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Sunday, September 03, 2023

戦争を知らない大人たち

「新しい戦前」の続きですが、国際海洋法で汚染物質の海洋放出は禁止事項です。ALPS処理水の放出でも問われることとなって現れるるところで、当然ながら外交問題になります。故に過剰反応とはいえ中国の海産物禁輸措置には根拠があります。ALPS処理水問題を国内問題から外交問題にしてしまった、しかも政府の意思決定を経てということですから外交の失敗なんです。

これ例えば民主主義対権威主義では見えない本音で取り上げた盧溝橋事件を巡る近衛文麿首相の判断ミスと似ています。第二次国共合作で反転攻勢を決めていた中国(南京政府)に対して陸軍増派という判断ミスを犯して日本を戦争へいざなった構図が思い出されます。台湾問題で火種を抱える中国に外交的な口実を与えることに無頓着すぎます。

同エントリーで取り上げたように近衛首相は国家総動員法を成立させて戦時体制構築に一歩を標したこともあり、それが戦後処理を通じて再編され固定化された産業秩序が戦後の高度経済成長で機能したことと、その成功体験故に強固な既得権となって今の日本の長期停滞をもたらしていることも指摘しました。つまり社会構造として戦前と戦後は連続性がある訳で、逆にその体制が行き詰まることで日本社会に与えられるストレスは容易に排外主義に転じやすい性格を有します。

そして問題なのは戦争を知っている大人たちが鬼籍に入り少なくなっていることです。アジアの周辺国が日本に倣って経済重視に舵を切り追いついてきた結果、追いつかれてきている訳で、それが嫌韓や反中となって現れております。以前から指摘しておりますが、韓国も中国も日本の後追いなんだから、いずれ日本と同じ長期停滞のワナに嵌ると申し上げてきましたが、実際にそうなりつつあります。

例えば中国の不動産バブル問題は典型的ですが、融資平台と呼ばれるノンバンクの不良債権問題は住専問題など日本の不動産バブル崩壊と同じような展開を見せております。但し制度や社会体制の違い、人口規模の違いなどで異なった展開になると考えておりますが、長くなりますので別の機会に有りますが、この状況を「それ見たことか」とばかりに喜んでいる人たちには、中国の経済停滞が日本や世界に与えるマイナスインパクトを考えていません。

逆に中国の経済停滞を台湾進攻が近づいたと騒いでますが、歴代王朝時代から経済に問題を抱えた状態で軍事オプションを用いることはありません。上海のゼロコロナ抵抗運動のように、巨大な人口を抱えるがゆえに民の圧が政権を揺さぶる構造は今も変わりません。そして中国政府は巨大な国内市場を戦略的に利用することを覚えた訳で、日本産海産物禁輸は典型的です。当然ながら他国漁船の日本近海の水揚げ分は対象外ですから迂回路はある訳です。

戦争を知らない大人たちは日本だけの問題ではなく、例えばアメリカではベトナム戦争のトラウマがある訳で、バイデン大統領がウクライナ支援に慎重姿勢鵜を見せる理由でもあります。ベトナム戦争当時の若者世代だった訳で、戦争と同時進行で若者たちが反戦歌を歌い抵抗した歴史があります。故にアメリカはまだ戦争を知ってる大人たちが顕在なんですが、例えば子ブッシュ大統領のように親の七光で兵役を回避したりした同性代も存在します。トランプも多分同類です。

そのバイデン大統領が日本には軍備増強を求めるのは、ベトナムへの自衛隊派兵を日本政府が断ったことがアメリカの外交課題となっていた訳で、満額回答した岸田首相はやはり令和の近衛文麿と呼ぶべき暗愚なリーダーです。戦争を知っているバイデン大統領故に、中国の軍事オプション発動をアメリカ単独で抑えることは不可能と知っており、故に日本や韓国との連携強化に動いた訳ですが、日本と韓国の国内世論はちと面倒です。

特に韓国ですが、保守派の尹錫悦大統領の支持率が低く、国内世論でも反共保守的な政治姿勢に反対の声があり、次期政権が革新派になれば約束が反故にされるリスクもあります。そんな不安定な同盟関係を梃子に本気で中国に対峙しようってのは無理です。また台湾とは外交関係がなく主権国家と見做されません。一つの中国の原則からすれば台湾有事は内戦に当たりますから、集団的自衛権行使の対象にならないという法的な壁もあります。それでいて「今はバターより大砲だ」と言わんばかりの軍備増強の意思決定は本当に戦争を知らないんだなと-_-;。

それでいて面倒な問題は先送りして意思を曖昧にしている訳で、ALPS処理水問題も典型ですが、安全性を考えれば自然乾燥による水蒸気放出が望ましいところです。水蒸気の水分子に含まれるトリチウムは少量であれば有害性は低いですし、そもそも福島第一原発20㎞圏は住民避難でほぼ無人ですから、環境への影響は少ないのですが、最初から海洋放出ありきで進めてきた経緯があります。決め手は蒸発後の残留する放射性汚泥の処理問題が難題ということです。

当初は凍土壁で地下水流入を抑えて処理水は数年で海洋放出を終える計画でしたが、凍土壁の遮水効果は限られ、今でも地下水流入は続き汚染水を増やし続けています。それでも当初日量500~800tあった地下水流入が200t程度の抑えられてはおりますが、当然凍土壁の経年劣化による性能低下は避けられない訳で、そうなると折角海洋放出で処理水を減らしても汚染水が増えるという事態は避けられません。結果的に海洋放出期間を30年としておりますが、その為には推定880tあると言われる燃料デブリの撤去が終わる必要がありますが、全く見通しは立っておりません。

加えてALPSで濾し取った放射性汚泥の処理方法が決まっておらず、専用容器に詰めて専用建屋に格納してますが、そちらもいっぱいいっぱいで、建屋増築が必要になっており、そのスペースねん出のためにALPS処理水の海洋放出は必要というロジックなんですが、これ自然乾燥による水蒸気放出で残る放射性汚泥と原理的に同じものです。つまり深く考えずに目先のコストで意思決定した結果の行き当たりばったりが実態ってことです。失敗を総括し軌道修正する知恵は存在しません。

台風直撃のお盆が示した課題で示した静岡県内の豪雨による徐行でJR東海の司令員の正常化バイアスが働いたことによる混乱を思い出していただきたいのですが、刻々と変わる状況を的確に判断して対処する能力は問われます。この点はJR東海も認識した模様です。

「運行管理に課題」 台風時のダイヤ混乱でJR東海社長:日本経済新聞
変化する状況に的確に対応することの重要性を認識させる出来事ですが、福島第一原発の廃炉事業を40年と見積もったことで、既に12年経っていて進まない廃炉事業を見直すのではなく行き当たりばったりで対応するから、あと30年弱で廃炉を終えるからALPS処理水の海洋放出期間は30年とぎゃkす案しているだけってことですね。こんなt頃からも国や東電のウソが見えます。

あとオマケ。8/26開業の宇都宮ライトレールが大盛況で団子運転が見られたようですが、これ東海道新幹線の豪雨による徐行の結果の列車渋滞と原理的には変わりません。恐らく不慣れな乗客による客扱い時間の延びが影響しているでしょうし、ある意味軌道系交通システムの弱点でもあります。その宇都宮ライトレールは当面40㎞/hでの営業運転ですが、これ併用軌道運行の軌道法に準拠した規制なのは前エントリーで指摘した通りです。

一方来年3月のダイヤ改正でスピードアップと増発と快速運転がアナウンスされてます。併用軌道区間50km/h、新設軌道区間70km/hとしておりますが、無閉そくの目視運転前提の40km/h規制ですから、スピードアップ実現のためには相応の保安装置の設置が必要です。水準としては京阪大津線と同等となる訳ですが、そうすると起動回路を使いにくい併用軌道区間でも閉そく運転をするのかどうか、あるいは何らかの安全対策で特任を受ける予定なのか、そして現時点で保安装置が設置されているのかどうかなどが興味をそそります。団子運転が報告されてますから、現時点では目視運転と思われますが、落ち着いたら現地で確認したいところです。

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