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January 2025

Saturday, January 25, 2025

石橋を叩いて渡る石破氏と植田氏

波乱の8月で触れたように、株価下落を「植田ショック」とまで言われた結果、年内と見られていた追加利上げを年を越してから決定いたしました。

[社説]日銀はより精緻な利上げの戦略と対話を - 日本経済新聞
日経の社説とは裏腹に、利上げを遅らせて米政権移行に伴う市場の反応を見極め、しかも副総裁と総裁が揃って事前に利上げを示唆する発言をして市場に織り込ませた対応は慎重そのものです。決定会合後の記者会見で中立金利までの長い道のりに言及して、追加利上げは今後も続くことを市場に問いかけています。利上げ観測の為替の円高もわずかで、寧ろ未だインフレ補正の実質金利はマイナス圏ですから当然といえば当然なんですが、円安修正はまだ先ということです。
石破茂首相「令和の列島改造」実現へ5本柱 施政方針演説 - 日本経済新聞
こちらもいろいろ言われてますが、とりあえずは安全運転の姿勢です。いやツッコミどころは満載で早速楽しい日本とか曖昧という批判もあります。そして令和の列島改造と称して五本柱を示しています。①若者や女性にも選ばれる地方②産官学の地方移転と創生③地方イノベーション創生構想④新時代のインフラ整備⑤都道府県を越えた広域連携の枠組みの推進の5つです。

田中角栄内閣で打ち出した日本列島改造論は新幹線や高速道路の整備を通じて国土の均衡ある発展を狙うというものでしたが、是非はともかく具体的だったのに対して、確かに抽象的で曖昧ですが、反主流派だったから具体化するスタッフがいなかっただろうし、また具体策を示せば身内の与党から背中に矢が飛んでくるということもあるでしょう。つまり石破首相としては最大限の安全策ということです。

田中角栄版列島改造当時は鉄道貨物のシェアは今より高く、地方の港湾や工業団地も鉄道アクセスが当然視されていた時代ですから、新幹線に都市間旅客輸送が移行した後の在来線は貨物インフラとして活用することが含意されていました。当時貨物は大赤字でしたが、そもそも田中角栄氏は国鉄の赤字は国民福祉の観点から意に介していなかったし、組合のスト権付与にも理解があったようです。翻ってJR化後の地方ローカル線の窮状を見ると、こうした考え方も一理あるとも言えます。短期間に高速鉄道網を整備したものの大赤字にあえぐ中国は実は列島改造を実践しているかも。鉄ちゃん宰相の石破氏にそこまで踏み込むことの困難な現実はあります。

外交でもトランプ政権発足前の会談を敢えて行わず様子見する一方、対米カードとしての対中融和などの仕込みもしてますし、安倍政権以降の歴代政権よりバランス感覚がありそうです。但し全体的には曖昧にせざるを得ない現状もあり、具体化の過程で野党に攻められるのみならず、身内のからの矢もかわさなきゃならない一方、さりとて与党内にポスト石破候補がいない中で、逆に野党に助けられる場面もありそうです。これ石破氏を褒めてるんじゃなくて、いずれ明らかになる具体策へのツッコミはしっかりやろうと思います。

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Sunday, January 19, 2025

アンチ地球の歩き方

まず答え合わせ。韓流ふてほどで内乱罪で逮捕状が請求されていた韓国尹大統領が逮捕されました。身柄拘束を拒否して抵抗していたものの、外堀を埋められて自首の形で投降したものの、高捜庁の法的権限に問題があると抵抗を続けています。というのも高捜庁は文大統領時代に設置され、革新派、人権派弁護士を中心に人選されていることから、保守派の尹大統領には恐ろしい存在に見える訳です。韓国の政治的分断の深刻さでもありますが、尹大統領自身のご乱心の結果です。

ガザ停戦、合意決した安息日 トランプ特使が電撃訪問 - 日本経済新聞
4年前のご乱心で支持者を煽って議会を襲撃させた大統領が返り咲きで、就任前の外交という異例の動きですが、あれだけバイデン大統領をてこずらせたイスラエルのネタニヤフ首相も、トランプ大統領には頭が上がらないようです。政権内に停戦反対論があり、恒久停戦に至るかはわかりませんが、とりあえず戦火が止むならば歓迎すべきことです。一方米国内では大事件です。
AIGなど大手損保、ロサンゼルス山火事でも株価反発 「売り手市場」に - 日本経済新聞
こちらは民主党知事が無能だから消防予算を減らしたとかあらん限りの誹謗中傷がされてますが、ロス郊外のハリウッドを含むセレブの住む地域の火災で未だ終息が見えない中で、AIGなど損保各社の保険金支払いの見積りが200億ドル、日本円で3兆円超と史上最高額となりましたが、被害総額はおそらく1桁上で一部しか補償されないと見られます。気候変動で災害関連の保険金支払いが増えた結果、売り手市場で引き受けが減ったことでこうなりました。そして損保は保険金支払いのために保有株式を処分し、また補償を受けられないセレブも保有株を処分して当座資金を確保となりますからこうなります。
トランプ株高の再来、日米で不発 高関税が冷や水 - 日本経済新聞
とはいえ米株は少し上がっていますが、日本株は結局下げて未だに壁―以下略^_^;の4万円の壁を越えられず、それどころかトランプ関税の餌食になりかねない状況です。バイデン政権のフレンドショアリングの掛け声に乗って脱中国で対米重視に舵を切ったらこれですからね。

製造業の壁の日鉄の提訴もこの流れですが、日鉄の狙いは同時に高炉を持つUSスチールを買収して米国内で自動車用ハイテンなどの高付加価値品の生産体制を整えて民主党の支持基盤の筈の労組がトランプ支持に流れたことでもしトラに備えようとしたけど、労組の政治力を甘く見た結果、クリーブランド・クリフスにより安価に買収されてトンビに油揚げ取られる構図になりそうです。同時に日本国内では高炉停止を連発している訳で、米国内生産のために国内でリストラということで、日本の労働者を犠牲にすることでもあります。分断の進むアメリカへの過度の依存は要注意ってことですね。

てことで三つ子の赤字脱却は難しく、同エントリーで取り上げたテキサス新幹線も出口を失いそうです。北東回廊リニアも含めて対米依存のJR東海の海外事業はどうなるでしょうか。

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Saturday, January 11, 2025

製造業の壁

一時4万円越えしたものの2日続落で結局日経平均4万円越えはならず、壁―Nイノセ氏の誤算、以下略の最後に記したように、4万円の壁は強固なようです。そんなことを踏まえつつこのニュース。

日本製鉄「労組・競合と結託」主張 米国のバイデン大統領ら複数提訴 - 日本経済新聞
日本製鉄によるUSスチール買収をバイデン大統領が大統領令で停止命令を出したことを受けての提訴ですが、日本企業が米大統領を提訴する異例の展開です。米側の言い分としては安全保障上の懸念ということですが、バイデン政権で製造業復活を謳い、同盟国資本の米国内投資を奨励していた立場を覆したという意味では日鉄の提訴は理にかなったものです。

とはいえ実際は大統領選で労組票を取り込みたい意図は隠しようがありません。全米鉄鋼連盟(USW)の反対姿勢の前には、労組票を逃す訳にはいきませんし、共和党トランプ候補が反対表明していたから尚更ですが、こうして政治案件化した結果、米当局の官僚に判断を巡るプレッシャーがかかり、バイデン大統領に政治判断を仰いだ形になりました。既に大統領選の結果は出てトランプ次期大統領体制の中で判断しきれなかったとはいえ、バイデン大統領も今さら覆してもどうにもならないし、今後の選挙の票を考えたら労組の意向を無視できなかったのはやむを得ないところでしょう。

しかし日鉄も米国の労組の政治力を過小評価して労組の取り込みを十分に行わなかったとは言えます。米労組は企業横断の産業別組織ですが、週によっては州法で活動が制限されていたりするので、欧州の産別労組ほどの力はないとはいえ、日本の企業別組合のようにはいかない訳で、そこを甘く見たと考えられます。だからUSWも提訴対象となっています。

確かに組合員にはライバルのクリーブランド・クリフスの従業員もいて、クリフスは過去にUSスチールに買収提案したものの、反トラスト法に抵触するとして差し止められた過去があり、トランプ政権での規制緩和を睨んでクリフス経営陣とUSWが通じている可能性はありますが、そこまで公判で明らかにするとなると、公判自体が長期化することになり、日鉄にとっても得るものは少ないと思います。まして退任するバイデン大統領への提訴は意味があるのかどうか?

日鉄のUSスチール買収にいろいろな狙いがあるようですが、USスチールの電炉事業へのアクセスが大きいようです。コークスを還元剤とする高炉製鉄は脱炭素の観点から見尚祖が避けられないとはいえ、次世代製鉄と言われる水素製鉄の技術開発はこれからで、当面は電炉製鉄で凌ぐことになりますが、電炉の場合原料の回収鉄製品から不純物を排除することが難しく、自動車用高張力鋼板のような高付加価値品には不向きとなりますが、USスチールは電炉投資で先を行っていてそれを取り込みたいということのようです。しかも労働規制の緩いテキサス州に立地していて、実はUSWにとってはセンシティブな問題です。つまりいずれペンシルベニアの高炉を廃止してテキサスに電炉作るんだろ、という疑念です。だから単なるナショナリズムの暴走とも言い切れない訳です。

また中国の不動産バブル崩壊で国内需要が冷え込んでおり、中国国内の鉄鋼事業が過剰供給力を抱えて輸出攻勢に出ていて鉄鋼製品の国際価格が下落しており、規模の拡大で対抗することが急務となっているということもあります。そして米国内に製造拠点を持つことはもしトラのトランプ関税回避の狙いもあったでしょう。もしトラは実現しちゃいましたから、バイデン政権のうちに進めたかったけれど、頼みのバイデン大統領が停止命令を出すという皮肉な結果となりました。中国はEVでも攻勢を仕掛けており、製造業の中国プロブレムは共通しています。

例えば自動車ですが、中国は外資導入の条件として単なるノックダウン生産ではなく技術移転を重視してきましたが、外資側は中国の労働力の低廉さは魅力ですし、人口大国で工業化に伴う内需の伸びも期待していたからこそ中国事業に熱心だった訳ですが、工業化した中国がライバルになることはあまり考えていなかったようです。特にEVに特化した中国政府の産業政策もあり、バッテリーやパワー半導体やモーター用永久磁石に必要な希少資源も多くが国内調達可能という優位性を活かした戦略性があり、米テスラでさえ中国事業は重要な位置づけです。

自動車に関してはCASEと言われ、Conekuted,Autonomy,Shareing,Electric の次世代車開発に世界中のメーカーが動きましたが、結果的にテスラと中国メーカーが勝者に名乗りを上げているのが現在です。そして今Software Defined Viecle が主戦場になっています。ハードとしての車本体はシンプルな構造で量産効果を最大化した上で、ソフトウェアのアップデートで機能の追加や性能向上を図るビジネスモデルが出現した結果、テスラと中国EVを除く世界の自動車メーカーが置いてけぼりになっている現状です。

わかりやすく言えばテスラをアイフォン、中国EVをアンドロイド、その他の自動車メーカーはガラケーメーカーに喩えることができます。自動車メーカーはクルマを高く売りたいからハードの作り込みをしがちで、ハイテク技術も機能を内蔵することで、高機能だけど使い勝手は必ずしも良くない上に、それを付加価値と見て値付けするから値段も上がり買い替え周期が伸びてしまいます。その点SDVはソフトウェアの有償アップデートで販売後の収益化が実現している訳です。

加えて内燃エンジン車と比べて技術革新のスピードが早く、その分陳腐化が避けられず、リセールバリューが期待できないというパソコンやスマホと同じ傾向が顕著なため、時間をかけて作り込む自動車メーカーの対応が後手後手になるということもあります。故にテスラが典型的ですが、車本体はシンプルな作りでロボット多用の量産技術もあり、クルマ作りの思想自体が異なる訳です。壁は成長する?の日産ホンダの経営統合も追い込まれた結果です。

日産株を保有するルノーもEV開発に注力したものの単独では苦しいようで、ステランティスとの統合話が出ています。そのルノーに鴻海が日産株譲渡を申し入れたという報道もあり、鴻海もEV事業進出を狙っているということです。ゴーン氏も指摘してますが、日産とホンダでは日米欧中国と市場が競合している上、売れ筋のセレナとステップワゴン、ノートとフィットの競合関係があり、統合のシナジーを見出しにくいということもあり、特に日産の救済ではなく日産は自前再建が統合の前提とされ、工場閉鎖や人員整理を迫られることを考えると、工場が欲しい鴻海の方がパートナーとして理に適っているかもしれません。この辺USスチール買収に拘る日鉄にも言えますが、判断の基準がズレている気がします。で。ズレている鉄話を最後に。

福井県知事、北陸新幹線敦賀―新大阪間で小浜先行開業を提案 - 日本経済新聞
一言「論外」そもそも大阪に繋がらない小浜部分開業ではJR西日本の受益は殆どなく、ほぼ全額公費負担となりますが、B/C比も当然悲惨なものとなり、少なくとも国の予算はつかないでしょう。福井県など地方だけで負担するなら可能ですし、原発で潤っている税収を充てるなら議会も通しやすいかもしれませんが、それで既成事実作ったところで京都の環境問題の壁で大阪延伸はほぼ不可能。誰も喜ばない寝言の初夢です。

政府が原発活用を打ち出していることから、国交省ではなく経産省の方の産業政策としての国庫金投入を裏金議員がまとめるとかの流れは可能性としては皆無ではないけどもちろん論外です。そもそも製造業の衰退で電力需要が減少している中で、EVやAI関連の大型データセンターで電力需要が増えるという前提で原発活用を言う訳ですが、そのEVもAIも世界に劣後している今の日本ではたわごとの域を出ません。そもそも人口減少の中で熱源となるデータセンターぶん回してまで対応が必要な需要がいかほどあるのか?またこの辺の発想もハード重視の日本的発想の域を出ておりません。五輪や万博に匹敵する時代錯誤です。

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Saturday, January 04, 2025

B/C比の誤解

夢見るDX国を葬る?などで取り上げたB/C比について記します。ネットでは北陸新幹線大阪延伸で小浜京都ルートと米原ルートでバトルが見られ、その中でB/C比が言及されてますが、特に小浜京都ルート推しの立場の議論に明らかな誤解があるようです。B/C比で言えば米原ルート一択で議論の余地はないのですが、これはあくまでも国と地方が負担する公費の部分の話で、整備新幹線事業が全幹法に基づく国の事業だから問題視されるのですが、「米原ルートだとJR西日本の収益がJR東海に流出する」というような見当はずれの批判が見られます。民間企業であるJR西日本の事業収益面での採算性とは別の議論です。

事業主体となるJR各社の事業費負担は新幹線開業に伴う受益の範囲で算定された30年リース料で、それでカバーできない部分が公費負担になる訳です。そしてこの公費負担部分のB/C比が問われている訳でJRの採算性とは別の話ですし、受益の範囲の負担で採算性は担保されており、理論上ルート選択に対するJR西日本の採算性は中立です。で、国の事業である以上、公費部分のB/C比が問われる訳です。とはいえB/C比は様々な前提条件に基づいて算出される推計値であって実数ではない訳で、恣意性は排除できませんし、万能という訳ではありません。

本来は政策実現のための複数選択肢の比較のためのツールであって、北陸新幹線の事例で言えば米原ルートと小浜京都ルートの選択で同一前提条件での算出で比較することに意味がある訳です。故に先に算出された米原ルートと後から算出された小浜京都ルートとでは厳密には比較できないのですが、それでもB/C比で倍以上の差が出ている訳で、B/C比から見れば米原ルート一択となるのは自明といえます。また京都府と京都市が環境問題から国に見直しを要請したり、早期実現の観点から石川県からも米原ルートへの見直しの意見が出ている現状です。つまり事業主体となるJRと国と地方の3者合意という大前提が揺らいでいる訳で、どのみちこのままでは事業化は不可能です。

前提条件を揃えるというのは、イコールフッティングとも言いますが、例えばスウェーデンのストックホルム―マルメ間の高速鉄道建設のときに在来線改良や高速道路整備など複数案からの選択に用いられた方法で、日本のように省庁の所轄による縦割りを前提とせずにゼロベースで検討するもので、B/C比の数値自体を問題にするのではなく、政策実現のための意思決定の透明化が狙いです。それが日本では数値が問題視されるのは、主に財務省との予算折衝で使われるという日本だけのローカルルールによる歪みといえます。

その弊害は例えば本州四国連絡橋で顕著ですが、計画段階で提案された明石鳴門ルート、児島坂出ルート、尾道今治ルートの3ルートの提案に対する査定で、B/C比が横並びとなって3ルート全てが整備されるという形で決着したことに表れています。明石鳴門と児島坂出は道路鉄道併用橋で尾道今治は道路専用橋ですし、児島坂出は新幹線と在来線の両方を通すという風に条件が違う中での意思決定ということで、3案同時進行を意図したものとの疑いがあります。故に国交省が小浜京都ルートのB/C比悪化を敢えて発表したのは、逆に国交省は小浜京都ルートを潰したい意図があるということでしょう。同時に米原ルートの試算をしなかったのは、小浜京都ルートに調査費の予算付けをしたことが仇となったかも。

上記エントリーで取り上げた宇都宮ライトレールの事例で言えば、難工事による遅延や工法変更でB/C比が悪化するなどして政争の具となったように、本来の意思決定の透明性に疑義を生じたことが問題です。結果的には沿線開発の活性化や移住人口増で開業前のB/C比より実数ベースでは改善したと思いますが、だから結果オーライという議論は乱暴です。東側延伸で市中心部へ乗り入れる将来構想の実現でまた揉める火種を残している訳です。立民と共産が反対に回ったのも意思決定過程に問題があったからであって、今後の事業展開のためには対立をほぐしておく必要があります。あくまでも意思決定の透明性の問題ということは重ねて申し上げておきます。

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