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April 2024

Sunday, April 28, 2024

インフレ定着が意味するところ

インフレは続くよどこまでもで取り上げた米財政支出に対する共和党の反対姿勢が見直され、ウクライナ軍事支援が可能になりました。大統領選を控えてトランプ派が中間層取り込みで妥協した結果ということですから、トランプ氏の再選は厳しいという見方がされているということです。一方パレスチナ問題で若い有権者に嫌われているバイデン氏の再選の確実とは言い難く、本当に五分五分という情勢です。そんな中でこんなニュースです。

麻生太郎・自民党副総裁、トランプ前米大統領と会談 米大統領選後を見据え - 日本経済新聞
もしトラ対策と言われますが、バイデンでもトランプでも日本に対しては「金出せ!」の立場は変わりません。しかも円安でトマホークなどアメリカに「買います」と約束した兵器価格は円建てで上昇する訳ですから日本の財政負担はそれだけ増す訳です。その円安がさらに進んでます。
円安加速で34年ぶり1ドル158円台 米国の高い経済成長率・高インフレ・高金利に歯止め利かず - 日本経済新聞
3月の日銀政策決定会合でマイナス金利解除したときの安心してください時点ではドル円147円台だったから、1か月ほどで10円以上円安に動いた訳です。今回の日銀政策決定会合で追加利上げがあるかどうかが注目されたのですが日銀は動かず、日米金利差が当面続くという観測から当然の動きです。何度も言及してますが、低金利通貨としての円を調達して海外で運用すればそれだけで金利差が手に入りますし、日本の株や債券を買う場合も為替予約してヘッジすることで丸儲けとなるという現状が固定される訳ですから、投機筋にとっては安心材料となります。

唯一為替の円買い介入の有無だけが投機筋には懸念材料ですが、インフレが止まらないアメリカが認める筈もなく日本政府は動けません。仮に為替介入を実施できても効果は一時的で投機筋にちょっとした損失が出るものの、いくらでも取り返せるレベルです。この点は貿易に不利とするトランプ氏が再選されれば変わるでしょうけど、まさかそれだけでトランプ再選期待はあり得ません。

それ以前に日銀は自身のバランスシートを痛める可能性のある利上げや量的緩和終了に動きにくい状況にありますし、それを政府も都合よく利用していると見るべきです。これも繰り返し述べてますが、インフレの最大の受益者は財政赤字を抱える政府です。インフレで貨幣価値が下がればそれJ自体で債務負担が軽くなりますし、所得税、法人税、消費税の基幹3税がいずれも税収上振れとなりますから、逆に財政支出がやり易い状況になっています。所謂インフレ税と呼ばれる現象です。

インフレでGDPの名目値が上昇すればそれに伴って税収は増える訳ですから、政府は名目値だけ見ていればよい訳で、日銀が動けないから利払い増も当面あまり心配いらないし、実質GDPがどれだけ悲惨な状況であっても知らん顔していればよい訳で、過大な財政赤字を抱える日本政府にとってはインフレは神風のようなものです。故に国民や野党がどれだけ騒ごうがアメリカから高い武器を買って国民負担を増やして知らん顔できる訳です。故に防衛費や子育て支援でもどうにか目先を誤魔化しながら、明示的な増税は回避することが政府としての最適解となる訳です。「増税メガネ」とか「ザイム真理教」とか騒いでる人たちが見落としているのはこういうことです。

こうなるのは結局政治が機能していないからで、もしトラで騒いでるアメリカはそれでも政権交代が頻繁にあるから物事がギクシャクしながらでも大外れはしない訳ですが、それがない日本はある意味外国から見ればわかりやすくつけ込みやすい訳で、結局バイデンでもトランプでも日本に対しては「金出せ!」で済む訳です。ここは国民が奮起して政治状況を変えるしかありません。その意味で国を動かすのは大変ですが、手前の自治体を動かすことは難易度は低いと言えます。そんなニュースです。

滋賀・近江鉄道、「上下分離」スタート ICカード導入へ - 日本経済新聞
滋賀県と沿線自治体が支援して近江鉄道の上下分離が実現しました。滋賀県の三日月知事は選挙戦で交通税導入を公約して当選した訳で、増税を約束して当選というのは面白いところです。有権者に身近な課題を提示して信を問うという教科書通りの出来事ですが、地方レベルではこうしたことができる余地があるということでもあります。政府が信用できなくても、身近な自治体を選挙で有権者がコントロールできればやれることはそれなりにあるということでもあります。またこれは赤字ローカル線存続のロールモデルになり得るという意味でも注目です。

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Saturday, April 20, 2024

戦争は経営でできている

サイドバーの世界は経営でできている (講談社現代新書)はお勧めです。というか、中東で起きている戦争が、将に有限な価値の奪い合いという意味で「経営の失敗」を体現していると見ることができます。というわけで採らぬ狸の続編です。

中東情勢で対話路線の日本、米欧はイラン追加制裁探る G7外相 - 日本経済新聞
そもそもシリアのダマスカスのイラン大使館を攻撃したのはイスラエルであり、今回のイランのイスラエル攻撃はその報復として事前通告して自衛権の範囲を主張し軍事施設限定の攻撃で、しかもミサイルや自爆ドローンを多数使ったもののイスラエルの鉄壁な防空システムで99%迎撃されて実害無しなのにG7各国はイランへの追加制裁を協議するっておかしな流れです。日本が簡単に乗れない話です。

結果的にイスラエルもささやかな報復攻撃をして体面を保ち、これで形として手打ちになりそうです。イランもイスラエルも交戦を望まない形の落としどころを探ったってことです。この出来事からいろいろなことが見えてきますが、欧米はイスラエル寄りに偏っています。ウクライナの戦況が悪化する中でもイスラエルへの兵器支援は継続するアメリカと、その結果天然ガス供給不安からガザ沖ガス田を横目にイスラエルに強く出られない欧州という構図が見えます。

蛇足ですが、イランの報復攻撃はイスラエルの防空システムを可視化したという意味でイラン側にも成果はあったし、寧ろそれだけの情報収集能力があることを見せつけたという側面もあります。主権国家間の戦争という意味では、現代の戦争は情報戦であり心理戦なのだというリアルが明らかになった訳で、まともな情報収集能力も持たずトマホーク配備でドヤ顔の日本の安全保障議論の底の浅さにため息が出ます。

加えて軍事力のある大国同士は戦わないけど、国家ではなく自衛権の無いガザには容赦なくジェノサイドレベルの攻撃さえしてしまうという非対称な現実がある訳です。これ台湾有事に多くの示唆を与えます。国家承認されていない台湾に対しては集団的自衛権は行使できないから国際法上は台湾はガザと同じ立場ってことです。もちろん台北政府の実効支配下でアメリカの支援もあって軍備を整えていますから直ちにガザのようになることはないとしても、1つの中国の原則から内戦扱いとなる中台の紛争への介入は国際法違反となります。

安保理、パレスチナの国連正式加盟を否決 米国が拒否権 - 日本経済新聞
日本やフランスを含む圧倒的多数が賛成しながらアメリカが時期尚早として拒否権を発動するというお約束の展開ですが、パレスチナが国連加盟して名実共に独立国となった場合、ハマスの軍事部門はパレスチナ国軍の地位を得る訳で、テロ組織として制圧できない存在になる訳ですし、今回のイランとイスラエルのせめぎ会いのように腹の探り合いしなきゃならないイスラエル側から見れば厄介な存在になるということです。

てことで中東情勢がきな臭くなると当然ながら原油価格の上昇で日欧は苦しくなりますが、今や原油生産大国となったアメリカは寧ろ追い風で、ドル高も手伝って大儲けのアメリカに対して、輸入依存に加えて通貨安で二重苦の日欧はインフレに苦しみます。当然株価も下がります。にも拘らず防衛費調達のためにNTT法を改正して外国人の株式保有を認めるというトチ狂ったことに留まらず、こんな法律まで強引に賭してしまいました。

農業基本法改正案が衆院通過 与党・維新など賛成 - 日本経済新聞
食料安保を謳いながら平時の食糧自給率を高めるのではなく、有事に農家に作付けの変更を国が命令できるって戦時中に花き農家にイモの作付けを命令した愚を繰り返すってのは呆れてものが言えません。個別所得補償で農家にインセンティブを与えて自給率を高めるのではなく、非常事態を口実に国の統制を強めるというのは的外れもいいとこです。まして地域地域で土壌の性質も異なりますから、国が統制しても増産効果が得られる保証はありません。

民主主義対権威主義で指摘したように岸田政権は戦前の近衛文麿政権とそっくりのことをやって日本を戦争にいざなっています。それもこれも首相の指導力の欠如と政治の混乱で官僚がやりたい放題ってところがそっくりです。だからNTT法も農業基本法も官僚好みの統制的な内容になる訳で、政治における経営の失敗と見ることもできます。加えてこんなことも報じられております。

<独自>リニア新幹線全線開業「最速令和19年」と骨太の方針に明記へ 政府、目標時期を堅持
多分官僚のリーク記事でしょうけど、川勝静岡県知事の辞任でリニア工事が進むことを期待して、骨太方針で敢えて2037年の開業目標を明記するということなのでしょう。但し元々2037年は努力目標であって義務ではない訳で、狙いがわかりにくいんですが、JR東海へのプレッシャーを期待しているんでしょうか。今のところ他紙の後追い報道は見られませんし、名古屋開業も見通せない中で大阪延伸着工を早められる訳でもなく、ニュースバリューに疑問が湧きます。

但し奇しくもリニアが戦前の弾丸列車計画をなぞる相似相が見えてきています。国が弾丸列車計画へ傾斜したのは満州事変後に満州国が独立を宣言し日本国内との移動や輸送が増えたことで、東海道山陽線の輸送逼迫があり、輸送力増強の必要から南満州鉄道規格の新線を作って関釜連絡船を介して朝鮮統監府鉄道から満州の首都とされた新京まで直通させて輸送改善を図ることが意図されたのですが、盧溝橋事件を発端とする日華事変勃発で軍の補給も都なり、政府も前のめりとなります。それに留まらず大東亜共栄圏構想に沿って中国からインド中東を経て欧州に至る大陸横断超特急構想なんて妄想を膨らまし、シベリア鉄道に代わる輸送路確保まで考えられていましたが、敗戦でパアです。

とはいえ前線への補給のために軍が積極的に動き、用地の強制接取が行われ、その多くの部分が東海道新幹線の建設用地として転用され、また一部は名神高速道や第二神明、加古川バイパスなどの用地に転用されています。静岡県の日本坂トンネルは弾丸列車規格で作られて一時的に在来線が使用した後、東海道新幹線に再転用されてますし、新丹奈トンネルも工事は進んでいました。ある意味戦後の新幹線計画は弾丸列車計画のお陰で実現したとも言えます。

リニアに関しては民間事業なのに全幹法により国の関与がありますが、自己資金整備を打ち出したJR東海に安倍政権時代に3兆円の財投資金投入が決まったものの、開業時期はあくまでも最速の場合の努力目標で、それも名古屋開業後の着工という前提ですから、その名古屋開業が最速2034年ですから、どう逆立ちしても2037年大阪開業は無理なんですが、岸田政権お得意のやってるふりにはなるということなんでしょう。それよりももっと手前に問題山積ですが目立った動きはありません。

物流の弱点、人手不足以外にも 鉄道も海運も老い鮮明 物流クライシス㊦ - 日本経済新聞
ドライバー不足が言われますが、例えば高速道路の老朽化に伴う工事の増加で輸送時間が読みにくく、それに伴う人件費増加は運賃に転嫁しにくいということもあります。そしてインフラ維持の作業員確保も困難になっており、輸送インフラを単純い増やすだけでは解決しません。そして鉄道や海運へのモーダルシフトも、既に鉄道船舶共に輸送力が逼迫しており、新たな需要の受け入れは困難ですし、鉄道に関しては夜間保守間合いの増加による減便すらあり得るとなると、新たな対応を考えないといずれ破綻します。

その意味ではリニアの物流インフラとしての活用は選択肢になり得ます。40/1,000勾配がネックで貨物鉄道への転用は難しいかもしれませんが、リニモのような低速リニアでコンテナを運ぶぐらいはできそうです。貨物専用なら長大トンネルでの安全対策も軽減できますし、着工済みの工事が無駄になることもないです。例えば開業の見込みが立たないリニアを財投3兆円の借金のかたに国が接取する形でJR東海から切り離せば東海道新幹線のもうけを溶かさなくて済むから、JR東海にとってもメリットがあります。そのJR東海にでこんな動きがあります。

東海道新幹線「N700S」に完全個室席 2026年度に導入、1編成2室 - 日本経済新聞
これまでビジネス利用最優先でひたすら輸送力増強を続け、食堂車や個室も廃止したJR東海ですが、コロナ禍でビジネス客が戻りきらず、寧ろ週末や連休盆暮れの行楽や帰省利用のウエートが高まる一方、普通車の一部で3列シートのB列を潰してパーテーションで仕切ったビジネス席のようなことも始めており、これらのサービスはスペースに余裕のある鉄道ならではのサービスとして対航空との競争優位になり得るという気づきがあったのでしょう。当面は車内販売廃止で空いた業務用スペースの転用で需要を見極めるということでしょうが、いずれJR東日本のグランクラスのような3等級制移行も視野に入れて増収を図る方向性が見えてくるかもしれません。

もう一つオマケで北陸新幹線米原ルートを受け入れて東京対北陸の輸送に参入してJR東日本と競い合うという選択肢もあり得ます。その場合公費が投入され線路使用料で償還される、つまり儲からない整備新幹線区間はJR西日本が担当しますが、東名阪の3大都市圏アクセスを握っている訳ですから、整備区間から発生する需要の受け皿となる根元受益による増収効果もあります。リニアに拘らなければいろいろなビジネス展開が拓けます。JR東海も経営を取り戻せ。

能登半島地震から4か月以上経過して、未だに水道も復旧できないし。倒壊家屋やがれきの撤去も進まず、最近は報道すらされなくなっています。そしてボランティアが足りないと嘆く一方でボランティアを受け入れる宿泊施設は観光優先でそもそもボランティアの受け入れ態勢ができていないし、またボランティア加藤堂に対するバッシングもあって大っぴらにボランティア活動がやりにくく、地元の被災者もボランティアの援助を公言できないし、そもそもボランティアを集めるのは行政の仕事の筈なのに動きが鈍いしという状況です。

そして豊後水道のM6.6地震まで起きてやはり道路やインフラの弱さで支援が滞っております。そして四国電力伊方原発3号機で、地震後異常なしが素早く報じられた一方で細かなトラブルが後から明らかになるなどの原子力ムラ作法-_-;。最近の地震の多さから言えば、台湾有事より驚異の筈ですが、伊方3号機で深刻なのは稼働中でしかも地震による緊急停止が働かず、事後的に冷却電源が非常用に切り替わっていたことが明らかになるというなかなか深刻な状況です。大事に至らなかったとはいえ重大インシデントでは?経営の失敗は至る所で見られます。

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Saturday, April 13, 2024

採らぬ狸の戦争の配当

インボイス始めましたで取り上げたMLB大谷選手の通訳水原氏の供述で大谷選手の賭博関与疑惑は晴れました。疑惑の大谷選手の口座取引も水原氏のなりすましというシンプルなもので、アメリカでは銀行口座開設も面倒ですから水原氏が代理で手続きして銀行からの問い合わせにもなりすまして答えていたという訳です。水原氏はギャンブル依存症を拗らせていて、大選手の専属通訳となってある意味金づるを掴んだ結果深みにはまったと見られます。故にギャンブル依存症治療のカウンセリングを受ける条件で保釈されましたが、欧米ではこれが普通のこと。インフレは続くよどこまでもの大川原化工機冤罪事件のような人質司法がまかり通る日本の常識とは違います。てことでこのニュースにツッコミます。

岸田文雄首相とバイデン米大統領の日米首脳会談・共同記者会見の要旨 - 日本経済新聞
日米同盟強化で在日米軍と自衛隊の指揮・統制の枠組み見直しということですが、アメリカの本音はは明らかです。ウクライナでロシアの攻勢にさらされイスラエルの暴走で中東も問題を抱えて動けない米軍に代わって台湾有事よろしくってことですね。朝鮮半島有事で朝鮮国連軍の名目を持つ在韓米軍に韓国軍が指揮・統制される枠組みに準じて台湾有事には自衛隊が対処する枠組みです。

とはいえ朝鮮半島と台湾では国際法上の枠組みが異なります。朝鮮戦争は現在休戦中ですが、元々国連憲章に基づく国連軍による紛争解決という枠組みで北朝鮮の侵攻を食い止め押し返したものですが、当時常任理事国のソビエトが票決を棄権した結果拒否権発動無しに西側諸国が参戦したものですが、休戦と共に各国は群を引き揚げて米軍だけが残ったものです。

故に韓国軍は安保理決議に基づく指揮・統制権の制限を受け続けており、韓国では主に革新派がこの点を問題視していた訳で、文在寅政権で南北融和が模索され朝鮮半島終結に向かったのはこうした背景があります。尚、国連憲章で敗戦国の日本は敵国条項を盾に国連軍への協力を義務付けられており、朝鮮戦争当時は存在しなかった海上自衛隊代わりに海上保安庁が機雷掃海に駆り出されて誤爆による死者も出ています。戦争放棄の戦後日本でも戦死者が出た訳です。

一方の台湾ですが、元々国民党政府と共産党の内戦の結果敗走した国民党が台湾に敗走して臨時政府を台北に置いたことが始まりで、国連決議によって台湾問題は中国の国内問題とする所謂1つの中国論が国際的な合意事項になり安保理常任理事国も北京政府に譲ることになったものです。よく「台湾は親日的」と言われますが、国共内戦で敗走した外省人の国民党政府が独裁体制を敷いて台湾の内省人を抑圧したことから、清朝、日本政府、国民党政府と圧制を受けたことから、近代化が進んだ日本統治時代が相対的にマシに見えるというのが本当のところです。

ちなみに南シナ海の領有権問題のそもそもの発端は、WW1後の戦後処理で日本が島嶼部を国際連盟委任統治領としてリン鉱石採掘などの経済活動も行われていました。当時の日本政府は便宜上台湾統監府の所属としたことから、上述の1つの中国の原則に則って中国が領有権を主張しているもので、日本の台湾統治時代の落とし物です。という訳でやり方には問題がありますが、中国の主張も一応法の支配に則った国際法の枠組みに適います。

つまり国際法上は内戦扱いとなる中台紛争にどう対応するかという法的枠組みは未定ですから、アメリカとしては可能な限り台湾の防衛力強化の協力はするけれど、いざというときの対処法は決まっていない訳です。加えて実際に米軍を動かすには議会の承認が要りますが、ウクライナへの腰の引けた対応に見るように議会が賛成するとは限りません。それでも小競り合いから紛争に巻き込まれる可能性はありますが、その時には日本の自衛隊のせいにしてバックレることも可能です。アメリカだって核保有国の中国と事を構えたいわけではありませんから。

実際ウクライナでは体勢を立て直しつつあるロシアに対してウクライナは劣勢です。というのも米議会共和党のウクライナ支援への消極姿勢もありますが、それ以上に冷戦終結に伴う平和の配当でアメリカが国防費を削減した結果、軍産複合体と言われたアメリカの兵器産業も生産縮小を余儀なくされていたところでのウクライナ戦争ですから、アメリカも兵器の在庫が枯渇しつつあり、これ以上の支援は難しくなっています。そこでじゃあ日本で兵器作りましょうってのが武器輸出三原則の見直しであり日英伊の兵器共同開発でありということで、それに関連してライセンス生産の急所となるセキュリティ対策としてのセキュリティクリアランス法ですね。自民裏金問題の裏ですんなり通っちゃいました。

ロシア側から見ても兵器産業が集積するウクライナの独立はロシアにとっては痛手で、その意味で取り返したかったけど、当初の目論見と違って予想以上のウクライナの反撃で後退を余儀なくされました。故にロシアも国内の兵器製造能力を落としている訳ですが、それを補っているのが北朝鮮でありイランでありという訳です。一方で西側諸国で唯一平和の配当と無縁だったのがイスラエルで、ウクライナ戦争で潤っている西側でほぼ唯一の国です。

他方ロシアは近年石油や天然ガスなどの資源輸出で経済を回してきた訳ですが、それ故にウクライナ侵攻でも石油や天然ガスを止めれば欧米は困るだろうという読みがありましたが、実はガザ沖の有望な海底ガス田があることが英企業の調査で判明し、これを利用すれば現在ライフラインをイスラエルに依存するパレスチナ自治政府にとっては自前のエネルギー源を持って経済自立して独立というシナリオが可能になる訳ですが、イスラエルはこれを徹底的に邪魔し続けてますし、それどころか海底ガス田の利権を我が物にすらしようと狙っている訳で、そうなるとガザへの容赦のない攻撃の意図が別にあることが疑われます。ハマスのせん滅のみならずガザの住民を追い出してイスラエルの実効支配を確立したい訳です。資源国イスラエルとなれば国際的な発言力は増します。またアメリカのみならずロシアの資源禁輸で苦しんだ欧州でもあてにする国が出てきている訳です。

一方で欧米の国民はイスラエルの暴走に怒っていて反イスラエルデモが起こり、特に大統領選を控えるアメリカにとっては支持者離れを防ぐ意味からイスラエルに自制を求めるようになりますが、そうするとアメリカの支援が離れないようにイスラエルはシリアのイラン公館を空爆してイランを巻き込み、アメリカが関与せざるを得ないようにしようとしています。親イランと言われるイエメンフーシ派による船舶攻撃でスエズ運河の利用が困難になり米海軍が艦船を排煙して抑え込もうとしているように、イランが絡めば米軍が動くことを狙ったものです。

世界の紛争地帯の多くがこうして線で繋がる訳で、兵器産業にとってはまたとないビジネスチャンスですが、一般国民の経済厚生の向上に寄与するものではありません。ある意味冷戦終結によるグローバル化の進捗は平和の配当の具現化という側面は確実にあった訳で、例えば米国防総省ARPAnetが一般公開されてインターネットが始まり、それがネットコンピューティングと連携してIT革命が起きたし、先進国に追いつけなかった途上国が新興工業国として台頭することを助けました。その典型が中国です。という訳で中国の台湾進攻は現時点ではほぼ無いと見て間違いないでしょう。

アメリカも自国の兵器産業を増強することなく兵器を手に入れてライセンス料は取り、連邦予算はインフラ投資法やIRA法で民生部門の国内投資を促進して「大砲よりバター」路線なのに日本は真逆を行っている訳です。アメリカは大喜びですが、こうしたバイデン政権の政策が成果を上げているとは言い難く、例えばボルティモア港の橋落下事故のようにインフラの老朽化、脆弱化は止まりません。そして平和の配当としてのネットにも暗雲が漂います。

規制の緩さで巨大化した大手IT企業への規制が議論されてますが、既にアップルやグーグルはやり玉に挙げられています。一方ネット企業には中国の影が忍び寄ります。TikTokは議会が問題視して規制法が作られてますが、一方で格安ECサイトのTEMUが凄い勢いでユーザーを増やしてアマゾンを凌駕する勢いです。実は中国企業なんですが、巧みにそれを隠し、インフレによる割高感も手伝って安さで攻めています。人種差別にナイーブなアメリカでは経営者が中国人というだけでは規制できず、中国企業としての実態が問われる訳ですが、その中国では国営企業優先で民間企業が苦しんでいる中で、アメリカ市場への参入意欲は高い状況です。加えて中国資金による米企業への投資までは規制のしようがありません。気が付けばオーナーは中国人という事態は進むでしょう。

まあこの点は日本ではもっと愚かな政策が進んでいます。NTT法改正で外国人株主の制限が解除されます。つまり中国人も買える訳ですが、通信インフラを売り渡してそのお金で兵器を買って中国抑止ってどこまで愚かなのか-_-;。震災復興予算に使うことが法律で定められた東京メトロの株式上場も、国の保有分が復興に使われるかどうかは要注意です。何故ならば予算の余剰分や税収の上振れ分を防衛費に充てる防衛予算確保法が成立しており、わざと余らせて防衛費に回すことが可能になります。株高で懸案だった東京メトロの株式上場が進むのは良いのですが、能登半島地震の対応でも見られるように、災害復興予算をケチって防衛費に回すって典型的な「バターより大砲」の愚策です。そんな愚かの日本の捕らぬ狸の皮算用は如何に?

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Saturday, April 06, 2024

アベノミクスの後始末

安心してくださいで取り上げた日銀の政策変更が先月19日に決定しました。事前に市場に織り込まれていたので大きな混乱もなく推移したのも予想通りです。但しYYCは終わっても国債購入は続けるとしており、異次元緩和は終わっても量的緩和は続けます。長期金利を市場に委ねるけど財政への影響から急変動は避けたい結果としてこうなった訳です。

その一方で政策金利のマイナス金利解除は予想より踏み込んでまして、日銀当座預金が基礎残高、マクロ加算残高、政策金利残高の3層構造になっていて、それぞれ+0.1%、0%、-0.1%の付利がされていました。つまりマイナス金利自体は日銀当座預金の一部に課されていただけでしたが、マイナス金利解除で1層化されました。元々の準備預金も含めた1層化ですから銀行サイドから見れば大サービスとなる訳ですが、おそらくマイナス金利政策で縮小して市場機能が低下した短期資金市場では金利の乱高下が起こりやすく日銀の短期資金オペが難しいという判断で金利誘導を当座預金の付利でという判断なのでしょう。長短金利ともに激変緩和を意図した訳ですね。それだけ金利のある世界への誘導は本気という訳です。アベノミクスの後始末の本気度が見えます。

アベノミクスの3本の矢を思い出していただきたいのですが、大規模な金融緩和は第1の矢でした。第2の矢は機動的な財政出動、第3の矢は規制緩和による成長戦略でしたが、実現したのは1本目の大規模金融緩和だけで、その結果円安が進み輸出企業の利益を押し上げましたが、その結果産業構造の改革は停滞し、財政出動も人手不足で公共事業の執行が遅れたり無駄な補助金バラマキで効果が出ず、補助金頼み規制緩和頼みで企業マインドを歪めてしまいました。そんな影響を感じさせるニュースです。

プベルル酸とは 小林製薬の「紅麹サプリ」から検出、抗菌作用も毒性強く - 日本経済新聞
現時点では不明な点が多く、断定は避けますが、このニュースで思い出されるのが70年代の紅茶キノコブームです。紅茶キノコというのは東モンゴルからシベリアにかけての地域で飲用されている発酵飲料で、紅茶または緑茶に砂糖を加え、培地で培養された細菌コロニーを加えて2週間程度発酵させた健康食品ですが、当時薬事法の縛りで効能を謳えなかったことから「紅茶キノコ健康法」という書籍に件の細菌コロニーを容器に入れてオマケにつけて売って普及させるという脱法的な売り方で普及させ、コロニーの成長で株分けして知人におすそ分けしたりして大ブームとなりましたが、青カビが発生して健康被害が出てブームはしぼみました。

紅茶キノコ自体は欧州やオーストラリアにも伝わって何故か「コンブチャ」と呼ばれて定着しており、それ自体が問題だった訳ではありませんが、個人間で株分けしたりというところに衛生管理の穴があった訳です。特定保健用食品(トクホ)の制度がなく健康食品も薬事法で対応していた当時の日本故の出来事ですが、法の網を潜って脱法的に普及させた結果、素人の個人に衛生管理を委ねた結果の起こるべくして起きた必然とは言えます。

小林製薬の紅麹サプリはトクホではなく機能性表示食品ですが、薬事法より緩いトクホでも健康成分の有効性をメーカーが示して消費者庁の許可を得て効能を謳えるのに対して、機能性表示食品では効能を示すデータをメーカーが保持することを条件に届け出だけで効能を謳えるという形に更に規制緩和された訳ですが、そのデータというのが公開論文の引用でも構わないなど緩いものです。紅麴自体は昔からある色素成分で毒性はないですが、コレステロール値を下げる効能があるという研究結果が出てサプリ化された訳ですが、効能を高める為か発酵期間を長く取っていたそうで、発酵期間を長くすると雑菌の侵入のリスクが高まり衛生管理が難しくなることは指摘されてます。

つまり規制をかいくぐっての脱法行為と制度的な規制緩和の違いはありますが、規制を緩めることで時に人命にかかわることは肝に銘ずるべきでしょう。加えて生産現場の対応が衛生管理上問題がなかったかの検証は必要ですが、健康被害が報告された製造ロットは閉鎖された大阪工場製で閉鎖後和歌山工場で生産が続いているという状況で、健康被害の原因が特定できるかどうかは微妙です。というわけでアベノミクスの後始末は混迷を深めます。続いてこのニュース。

川勝平太・静岡県知事「リニア、大きな区切り」 - 日本経済新聞
川勝知事は以前から舌禍騒動を度々引き起こしており、今回も県庁の新人入庁式での発言が差別発言として問題視されました。「県庁はシンクタンクで野菜売ったり薄育てたりモノ作ったりする人とは違う」といった発言ですが、これ典型的な職業差別発言でしょう。しかもそれを無自覚に発言していて指摘されても気付かないという典型的な差別主義者の振舞いです。とはいえ故石原慎太郎氏や麻生太郎氏の失言は石原節、麻生節とメディアもスルーしている一方でリニア静0置か工区着工を阻止してリベラルな立ち位置と見られている川勝知事の扱いはずいぶん違うと感じます。故石原氏や麻生氏と共通なのは目の前の徴収、川勝氏の場合は県庁の新人相手にリップサービスのつもりだったのでしょう。だからこそ本音が出たとも言えます。この手のヘイト発言は第二次安倍政権以降増えております。川勝知事がリベラル?というところには異論がありますが。

元々川勝氏は故安倍元首相や故葛西JR東海名誉会長と旧知の仲で、学者としても反唯物史観的でどちらかと言えば右寄りです。それ故にJR東海側に勘違いと油断があったと考えられます。駅設置予定のない静岡県の知事に旧知の川勝氏が就任すれば話は早いと考えて甘く見たということで。逆に大井川の水問題や県アセスメント条例の要件を満たさないと南アルプストンネルの工事用道路や作業ヤードの工事を止めたりするとは考えていなかったのでしょう。何れも広告主の立場を利用してメディアに圧力をかけたりして逆に静岡県民の不信を買うことになり、行政官としての川勝知事を怒らせた結果の拗れです。故に知事選では問題の多い川勝知事を県民は選んだ訳で、その意味では県民の民意に沿った行動だったとは言えます。だからといって差別発言が許される訳ではありませんが、川勝氏辞任後に選ばれる新知事もリニアに反対姿勢を示す方が選ばれやすい状況です。

とはいえここでたびたび指摘してますが、静岡工区の着工遅れ以外にも各地で工事は遅れており、例えばアルプスの盛土ハイキで取り上げた長野工区の地元での軋轢もあります。特にJR飯田駅併設を希望した長野県駅の予定地となった高森町座光寺地区では強引な住民の移転で問題を起こす一方、活性化を期待した飯田市商工会は不満たらたらとか。同様の問題は橋本駅併設の神奈川県駅でも起きていて、市街地故に立ち退きが進んでいない一方、支障する京王相模原線は塩本駅の移転問題とかいろいろゴタゴタしています。

元々東海道新幹線買い取りローンの終了に伴うフリーキャッシュフローで名古屋までなら自前整備可能としていたJR東海ですが、リニアの技術的な問題以上に資金計画がタイトすぎることで無理だろうと見ておりましたが、現実はその通りとなりました。結局故安倍元首相の提案で財投資金3兆円の投入が決まりましたが、これも上述のように異次元金融緩和はしたもののさっぱり成果の出ない成長戦略の目玉としてリニアに財投敷き3兆円投入を決めたものです。地方創生を謳いながら大都市集中をもたらす真逆のことやってますが、アベノミクスの成果が見えないことを気にしていたのでしょう。その結果のぞみ増発で好調な東海道新幹線の稼ぎでは足りず財投資金にも手を付けて溶かしているのが現状です。そして誰も止められないという大戦末期の様相を呈しているという訳ですね。アベノミクスの後始末は長引きそうです。

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