賃金ホントに上がってる?
円安が止まりません。こどもの疲弊で指摘したように、3月の日銀政策決定会合でマイナス金利解除、YCC終了、ETF等の購入終了を決めた後、日銀は政策の現状維持を続けている一方、米FRBも現状維持ですから、金融政策に変わりはないのに、何故か為替は円安に動いています。4月決定会合の後の植田総裁の発言が円安容認と取られたと批判されてますが、米雇用統計の弱い数字で反転しました。その間日本政府の覆面介入があったと言われ、荒い値動きがありましたが、終わってみれば植田発言と米雇用統計という金融政策上のイベントに反応しただけでした。
しかし最近の円安進行でまたドル円157円まで進みました。米雇用統計の弱含みでFRB利下げ前倒しが起き、4月の植田発言を円安インフレの可能性を示唆した植田総裁の修正発言から、日米金利差が縮小して円安反転という展望が言われる中での出来事ですが、日米金利差を名目で見るか実質で見るかという視点で説明できます。指標とされる10年物国債金利で米4.5%に対して日本国債0.75からYCC終了で徐々に上がって1%を超える水準にありますから、名目値は微妙に差が縮まっていますが、ここへ来て米インフレ率の低下で実質金利差が寧ろ拡大しています。
名目値をインフレ補正して実質値が求められますから、米金利は実質プラスに対して日本は実質マイナスで、しかも米インフレも鎮静化が見られる一方、日本のインフレはしぶとく、特に6月に予定される電気料金値下げの補助金も止まって大幅値上げがアナウンスされてますから、実質値の先行きも金利差拡大が予想されます。4月の植田発言を実質金利がマイナス圏にあることから「緩和的」と表現したという意味では正直ではありますが、円安の戦犯扱いは気の毒です。とはいえ「好循環」と言われる賃上げに疑義のある分析も出てきています。
年金データで見る賃金動向 大企業の上昇率、中小に劣後 西村清彦・政策研究大学院大学客員教授、肥後雅博・東京大学教授 - 日本経済新聞去年の23年春闘で大幅賃上げがアナウンスされてますが、それが公的統計の賃金構造基本統計調査と毎月勤労統計でどう反映されているかを見ると大きなズレがあるばかりか公的統計同士でも異なった動きである点から、同時点での厚生年金標準報酬月額から数値を拾って実態に迫ろうとした結果、思いがけない事実が浮かび上がってきます。
厚生年金の標準報酬月額は厚生年金保険制度の執行上の実数であり、サンプル調査の公的統計と異なる全数でもあり、また業態別や規模別など大企業対象の公的統計では把握できない情報も取れます。その結果「大企業の賃上げをいかに中小に波及させるか」という問いとは逆に、中小ほど人手不足から賃上げを迫られ、大企業ほど当事者発表のベースアップとは裏腹に平均賃金が低下している実態が見えてきます。
考えられるのは大企業ほど女性や高齢者の非正規採用を拡大して結果的に賃金を抑制しているけど、中小ではそもそも非正規では人が集まらないし、元々マンパワーが限られるから女性であれ高齢者であれ適材適所で処遇しないと回らないということもあるようです。加えて今や大企業ではほぼ当たり前になっている役職定年制度の影響もあるでしょう。50歳になったら部長や課長といった役職を外れて役職手当を受け取れなくなるばかりか平社員待遇で年下の役職者の部下になるなど過酷な対応がされてます。加えて賃上げの一方で希望退職募集で正社員を減らすなどもしていたり、非組合員の役職者は手当てはもらえるけどベースアップが抑えられたり、ジョブ型雇用の美名で事実上の固定残業制を呑まされたり、あるいは成果連動給込みだったりといったことが行われていると考えられます。つまりそもそも賃上げがウソだったかも。その一方でこんなニュースもあります。
地方のインフレ、観光・半導体が先導 賃上げ体力に格差 物価を考える 試される持続力(4) - 日本経済新聞半導体やインバウンドで盛り上がっている地域でも人手不足は深刻で、地元企業の雇用維持のために自治体が補助金を出して雇用維持を図っています。元々若者は少ないから女性や高齢者の雇用機会が増えていると考えられますが、持続可能性はあるか、あるいは他業種の地場賃金相場を押し上げて悪影響はないか、対応できない自治体はどうなるかなど課題はあります。そして定額減税が実施されますがこれどーなの?
定額減税額、6月から給与明細に明記 企業に義務 - 日本経済新聞3月期決算企業では決算事務や株主総会開催で超多忙な6月に余計なお仕事です。減税額を明細書に明示を義務付けるということが実務上どれだけ負担になるかはお構いなしですね。こんな資料があります。
給与所得の源泉徴収税額表(令和6年分)国税庁のホームページにある令和6年の源泉徴収月額表です。所得税の源泉徴収を義務付けられている企業の給与計算事務の円滑化のためのツールとして公開されているものですが、1人3万円の国税分の減税額を単月で控除できるのは扶養家族0人で社会保険料控除後503,000円以上からで、そこそこ高所得者ですが、更に扶養家族分だけ3万円の控除が積み増される訳ですから、殆どのサラリーマンでは単月控除は不可能で翌月以降に繰り越されます。給与額が低ければ毎月の控除だけでは間に合わず年間所得確定後の年末調整にまで持ち越されるケースも出てくるでしょう。つまり個人ごとに状況が異なりますが、大企業ほど給与計算が基幹業務システムに組み込まれている可能性が高く、そんなレガシーデジタル資産を抱えて個別対応の難易度は高くなります。加えて6月に限り地方税の控除差し止めも義務化されてますから自治体にも煩雑な事務作業が発生する訳です。こうした現実に無頓着で見た目を取り繕う姿勢では、マイナンバーカードを含めてDXがうまくいく訳がありません。当然人為ミスの発生も出てくるでしょう。当面給与明細をしっかり確認する必要があります。
更に言えば民間や地方には平気で負担を強いる半面、政治資金規正法改正では抜け穴づくりに余念がない訳ですから、政治不信はますますたかまります。減税アピールが寧ろ評判を下げる訳ですが、それ以上に気になるのが経団連や連合の談合で賃上げをアピールして反映される6月に定額減税を開始することで見た目の手取りが増える演出をしながら、一方で異次元の少子化対策の財源として社会保険料が値上げされるのも6月からですから単なる目晦ましですね。それが見え見えなのにそこを突っ込まないメディアも問題です。まるで戦前です。
| Permalink | 1
| Comments (0)
Recent Comments