疑惑の感電事故
正月早々の躓き が続いているようなショックなニュースです。
東北・上越・北陸新幹線、24日始発から再開計画 - 日本経済新聞1/23AM10時ごろ、大宮を出発した上りかがやきが並行する埼京線北戸田駅付近で垂れ下がった架線にパンタグラフを引っ掛けて破損した事故で終日運休となりました。翌日には始発から復旧したものの、車両運用の都合で一部運休が出ています。
原因は架線に張力を与える端部の錘を吊る棒の断裂によって架線が150mに渡って垂れ下がったものですが、同種の事故は例えば2005年の山手線でも起きており、饋電系トラブルはつきものとはいえ当該の吊り装置は通常30年程度で交換されるものが38年間交換されていなかったことが報じられております。架線検測はEASTI-iのような検測車を走らせてデータを取って摩耗や位置のずれなどを見ながら適宜交換されるところですが、錘の吊り装置までは守備範囲には入らないですから、結局巡回目視で異常を調べる形で補修されることになります。
この点は後述しますが、それ以上に問題なのは、復旧作業員の感電事故です。1人は全身やけどの重傷で助けようとしたもう1人は軽傷ながら2人が巻き込まれた事故です。AC25kvに直接触れた可能性があります。保守作業や事故復旧作業は作業員や機械を線路に入れる必要があるので、指令に通知して線路閉鎖と通電停止の措置が取られ、作業終了後点検の上指令に通知して解除されるというのがざっくりした流れです。加えてJR東日本では新幹線のCOSMOSや首都圏在来線のATOSという運行管理システムに現場責任者が端末で直接アクセスして措置する形で高度に自動化されています。故にシステム上は起こり得ない感電事故が起きたという意味で深刻な事態です。
システム自体はよくできていて、よほどのことがない限りヒューマンエラーの発生も考にくいという意味では羽田空港の衝突炎上事故と異なり当事者の注意力に依存する部分は少ない筈なんですが、現実に事故が起きている以上、何らかの手順ミスや勘違いがもたらした事態である可能性はあります。この点は明らかにされるべきです。
一方事故の直接の原因である架線の錘の吊り装置の断裂は、自動化の盲点のような場所で起きたという意味で、別の問題を想起させます。目視確認で劣化状況を確認して交換を手配するという属人的なシステムで、おそらく目視で異常を発見できるスキルが若手に継承されずに、あるいはそもそもなり手がいなくてベテランの雇用延長で対応しているかといった別の問題が存在すると考えられます。そうだとすれば今後もこのような事故が起きる確率は一定程度あると考えざるを得ません。
事故地点は大宮以南の130km/h区間で起きたもので、大宮以北の高速運転区間で起きればもっと大きなダメージになっていた可能性があります。省力化を前提にすれば何らかの監視システムの導入も考える必要があります。この辺が省力化投資の難しいところです。勤労感謝にAIは勝つ?でAIが高スキル労働者を失わせる可能性を指摘しましたが、人口減少に伴う省力化投資自体は避けられないとしても、やり方は慎重であるべきです。その観点から言えば、気になるのがこのニュースです。
JR東日本社長に喜勢陽一氏 JR後入社、JR東海に続き2人目 - 日本経済新聞ストでスベってスットコドッコイで記述してますが、JRグループの最大労組のJR東労組を挑発してスト決行を宣言させて労働協約違反を言い立ててスト経験のない若手組合員の引き剝がしまでした当事者です。国鉄OBで占められていた経営トップにJRプロパー社員が就任するのはJR東海に次いで2例目ですが、組合潰しでのし上がったってのはJR東海の葛西氏に似ています。
国鉄改革派3課長と言われた井出氏、松田氏、葛西氏のうち、松田氏は国鉄時代から労組重視の労使協調路線を標榜していました。その松田氏がJR東日本所属となったことは、ひょっとしたら動労の松嵜委員長の所謂分割民営化賛成シフトに影響した可能性はあるかもしれません。分割民営化を受け入れた上でJR総連を企業横断型の欧州型産業別組合にして国鉄時代に果たせなかったスト権確立を狙ったと言われます。結果的には実現しませんでしたが、JR東日本とJR東労組の関係は良好で、36協定を含む労使協議を3か月毎に開いて様々な協議を行う体制を確立します。
その結果1988年12月の中央総武緩行線東中野駅の列車追突事故で車内警報レベルの国鉄型ATSから高度なATS-P設置が加速しました。JR東労組はヒューマンファクター重視で事故を未然に防ぐ対策強化を会社に求め、実現してきました。JR西日本は尼崎事故といった重大事故を起こしましたが、背景に総連系労組と連合系労組との対立が指摘されてます。
JR総連は松嵜氏が意図した会社横断労組の姿勢を重視していましたが、動労と共に分割民営化に協力した鉄労系組合員はついて行けず、そこにくさびを打ち込んで労組の分派を促したのがJR東海の葛西氏で、JR西日本他、東日本と北海道を除く各社が追随します。日本では以前から煩い組合を潰す目的で会社側が第二組合を作らせて、組合幹部経験者を管理職に登用するなどの組合潰しは結構見られましたが、分割民営化後のJRでも同様の動きがあった訳です。確かに松嵜氏の会社横断労組というエキセントリックな構想が分裂の直接的な要素ですが、JR東日本と北海道は総連系労組が主流に留まり、東日本に関しては機能していたと言えます。
しかし2020年の東京五輪を控えて政権からの組合対策の圧もあったと言われますが、組織改編で待遇の異なる運転士と車掌の所属を同じにして動労を出自とするJR東労組を挑発しスト通告に追い込むというのはエグい組合潰しではあります。且つ結果的に労組脱退で瓦解した東労組に代わって社友会という非労組の組織を立ち上げて労使協議も年1回に減らすという形で、労使協議を重視する姿勢をあからさまに反故にしました。こうした背景が今回の新幹線事故に影響している可能性はありますが、広告主であるJRにそこまで突っ込んだ報道はメディアには期待できないでしょうね。
運転士と車掌の配置統合はおそらく将来の自動運転を睨んだ動きでもあると思いますが、車掌に相当する保安要員を乗務させた形のドライバレスを目標と公言するJR東日本だけに、気になるのが乗務員の処遇です。ATOによる自動運転ならば運転操作は自動化されていても、非常時のマニュアル運転対応も含めた動力車運転免許という国家資格を持つ専門職で高待遇となる訳ですが、車掌級の保安要員が免許非保持者とすると、結果的に賃下げの口実になります。それでいて事故時には運転士並み刑事責任が生じるとすれば、そんな仕事を敢えてやりたい人がいるかどうか、上述のようにAIが高スキルの熟練労働者を淘汰するように免許保持者を淘汰するだけならば、大きな問題です。現実的には現行法上の制約もあり簡単には進まないでしょうけど、最大手のJR東日本が規制緩和を求めた時に国がその方向へ動く可能性は大いにあります。
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