もう一つの高齢化問題
高齢化社会と言われて久しく、人口に占める高齢者の比率も高まる一方で、それを支える現役世代の負担増問題は深刻ですが、それをネタに「高齢者は早く死んでくれ」と言わんばかりに尊厳死に言及する国民民主党玉木代表のような議論も出てきますが、当然ながら論外です。国民民主党は選挙公約で「手取りを増やす」として社会保険料減額や年収の壁対策を訴えています。20代30代の支持層が多いことの反映でしょうけど、世代間対立を煽るだけで寧ろ解決を困難にします。
よく言われる年金の世代間扶助は元々賦課方式年金では形式上そうなる訳ですが、高齢者の増加の一方で現役世代の人口減少で負担が増すことに対してはマクロ経済スライドなどの対策で対応中ですが、誤解の多い所得代替率は年金支給開始時点での現役世代の所得が基準であって、本人の現役時代の所得が基準ではないという点です。つまり現役世代の所得が高ければその分年金支給額は増える訳で、支える現役世代の所得を増やせれば問題は解決します。真の問題はその現役世代の所得を増やす展望が開けない点にあるということです。
保健医療に関しても、高齢者の医療費を現役世代が負担するのは不公平と言われますが、高齢化の進捗と共に高齢者医療比が増えること自体は避けられませんが、この裏には高齢者医療のボリュームが増えることから、それを当て込んだ新薬や医療技術の開発が活発になり、その結果膨らんだ開発費を価格転嫁した高額医療が増えていることが影響している訳で、簡単な解決策はありませんが、基本的にはウェルビーイングで健康寿命を延ばし高齢者を元気にすることが大事です。その意味では薬やサプリメントの過剰摂取による腸内環境の劣化が指摘されるように、そもそも現状が過剰医療である可能性があり、その辺の意識改革に解決の糸口を見出すことが大事です。
てことで本題。減耗する固定資本に沈む夕陽の続編です。
道路陥没、3週間で3回も 老いるインフラ「保全技術」課題 - 日本経済新聞水戸市の市道で3週間に3度の道路陥没が起きました。地価の老朽化した下水道管の破損が原因ということで、通行止めにして補修工事を実施したのですが、公共インフラの老朽化は全国的な問題で、しかも自治体財政の逼迫と人手不足で補修や更新が追い付いていない現実があります。つまり公共インフラの維持管理という悩ましい問題が顕在化している訳です。
固定資本減耗というのはマクロ経済で言うところの資本の維持費で、GDPの三面合一の分配面から見た恒等式「GDP=雇用者報酬+固定資本減耗+営業余剰」で表されます。上記エントリーでも触れましたが、GDPの名目値がほぼ変わらなかったゼロ年代で見るとほぼ107兆円程度の水準で推移しており、一方雇用者報酬は減り営業余剰が増えています。
雇用者報酬は企業会計で言うところの人件費に相当し、固定資本減耗は減価償却費に相当し、残余が営業余剰となり、これが投資資金、役員報酬、株主還元、納税の原資となります。そして固定資本減耗は過去の投資資金の回収の意味合いがありますから、通常は投資によって増えていく筈ですが、変わらないということは過去の投資回収分を超える投資が行われなかったことを意味します。そりゃ長期停滞する筈だわ。
その一方で公共投資はバブル後の90年代以来増え続けてゼロ年代で停滞したことは確かですが、アベノミクスで増やされ、財政を圧迫する訳ですが、一方で人手不足で公共事業の執行段階での入札不調の影響で停滞したこともあり、上記エントリーで危惧した公共インフラの固定資本減耗の膨張は制限された面はありますが、一方で補修や更新も滞るということになった訳です。
地震で盛土崩落の東名高速でも指摘しましたが、元々単年度主義の公会計では減価償却は考慮されず、それに準じた高速道路通行料でも減価償却費は計上されていなかったから、東名の地震による盛土崩落や中央道笹子トンネルの天井板落下のようなことが起きる訳で、流石にまずいということで補修費の計上が増やされるようになりましたが、作業員を確保0できなければ補修工事も進まない訳です。そしてこれらの費用は税金で賄われる訳ですから、リタイヤした高齢者ではなく現役世代の負担となる訳です。社会保障費で世代間対立を煽るのがバカバカしくなりませんか?
こうした現状は災害復旧にも影を落とします。阪神大震災や東日本大震災と比べて能登半島の復旧遅れは深刻ですが、東日本と比べても人手不足は深刻になっている訳で、災害復旧に時間がかかるようになっている構造問題もあります。鉄道関連でも球磨川氾濫で長期運休中の肥薩線が未だに復旧工事に着手できていません。国が道路予算や河川予算を使った支援策を打ち出してもJR九州が渋っている現実がある訳で、復旧しても大赤字でそこへ社員を張り付けるのも難しいということで、JRのローカル線問題が単なる赤字問題ではくくれなくなっていることを示します。同様の問題は芸備線、米坂線などにもありますが、ハードの復旧費を手当てするだけでは済まない問題です。
加えて言えば今後はインフラの補修や更新が課題となり、財政を圧迫することは確実です。そうした状況での新規のインフラ投資は慎重であるべきです。少なくとも費用便益比(B/C比)が相当高い案件に絞るべきです。その観点からB/C比ではっきり差が出ている北陸新幹線の延伸ルートは小浜京都ルートではなく米原ルートを選ぶのが合理的です。
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