B/C比の誤解
夢見るDXや国を葬る?などで取り上げたB/C比について記します。ネットでは北陸新幹線大阪延伸で小浜京都ルートと米原ルートでバトルが見られ、その中でB/C比が言及されてますが、特に小浜京都ルート推しの立場の議論に明らかな誤解があるようです。B/C比で言えば米原ルート一択で議論の余地はないのですが、これはあくまでも国と地方が負担する公費の部分の話で、整備新幹線事業が全幹法に基づく国の事業だから問題視されるのですが、「米原ルートだとJR西日本の収益がJR東海に流出する」というような見当はずれの批判が見られます。民間企業であるJR西日本の事業収益面での採算性とは別の議論です。
事業主体となるJR各社の事業費負担は新幹線開業に伴う受益の範囲で算定された30年リース料で、それでカバーできない部分が公費負担になる訳です。そしてこの公費負担部分のB/C比が問われている訳でJRの採算性とは別の話ですし、受益の範囲の負担で採算性は担保されており、理論上ルート選択に対するJR西日本の採算性は中立です。で、国の事業である以上、公費部分のB/C比が問われる訳です。とはいえB/C比は様々な前提条件に基づいて算出される推計値であって実数ではない訳で、恣意性は排除できませんし、万能という訳ではありません。
本来は政策実現のための複数選択肢の比較のためのツールであって、北陸新幹線の事例で言えば米原ルートと小浜京都ルートの選択で同一前提条件での算出で比較することに意味がある訳です。故に先に算出された米原ルートと後から算出された小浜京都ルートとでは厳密には比較できないのですが、それでもB/C比で倍以上の差が出ている訳で、B/C比から見れば米原ルート一択となるのは自明といえます。また京都府と京都市が環境問題から国に見直しを要請したり、早期実現の観点から石川県からも米原ルートへの見直しの意見が出ている現状です。つまり事業主体となるJRと国と地方の3者合意という大前提が揺らいでいる訳で、どのみちこのままでは事業化は不可能です。
前提条件を揃えるというのは、イコールフッティングとも言いますが、例えばスウェーデンのストックホルム―マルメ間の高速鉄道建設のときに在来線改良や高速道路整備など複数案からの選択に用いられた方法で、日本のように省庁の所轄による縦割りを前提とせずにゼロベースで検討するもので、B/C比の数値自体を問題にするのではなく、政策実現のための意思決定の透明化が狙いです。それが日本では数値が問題視されるのは、主に財務省との予算折衝で使われるという日本だけのローカルルールによる歪みといえます。
その弊害は例えば本州四国連絡橋で顕著ですが、計画段階で提案された明石鳴門ルート、児島坂出ルート、尾道今治ルートの3ルートの提案に対する査定で、B/C比が横並びとなって3ルート全てが整備されるという形で決着したことに表れています。明石鳴門と児島坂出は道路鉄道併用橋で尾道今治は道路専用橋ですし、児島坂出は新幹線と在来線の両方を通すという風に条件が違う中での意思決定ということで、3案同時進行を意図したものとの疑いがあります。故に国交省が小浜京都ルートのB/C比悪化を敢えて発表したのは、逆に国交省は小浜京都ルートを潰したい意図があるということでしょう。同時に米原ルートの試算をしなかったのは、小浜京都ルートに調査費の予算付けをしたことが仇となったかも。
上記エントリーで取り上げた宇都宮ライトレールの事例で言えば、難工事による遅延や工法変更でB/C比が悪化するなどして政争の具となったように、本来の意思決定の透明性に疑義を生じたことが問題です。結果的には沿線開発の活性化や移住人口増で開業前のB/C比より実数ベースでは改善したと思いますが、だから結果オーライという議論は乱暴です。東側延伸で市中心部へ乗り入れる将来構想の実現でまた揉める火種を残している訳です。立民と共産が反対に回ったのも意思決定過程に問題があったからであって、今後の事業展開のためには対立をほぐしておく必要があります。あくまでも意思決定の透明性の問題ということは重ねて申し上げておきます。
本文の若干の補足です。B/C比に恣意性があるとはいえ、小浜京都ルートに対して米原ルートのB/C比の数値に倍近い差があり、前提条件を揃えても逆転する可能性はほぼゼロと評価できますので、その点では議論の余地はありません。
小浜京都ルート派はそれに対して東海道新幹線直通が過密ダイヤで困難であることや、試算では直通に伴う米原駅の立体交差や穂何システムの違いやその調整費用が繁栄されていないことなどを挙げてますが、何れも解決可能ですし、小浜京都ルートのトンネル区間の工事費に比べれば些少であることで、それらをすべて反映してもB/C比の逆転はないと考えられます。
加えてJR東海への収益漏出は寧ろB/C比の便益(Benefit)に算入されB/C比を寧ろ改善します。直通ならば尚便益を押し上げます。B/C比の議論で見落とされやすい部分です。
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