根拠なき楽観論に警戒
29日の東証大納会の終値が34年ぶりの高値だそうですが、それでもバブル期の1989年につけた最高値を更新できていない状況です。実際は前場で取引の終わる大納会は元々薄商いになりやすく実際は前日終値から若干下げて終わったものです。明るいネタ探しの結果でしょうけど、何かおかしな風潮です。
10年続いた異次元緩和でも達成できなかったとされるデフレ脱却がいよいよ来るという文脈のようですが、諸人こぞりて現実を見ないのはどうかしてます。株価が示すように失われた30年は克服できておらず、寧ろ円安によるコストプッシュインフレに国民生活が圧迫されている中で、未だに脱デフレで来年の春闘の賃上げ期待でインフレ目標を達成して日銀の緩和政策の正常化というシナリオがまことしやかに語られてますが違和感があります。高度経済成長時代の再現を夢見ているとすれば裏切られます。
衰退途上国からの脱却 「積極財政で成長」幻想、捨てよ - 日本経済新聞高度経済成長を理論的に支えた経済学者下村治氏が石油危機後に示したゼロ成長論を下敷きにした失われた30年の論考ですが、転職で所得が上がる社会というのは所謂ジョブ型雇用と同じ意味ですが、産業別や職種別組合がなく企業横断的な労働市場の存在しない日本で実現するのは難しく、安直な積極財政依存は淘汰されるべき低生産性企業を温存して雇用を塩漬けにして高生産性企業への転職を阻害してしまうので、寧ろ国全体の生産性を下げてしまい企業の付加価値創出力を奪い、結果的に経済を停滞させてゼロ成長に陥り、長寿社会を支える負担が困難になるという論旨です。
有名な話ですがかのケインズも積極財政で景気浮揚はできても経済成長はできない、経済成長に必要なのはアニマルスピリットだと述べております。下村氏のゼロ成長論も似ていて、積極財政に頼らずに企業のイノベーションで企業の付加価値創出力で成長を目指すというものです。実際石油危機の時にはエネルギー消費の多い重化学工業から半導体などの省エネ産業への転換が叫ばれ実践され、ジャパンアズナンバーワンの80年代を実現させました。
しかしバブル期の過剰投資が災いして過剰生産能力を抱えた状態でバブル崩壊による銀行の不良債権問題が顕在化、これは借り手の企業側から見れば過剰債務を意味しますから、その解消に苦しむ中で債務返済を優先した結果、投資が停滞して景気を冷やした一方、積極財政による景気浮揚に頼った結果、低成長に陥った訳で、失われた30年にそのまんま当てはまります。特にアベノミクスの10年は異次元緩和による円安誘導と金利圧迫による財政規律の喪失と低生産性企業の温存が顕著でした。
故にアベノミクスを実質的に継承する岸田政権の新しい資本主義でも問題は解決しない訳です。巷間ザイム真理教とかいう面妖な議論もありますが、防衛力強化にしろ異次元の少子化対策にしろ財源を示さない岸田政権の姿勢の欺瞞は減税くそメガネでも取り上げた通りです。目先の減税で誤魔化しても将来の増税が待っていることに国民は気付いています。
あと成長戦略として新NISAが話題になっておりますが、ネギ背負ったカモでも取り上げましたが、2,000兆円を超える家計貯蓄を株式投資に振り向けてリスクマネーにしようという発想はバブル期から繰り返し試みられて失敗を重ねております。但し今回は期限が撤廃され非課税枠の拡大もあり、また著名アナリストのほったらかし投資が注目されており、若者が関心を示していてムーブメントの予兆があります。
高齢者の資産取り崩しエントリーで取り上げた老後資産2,000万円レポートの影響で若者の資産形成の関心は高まっていますが、これ裏返せば老後不安からくる訳で、公的年金の将来への悲観がある訳です。その結果消費をリードする筈の若者が消費を控えてしまう訳で、その結果ただでさえ生産年齢人口の減少で現役世代が減っている中で、消費を冷やすことになります。公的年金が信頼できる制度ならば起きないことですが。公的年金を充実させるためには現役世代の収入を増やす必要がある訳ですが、財政頼みの日本企業にはその能力がないことが問題です。
となると不都合な問題が起きてきます。著名アナリストが言うように、個人の資産運用は長期投資で福利効果を狙うのが王道で、その為には拠出可能額の範囲で毎月一定額を拠出するつみたてNISAで米S&P500連動ETFを買って忘れろってことになります。個人投資家としては合理的な選択ですが、毎月推計2,000億円と試算される円売りりドル買いの為替取引が連続的に起こることを意味しますから、円安方向への圧となります。つまり個人投資家としての合理的行動が円安インフレを継続させる結果となる訳で、輸入物価上昇による生活の困窮をもたらすことになります。経済学で言うところの合成の誤謬が起きる訳です。
つまり貯蓄のリスクマネー化の結果として資本流出をもたらす訳で、マイルドなキャピタルフライトとなる訳です。回避策があるとすれば東証TOPOX連動ETFがS&P500より投資妙味が高くなる必要がありますが、東証プライム市場の半数がPBR1倍割れでは無理な話です。ちなみにもうすぐ笑わなくなる鬼でも触れたように鉄道業界でもJR東海や京成電鉄が該当します。つまり貯蓄をリスクマネーに転換しても国内企業には恩恵がない訳です。これでどうやって成長しろってことでしょうか?しかも財政資金は成長とは縁のないところに大量に流れています。例えばこれ。
辺野古移設、国が初の「代執行」 24年1月着工 - 日本経済新聞国の法定受託事務としての公有水面埋め立ての知事承認を知事が承認しないから国が強制代執行という法律論的にも問題のある判断ですが、それを横に置いても大浦湾の軟弱地盤で工法の変更を余儀なくされた杜撰な計画で工事が遅れていて、普天間の返還が最短15年後というベタ遅れの事態を招いた国の責任を問わず承認しない知事を責めるのは、国と地方の対等な関係を定義した地方自治法の趣旨に反しています。
はっきり言えば米海兵隊の本体は既にグアム移転が決まっていて、補給の中継点としての機能が求められる普天間の代替施設としては計画の半分の規模でも可能なんで、難工事の大浦湾の埋立を凍結して暫定整備する方が普天間の返還を早めることになる筈ですが、そうした県側の意見を聞かずに強行している訳です。しかも事業費も膨張しています。その結果宜野湾市の市街地に立地する普天間基地返還で市街地再開発が進めばそれによる経済効果が見込める一方、いつまでも完成しない新基地建設に拘る限りそれは見込めない訳で、経済合理性を考慮してもあり得ない判断です。
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