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October 2023

Saturday, October 28, 2023

ドイツの後塵

まず減税くそメガネlで取り上げた無人タクシーの残念なニュースです。

米加州、GM傘下の無人タクシー運行停止 人身事故巡り:日本経済新聞
隣を走っていた別のクルマが撥ねて倒れた歩行者の女性を巻き込んで6m走って停止したという事故で、クルーズの無人タクシーの有責事故ではないんですが、問題は自動運転車が事故を認識して路肩へ寄せた結果、被害者のダメージを高めてしまったことです。しかもそのことを当局に対して隠ぺいしたということで運行停止となったものです。

グーグル関連会社ウェイモに始まる無人タクシーの実験運行ですが、結果的に複数企業が米国内各地で実験運行を始めた結果、事故の報告が増えています。搭載AIが学習途上ってことでしょうけど、主に画像解析に依存していて、変化の激しい道路の交通状況に対応しきれていないということのようですが、それならば尚更情報隠蔽は問題解決から遠ざかる訳で問題です。恐らくショッキングな映像で世論の反発を恐れた結果かもしれませんが、企業姿勢としては問題です。加えて画像以外の事故回避システムの必要性も示唆します。

こうした社会実験を認める米州当局の在り方ですが、合意形成が難しい連邦政府ではなく州政府への企業のロビー活動が盛んな結果がこうした事態を招いている面もあります。インフレは続くよどこまでもで取り上げた全米自動車労連(UAW)のストでも南部の共和党ステートの労働者保護の不備を問題視しており、それにバイデン大統領が連帯を示したことでややこしくなっております。その中でフォードが大幅賃上げを含むUAWの要求を呑んで和解した一方、GMやストランティスではストが続いており、労働者の権利拡大という面で言えば日本の国鉄で起きたスト権ストに近い性格で、GMは無人タクシー事故も重なって苦境にあります。という訳でウクライナやガザの紛争を抱え内憂外患に苦しむアメリカです。

とはいえ現状経済的には先進国で独り勝ち状態にあるのですが、こうしたことが重なり、且つコロナ給付金で生じた過剰貯蓄が枯渇しつつある米経済の先行きは明るくはありません。それでも相対評価でドル独歩高が続く為替市場ですが、円が主要通貨に対してほぼ値下がりしている結果、こんなことが起こる訳です。

日本のGDP、ドイツに抜かれ世界4位に IMF予測:日本経済新聞
日本が中国に抜かれて3位転落したのが2010年で、いずれインドにも抜かれるとは言われておりました。どちらも新興国で経済成長が目覚ましく、中国は既に日本の3倍近くと経済成長を続けております。それに引き替え先進国で低成長のドイツは、エネルギーのロシア依存が仇となって高インフレに苦しみ、中国依存が対中デリスキングで見直しを余儀なくされていて苦しんでいる訳ですが、あくまでもドル建て名目値での逆転であり、日独のインフレ率の差と為替変動の結果であり問題なしと解説する人もいますが、大間違いです。

ドイツが日本以上にインフレ率が高く苦しんでいるのはその通りですが、ECBの利上げでユーロの対ドルでの下落率が日本円と差がある訳ですが、日銀が利上げに動けないのは金利高による日本国債の暴落リスクがある為で、財政の健全性が仇となっていて動くに動けない結果です。異次元緩和を10年も続けた結果こうなった訳で、過去の政策が仇となっていて予想外の逆転をもたらしたという意味で深刻です。加えて人口8,300万人と日本の2/3ですから1人当たりGDPは1.5倍で、それだけ日本国民の購買力が低下した訳です。つまり新興国の成長の結果の逆転ではなく日本の衰退の結果の逆転ということで、深刻に受け止めるべきニュースです。

それなのに日本の国会では無意味な減税の議論ばかりしていて、更に財政を悪化させようとしているのですから救われません。加えて政府の打ち出す政策が悉く的外れという救いようのない状況です。所得税減税では納税者の6割が最低税率の5#課税で定額減税の恩恵が得られません。この中には年金受給者の嘱託雇用や主婦パートなどを含みますが貧困ひとり親世帯が多数含まれており、少子化対策と矛盾します。また賃上げを狙った法人税減税も問題があります。

賃上げ減税、中小6割が対象外 赤字体質の脱却重要に チャートは語る:日本経済新聞
法人税は欠損の最大10年の損失繰越という税法の仕組みで、資金繰りを図りながら敢えて欠損を出して繰越繰越で課税を逃れることは可能です。そうした企業は賃上げしても減税の恩恵は受けられませんから意味のない減税です。寧ろ基準を見直して課税強化した方が賃上げを促します。あと年金に関する2つのニュースです。企業の年金負担22年度6兆円減 金利上昇で業績押し上げ【イブニングスクープ】:日本経済新聞JAL再建会社更生法適用が決まるで解説した確定給付型企業年金(DB)が高度経済成長期には企業にとっても従業員にとってもメリットがあり、公的年金の貧弱さをカバーしてきた訳ですが、バブル崩壊後の低成長期にも見直されずに企業による拠出金でDOBに給付してきた訳で、所謂レガシーコストと呼ばれ、これが90年代の事業縮小や新卒採用手控えで所謂ロスジェネ世代を生み出しました。その後日本版401kと呼ばれる企業型確定拠出年金(DC)の制度かで乗り換える企業が出た一方、OBの顔色を窺って企業業績に躓いたJALのような企業も出た訳です。利回りを見直すなどして制度を維持した企業も昨今の金利上昇で利回りが改善してメデタシなんですが、その結果生じる剰余金を賃上げの原資にするならともかく、内部留保される可能性もあります。こうした資金を賃上げに回せるように背中を押すことが出来れば持続可能な賃上げも不可能ではないでしょうけど、同時に保有資産の減価による損失との見合いとなりますが、例えば内部留保課税のような形で賃上げに回るような制度的工夫はあり得ます。
国民年金、給付水準の低下抑制 保険料納付5年延長案も:日本経済新聞
年金制度の持続可能性を高める検討は必要ですし、労働市場の実態や長寿命化の実態から見ても納付期間延長や給付年齢繰上げはいずれ避けられないでしょうけど、第3号被保険者制度を廃止して専業主婦から保険料を納付することが抜けてます。保険料負担が無いから主婦パートの年収の壁問題が生じる訳で、厚生年金に加入すれば保険料負担が無くなる上に老齢年金の増額や妊婦給付など保証範囲も広がる訳で、受け入れやすくなります。但し雇用主の負担は変わらず雇用側の都合でシフト減らしの可能性は排除できませんが、そうした雇用主は従業員を確保できずに淘汰されるとすれば、被雇用者側にとってはメリットです。

年金と国鉄の意外な関係で解説したように元々国家総動員体制の一環として会社員が転職で不利になる上、保険料を徴収して戦費に充てる狙いもあってスタートした厚生年金保険制度ですが、時代が変わればアップデートが必要な訳で、そうした議論が進まない中で年金財源が枯渇することで、結局被害を受けるのは今の現役世代と姿なき将来世代なんです。世代間の対立を煽って議論をやりにくくする昨今の風潮は問題があります。

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Sunday, October 22, 2023

減税くそメガネ

ガザの病院空爆でアラブ諸国がイスラエルを非難した後、イスラエルは否定してハマスの自作自演まで言い出す水掛け論、別のテロ組織による攻撃説まで出てますが、これ戦場のリアルとして見ればこの手の話はどれも可能性があります。従軍経験のある古老の話として、戦場では弾は前からばかりでなく横からも後ろからも飛んでくるものとされますし、湾岸戦争、アフガン戦争、イラク戦争でも米軍のピンポイント攻撃で民間人誤爆が報じられた事例も多数あり、戦場はカオスであり、検証もしようがないので、いつまでたっても水掛け論になります。

話題を変えて岸田首相を「増税メガネ」と呼ぶネット言説が拡散しました。出所はアベノミクス妄信の情弱ネトウヨ界隈らしいのですが、いつのまにか「くそ」が挿入されて一般化しました。一方で安倍政権下での2回の消費税増税を挙げて「岸田政権は増税していない」という擁護言説も流れましたが、これ正直目くそ鼻くそです。とはいえ内閣支持率低迷もあって本人は気にしているとか。そうした背景でこういうことになるんでしょう。

首相が所得減税を指示、定額検討 宮沢氏「1年が常識」:日本経済新聞
時限措置としての所得減税を検討しているようですが、1年期限の定額減税で低所得者世帯には恩恵がないということで、非課税世帯への給付金と組み合わせるということらしいのですが、それ一律給付金と変わらないし、行政手続き上は一律給付の方が簡素で低コストですし、家計補助は需要を刺激してインフレの昂進に繋がるという意味で問題があります。仮に実現しても「減税くそメガネ」と言われるだけですね。インフレ抑制は金融政策で対応するものですが、金融政策を担う日銀の動きは緩慢ですが、流石に変化も見えます。
日銀、金利操作の再修正論 長期金利「上限」1%接近で:日本経済新聞
日銀は緩和継続しながら異次元緩和の出口を模索する姿勢ですが、米長期金利上昇による日米金利差拡大による円安と中東情勢の緊迫化による原油価格の上昇圧力もあり、市場はそれを織り込んで動きますから、結果的に長期金利1%の猶予枠を超える可能性が出てきてYCC見直しを余儀なくされそうな気配です。長く続いた異次元緩和で手足を縛られている事情はありますが、市場に押されて渋々動く姿勢ではタイムリーな政策を打つことはできません。

という訳で日銀が当てにならない中で政府が経済対策を打ち出そうとしている訳ですが、財源は曖昧にしており、予備費の未執行分や税収上振れ分で対応することを検討しているようです。これらは剰余金として次年度に繰り越され、財政法で半分は次年度の新発国債発行を圧縮することに使われます。それを補正予算で使う訳ですから、次年度の国債発行額を押し上げますし、今年度予算で国債発行で調達された予算の使い残しという意味では国債を財源にすることと変わりはありません。

加えて防衛費倍増と異次元の子育て対策を打ち出しており、その財源議論も先送りしていますから、将来の増税は避けられない事情があります。一方で防衛族議員からはトマホーク配備の前倒しの要求が出されております。旧式でよければトマホークは今買って配備を前倒しできるというですが、これ米中デカップリングのリアルで取り上げた無人偵察機グローバルホークの旧式を掴まされた話に懲りてないというか、何のための防衛なのかが問われます。加えて財源が確保されない中での前倒しは事実上国債を財源にすることと同じ意味ですから単なるゴマカシです。

異次元の少子化対策も財源を曖昧にしてますが、国会審議を必要としない社会保険料の値上げで対応しようとしているようです。これ事実上の増税ですが、負担と給付の関係を整理して対応すべきことです。絶望の少子化対策でも指摘しましたが、少子化対策は結局現役世代の負担増を通じた窮乏化で寧ろ少子化を促進します。繰り返しになりますが、労働力の減少を前提とした資本装備増強による1人当たりGDPの水準維持が重要です。

あと時限的減税ならば消費税減税が手っ取り早いのですが、その為にはインボイス制度が定着する必要があります。ですからインボイスに反対する一方で消費減税をを求める議論はインチキですし、欧州の消費減税はコロナ化などの非常事態対応で限定的に行われています。期間限定の減税という意味では所得税よりも適切とは言えますが、需要喚起はインフレを悪化させますから、現時点で適切とは言えません。

寧ろ財政需要拡大は将来の増税に繋がる訳で、財政赤字が結局将来に備えた消費をを抑制するメカニズムが働くことも指摘しておきます。これリカードの中立命題と呼ばれる確立した命題ですが、ケインズの財政政策があくまでも需要不足解消の時限的な財政出動ですから中長期では矛盾はありません。課題解決に奇策はありません。その意味で考えさせられるニュースです。

岸田首相、臨時国会でライドシェア導入の検討を表明へ:日本経済新聞
管前首相や河野デジタル相を中心に急浮上したライドシェア解禁ですが、特にタクシードライバー不足が言われ、特に地方で顕著ということですが、これ白タク認めろって話ですから、慎重に検討すべきです。東京など大都市部では台数規制撤廃で稼働率が下がってドライバーの収入を押し下げていた現実もある訳で、寧ろ稼働率が上がって生産性が改善している訳です。その意味では全面解禁は疑問です。

ポンド飛び出し円の切れ目で取り上げた京都府京丹後市久美浜町で車両運送事業法第78条を根拠とする自家用自動車有償運送特例による特認という形で現行制度内で対応しました。つまり地方限定ならば現時点でも参入可能性はある訳で、地域の実情を見ながら対応することは可能でしょう。法的整合性の意味で第二種免許所持者限定で車両も商用車登録で毎年車検とか旅客運送対応の保険加入など参入のハードルはありますが、安全輸送を優先すべきなのは言うまでもありません。ネギ背負ったカモで取り上げた電動キックボード解禁のような乱暴なことはしてほしくありません。ホンダ、日本で無人タクシー 移動難民を解消するか:日本経済新聞ホンダが提携関係にあるGMのクルーズの自動運転車を使って2026年にレベル4の無人タクシーを始めるというニュースです。いずれ大都市部にもドライバー不足は波及するでしょうから、それに備えた技術革新は理にかなっておりますが、レベル4の無人運転は海外の一部で認可されているものの、日本にそのまま導入するハードルはあります。特に法令改正を伴う部分で今の日本のような課題先送りの姿勢がネックになる可能性はあります。

技術的には完成度も高くなりつつある自動運転ですが、事故時の責任分担などの問題は技術よりも法的な課題として議論を深める必要があります。有償運行を前提とする以上、安全性ののりしろを大きく取ることになるでしょうけど、そうすると有人運転の他車ドライバーから見れば「かったるいのろま」になることを意味しますので、案外この辺が導入のネックになるんじゃないかと思います。加えて例えば信号が変わるタイミングでの停止と通過の判断や優先関係の曖昧な交差点や見通しの悪い曲線路でのレベル4同士の出会い頭では両者停止状態でフリーズするといったデッドロック現象も対策を求められます。この点は道路側の改良が必要となるケースも考えられます。とすると導入条件は案外厳しいものになりそうです。

こうした点からJR東日本が山手線で実現を目指す鉄道のドライバレス運行が先に実現するかもしれません。専用走行路を走る鉄道ならではのアドバンスですが、同時に併用軌道を走る宇都宮ライトラインのような軌道線では目視運転前提ですので、ドライバレスは不可能となります。とするとLRTのアドバンスは微妙になるということでもあります。この辺はどのように推移するか見通しにくいところではありますが。

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Saturday, October 14, 2023

欧米の対テロ戦争回帰

ハマスの攻撃に対するイスラエルの軍事作戦が実行されようとする中で、民主主義対権威主義では見えない本音が露呈しました。

ハマスのイスラエル攻撃「断固非難」 G7が共同声明:日本経済新聞
気分は9.11後の対テロ戦争に回帰したかのような状況です。ハマスのテロ行為を肯定はできませんが、200万人以上が住むガザ地区は高いフェンスで覆われ、物資の出入りもイスラエル政府に管理されて最低限のものしか供給されず貧困の極みにある状況は放置されてきた訳で、重大な人権侵害が日常化していたことは指摘しておきます。

特にバイデン大統領の親イスラエルの姿勢には違和感を禁じ得ません。9.11後のアメリカの対テロ戦争でテロの主犯とされたアルカイダのリーダーのウサマ・ビンラディンを匿ったという理由でタリバン政権下のアフガニスタンにNATO軍で開戦して20年後の撤退戦という苦い経験を忘れたかのような対応です。アフガン地震でタリバン政権は国際社会に支援を求めておりますが、女性の権利侵害などを理由に経済制裁が科されていて、現時点で応じた国はありません。人権外交どこへやらです。

尤も今回はイスラエルが当事者ですから、アメリカはあくまでも支援する立場ですが、ウクライナとの二正面作戦を余儀なくされて対中国を睨んだ米軍のアジアシフトはますます遅れます。特にアメリカの仲介でイスラエルとの国交樹立を模索していたサウジアラビアの態度が微妙になり、バイデン大統領としては外交で大きな失点となりました。ウォール街のユダヤ人脈への忖度もあるでしょう。

色々な見方が錯綜してますが、ある意味イスラエルはアメリカと似た背景の国ではあります。ローマ時代から迫害され続けた欧州ユダヤ人によって建国されたイスラエルは、ある意味イギリスで宗教上の理由から迫害された清教徒の新大陸植民から独立に至ったアメリカとは相似相と言える建国の経緯があります。共にネイティブな住民を排除して建国された点も似ています。そしてイスラエル国内にも多数のアラブ系住民がいて主に低賃金のエッセンシャルワークを支えている点もネイティブアメリカンやアフリカ系などの有色人種の労働力に依存するアメリカと似ています。そして軍事大国でもあります。

ガザ地区を囲む高いフェンスもアメリカの保守派がメキシコ国境に作れといっている柵を先取りしたようなものとも見えます。実際イスラエルはネタニヤフ政権下でイスラエルの世論も保守化していますが、一方でネタニヤフ政権下での汚職事件や進められていた司法制度改悪に反対する運動も盛んです。イスラエルも一枚岩という訳ではありません。同時にネタニヤフ首相にとっては戦時のリーダーとして統治の強化を図れるチャンスでもある訳で、その為に失われるパレスチナ人の命は考慮されていません。これをジェノサイドと呼ばずに何と呼ぶべきか-_-;。

パレスチナ問題は深刻ですが、一方で日本国内でも深刻な事態が進んでいます。

ローカル線、運転士不足で減便相次ぐ 福井鉄道は2割減:日本経済新聞
アメリカやイスラエルがエッセンシャルワーカーを他民族に頼っている一方、公称単一民族国家の日本では、人口減少下エッセンシャルワーカーの確保が難しくなっていることはエッセンシャルワーカーが足りないで取り上げたバスやトラックのドライバー不足と同じ問題がローカル私鉄でも顕在化しているのですが、数の上では多い大型二種免許保持者と比べても鉄軌道事業の動力車運転免許保持者は圧倒的に少なく、実務経験などの資格要件も厳格な上国家試験が年2回で育成のボトルネックにもなっています。加えて大手事業者のような好待遇を出せないローカル私鉄の厳しさは尚のこと。

取り上げられた福井鉄道の場合は鉄道と軌道に跨る路線構成で、前者向けの第一種免許を保持するJR退職者も後者向けの第二種免許を取得するまで乗務できず、徹軌道分界点に駅がないことから乗務員交代の対応も取れないという特殊事情もあります。どうする縦割りで取り上げた鉄道事業法と軌道法の縦割りの弊害が作用している訳です。

政府はトラックやバスのドライバーを外国人解禁(特定技能職種に追加)で対応しようとしてますが、円安で稼げない日本にわざわざ来て大型二種免許取得というコストを負担してまで来てくれると考えるのは甘いでしょう。エッセンシャルワーカーの枯渇は先進国共通の課題ですが、日本の急速な人口減少はそれだけ危機的ですが、政府は有効な対策を打てておりません。国民の窮乏化が作用している現状で取ってつけた少子化対策は無意味だし財源ねん出過程で国民負担の増加や行政サービスの低下を伴うことも確実です。当然有事に戦う兵士もいないということでもあります。外国人兵士も解禁するのか?当然ながらそんな日本は世界平和を希求し平和の配当を受け取る以外に道はないんですけどね。

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Sunday, October 08, 2023

戦争とインフレ

前エントリーのインフレは続くよどこまでもの続編を書かざるを得ない現実に直面しています。アゼルバイジャンによるナゴルノカラバフ侵攻のほか、コソボ国境へのセルビア軍集結はまるでロシアのウクライナ侵攻前夜を思わせます。加えてパレスチナのハマスによるイスラエル攻撃とイスラエルによる報復と紛争があちこちで噴出しています。多分元を辿ればこのニュースに行き着くのでしょう。

米下院、マッカーシー議長の解任動議を可決 米国史上初:日本経済新聞
10/1からのつなぎ予算をまとめたマッカーシー議長の解任動議が共和党から提出されて可決成立して下院議長が空位となりました。その結果後任を選ばなければなりませんが、多数派の共和党から選出される限り、保守強硬派の発言力が増すことが予想されます。その結果今回のつなぎ予算で削られたウクライナ支援予算が復活する見通しが立たなくなり、支援継続が難しくなっています。その分アメリカの軍事プレゼンスが低下した訳ですから、鬼の居ぬ間の洗濯とばかりに軍事行動を起こす国や地域が出てくる訳です。

但しそれぞれ抱えている事情は異なります。アゼルバイジャンのアルメニア侵攻は元々仲の悪かった両国の紛争がロシアの軍事的弱体化でバランスが崩れた結果ですが、石油成金のアゼルバイジャンはソビエト時代にも国内の山岳ユダヤ人迫害を抑えられないソビエト政府がイスラエル亡命を認めた結果、人口増のイスラエルがパレスチナ暫定政府(ファタハ)と交わした和平合意を反故にして越境入植したことでパレスチナ情勢を悪化させました。それに対して為す術のないファタハのぬるい対応に対する不満の受け皿としてハマスが台頭し、ガザ地区を実効支配するに至ります。つまりファタハの暫定政府の統治が及ばない訳です。

コソボはそもそもセルビアの自治州だったところをアルバニア系住民が多くセルビア人による虐待を口実にNATOが介入して独立させた経緯があります。故にロシアのクリミア侵攻の時に「コソボはどうだった?」とロシアの立場を正当化する口実に使われ、巡り巡ってウクライナ侵攻に繋がります。ロシアがウクライナを自国の一部と主張するように、セルビアがコソボを自国の一部とと主張することに繋がります。加えてウクライナ問題でNATOの対応が手薄になるという読みもあるでしょう。

同時にロシアにもアルメニアを支援する余力がないことでアゼルバイジャンが攻勢に出たという形でウクライナとの連動は見られます。但しパレスチナのハマスの攻勢は今のところ唐突感が強く、故にイスラエルも虚を突かれた形となっておりますが、やられた分はキッチリ倍返しするイスラエルの流儀からすれば結局パレスチナ側の被害の方が大きくなるのは避けられないでしょう。

という風に連鎖的に起きている紛争は、結局アメリカの軍事プレゼンスの低下で抑えが効かなくなっているってことですね。加えてウクライナ支援予算が減ればその傾向は更に増します。またロシアも北朝鮮に頼らざるを得ないほど弱体化している訳で、アメリカの支援が減ったからといってロシアが有利になるとも言えません。その一方でアフリカのサブサハラ地域でのワグネルの存在感が拡大してロシアの間接的プレゼンスを支えているなど、世界は複雑化しています。

これだけきな臭くなった世界ですが、台湾や朝鮮半島では大きな動きはありません。中国はゼロコロナの失敗や不動産バブル崩壊でそれどころじゃないし、北朝鮮もコロナ禍で国内経済が疲弊しており、特に海外へ出た出稼ぎ労働者が国内に帰れずにいた訳ですから、ウクライナ紛争でロシアへの武器輸出でやっと一息ついたのが現実ですし、国内装備の強化はその分後回しですから、直ちに有事となる可能性は低いといえます。

台湾に関しても騒いでいるのはほぼ日本だけですが、アメリカは本音ではウクライナで手を取られて米軍のアジアシフトが遅れていることを気にしていますが、岸田政権の防衛強化策でミサイル買ってくれるし米軍の指揮下で動くこともあり、寧ろ中国も北朝鮮も相手にしていなかった日本を攻撃する口実を与えることになります。アメリカにとっては日本が弾除けになってくれる一方、日米安保5条による防衛義務はあくまでも議会の承認が必要ですから、ウクライナへの支援すら打ち切ろうとしているアメリカの保守派が支配する議会で本当に防衛してくれるのかは疑っておく方が良いでしょう。

あと朝鮮半島と台湾の国際法上の違いも、日本でゃあまり話題になりませんが、朝鮮国連軍の名目で駐留在韓米軍は紛争当事国であり、朝鮮半島有事には動かざるを得ない立場ですが、台湾に関しては未承認ですから、集団的自衛権行使の対象にはなりません。装備強化などの支援はしてもイザというときには動けない、少なくとも議会の承認は必要です。となると米軍が動けない分初動を日本の自衛隊に頼る可能性はあります。つまり米中代理戦争を負わされる可能性はあります。

そしてミサイルを買うお金も予算化されずに放置されてます。これも度々指摘してますが、真水の財源を確保できなければ、例えば決算剰余金を充てるにしても、その分国債償還費を減らす訳ですから実質国債発行で対応することになります。つまり財政に負荷をかける訳で、生産力を持たない兵器の購入は様々な経路で国民の財布に戻る政府支出を圧迫し国民の経済厚生を悪化させます。しかしそうまでして必要とする議論は行われておりません。

加えて円安によるインフレ進行で国民生活が苦しい時だけに、本当に必要なのかをきちんと議論して国民の同意を得ることは必要です。加えて言えば有事への備えとはいえ一応平時の現状で真水の予算で対応すればこそ、有事の財政出動の余地が出来る訳で、太平洋戦争後のハイパーインフレが示すように、財政の悪化は事後的にインフレで調整されます。ということで紛争で財政支出を余儀なくされる状況では、財政インフレが起きる訳で、国民生活を圧迫します。

その前に定員割れ状態にある自衛隊を戦闘に駆り出すことは現実的に難しい訳で、そもそも人口減少が進む国での軍備増強は国民に負担を強いるだけで実際に戦える体制を構築することすら困難です。この点は自衛隊に限らず2024年問題に直面する建設業や運送業の人手不足と同根ですから、解決は容易ではありません。何しろ大阪万博すら開催が危ぶまれる現状です。遅まきながら政府も動いてはいます。

鉄道・船舶の輸送量10年で倍増 政府の2024年問題対策:日本経済新聞
今ごろこんなこと打ち出しても来年3月の働き方改革には間に合わない訳で、分かり切っていても動かない政府の無策ぶりに眩暈がします。当然ながら北海道新幹線並行在来線の函館本線長万部以南に対する対応は行われることが期待されますが、現状維持ではなく倍増となると、日本の鉄道貨物で致命的な投資不足に対する支援がしっかりできなければ画餅に帰すことになります。まもなく発表される政府の経済対策を注視しましょう。

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Sunday, October 01, 2023

インフレは続くよどこまでも

有り難くないタイトルですが、中国バブル崩壊の次はアメリカの話題です。米国債金利の上昇で円安が進む昨今、米連邦政府閉鎖の危機が今度ばかりは避けられない情勢でしたが、ギリギリのタイミングで回避されることになりました。

米下院、超党派のつなぎ予算案可決 政府閉鎖回避へ前進:日本経済新聞
10/1から始まる新年度の予算執行のためのつなぎ予算が下院で否決されたことに端を発する騒動ですが、下院多数派の共和党の強硬姿勢で民主党案が否決された後、マッカーシー下院議長の修正案が提案されたものの、民主党のみならず共和党からも反対が出て否決となり、絶望的な状況ということで、バイデン大統領も政府閉鎖準備を指示せざるを得ない状況となりました。結果的にはマッカーシー議長案の修正で下院を通過したものです。

ここまで揉めたのは米国内の分断の深刻さを示すものです。元々新年度予算は民主、共和両党で合意済みですが、下院多数派の共和党が執行段階でブレーキをかけた格好です。共和党が嫌うリベラル的政策の予算を削り、不法移民対策としてのメキシコ国境のフェンス建設に予算を回せというのがザックリした主張ですが、既に合意済みの予算を削れというのは無理筋です。但し今回のつなぎ予算も45日間ですから、同じような騒動は繰り返されると見ておくべきでしょう。

これにはいろいろな背景があるんですが、共和党地盤の南部諸州にとって不法移民問題が重荷になっていることは確かな一方、東部エスタブリッシュメントや西海岸のハイテク地帯に強い民主党の移民に甘い姿勢は許せないという感情が前に出る訳です。その一方でヒスパニック系移民の増加で人口が増えており、移民の出生率の高さから人口の低年齢化も進んでいて、それが南部の生産年齢人口の厚みとなって工業化が進んだ面もあります。加えて共和党ステートの労働規制のユルユルさもあり、組合運動を認めないテスラの工場などが立地しております。それが別の問題を引き起こしていることも見ておきます。

米自動車スト拡大 新たに7000人、GMとフォード工場で:日本経済新聞
全米自動車労連(UAW)のストでGM、フォード、ストランティス(クライスラー)のビッグ3の工場がスト突入で生産が滞っております。UAWの主張はエンジン車からEVへのシフトは避けられず、自動車関連の労働者の数が減ることを睨んで、EV用バッテリーなどの製造工場の労働者もUAWに加盟させて保護を受けられるようにすべきだという主張です。産業構造の転換を理由に労働者が不利益を被ることは避けるべきということです。

ややこしいのはバイデン大統領が集会に参加して連帯を表明したことで、組合側が勢いづいていることで、結果的に火に油を注いだ形になってしまったことです。2016年大統領選で組合票がトランプ氏に流れたこともあり、組合票の囲い込みに動いた形です。不法移民が雇用を圧迫して産業が停滞したというトランプ流ナラティブの否定と共に、暗に南部諸州の労働規制の緩さを批判している訳です。同時に政権のEV政策も関わります。

トランプ時代のバイアメリカン法に触らずにインフレ抑制法(IRA法)を成立させた結果、米国内で販売されるEVは基本北米地域で生産されることを条件とされてしまいます。その結果EVシフトを進める欧州メーカーからWTO違反ではないかと言われごたついています。狙いとしてはバッテリー製造で世界をリードする中国への牽制なんですが、欧州やアジアのメーカーも引っかかる訳で、故に韓国現代なども米国内にEV製造拠点を設置を表明し、SKハイニックスなどバッテリーメーカーも追随しております。

当然欧州メーカーにも同様の動きがある訳ですが、製造拠点が置かれるのは労働規制の緩い南部諸州だったりメキシコだったりすると、結果的にビッグ3中心のUAWにとっては放置できない問題でもあり、出来れば連邦法で規制して欲しいというのが本音です。IRA法の狙いは気候変動対策と共に経済安全保障という面もあり、気候変動を重視するなら地産地消で可能な限り国内で生産して販売するのが正しいし、化石燃料依存の低減は経済安全保障の側面も持ちますが、同時に中国リスクも意識されており、中国産バッテリーの排除の狙いもあります。WTO提訴は現状上級委員の指名をアメリカが拒否していて機能していないですが、トランプ時代のそれを引き継いでいるのは、やはり提訴されたくないのでしょう。

という訳で政府閉鎖とストというリスクを抱えたアメリカで国債金利が上昇するのは当然となる訳です。分断による政治リスクが解消される見通しは立たず、また労組の強化は賃金を押し上げることにもなりますから、今後もインフレは収まらずFRBの追加利上げも現実味を増す訳です。となると低金利政策から抜け出せずにいる日本円の減価は避けられず、円安は進みますから、輸入物価上昇に伴う消費者物価上昇は今後も続くってことです。日銀の政策見直しが無ければ更にこの傾向は続きます。

経済安保は日本も取り組んでいる訳ですが、2020年の外為法改正の結果、妙なことが起きています。NHKスペシャルで取り上げられた大川原化工機の起訴取消事件の顛末のお粗末さが示す寒い現実です。

起訴取り消し事件「捏造」 訴訟出廷の警部補が発言:日本経済新聞
捜査官が捏造を認めたことも驚きですが、大川原化工機が輸出したのは液体噴霧乾燥機で、液体を噴霧して乾燥させることで粉末化する機械で、インスタントコーヒーや粉ミルクの製造装置になる訳ですが、警視庁公安部は生物兵器転用可能として無許可輸出を違法として刑事訴追した訳ですが、根拠となる証拠を捏造して会社幹部3名を長期間収監して1人はガンが進行して死亡するというとんでもない事件です。

警視庁公安部が動いた理由は推測ですが、法改正で実刑が定義されたことを受けて、捜査の指針となる判例を確定させたかったのでしょう。その為には抵抗力のある大企業よりも中小企業を追い込んで立件すれば手っ取り早いってことですね。狙い撃ちされた大川原化工機にとってはただただ迷惑な話ですが、特に経済安全保障絡みの政治性の強い法律故に、判例を確立させて捜査に睨みを利かせる所謂一罰百戒を狙ったと考えられます。それが今回のような人質司法の冤罪事件を生む訳です。現れ方の違いはありますが、政治が絡むとろくなことにならないのは日本も同様です。

JR北海道の札幌圏赤字急減、「黄線区」は拡大 4〜6月:日本経済新聞
コロナ禍前の水準に戻ってきたというニュースですが、記事中営業損益を見ると、北海道新幹線並行在来線区間の函館―長万部間の赤字額が長万部―小樽間の赤字額の3倍以上あり、営業キロの違いがありますが、貨物列車運行の重荷を感じさせます。ま、それ言えば絶対額では北海道新幹線が断トツで、青函トンネル区間という特殊区間ではありますが、札幌延伸後の収支改善も厳しさを匂わせます。

札幌都市圏以外は収支均衡は絶望的と言えます。その中で並行在来線協議を進める訳ですから厳しい現実ですが、加えて余市―小樽間で並行路線を持つ北海道中央バスがドライバー不足からバス転換を渋っていますし、それどころか事前に何の相談もなくバス転換を打ち出した北海道に対する不信感もあるようです。

鈴木知事が夕張市長だった時代に夕張支線の廃止に道筋をつけたことが成功体験となっているのでしょうけど、地元事業者の夕張鉄道が引受に動いたことでまとまったものの、ドライバー不足からバス便の維持は困難を極めており、鉄道時代を受け継ぐ伝統の長距離路線の新札幌夕張線の運行停止など満身創痍です。バス転換が選択肢にならない時代に直面しているってことです。

アメリカでペンセントラル鉄道が破綻したときの連邦政府の素早い対応と比べると、本当に危機感がないですね。ペンセントラル鉄道の場合は、結局連邦政府が線路保有機構としてコンレールを立ち上げて上下分離で運行継続を図りました。東方回廊とシカゴをエリアに持つペンセントラル鉄道が運行停止されると大量の貨物の滞留が起きるということでの緊急避難だったんですが、結果的に経営の苦しい他の民間鉄道も合流して鉄道ネットワーク維持に寄与しました。

コンレールはその後民間入札でサザンパシフィック鉄道に売却されて所謂北米5大ネットワークの一角を占めますが、それぐらい鉄道貨物の重要性が高いってことですね。結果的に旅客部門は都市圏毎の交通営団が引き受け、長距離列車はアムトラックが引き受ける形で現状となります。線路保有が貨物会社で旅客会社が線路を借りるという日本と逆の形になりました。この形態が基本ですから、なるほど日本の新幹線のような高速鉄道の整備のハードルは高い訳で、鉄道好きと言われるバイデン大統領がIインフラ整備法で約束したものの、財政支出を巡る共和党との綱引きで進んでおりません。政治はリスクの時代と自覚するしかないのかな。

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