国家は憲法でできている
本題に入る前にインフレ定着の続きです。
【ドル円相場】円再び下落、介入観測後も157円台後半 強い米物価警戒 - 日本経済新聞先月29日の乱高下で日本政府の覆面介入があったと見られます。更に今月2日早朝にも同様の介入と見られる動きがあり、29日に5兆円、2日に3兆円規模の介入と見られています。なんでそんなことがわかるかといえば、日銀当座預金の残高が相当額減少したからです。
政府の為替介入の原資は円売りドル買いの場合は日銀が米NY連銀に持つ口座を利用してドル買いする訳で、円の供給量が増えるので事後的に政府短期証券と呼ばれる短期国債を発行して民間から資金を集めて戻して日銀の金融政策への影響を相殺するという手順となりますが、ドル売り円買いの場合は外貨準備のドルを取り崩して円を買いますから、日銀が買い取った円は消滅し、その分当座預金残高が減る訳です。
日本の外貨準備は凡そ1.3兆ドル、円換算で200兆円程度で日銀に預託されていてほとんどはアメリカ国債で運用されています。介入資金は国債以外のドル建て現預金を用い、その規模は円換算で50兆円程度と見られ、今回その一部が使われた形です。故に介入資金はまだあり、今後も介入の可能性はありますが、結局事後的に相場は戻してしまいます。故に無駄なことしてる訳ですが、円安対策としてやったフリはできる訳です。
尚、巷間謂われる円安による外貨準備の含み益は上述のように日銀が円を買えば消滅する訳ですから、含み益は実現せずそれを防衛費などの財源にという議論は成り立ちません。確かに外貨準備でアメリカ国債などで運用された分についての利子分の歳入はあり年度ごとの決算で剰余金として計上されますが、法律により一部は外貨準備に繰り入れられた上で一般財源に拠出されますが、円安による含み益はその時点で発生するもので、その規模も防衛費を賄うレベルには遠く及びません。「含み益を財源にしろ」という経済専門家は無知か噓つきかのどちらかです。
一方で投機筋は安心してくださいで指摘した3重の下駄ばき状態でたっぷり含み益を抱えてますから、一時的な相場の乱高下でも慌てる必要はなくあまり動揺していません。そもそも投機筋の動員する資金は政府の介入資金の2桁上で勝負になりません。勝てない戦を仕掛けて抜けられないってアレ?先の大戦と同じじゃん。
という訳で憲法記念日恒例の護憲改憲論争ですが、議論は全く深まりません。何故かといえば議論がとっ散らかっているからで、例えば9条の見直しで安倍政権時代に自衛隊明記の方針を打ち出した訳ですが、これが議論を複雑にしています。主権国家に備わる自衛権の為の実力組織である自衛隊は軍隊じゃないとして戦力放棄に抵触しないというのがこれまでの標準的な憲法解釈だったのですが、憲法に敢えて自衛隊を明記するとすれば自衛権に関わる条文も足さないと整合性が取れません。そしてその場合自衛権の範囲を自国の領土と国民の防衛に限定する個別的自衛権とするのか、同盟国の防衛も含めた集団的自衛権とするのかという点が問題になります。
そうすると厄介なのは現行憲法の解釈変更で集団的自衛権を限定的に容認した安保法制との整合性も問われることになります。憲法で個別的自衛権に限定されれば安保法制は違憲立法として無効になりますし、憲法で集団的自衛権を認めたとしても、国会が発議して国民投票に問うと安保法制込みの国民投票となる訳で、国民の賛同は得にくくなりますし、万が一否決されれば安保法制の在り方が再度議論になり与党にとっては都合が悪いことになります。つまり安倍元首相の憲法理解が浅すぎて議論を混乱させているのが現状ってことです。改憲議論に地雷が埋まってしまった訳です。
遡ればそもそも明治政府が憲法制定に汗かいたのは、幕末の混乱の中で列強から押し付けられた不平等条約の解消の為だった訳で、故に天皇を頂く立憲君主国として自国を定義する狙いでしたが、所謂皇道派の横やりで天皇親政的な解釈に幅を持たせた妥協の産物でもありました。こんなだから昭和の政治不信と改革官僚や軍部の専横で国を戦争に追い込んでしまった訳です。その流れで敗戦後の新憲法制定も自主的にできずGHQ原案が押し込まれた訳ですが、そのことから押し付け憲法論で改憲が必要という理路となる訳ですが、その結果中身の議論がお粗末になってしまった訳です。この辺をクリアにした改憲議論は長い人生で一度も見たことがありません。
よく言われる条文が少なく具体性がないとか理念ばかりで実効性がないとかも、そもそも国の基本法である憲法は最低限の国の在り方を定義したもので、具体性や実効性は個別具体法で定義するってのが立憲主義憲法なんですから、この手の批判も的外れです。そして具体性や実効性を伴う法律を作るのが立法府であり「国権の最高機関」たる国会です。その国会議員の憲法改正議論がこの体たらくですから日本国憲法は100年経っても変わらないでしょう。憲法改正よりちゃんとした法律作れ!
例えば全国新幹線整備法という法律がありまして、新幹線は万能ではないでも取り上げましたが、元々新幹線鉄道は国の事業とされていて、制定当時は公社化された国鉄という実体があり、しかも独立採算制故に国の財政資金を使わないで国土開発に資する目的が定義されていました。その前提が崩れたのが国鉄分割民営化です。
本来ならばこの時点で見直して法改正すればよかったのですが、そうせずに法解釈で対応しました。それが一定の条件の下で条文の「国」を分割後の各旅客会社に読み替えるというもので、民営化された旅客会社に過重な負担をさせないために並行在来線を旅客会社から切り離すことと、それを踏まえた地元の合意が得られることと、国の事業としての広域国土開発に資することという形でJR、地方、国の3者が合意することが求められました。加えて資金の手当てで92年のJR本州3社による買い取り代金の査定額に上乗せして拠出した鉄道整備基金で整備し、JRが受益の範囲で30年リースで負担した残りについて国と地方が2:1の割合で分担するという整備新幹線スキームが作られました。国の事業と言いながら財政資金が投入されない事業故に整備資金スキームを苦労してひねり出した訳です。
この辺も法改正して財政資金投入ではなく事業ごとに毎年度の必要額を査定して予算請求するスタイルなので潤沢な資金がある訳ではなく、結局JRと地方の合意を待って予算化されるということになります。そんな予算のやり繰りがあるので費用便益(B/C)比を重視して高い経済効果のある事業への優先傾斜配分という運用がされていて、第1号事業は長野五輪対応もあってJR東日本を事業者とする北陸新幹線高崎―長野間とされた訳です。
但しB/Cの算出は簡単ではなく幾つもの仮定を置きますから正確無比とも言えず、ある種恣意性が入り込む余地はあります。その結果例えば当初フーパ―特急方式で整備が予定されていた九州新幹線鹿児島ルートでは、実績のない狭軌200km/h営業運転での経済効果を謳って優先順位を上げてましたし、当初沼宮内―八戸間フル規格で間をミニ新幹線でつなぐ計画だった東北新幹線延伸部も全区間フル規格でスピードアップ効果を評価してB/C比を高く見せ、更に当時事業化されていなかった北海道新幹線が事業化された場合の培養効果とか、鉛筆ナメナメ数字を作ってなし崩しでフル規格化が進んだりとデタラメな運用がされてきました。
その結果何が起きたかと言えば佐賀と滋賀で「詐欺だ!」でありやもめのジョナサン でありということですね。そして北陸新幹線敦賀開業での新在乗継レース^_^;という乗客無視に等しい失敗が起きている訳です。にも拘らず敦賀から新大阪までのルートは五里霧中です。上記整備新幹線スキームに従えばB/C比2倍で事業費も少なくて済む米原ルートが選択される筈なんですが、与党PTの横やりで小浜京都ルートという実現可能性の低いルートが地元合意を経ずに調査費が計上されるという脱法的な手続きが行われております。法改正どころか運用ルールも守れない与党議員とは醜悪です。
更に整備新幹線スキームに属さない中央リニア事業も全幹法に基づく国の事業ですが、JR東海の自己資金事業ということで地元合意もなく進められ、3兆円の財投資金投入で政府が支援というのは法的には説明のつかないところです。憲法以前に法律を守れない裏金議員の好き勝手は許すべきではありません。憲法改正以前に立憲主義憲法が空洞化していることこそ問題であって憲法改正があっても無くても問題は何も解決できないということです。
という具合に個別具体法の適時改正もできない与党に改憲発議ができるとは思えません。一説によれば岸田政権は改憲発議を急いでそれを争点に会期末解散を狙っていると言われます。壺や裏金で支持率ガタガタの起死回生の憲法改正だとすると動機が不純すぎますね。
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