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Saturday, April 06, 2024

アベノミクスの後始末

安心してくださいで取り上げた日銀の政策変更が先月19日に決定しました。事前に市場に織り込まれていたので大きな混乱もなく推移したのも予想通りです。但しYYCは終わっても国債購入は続けるとしており、異次元緩和は終わっても量的緩和は続けます。長期金利を市場に委ねるけど財政への影響から急変動は避けたい結果としてこうなった訳です。

その一方で政策金利のマイナス金利解除は予想より踏み込んでまして、日銀当座預金が基礎残高、マクロ加算残高、政策金利残高の3層構造になっていて、それぞれ+0.1%、0%、-0.1%の付利がされていました。つまりマイナス金利自体は日銀当座預金の一部に課されていただけでしたが、マイナス金利解除で1層化されました。元々の準備預金も含めた1層化ですから銀行サイドから見れば大サービスとなる訳ですが、おそらくマイナス金利政策で縮小して市場機能が低下した短期資金市場では金利の乱高下が起こりやすく日銀の短期資金オペが難しいという判断で金利誘導を当座預金の付利でという判断なのでしょう。長短金利ともに激変緩和を意図した訳ですね。それだけ金利のある世界への誘導は本気という訳です。アベノミクスの後始末の本気度が見えます。

アベノミクスの3本の矢を思い出していただきたいのですが、大規模な金融緩和は第1の矢でした。第2の矢は機動的な財政出動、第3の矢は規制緩和による成長戦略でしたが、実現したのは1本目の大規模金融緩和だけで、その結果円安が進み輸出企業の利益を押し上げましたが、その結果産業構造の改革は停滞し、財政出動も人手不足で公共事業の執行が遅れたり無駄な補助金バラマキで効果が出ず、補助金頼み規制緩和頼みで企業マインドを歪めてしまいました。そんな影響を感じさせるニュースです。

プベルル酸とは 小林製薬の「紅麹サプリ」から検出、抗菌作用も毒性強く - 日本経済新聞
現時点では不明な点が多く、断定は避けますが、このニュースで思い出されるのが70年代の紅茶キノコブームです。紅茶キノコというのは東モンゴルからシベリアにかけての地域で飲用されている発酵飲料で、紅茶または緑茶に砂糖を加え、培地で培養された細菌コロニーを加えて2週間程度発酵させた健康食品ですが、当時薬事法の縛りで効能を謳えなかったことから「紅茶キノコ健康法」という書籍に件の細菌コロニーを容器に入れてオマケにつけて売って普及させるという脱法的な売り方で普及させ、コロニーの成長で株分けして知人におすそ分けしたりして大ブームとなりましたが、青カビが発生して健康被害が出てブームはしぼみました。

紅茶キノコ自体は欧州やオーストラリアにも伝わって何故か「コンブチャ」と呼ばれて定着しており、それ自体が問題だった訳ではありませんが、個人間で株分けしたりというところに衛生管理の穴があった訳です。特定保健用食品(トクホ)の制度がなく健康食品も薬事法で対応していた当時の日本故の出来事ですが、法の網を潜って脱法的に普及させた結果、素人の個人に衛生管理を委ねた結果の起こるべくして起きた必然とは言えます。

小林製薬の紅麹サプリはトクホではなく機能性表示食品ですが、薬事法より緩いトクホでも健康成分の有効性をメーカーが示して消費者庁の許可を得て効能を謳えるのに対して、機能性表示食品では効能を示すデータをメーカーが保持することを条件に届け出だけで効能を謳えるという形に更に規制緩和された訳ですが、そのデータというのが公開論文の引用でも構わないなど緩いものです。紅麴自体は昔からある色素成分で毒性はないですが、コレステロール値を下げる効能があるという研究結果が出てサプリ化された訳ですが、効能を高める為か発酵期間を長く取っていたそうで、発酵期間を長くすると雑菌の侵入のリスクが高まり衛生管理が難しくなることは指摘されてます。

つまり規制をかいくぐっての脱法行為と制度的な規制緩和の違いはありますが、規制を緩めることで時に人命にかかわることは肝に銘ずるべきでしょう。加えて生産現場の対応が衛生管理上問題がなかったかの検証は必要ですが、健康被害が報告された製造ロットは閉鎖された大阪工場製で閉鎖後和歌山工場で生産が続いているという状況で、健康被害の原因が特定できるかどうかは微妙です。というわけでアベノミクスの後始末は混迷を深めます。続いてこのニュース。

川勝平太・静岡県知事「リニア、大きな区切り」 - 日本経済新聞
川勝知事は以前から舌禍騒動を度々引き起こしており、今回も県庁の新人入庁式での発言が差別発言として問題視されました。「県庁はシンクタンクで野菜売ったり薄育てたりモノ作ったりする人とは違う」といった発言ですが、これ典型的な職業差別発言でしょう。しかもそれを無自覚に発言していて指摘されても気付かないという典型的な差別主義者の振舞いです。とはいえ故石原慎太郎氏や麻生太郎氏の失言は石原節、麻生節とメディアもスルーしている一方でリニア静0置か工区着工を阻止してリベラルな立ち位置と見られている川勝知事の扱いはずいぶん違うと感じます。故石原氏や麻生氏と共通なのは目の前の徴収、川勝氏の場合は県庁の新人相手にリップサービスのつもりだったのでしょう。だからこそ本音が出たとも言えます。この手のヘイト発言は第二次安倍政権以降増えております。川勝知事がリベラル?というところには異論がありますが。

元々川勝氏は故安倍元首相や故葛西JR東海名誉会長と旧知の仲で、学者としても反唯物史観的でどちらかと言えば右寄りです。それ故にJR東海側に勘違いと油断があったと考えられます。駅設置予定のない静岡県の知事に旧知の川勝氏が就任すれば話は早いと考えて甘く見たということで。逆に大井川の水問題や県アセスメント条例の要件を満たさないと南アルプストンネルの工事用道路や作業ヤードの工事を止めたりするとは考えていなかったのでしょう。何れも広告主の立場を利用してメディアに圧力をかけたりして逆に静岡県民の不信を買うことになり、行政官としての川勝知事を怒らせた結果の拗れです。故に知事選では問題の多い川勝知事を県民は選んだ訳で、その意味では県民の民意に沿った行動だったとは言えます。だからといって差別発言が許される訳ではありませんが、川勝氏辞任後に選ばれる新知事もリニアに反対姿勢を示す方が選ばれやすい状況です。

とはいえここでたびたび指摘してますが、静岡工区の着工遅れ以外にも各地で工事は遅れており、例えばアルプスの盛土ハイキで取り上げた長野工区の地元での軋轢もあります。特にJR飯田駅併設を希望した長野県駅の予定地となった高森町座光寺地区では強引な住民の移転で問題を起こす一方、活性化を期待した飯田市商工会は不満たらたらとか。同様の問題は橋本駅併設の神奈川県駅でも起きていて、市街地故に立ち退きが進んでいない一方、支障する京王相模原線は塩本駅の移転問題とかいろいろゴタゴタしています。

元々東海道新幹線買い取りローンの終了に伴うフリーキャッシュフローで名古屋までなら自前整備可能としていたJR東海ですが、リニアの技術的な問題以上に資金計画がタイトすぎることで無理だろうと見ておりましたが、現実はその通りとなりました。結局故安倍元首相の提案で財投資金3兆円の投入が決まりましたが、これも上述のように異次元金融緩和はしたもののさっぱり成果の出ない成長戦略の目玉としてリニアに財投敷き3兆円投入を決めたものです。地方創生を謳いながら大都市集中をもたらす真逆のことやってますが、アベノミクスの成果が見えないことを気にしていたのでしょう。その結果のぞみ増発で好調な東海道新幹線の稼ぎでは足りず財投資金にも手を付けて溶かしているのが現状です。そして誰も止められないという大戦末期の様相を呈しているという訳ですね。アベノミクスの後始末は長引きそうです。

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