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Thursday, November 23, 2023

勤労感謝にAIは勝つ?

「心配ないからね」とはいかないAI開発を示したオープンAIの騒動はこうなりました。

OpenAI、サム・アルトマン氏がCEO復帰 理事会大幅刷新へ - 日本経済新聞
元々汎用AI開発をで人類への貢献をミッションに掲げるNPO法人として発足し、大手ハイテク企業の市場独占や軍事利用、サルとロバの法螺吹き合戦で触れたデマ拡散などのネガティブなものを排除して人類に貢献するというその姿勢に賛同した多くのITエンジニアが集まりました。

当初はその名の通りオープンソースでの開発を目指し、開発過程をオープンにすることで悪意ある開発を排除し、競争環境でハイテク寡占の弊害を除去できるという見通しを示したものの、少数でも悪意あるエンジニアが開発に関与することでミッションが台無しになるというジレンマに気付きます。故にソースを公開しない形の開発にシフトする訳ですが、この点には賛同できないエンジニアもいる訳で、オープンソースでボランティア的に開発することで低コストで開発できるというメリットも失われます。

という訳でNPOが研究開発費を手当てするために営利目的の子会社を設立して営利部門を担わせる形になり、その子会社にマイクロソフトが提携のために出資するという形で関係が築かれ、大規模言語モデルの生成AIとしてGPTを開発しリリースした訳ですが、そうなると開発のスピードが速まって、しかもマイクロソフトという大手IT企業を利する形で事態が進捗することにNPOの理事たちが不安を覚えてブレーキをかけたということのようです。

マイクロソフトとしては折角掴んだ金の卵をやすやすと手放す訳にもいかずNPOの理事たちの説得と共にアルトマン氏を研究員として雇用するなどして動いた訳ですが、そこへオープンAIの従業員からアルトマン氏復帰を求める声が上がり、9割超の署名が集まりました。アルトマン氏はエンジニアの人望が厚かったようです。結果的に理事会が折れて決着し、加えて6人の理事の半数の3人を入れ替え、1人はマイクロソフトから送り込み、ガバナンスを安定させる手当もした訳です。

この一連のニュースで感じたのは、AI開発でアメリカが世界を大きくリードしている現実です。中国に限らず日本でもAI開発でアメリカを追う訳ですが、そこで語られることが例えば日本では人口減少をカバーする生産性向上策だったり、人間は労働から解放されると言われる一方、労働者から労働を奪うと反対されるなどのレベルの議論が中心ですが、アメリカではその先を行っていて、人類に貢献するAI開発というミッションと本気で格闘している人たちがいるということです。おそらく中国も日本もこの領域に達することは困難でしょう。

という訳で、勤労感謝の日だし、AIが労働市場にどんな変化をもたらすかという視点で見ると、AIへの期待は主に人口減少に伴う労働力不足の代替ということになります。経済学で言うところの資本装備率を高めて労働生産性を高める効果が期待される訳ですが、工場労働がロボットで代替されたように頭脳労働がAIに代替される訳ではありません。AIは単なるアルゴリズムですから、それ自体には創造性はなく、創造性が求められる頭脳労働は原則代替できません。

わかりやすい例として進化著しい自動翻訳で見てみると、マニュアルや技術解説書のようなものは自動翻訳の後に人間がチェックすることでほぼ問題ないレベルの翻訳が可能ですが、機微が表現される文学作品などは難しいということになります。故に翻訳家の仕事は無くなりませんが、従来はそれ故にハイスキルを求められていた翻訳家ですが、スキルの低い人が参入できる分野ができることで翻訳家は増えて結果的にハイスキルの翻訳家も含めて競争激化で報酬が下がるということが起きる訳で、AIに労働が奪われることはないとしても賃金は下がるということになります。これ事務仕事でも営業職でも結局ハイスキルの人ほどAIによる労働生産性効果が得られず、ライバルが増えて賃金が減ることを意味します。日本の場合で言えば連合などの労働団体こそAI問題に向き合う必要がありますが、現実はお寒い限りです。

そしてドライバー不足から自動運転への期待も高まりますが、気になる動きがあります。

自動運転事故、刑事責任の基準作成へ 実用化へ懸念払拭 - 日本経済新聞
記事にもあるようにあくまでも企業の参入障壁の緩和に力点がある訳で、ドライバー不足を錦の御旗に緩和を模索する動きです。ドライバー不足問題は働き方改革の例外扱いが2024年で終了することに伴って注目されましたが、それ以前に生産年齢人口の減少と需給調整規制撤廃による参入自由化の影響で賃金が下がり、そもそもなり手が減っていた中で、経過措置として2024年まで猶予され、企業は様々な対策を講じているものの、報酬アップだけはスルーされています。低報酬故に残業でやっと稼げるのに残業の上限が規制されれば収入源となる訳で、そこには手をつけずに対応すしようとするから無理がありますし、当然若者も免許取得のコストに見合わないから担い手は枯れる一方で、ドライバーの高齢派だけは進むという状況です。簡単にはいかない現実があります。

そもそも道路は公共空間な訳で、公共空間の私的利用には当然ながらルールが必要なんですが、オリガルヒの叛乱で取り上げた電動キックボードの解禁もレンタル事業者の便宜を優先した結果ですし、ユニコーンの馬脚で取り上げたライドシェア問題もそうですが、公共空間を利用した営利事業に規制がかかるのは当然のことです。実際ロンドンをはじめ欧州の大都市では営業許可を採取れていなかったり、規制のないアメリカでもライドシェア絡みの事故は多数報告されています。故にドイツの後塵で取り上げたカリフォルニアの自動運転車の事故に関わらずウーバーよりは安全と評価されてたりします。ライドシェアにしろ自動運転にしろ上述の翻訳家の例のように結果的に低報酬化をもたらすものについては、労働団体が問題意識をっ持つことが必要です。

公共空間としての道路という視点ではどうする縦割りで取り上げた宇都宮ライトレール(以下ライトラインと記す)の問題も関わってきます。同エントリーで記したようにライトラインは新設軌道に見える区間も道路扱いで全線併用軌道となっており、故に軌道法の規制で目視運転を前提とする40km/h規制を受けている訳ですが、出かけて試乗してみました。

とりあえずは40㎞/h規制でゆっくり走っており、交差点信号に黄↑赤×の二位式軌道信号が併設され、その他両終端のシーサスクロッシングと平石、グリーンスタジアム前のポイント部に軌道信号がありましたが、閉そく信号に相当する信号は見当たらず、列車間隔を制御するシステムはどうなっているのかはわかりませんでした。また信号に引っかかることもあり、電車優先信号が設置されているようにも見えません。現状では電車の表定運行時分に合わせて交通信号を調整しているだけのように見えます。現状はLRTというより通常のトラムの域を出ておりません。

現状道路上の目視運転で自動車の軌道敷内通行を規制している状況ですが、公共空間として緊急車両の通行帯として軌道敷が利用されることなどを踏まえれば目視運転のままのスピードアップは問題があります。おそらく何らかの対応は取られるのでしょうけど、ならば何故開業時から併用軌道50km/h新設軌道70km/hで開業しなかったのか、その辺の事情が明らかになっておりません。当然ながら専用路を走る鉄道と違って自動運転は簡単ではありません。自動車の自動運転が俎上に上る中でのライトラインの評価には難しさがあります。

また並行バス路線をバッサリ切って宇都宮大学陽東キャンパス、清原地区市民エンター前、芳賀工業団地管理センター前で途中乗り換えとしたことに対する評価は時間がかかるとしても結果的に公共交通利用が増えて渋滞が解消することがゴールということも踏まえておく必要があります。地元のバス事業者の関東自動車は出資と共にバス路線再編でドライバー不足が緩和されたとしてますが、乗換を嫌って乗客が減るようであれば本末転倒なのは言うまでもありません。未だに市民や鉄ちゃんの試し乗りと思しき乗客が見られるのが気がかりです。当然ライトライン自体の運行維持という新たな負担も負う訳です。

という訳でAI時代になっても労働力不足を解消できる訳ではなく、労働から解放されるといった楽観論がいかに非現実的かということは間違いなく言えます。AIもLRTもシステムとして社会にどう実装されるのかが大事ってことです。

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