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Saturday, January 06, 2024

正月早々の躓き

根拠なき楽観論の時点では予想できなかった波乱の正月になりました。同エントリーで取り上げた辺野古の新基地建設で公費を蕩尽する一方、能登半島地震の被災地の惨状に心が痛みます。当然ながら安全保障とは国民の生命財産を守ることなんですが、群発地震が続いていた能登半島を守ることが出来なかった事実は重いと言えます。

辺野古の新基地にしろトマホークにしろ直接国民を守る訳ではないですし、あまつさえ米国のライセンス生産のパトリオットミサイルのウクライナへの供与もそうですが、軍事装備の増強よりも災害時に迅速に被災地支援が可能な災害救助隊のようなものが、自衛隊、警察、消防のどこに属するかは別として存在しない中で、自らも被災者の被災自治体の職員が対応し、救援を求めるという建付けでは初動が遅くなるのですが、阪神でも東日本でも熊本でも繰り返されております。軍隊が災害救援するのは世界的には普通のことですが、それはロジスティクスの専門家で道なき道を拓き前線に物資を補給する機能を応用したものです。当然ミサイルは役に立ちません。

正月期間中で自治体職員の動員も簡単ではなかったと思いますが、逆に大都市からの帰省者が少なからずいたことは、当事者にとっては過酷ですが、ある意味高齢者しかいない過疎地の災害としては動ける人がいるという意味でプラス面もあります。雇い主の企業が有給休暇扱いで復旧支援すればなお良いですが。逆に道路、通信、ライフラインの遮断で窮地にある訳で、道路が寸断され隆起で港が使えず、能登空港も被災して使えずと陸海空全ての補給路が遮断されていて水さえ届けられない命の危機にもさらされている訳です。

加えて北厘電力の火力発電所の被災で停電が発生しており、電力事情も悪化しております。電気がなければ無事な水道や光回線や携帯基地局も使えなくなる訳です。休止中の志賀原発が動いていればシビアアクシデントの可能性もあった今回の地震で、いち早く「異常なし」と報じられましたが、休止中で使用済み燃料プールの水温が低かったことが幸いしてます。しかしそのプールから汚染水がこぼれてますし、外部電源用の変圧器のオイル漏れで火が出てます。今のところ非常用電源は生きているということで、大事には至らないでしょうけど、地震でモニタリングポストも埋まったか電源喪失で放射線測定が出来ない状況で「異常なし」なのでしょうか。寧ろ被害を過小に見せる情報開示に後ろ向きな姿勢こそ問題です。

その意味では羽田空港の衝突炎上事故は、不幸な出来事ながら乗客乗員を全員無事に避難させたJALクルーの練度の高さや乗客もパニックを起こさずに冷静に指示に従って避難したことなどが報じられてホッとします。加えて事故後の情報開示にも見るべきものがあります。

【羽田空港事故】海保機、滑走路で40秒停止か、JAL機側視認できず - 日本経済新聞
今回異例なのは管制の交信記録が開示されていることで、事故の状況がかなり明らかになりました。管制官は海保機に滑走路手前のランプウエー待機を命じJAL機に着陸を命じたものの、海保機の勘違いなのかはわかりませんが、C滑走路に進入していて、管制官もJAL機も海保機の進入を認識できていなかったということです。典型的なヒューマンエラーですが、大事なのは再発防止であって犯人探しではないということです。

無線による交信で当事者間の情報共有を図るという意味で人の注意力に依存するシステムですが、航空便の増加で地上の事故やインシデントは世界的に増えている傾向にあります。日本でも2015年に那覇空港で自衛隊ヘリが滑走路を横切り離陸準備中のANA機が離陸中止に追い込まれたという重大インシデントが起きています。ヒューマンエラー対策として誤進入防止システムが開発され羽田のC滑走路にも設置されていましたが、マニュアルにより異常な視界不良時に限った運用とされていました。

このこと自体は国際ルールと整合的ですが、日暮れ時で必ずしも視界が良好とは言えない事故時は、日常であって非常時ではないという解釈で使われていませんでした。また管制官に対しては滑走路の誤進入をモニターに表示するシステムがありましたが、管制官は見落としていました。音による警告が必要かもしれません。但し誤進入に対する管制官の責任は問われない法律の建付けになっており、警視庁が進める業務上過失致死傷の立件は行為者と見做される海保機の機長になりそうです。

海保機も能登半島地震の救援物資輸送という臨時の任務を遂行中だった訳で、地震がもたらした事故とも言える側面はあります。元々海難救助を目的とする海保機にとってはイレギュラーな任務ですし、管制官にとっては扱いの難しい航空便です。とはいえボンバルディアDHC8という小型機体で短い滑走距離で離陸が可能なこともあって、滑走路の占有時間は短いですから、大型機の離着陸の隙間にうまくはめ込むことで支障を少なくするという管制官の心理もあったと思います。

故に管制官は滑走路手前のランプウエー待機を命じたと考えられますが、一方海保機は馴れない救援物資輸送で管制官の意図が読み取れずに勘違いした可能性はあります。そうしたすれ違いを回避するには機械的に止める手段をシステムに持たせるのが有効です。鉄道で言うATSやATCのような保安装置の必要性が認識されシステムの運用を含めた見直しは欠かせません。JR西日本の尼崎脱線事故もそうしたヒューマンエラーの積み重ねで起きており、ミスを糾弾し処罰することは却って情報の隠ぺいに繋がります。原発を巡る電力会社の対応にその匂いが感じられます。故にシビアアクシデントが繰り返される危険性はあるということです。

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