんまですね。ソーセージ問題の応酬などの話題性は流石芸能事務所、エンタメを忘れていない^_^:。同時に性加害問題の根の深さも露になりました。

芸能界は人々に娯楽を与えるという意味で公娼制度の延長線上にあり、その意味で性的虐待や性的搾取が起こりやすいのは洋の東西を問いません。某NHK元会長が「慰安婦も当時合法だった公娼だ」と言い、欧州で現存する公娼制度を引き合いに出したことがありました。但し彼が見落としていたのは、現存する欧州の公娼制度は感染症防止のための健康診断の義務付けや、反社会勢力が入り込みやすい斡旋人などの性的搾取の防止に力点が置かれていて娼婦の人権擁護法としてアップデートされていることをご存じなかったようです。つまり慰安婦もジャニーズも人権問題という認識が希薄なメディアの報じ方や政府の対応なども問題です。

早速JALなど一部企業でジャニーズタレント起用の見直しの動きが出ています。海外事業にコミットする企業にとっては途上国の劣悪な労働環境や児童労働などで投資家から圧力を受けており、人権問題は経営課題と認識されている訳ですが、問題はドメスティックなメディア企業です。元々噂はあったし、90年代の所属タレントの実名告発を一部メディアは報じたものの特に放送メディアは沈黙しました。

報道部門は後追い取材はしたのでしょうけど採用されず没となれば記者もモチベーションを失います。大手芸能事務所の機嫌を損ねれば番組やイベントのタレントのブッキングや情報提供で割を食うということですね。放送事業者が利害を持つ利益相反がある訳で、ビッグモーター問題で明らかになった自動車販売店が自賠責保険の斡旋で損保会社に優位な立場だったこととも似ています。報道機関としてよりも視聴率競争で優位に立ちたい企業論理が前に出ました。そして日本的な横並び主義も災いしました。また報道機関としての編集権の独立も日本には存在しないことも。そういやNHK大河ドラマの主役誰だっけ?どうするNHK。

台風直撃のお盆が示した課題で懲りたJR東海は台風13号の進路次第では東海道新幹線の運休ありと示唆しました。幸い進路は東へ逸れて事なきを得ましたが多客期のダイヤ混乱は懲りたようで国交省への報告書でも取り上げました。

JR東海、国交省に検証結果報告 台風ダイヤ混乱で:日本経済新聞
16日の豪雨で山陽新幹線との直通運転を止めた結果、新大阪駅に多数の編成が滞留し、車両基地に収容できなかった結果、17日始発の出発準備が遅れて混乱となったもので、再発防止策として運行や混乱の状況全体を把握する担当者を置いたり車両基地の在線状況に応じて京都駅や米原駅に退避させるなどを示しています。

よく考えると国鉄時代は一体だった東海道山陽新幹線が分割民営化で新大阪で分割された結果、新大阪で滞留した編成を山陽側に送り込むことが出来ずに起きた混乱とも言えます。分割民営化の検討段階では新幹線の一体性を重視した本州2社+三島会社+貨物の6社体制案もありましたが、西日本会社の規模が過大になり地域分割の意義が薄れるということで現行案に落ち着いた経緯があります。

歴史にifは禁物ですが、同案が実現していればかなり異なった展開となり、東海道新幹線の一本足打法というJR東海の特異性もなく、今回のような混乱もおきなかったでしょうし、実現が見通せない北陸新幹線の関西延伸もすんなり米原ルートで実現に動いていたでしょうし、敢えてリニアを作ることもなかったでしょう。また東北新幹線東京延伸時にJR東日本が要請した東海道新幹線との直通運転も実現していた可能性もあります。地域分割がもたらした縦割りの弊害が如実です。

宇都宮LRT、市街地へ20分の利便性を生かせぬジレンマ 30年越しの悲願 宇都宮LRT④:日本経済新聞
鬼怒川両岸の広大な土地は農地を中心とした市街化調整区域で都市計画変更しないと開発できないジレンマがあります。元々駅東側から芳賀町に至る道路の渋滞対策として計画されたLRTで都市計画とは別建てだったこともあり、また地権者の同意も必要ということで、現時点で具体的な開発計画はありません。また水害が頻発する昨今、開発してよいものかどうかの判断も難しいところです。30年に亘る計画故にコンパクトシティのコンセプトより前だったこともあります。故に開発はベルモールのある宇都宮大学陽東キャンパスまでの区間に集中しており、マンションラッシュとなっております、ある意味結果オーライのコンパクトシティと言えなくもないですが、他にゆいの杜中央最寄りの新興住宅地が新幹線とLRTの組み合わせで移住者に人気ということです。

あと処理水海洋放出で見えた「新しい戦前」で取り上げた軌道法縛り問題ですが、宇都宮ライトレールでは上上下分離を実現するために全区間宇都宮市道、芳賀町道として整備されており、見かけ上新設軌道の鬼怒川橋梁前後区間や車両基地も道路予算で整備された併用軌道という法的位置づけで、開業後の事業収支を支えています。これ国交省予算の柔軟化で可能になったもので、例えばバスタ新宿がR20甲州街道の環境整備事業として道路予算が使われたり、肥薩線復旧事業への道路予算や河川予算支出が提案されていることともつながり、部分的に縦割りが解消されてはいますが、別問題もあります。

つまり鬼怒川橋梁前後を含む全区間が法令上併用軌道区間となり40km/h規制を受けることになります。一方いいとこ取りで道慮予算を多用した結果B/C比を悪化させた訳ですし、公金の支出として説明責任を果たす必要も大きいのですが、反対派を説得できていない以上果たしたと言えないところは残念です。鉄ちゃんの間では昭和レトロの反対派というレッテル貼りが横行しておりますが、行政側の対応に課題があることは指摘しておきます。

おそらく特認を受けて併用軌道区間50km/h、鬼怒川橋梁前後区間70km/hのスピードアップ実現時を前提にB/C比を計算したのでしょうけど、用地買収や土地改良で事業費の上振れがあったとはいえ、かなりメンドクサイ手続きを経てやっと実現した宇都宮ライトレールがLRT新設の先行事例となることは現状では期待薄でしょう。根拠法規の軌道法をアップデートして鉄道事業法の参入規制を緩和した軽快鉄道事業法のような形にすることで、もろもろのメンドクサイ手続きを簡素化することは考えられます。そうすることでLRT新設に留まらずローカル線の地元引受などにも活用できる汎用性が得られます。例えばローカル線の末端区間で40km/h規制を受け入れる代わりに無閉そく目視運転容認とか第四種踏切容認とか道路予算による上下分離に応用できます。

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Sunday, September 03, 2023

戦争を知らない大人たち

「新しい戦前」の続きですが、国際海洋法で汚染物質の海洋放出は禁止事項です。ALPS処理水の放出でも問われることとなって現れるるところで、当然ながら外交問題になります。故に過剰反応とはいえ中国の海産物禁輸措置には根拠があります。ALPS処理水問題を国内問題から外交問題にしてしまった、しかも政府の意思決定を経てということですから外交の失敗なんです。

これ例えば民主主義対権威主義では見えない本音で取り上げた盧溝橋事件を巡る近衛文麿首相の判断ミスと似ています。第二次国共合作で反転攻勢を決めていた中国(南京政府)に対して陸軍増派という判断ミスを犯して日本を戦争へいざなった構図が思い出されます。台湾問題で火種を抱える中国に外交的な口実を与えることに無頓着すぎます。

同エントリーで取り上げたように近衛首相は国家総動員法を成立させて戦時体制構築に一歩を標したこともあり、それが戦後処理を通じて再編され固定化された産業秩序が戦後の高度経済成長で機能したことと、その成功体験故に強固な既得権となって今の日本の長期停滞をもたらしていることも指摘しました。つまり社会構造として戦前と戦後は連続性がある訳で、逆にその体制が行き詰まることで日本社会に与えられるストレスは容易に排外主義に転じやすい性格を有します。

そして問題なのは戦争を知っている大人たちが鬼籍に入り少なくなっていることです。アジアの周辺国が日本に倣って経済重視に舵を切り追いついてきた結果、追いつかれてきている訳で、それが嫌韓や反中となって現れております。以前から指摘しておりますが、韓国も中国も日本の後追いなんだから、いずれ日本と同じ長期停滞のワナに嵌ると申し上げてきましたが、実際にそうなりつつあります。

例えば中国の不動産バブル問題は典型的ですが、融資平台と呼ばれるノンバンクの不良債権問題は住専問題など日本の不動産バブル崩壊と同じような展開を見せております。但し制度や社会体制の違い、人口規模の違いなどで異なった展開になると考えておりますが、長くなりますので別の機会に有りますが、この状況を「それ見たことか」とばかりに喜んでいる人たちには、中国の経済停滞が日本や世界に与えるマイナスインパクトを考えていません。

逆に中国の経済停滞を台湾進攻が近づいたと騒いでますが、歴代王朝時代から経済に問題を抱えた状態で軍事オプションを用いることはありません。上海のゼロコロナ抵抗運動のように、巨大な人口を抱えるがゆえに民の圧が政権を揺さぶる構造は今も変わりません。そして中国政府は巨大な国内市場を戦略的に利用することを覚えた訳で、日本産海産物禁輸は典型的です。当然ながら他国漁船の日本近海の水揚げ分は対象外ですから迂回路はある訳です。

戦争を知らない大人たちは日本だけの問題ではなく、例えばアメリカではベトナム戦争のトラウマがある訳で、バイデン大統領がウクライナ支援に慎重姿勢を見せる理由でもあります。ベトナム戦争当時の若者世代だった訳で、戦争と同時進行で若者たちが反戦歌を歌い抵抗した歴史があります。故にアメリカはまだ戦争を知ってる大人たちが顕在なんですが、例えば子ブッシュ大統領のように親の七光で兵役を回避したりした同世代も存在します。トランプも多分同類です。

そのバイデン大統領が日本には軍備増強を求めるのは、ベトナムへの自衛隊派兵を日本政府が断ったことがアメリカの外交課題となっていた訳で、満額回答した岸田首相はやはり令和の近衛文麿と呼ぶべき暗愚なリーダーです。戦争を知っているバイデン大統領故に、中国の軍事オプション発動をアメリカ単独で抑えることは不可能と知っており、故に日本や韓国との連携強化に動いた訳ですが、日本と韓国の国内世論はちと面倒です。

特に韓国ですが、保守派の尹錫悦大統領の支持率が低く、国内世論でも反共保守的な政治姿勢に反対の声があり、次期政権が革新派になれば約束が反故にされるリスクもあります。そんな不安定な同盟関係を梃子に本気で中国に対峙しようってのは無理です。また台湾とは外交関係がなく主権国家と見做されません。一つの中国の原則からすれば台湾有事は内戦に当たりますから、集団的自衛権行使の対象にならないという法的な壁もあります。それでいて「今はバターより大砲だ」と言わんばかりの軍備増強の意思決定は本当に戦争を知らないんだなと-_-;。

それでいて面倒な問題は先送りして意思を曖昧にしている訳で、ALPS処理水問題も典型ですが、安全性を考えれば自然乾燥による水蒸気放出が望ましいところです。水蒸気の水分子に含まれるトリチウムは少量であれば有害性は低いですし、そもそも福島第一原発20㎞圏は住民避難でほぼ無人ですから、環境への影響は少ないのですが、最初から海洋放出ありきで進めてきた経緯があります。決め手は蒸発後の残留する放射性汚泥の処理問題が難題ということです。

当初は凍土壁で地下水流入を抑えて処理水は数年で海洋放出を終える計画でしたが、凍土壁の遮水効果は限られ、今でも地下水流入は続き汚染水を増やし続けています。それでも当初日量500~800tあった地下水流入が200t程度の抑えられてはおりますが、当然凍土壁の経年劣化による性能低下は避けられない訳で、そうなると折角海洋放出で処理水を減らしても汚染水が増えるという事態は避けられません。結果的に海洋放出期間を30年としておりますが、その為には推定880tあると言われる燃料デブリの撤去が終わる必要がありますが、全く見通しは立っておりません。

加えてALPSで濾し取った放射性汚泥の処理方法が決まっておらず、専用容器に詰めて専用建屋に格納してますが、そちらもいっぱいいっぱいで、建屋増築が必要になっており、そのスペースねん出のためにALPS処理水の海洋放出は必要というロジックなんですが、これ自然乾燥による水蒸気放出で残る放射性汚泥と原理的に同じものです。つまり深く考えずに目先のコストで意思決定した結果の行き当たりばったりが実態ってことです。失敗を総括し軌道修正する知恵は存在しません。

台風直撃のお盆が示した課題で示した静岡県内の豪雨による徐行でJR東海の司令員の正常化バイアスが働いたことによる混乱を思い出していただきたいのですが、刻々と変わる状況を的確に判断して対処する能力は問われます。この点はJR東海も認識した模様です。

「運行管理に課題」 台風時のダイヤ混乱でJR東海社長:日本経済新聞
変化する状況に的確に対応することの重要性を認識させる出来事ですが、福島第一原発の廃炉事業を40年と見積もったことで、既に12年経っていて進まない廃炉事業を見直すのではなく行き当たりばったりで対応するから、あと30年弱で廃炉を終えるからALPS処理水の海洋放出期間は30年と逆算しているだけってことですね。こんなところからも国や東電のウソが見えます。

あとオマケ。8/26開業の宇都宮ライトレールが大盛況で団子運転が見られたようですが、これ東海道新幹線の豪雨による徐行の結果の列車渋滞と原理的には変わりません。恐らく不慣れな乗客による客扱い時間の延びが影響しているでしょうし、ある意味軌道系交通システムの弱点でもあります。その宇都宮ライトレールは当面40㎞/hでの営業運転ですが、これ併用軌道運行の軌道法に準拠した規制なのは前エントリーで指摘した通りです。

一方来年3月のダイヤ改正でスピードアップと増発と快速運転がアナウンスされてます。併用軌道区間50km/h、新設軌道区間70km/hとしておりますが、無閉そくの目視運転前提の40km/h規制ですから、スピードアップ実現のためには相応の保安装置の設置が必要です。水準としては京阪大津線と同等となる訳ですが、そうすると軌道回路を使いにくい併用軌道区間でも閉そく運転をするのかどうか、あるいは何らかの安全対策で特認を受ける予定なのか、そして現時点で保安装置が設置されているのかどうかなどが興味をそそります。団子運転が報告されてますから、現時点では目視運転と思われますが、落ち着いたら現地で確認したいところです。

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