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December 2023

Saturday, December 30, 2023

根拠なき楽観論に警戒

29日の東証大納会の終値が34年ぶりの高値だそうですが、それでもバブル期の1989年につけた最高値を更新できていない状況です。実際は前場で取引の終わる大納会は元々薄商いになりやすく実際は前日終値から若干下げて終わったものです。明るいネタ探しの結果でしょうけど、何かおかしな風潮です。

10年続いた異次元緩和でも達成できなかったとされるデフレ脱却がいよいよ来るという文脈のようですが、諸人こぞりて現実を見ないのはどうかしてます。株価が示すように失われた30年は克服できておらず、寧ろ円安によるコストプッシュインフレに国民生活が圧迫されている中で、未だに脱デフレで来年の春闘の賃上げ期待でインフレ目標を達成して日銀の緩和政策の正常化というシナリオがまことしやかに語られてますが違和感があります。高度経済成長時代の再現を夢見ているとすれば裏切られます。

衰退途上国からの脱却 「積極財政で成長」幻想、捨てよ - 日本経済新聞
高度経済成長を理論的に支えた経済学者下村治氏が石油危機後に示したゼロ成長論を下敷きにした失われた30年の論考ですが、転職で所得が上がる社会というのは所謂ジョブ型雇用と同じ意味ですが、産業別や職種別組合がなく企業横断的な労働市場の存在しない日本で実現するのは難しく、安直な積極財政依存は淘汰されるべき低生産性企業を温存して雇用を塩漬けにして高生産性企業への転職を阻害してしまうので、寧ろ国全体の生産性を下げてしまい企業の付加価値創出力を奪い、結果的に経済を停滞させてゼロ成長に陥り、長寿社会を支える負担が困難になるという論旨です。

有名な話ですがかのケインズも積極財政で景気浮揚はできても経済成長はできない、経済成長に必要なのはアニマルスピリットだと述べております。下村氏のゼロ成長論も似ていて、積極財政に頼らずに企業のイノベーションで企業の付加価値創出力で成長を目指すというものです。実際石油危機の時にはエネルギー消費の多い重化学工業から半導体などの省エネ産業への転換が叫ばれ実践され、ジャパンアズナンバーワンの80年代を実現させました。

しかしバブル期の過剰投資が災いして過剰生産能力を抱えた状態でバブル崩壊による銀行の不良債権問題が顕在化、これは借り手の企業側から見れば過剰債務を意味しますから、その解消に苦しむ中で債務返済を優先した結果、投資が停滞して景気を冷やした一方、積極財政による景気浮揚に頼った結果、低成長に陥った訳で、失われた30年にそのまんま当てはまります。特にアベノミクスの10年は異次元緩和による円安誘導と金利圧迫による財政規律の喪失と低生産性企業の温存が顕著でした。

故にアベノミクスを実質的に継承する岸田政権の新しい資本主義でも問題は解決しない訳です。巷間ザイム真理教とかいう面妖な議論もありますが、防衛力強化にしろ異次元の少子化対策にしろ財源を示さない岸田政権の姿勢の欺瞞は減税くそメガネでも取り上げた通りです。目先の減税で誤魔化しても将来の増税が待っていることに国民は気付いています。

あと成長戦略として新NISAが話題になっておりますが、ネギ背負ったカモでも取り上げましたが、2,000兆円を超える家計貯蓄を株式投資に振り向けてリスクマネーにしようという発想はバブル期から繰り返し試みられて失敗を重ねております。但し今回は期限が撤廃され非課税枠の拡大もあり、また著名アナリストのほったらかし投資が注目されており、若者が関心を示していてムーブメントの予兆があります。

高齢者の資産取り崩しエントリーで取り上げた老後資産2,000万円レポートの影響で若者の資産形成の関心は高まっていますが、これ裏返せば老後不安からくる訳で、公的年金の将来への悲観がある訳です。その結果消費をリードする筈の若者が消費を控えてしまう訳で、その結果ただでさえ生産年齢人口の減少で現役世代が減っている中で、消費を冷やすことになります。公的年金が信頼できる制度ならば起きないことですが。公的年金を充実させるためには現役世代の収入を増やす必要がある訳ですが、財政頼みの日本企業にはその能力がないことが問題です。

となると不都合な問題が起きてきます。著名アナリストが言うように、個人の資産運用は長期投資で福利効果を狙うのが王道で、その為には拠出可能額の範囲で毎月一定額を拠出するつみたてNISAで米S&P500連動ETFを買って忘れろってことになります。個人投資家としては合理的な選択ですが、毎月推計2,000億円と試算される円売りりドル買いの為替取引が連続的に起こることを意味しますから、円安方向への圧となります。つまり個人投資家としての合理的行動が円安インフレを継続させる結果となる訳で、輸入物価上昇による生活の困窮をもたらすことになります。経済学で言うところの合成の誤謬が起きる訳です。

つまり貯蓄のリスクマネー化の結果として資本流出をもたらす訳で、マイルドなキャピタルフライトとなる訳です。回避策があるとすれば東証TOPOX連動ETFがS&P500より投資妙味が高くなる必要がありますが、東証プライム市場の半数がPBR1倍割れでは無理な話です。ちなみにもうすぐ笑わなくなる鬼でも触れたように鉄道業界でもJR東海や京成電鉄が該当します。つまり貯蓄をリスクマネーに転換しても国内企業には恩恵がない訳です。これでどうやって成長しろってことでしょうか?しかも財政資金は成長とは縁のないところに大量に流れています。例えばこれ。

辺野古移設、国が初の「代執行」 24年1月着工 - 日本経済新聞
国の法定受託事務としての公有水面埋め立ての知事承認を知事が承認しないから国が強制代執行という法律論的にも問題のある判断ですが、それを横に置いても大浦湾の軟弱地盤で工法の変更を余儀なくされた杜撰な計画で工事が遅れていて、普天間の返還が最短15年後というベタ遅れの事態を招いた国の責任を問わず承認しない知事を責めるのは、国と地方の対等な関係を定義した地方自治法の趣旨に反しています。

はっきり言えば米海兵隊の本体は既にグアム移転が決まっていて、補給の中継点としての機能が求められる普天間の代替施設としては計画の半分の規模でも可能なんで、難工事の大浦湾の埋立を凍結して暫定整備する方が普天間の返還を早めることになる筈ですが、そうした県側の意見を聞かずに強行している訳です。しかも事業費も膨張しています。その結果宜野湾市の市街地に立地する普天間基地返還で市街地再開発が進めばそれによる経済効果が見込める一方、いつまでも完成しない新基地建設に拘る限りそれは見込めない訳で、経済合理性を考慮してもあり得ない判断です。

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Sunday, December 24, 2023

諸人こぞりて苦しむイブ

ユニコーンの馬脚で取り上げたライドシェア解禁の枠組みが決まりました。

「ライドシェア」24年4月に限定解禁 全面導入に業界抵抗 - 日本経済新聞
DX推進に前のめりな政府にタクシー業界が巻き返した形ですが、タクシー不足の地域や時間帯を限定して2種免許を所持しない一般ドライバーの参入をタクシー会社の管理下で認めるというもので、事業主体はあくまでもタクシー会社で、ドライバーへの指導や事故時の保険対応をタクシー会社が担いアプリ会社の参入は見送りという落としどころとなりました。関連して2種免許の要件緩和も盛り込まれており、カーナビ使用前提で地理学習を簡素化するということですね。この点は寧ろ見直しの契機となったという意味で、ライドシェア導入の議論自体は無意味ではなかったということでもあります。正—反―合の弁証法的展開です。

議論によって問題解決を図ることで、賛成反対の双方に納得感のある解決策を見出すことこそが民主主義のエッセンスです。結果的に決まったことへの事後的な反発が抑えられる訳で、議論を行うプロセス自体は時間がかかりますが、決定後はスムーズに事が運ぶ訳です。ところが民主国家を名乗り選挙制度などを備えた国でも議論をないがしろにして多数決の結果だけを押し通すのは民主主義と言えるのかどうか微妙です。例えばロシアも選挙制度は整ってますが、プーチン大統領の一存でウクライナ侵攻を決めるようなことが起きる訳です。見かけと中身が一致していない訳です。

安倍派裏金、事務総長の権限重点 地検が幹部聴取で捜査 - 日本経済新聞
翻って派閥裏金問題で揺れる日本の政界ですが、キックバック分を議員個人の政治資金収支報告書に記載しなかったことが違反行為として問われているものの、制度上責任を問われるのは会計責任者であって、指示や共謀などを示す物的証拠がない限り議員個人への訴求はできないという結構なザル法です。

今回は派閥パーティということで、資金管理団体としての派閥の運営で、事務総長の議員の権限が問題の中心にあります。つまり事務方に責任押し付けて議員はお咎めなしとはいかない構造がある訳です。キックバックを受けた個々の議員の会計責任者も派閥から不記載で問題なしと言われれば従うでしょうし、それが派閥の事務総長から発せられたものとすれば事務総長を務める議員はアウトになる訳です。但し検察がどこまで証拠を固められるかは尚不明です。またかように資金管理団体が多重化されていて実態を掴みにくいことも立件を難しくしています。

一方キックバックされた裏金が何に使われたかによっては選挙時の買収など公職選挙法違反にも問われますから、各議員は気が気ではないでしょう。また収支報告書不記載の時点で政治資金から外れてる為、議員個人の雑所得として申告納税されていない限り、脱税の責めも負う可能性があります。これは国税当局の守備範囲ですから直ぐにって話ではないですが、落ち着かない議員さん多数でしょう。あと余談ですが、パーティ券を購入した企業や個人でも欠席ならば寄付と見做され上限はありますが所得控除の対象となりますが、出席して飲食など対価を得た場合は交際費で課税となります。企業にとっても税務上面倒なことですが、メリットあるから受け入れているのでしょう。

仮に選挙時の買収で票を買っていたとすれば、選挙制度自体が空洞化し、多数の暴力で物事が決められて、強引に進められるということも起こり得ます。例えばオリガルヒの叛乱で取り上げた電動キックボードの解禁の議論で審議会での慎重論を無視して自民党MaaS議連が強引に決めたりした訳です。しかも国会論戦もそこそこに党議拘束で与党議員は中身を精査せずに賛成に回りますから、実態は少数派の力業で通したということですね。権威主義国家とどこが違うのかということになります。上記エントリーの北陸新幹線大阪延伸でJR西日本の言い分のみで、問題の多い小浜京都ルートに調査費をねじ込んだ与党新幹線プロジェクトチームの横暴もあります。

とまあ言い出したらきりがないですが、東京五輪や関西万博などさまざまな意思決定過程が歪められてきたことは間違いありません。主権者としての国民の自覚のなさが招いた事態ではありますが。最後にこれ。

トラック、高速道路で速度90キロ容認 - 日本経済新聞
電動キックボードでは慎重姿勢だった警察庁がトラックドライバー2024年問題対策として高速道路の大型トラックの制限速度を現行の80㎞/hから90km/hに緩和するというものですが、トラック輸送で何がボトルネックかといえば荷捌きと待機時間なんですよね。大型トラックは荷積みも荷降ろしも時間がかかりますし、そもそも荷捌き場への入場待ちで待機させられる時間が長く、ちょっとスピードアップしたからといって解消するものではありません。安全面を考えれば期間と区間を限定した社会実験で確認してから行うべきで来年4月の実施は拙速です。2024年問題対策の特効薬はありません。もっと早くから対応すべきでした。国民不在は至る所にあります。

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Saturday, December 16, 2023

もうすぐ笑わなくなる鬼

鬼が笑う2024年から間もなく半年。いよいよ鬼が笑わなくなります^_^;。しかし笑う鬼退治は進まず、人手不足倒産が現実味を帯びます。後手後手の後出しジャンケンで窮地の政権には問題解決能力を期待できません。加えて海外にも波乱要因はあります。

FRB、3会合連続利上げ見送り 2024年は利下げ3回分を予想 - 日本経済新聞
FRBが利上げ打ち止めと共にパウエル議長が利下げを示唆したということで為替が動いてドル円が140円近辺に上がりました。但しこれは同時に日銀のマイナス金利解除など金融正常化との見合いということで、日米金利差が縮小するというシナリオに基づきますが、注意が必要です。というのは利上げ打ち止め後も量的引締め(QT)は継続しており、国債市場に上昇圧力がかかっている状況には変わりはなく、引締め的な状況が続く中で、状況に応じた微調整程度の話です。米政府の財政支出拡大傾向は続いていて国債を消化しきれずに市場金利が高騰するリスクがあり、その調整が迫られることを織り込んだということです。

加えて労働市場の軟化でインフレ鈍化が言われてますが、昨年の7%超のインフレ水準を分母とする今年の3%程度のインフレは、それ自体家計への負担となっていて、実質賃金はマイナスのままです。つまりインフレの鈍化イコール終結ではないということで、FRBは油断できない状況にあります。楽観論者が言うようなソフトランディングシナリオにはなりません。故に外需頼みのの今の日本も影響を受けます。同じ3%程度のインフレでアメリカは実質金利でプラス、一方日本はYCC見直しで1%の市場金利ですから実質マイナス金利で為替は140円台に戻ったものの円安の地合いは変わりません。

加えて大統領選次第でアメリカ自身が迷走するリスクがあり、ウクライナとパレスチナへのアメリカの関与の姿勢も変わります。ザックリ言えばウクライナを見捨ててパレスチナ問題ではイスラエルへのコミットを深めることになります。そうなると原油や天然ガスを中東に依存する日本の立場が微妙になります。日本に留まらずEUもアメリカを当てにできない状況を睨んでウクライナとモルドバのEU加盟交渉開始を決めました。これはEUのロシアとの決別を意味します。日本もサハリン2見直しを迫られるでしょう。

てことで嵐の予感の2024年が間もなく始まりますが、経済的混乱や停滞は必至なのに有効な対策を打てないのが今の日本政府です。それでいて2025年の万博がパビリオン建設もままならず開催に間に合わないことは確実ですが、未だに中止も延期も打ち出せずに、一方で追加負担は続き事業費は倍増しております。ま、万博は年が明けても鬼が笑う範疇に留まりますがwww。見通しが立たないのはこちらも同じです。

静岡・川勝知事、リニアで「全工区の工事計画明示を」 - 日本経済新聞
大井川の水問題に解決の可能性が見えてきたとはいえ、南アルプストンネルの作業ヤードや作業用道路の整備を巡るJR東海の静岡県アセスメント条例違反は解消された訳ではなく、直ちに着工とはいかない静岡工区です。

JR東海は開業年度の2027年予定を取り下げたものの、何時まで延期とは発表せず、静岡工区の未着工で遅れていることを際立たせようとしていますが、実際は大手ゼネコンの談合事件や工事現場のコロナクラスター感染による停止や調布市の外環道トンネル工事の陥没事故で大深度地下トンネル区間も未着手だし、岐阜県のトンネル落盤事故もあり、実際にはあちこちで工事が遅れているのですが、そうした情報提供はせずに静岡県を悪者に仕立てようと意図していると川勝知事は訴えている訳です。ちょっと遡りますが、国交省が示した懐柔策がこちらです。

静岡県にリニア新幹線効果1679億円 観光消費増で、国交省試算 - 日本経済新聞
川勝知事は東海道線の静岡空港新駅設置を希望していると言われますが、掛川駅と近過ぎてこだまの連続停車でダイヤ編成上ネックとなることから無理ということで実現可能性はありません。それ故静岡県にメリットのないリニア工事で負担ばかりということに対して国交省の官僚が示した答案がこれです。

加えて静岡県が以前から求めていたのぞみの静岡県内停車ではなくのぞみの一部の需要がリニアに移るからひかりやこだまが便利になるというロジックです。リニアは毎時10本程度で座席定員が1,000人程度とのぞみ16両編成の3/4ですし、当面名古屋止まりということもあってのぞみのリニアへの全面移行は無理ですから、のぞみの静岡素通りは続くと考えられますし、ダイヤ編成権はJR東海にありますから、国交省が何を言おうがJR東海がそれを忖度して実行するとは限りません。

というかそもそもJR東海のリニア中央新幹線計画は、新幹線保有機構からのリース料に国鉄長期債務の一部を乗せて償還させるスキームをJR東日本の株式上場時に主たる事業用資産が自己保有ではないことの弱点を東京証券取引所に指摘されて国に買い取りを求めた結果、再取得価格という時価評価に整備新幹線などに充てる鉄道整備基金の原資を乗せて25年ローンで返済というスキームに変更し、2017年にローンが終了し、その分キャッシュフローの余剰が生じることから、それを活用してローン総額の5.1兆円をベースに資金繰りして整備するという自己資金スキームを打ち出して国庫負担が無いということで政府が承認したものです。

そのために事業費に事実上キャップがかけられており、それが各工区に割り振られた予算の厳格な管理から受注するゼネコンに談合を呼び込んだんだし、予算制約から無理な工事も散見されており、決して工事は順調ではありません。しかも大阪延伸の前倒しという名目では3兆円の財投資金融資を政府が決めましたが、この融資条件がユルユルで30年据え置きその後10年で返済という超破格のスキームですが、加えて大阪延伸前倒しを示唆しながら融資条件にはなっていないということです。

つまり財投の3兆円は破格につなぎ資金となっており、リニアちゃん気をつけてで指摘したように財投資金を資本制資金として計上した結果、JR上場4社の中で株価が高いJR東海のみがPBR1倍割れとなったと見られます。勿論リニア事業が順調に進んで開業し事業用資産として利益を生むようになれば問題はないんですが、現時点でその見通しは立たない訳で、故に資本効率の改善にはつながらない訳です。ちなみに当初5.1兆円とした事業費はその後膨張し、現時点で7兆円となっております。つまり既に財投資金3兆円の半分以上は投入されている訳で、何時になるかわからない開業までは資本効率の改善は無理という訳です。

これ上記笑う鬼退治エントリーで指摘した京成電鉄のオリエンタルランド依存の結果の実質PBR1倍割れ問題とも似ています。OLCや東海道新幹線のような金の生る木をなまじ持っているがために苦労している訳ですね。

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Sunday, December 10, 2023

後手後手の後出しジャンケン

ドイツの後塵に留まらず順調に衰退しています。

揺らぐ世界最大の債権国 日本円に2つの2024年問題 - 日本経済新聞
過去の経常収支黒字の累積としての債権国日本ですが、その世界一の地位もドイツに明け渡します。ユーロ圏のドイツと違って自前の通貨を発行する日本にとっては、通貨の信任を担保する要素が1つ減ることを意味します。これは円安要因です。

経常収支黒字は続いてますが、貿易収支は赤字と黒字の行き来するイーブンの水準に後退してます。電機産業の衰退で特にパソコンやスマホといったハイテク製品の輸入超過に加えて、コロナ禍の影響もあってワクチンや医薬品などの医療品の輸入超過で帳消しとなっております。加えてサービス収支の悪化もあります。これは主にクラウドサービスなどデジタル関連サービスの海外(主にアメリカ)依存の結果で、水準としてはインバウンドによる旅行収支黒字の倍の赤字です。国内企業や個人の海外資産の配当に当たる所得収支の黒字で辛うじて経常栗字を維持している状況です。つまり国内の稼ぐ力が減衰していて実需でも円安が定着していることを意味します。それを踏まえて見るべきニュースです。

円乱高下、一時141円台 4カ月ぶり高値 - 日本経済新聞
為替が円高に振れて円安の終了という見方がされてますが、円安の地合いは変わりません。相場が乱高下したのは米FRBの利上げ打ち止め観測によるドル高ポジションの修正と日銀の緩和修正先取りという投資家の2つの動きが重なった結果ですが、141円台まで円高が進んだ後144円台まで戻しているように、結果的に相場の修正は起きたものの、円安傾向を逆転するほどの話ではありません。超インフレでも経済成長しているトルコリラ以上に円の実質実効レートは下がっています。故にこうなります。
消費の再点火、成長持続の条件に 7〜9月期GDP下方修正 - 日本経済新聞
個人消費の弱さから下方修正されたものですが、円安によるインフレに賃上げが追い付かず実質賃金が下がっている状況では当然の結果です。しかもガソリン、電力、ガスの補助金や原油価格の下落があっての結果ですから深刻です。日銀政策変更は来年の春闘後と考えられますが、インフレ率を越えるとなれば5~6%程度の賃上げ水準が必要ですが、そうなると賃上げを原因とする供給制約によるコストプッシュインフレが起きます。2024年問題で人手不足が深刻化するとしても達成が困難な水準ですし、仮に達成されてもインフレは寧ろ進むことになります。つまりどのみち日銀は緩和修正を迫られます。

という訳で後出しジャンケンで後手を踏むドツボに嵌っているようにしか見えない状況は減税くそメガネで予想した通りで、世論を気にして所得減税を打ち出したら叩かれ、地方選挙の江東区長選でSNS広告打って選挙違反を問われ、更に派閥パーティを巡る裏金疑惑という決定的な問題で政権は迷走しています。

安倍派パーティー「裏金」数億円か 週内に捜査本格化 - 日本経済新聞
法的には派閥パーティのパーティ券の議員個人の販売ノルマを超えた分のキックバック自体は違法ではないのですが、それを個人の政治資金収支報告書に記載しなかったことが問題視され地検特捜部が捜査している状況です。パーティ券販売自体は野党議員もやっていることで、立憲安住議員の30万円の記載漏れも報じられましたが、安倍派議員の記載漏れの金額が数百万から一千万単位という数字で、仮に1千万円とすれば1人5万円のパーティ券を200人分余分に売ったことになりますから、1回のパーティでは無理な数字ですからうっかり記載漏れという言い訳は通用せず、何回も意図的に不記載を繰り返していたとしか考えられない訳で、その分が裏金となっている訳でかなり悪質です。

また法的にはパーティで政治資金を集めることは禁止されていませんが、まとまった額を得ようとすれば構成員の多い企業や団体に頼ることになりますから、政党向け以外は禁止されている企業団体献金の抜け穴になっている可能性もある訳で、そうして恩を売られた議員はパーティ券を引き受けた特定の企業団体に便宜を図ることになる訳で、利権政治の温床でもあります。故に真っ直ぐ問題解決に繋がらず、寧ろ特定利害を保護する骨抜きがされる訳です。例えば旧統一教会の解散命令前の財産保全を狙った法整備でもそうなりました。こうして既得権益が保護された結果の日本の停滞ならば、選挙で変えられるということでもあります。例えばこんなことも。

公共工事、物価高超す増額頻発 国発注の4割で計5.2兆円 - 日本経済新聞
資材高や人手不足で事業費が膨張すること自体はやむを得ないことですが、問題は過程が不透明なこと。事業ごとに相対で増額が決まるもので、物価スライドのようなルールに則ったものではありません。例えば辺野古の新基地建設や大阪関西万博関連などのようにどんどん予算が増額する一方、再三取り上げてますがローカル線の存続や都市部でも顕著なドライバー不足によるバス減便など、国民生活にリアルに支障が出ている問題に対しては予算がつかない現実があります。あるいは事故起こしたオスプレイには予算がつき意味のないトマホーク購入も予算化されようとしている訳です。流れを変えるには主権者たる国民が覚醒する必要があります。

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Sunday, December 03, 2023

遅れるのは万博だけじゃない

田代の水で取り上げた大井川の水問題が前進しました。

リニア新幹線、静岡県の川勝平太知事が「JR田代ダム案」賛意回答へ - 日本経済新聞
川勝静岡県知事も同意しており、一つ問題がクリアされたとは言えます。但しこれで着工とはいきません。南アルプストンネルの湧水量を調べるボーリング調査の結果如何では、湧水量が想定を超える可能性もあり、そうなると田代ダムを管理する東電の同意が微妙になります。故に静岡県は調査の継続をJR東海に求めて釘を刺しております。基本的な方向性が決まってもすんなり着工とはなりません。

加えて静岡工区以外の工事遅れの問題もあります。工事現場のコロナクラスター感染や仲良きことの調布市の外環道トンネル工事の陥没事故の影響で東京や名古屋の大深度地下トンネル区間の工事も止まりましたし、怪運国債市場の蓋のウンコクサイ万博工事と同じ2024年の働き方改革問題もあります。当然事業費の膨張もある訳で、当初名古屋まで5.1兆円大阪まで9.1兆円として見積もった事業費では足りず、大阪延伸前倒しのための財投資金3兆円にも手を付けてる状況です。大井川の水問題で遅れているというメディア報道とは裏腹に見通しの立たない状況に変わりはありません。

加えて東海道新幹線の乗客数がコロナ前の水準に戻らず、こうなるとリニアが本当に必要なのかすら問われます。私は元々人口減少下で将来の需要増は見込めず無駄になるという立場でしたが、コロナ禍で変化が前倒しされた形です。それでも週末の観光利用が好調で採算面の回復はあります。特に京都観光の外国人によるインバウンド需要は旺盛ですが、ジャパンレールパスによるのぞみ乗車を認めなかったことや予約の取り方などの不案内もあって、外国人は安くて空いてるこだま自由席の利用に流れています。ジャパンレールパスの制限は見直されたものの、この傾向は続いているようです。つまりビジネス利用が減ってスピードは必ずしも問われず、寧ろ車窓の変化が売りになる東海道新幹線の方が観光客にはうけるサービスってことです。明かり区間の少ないリニアでは取り込めない需要です。一方でJR東海以外のJR各社のローカル線問題が深刻度を増しており、今年もJR東日本と西日本で線区別乗車密度と営業係数が発表されました。

東北のJR東日本ローカル線、22年度も利用低迷 - 日本経済新聞
JR西日本の中国地方路線、経営依然厳しく 20〜22年度収支 - 日本経済新聞
何れも自治体との協議を模索しており、国も法改正して後押しっしておりますが、廃止ありきを警戒する自治体との協議は進んでおりません。そして国鉄時代のローカル線問題以上に厄介なのはバス事業の苦境です。
バス路線、都市に迫る崩壊の波 失われる「生活の足」 - 日本経済新聞
コロナ禍による乗客減に加えて燃料高やドライバー不足と四面楚歌状態で都市部でも減便が相次ぐ中で、過疎地の鉄道を廃止してバス転換することが困難な状況になっている訳です。特にバスドライバーは大型二種必須と資格条件が厳しい一方、年収ベースで全産業平均の2割安という賃金水準ですから人口減少は核より怖いでも取り上げたように若手が目指さないから新陳代謝が進まず高齢化で先細り確実という状況です。そうなると京都以外の観光地に観光客が行きたくても行けない状況となって地域の衰退を助長することにもなります。

観光の観点からは仮に開業すればリニアの体験乗車である程度需要は稼げるでしょうけど、それだったら現在の山梨実験線で営業すればプラチナチケットとして高く売れるでしょう。つまり現状でもマネタイズは可能となればリニアを完成させる意義はますます曖昧になります。人口減少の現実を踏まえればリニアは本当に必要か?という問いを発せざるを得ません。

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