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May 2025

Saturday, May 24, 2025

ア・イ・シ・テ・ルのサイン

時事ネタは売るほどある*1けど今回はスルーします。おコメを買ったことはありますが*2。

最近気づいたんですが、ポンピングブレーキしてるクルマを見かけなくなった気がします。私の年代だと教習所で口すっぱで言われたポンピングブレーキですが、最近は教えているのでしょうか。ポンピングブレーキとは減速や停止のときのブレーキ操作でブレーキペダルをリズミカルに数回に分けて踏むことで、ブレーキが車輪のドラムやディスクにブレーキシューを押し付けて車輪の回転の運動エネルギーを摩擦で熱に変換して待機中に熱を放散することで制動力を得る仕組みですが、多用すると熱放散が間に合わずに過熱して制動力が低下する所謂フェード現象を回避する意味があります。加えて過熱によるブレーキオイルが気化して油圧伝達ができなくなるべーハーロック現象になればほぼノーブレーキ状態になる危険もあり、実際それらが疑われる事故は今も起きています*3。

とはいえクルマのブレーキ性能も昔に比べて改善されていることも確かで、大型バス/トラックでは元々エンジンブレーキの強力なディーゼルエンジンですし、真空ブレーキが下り勾配の抑速ブレーキ的な使い方もできますし、さらに強力なリターダなどの補助ブレーキ装置を搭載したものもあります。また大型車ではエアブレーキが主流でべーハーロックも無縁です。そして乗用車でも電動車は回生ブレーキが使えるので摩擦ブレーキの負担は減っているとは言えます。故にフェード現象の心配は減ったとも言えますが、ポンピングブレーキの効用はそれに留まらないものがあります。

一段ブレーキで強いブレーキをかけるとスリップの可能性があり、路面状況やタイヤの摩耗度によっては危険なケースもありますが、ポンピングだと断続的に強めのブレーキをかけることでスリップを回避する所謂再粘着を図ることでトータルの制動距離を縮めることも可能です。通常ブレーキ時でもソフトタッチの断続で徐々に減速することで乗員や積み荷へのストレスを減らせ、ブレーキシューの摩耗も減らせます。他にも意外な効用があります。

最近気づいたのは、後ろから煽られたときに、チョンチョンと軽くブレーキングすると高い確率で後続車が車間を空けます。先行車のブレーキランプに反応してブレーキを踏むのでしょう。西成活裕教授の名著*4で解明した自然渋滞のメカニズムは、先行車のブレーキランプに反応して後続車がブレーキを踏み、それが後ろへ伝搬する連鎖反応で団子状態になるということですね。歌の文句じゃないけれど「ア・イ・シ・テ・ルのサイン」が後方へ情報として伝わる訳です。回避策は先行車のブレーキに反応しなくて済むバッファとしての車間を取ること(40m)も示されています。これ鉄道のクロージングイン(移動閉そく)の原理じゃないかと^_^;。てことで広く共有したい興味深い記事があります。

「これが日本の鉄道技術か…」海外も注目するJR東日本の「信号機不要」の制御システムとは | News&Analysis | ダイヤモンド・オンライン
ATACSについては過去のも取り上げてますが*5、JR東日本が地道な開発を続けた結果、ほぼ開発目標をクリアでき、試験を続けていた仙石線への導入を皮切りに首都圏の埼京線への導入に続いていよいよ山手線と京浜東北線への導入を決めました。山手線向けはさらに高度化されたドライバレスシステムを目指してます。またコストダウンの観点から携帯電話の公衆回線を用いた簡易システムも開発の視野に入っているようで、地方線区への展開もあり得ます。地方線区ではJR九州の香椎線で既にATACSではない別のシステムが実装されてますが、JR東日本が狙うのは日本発の世界標準ということで、Felicaシステムを利用したSuicaが挫折気味なだけに、JR東日本にとっては捲土重来になるかもしれません。楽しみです。

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Saturday, May 17, 2025

鉄路的部落運転再開、いのちをつなぐ旅

鉄路的部落運休のお知らせで筆者救急搬送をお知らせいたしましたが、無事退院し平常運転の見通しとなりました。

経緯は先週5/12に突然の脈拍低下で心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患が疑われて救急搬送となりました。しかし原因は特定できず、症状は回復していて日帰りは可能だったんですが、原因がわからないと再発の恐れもあるので、敢えて検査のために入院したものの、着の身着のままでスマホの充電器も持ち合わせず、外部連絡手段確保のためスマホのバッテリー保護で思いがけずデジタルデドックスを強いられ5/15の退院まで続きました。

検査の結果は心臓には問題はなく、また各種検査で血糖値やコレステロール値なども問題なしで、緊張状態で脈拍が上がった後の副交感神経が働き過ぎた結果ということで、寧ろ現在の生活が健康上の問題がないことの証明になって大いに安心感を得て退院できました。しかし現代の医療現場のイノベーションは本当に目を見張るものがあって、医療スタッフの連携の見事さを見ることもできました。高齢者が多いことは確かですが、患者とのコミュニケーションが密で、かつて言われた病院が老人クラブになっているという印象はありません。あと高層階の病棟でトレインビューを楽しめました^_^;。

健康上の不安を抱えながら流されて無理をする日常はありがちですが、今回も一部仕事先にご迷惑をおかけしたものの、人知れず行き倒れて連絡もつかない状況よりも、コミュニケーションを取りつつ次善の策をという意味で危機管理の観点からも良かったと思います。そして6日間の入院費を含む医療費の自己負担は3万円弱で、5泊6日の旅行と考えれば決して高くないですし、日常を離れるという意味で旅の要素もあります。お陰でコンクラーベをリアルタイムで追えなかったけど^_^;。

健康で医療に接する機会がないと気づきませんが、日本の保健医療制度はやはり世界に誇れるものと実感します。勿論課題もあって人口集積地の首都圏だから地方の現実は違うというのも確かですし、コロナ禍で露呈した感染症に対する脆弱性などもありますが、コロナは寧ろ医療の問題というよりも医療周辺の利権が絡む政治の問題でしょう。そして制度が財政を圧迫していることも確かですが、それを高齢者のせいにして値切ろうとするのはおかしな話です*1。寧ろ労働力の主力の現役世代のウェルビーイング問題としても重要で、病気やけがで働けなくなれば収入を失い生活破綻しかねない一方、医療費が高ければ医療へのアクセスを逡巡してしまう。しかも査定にも響く*2。

てことで問題だらけの医療ですが、日本の保健医療制度が数々の医薬品や医療機器の開発に資金とデータを提供しているからこそ、本人負担を気にせず医療にアクセスできて高度医療の恩恵が受けられるのですから、多少仕事に穴をあけてもウェルビーイング向上は生産性を高めます。私の今回の検査入院の判断もそうした考え方を実践したもので、おかげでその恩恵に預かることできました。めったにないこととはいえ健康不安はストレスの元で生産性を下げます。それを銭金の問題で見ては本質を見誤ります。

鉄道趣味に限定せず敢えて時事問題を取り入れるスタイルにしているのはライフログとして読者に気付きを得てほしいからですし、医療と鉄道は共に日本が世界に誇る分野である一方、現実的には様々な課題を抱えている点も似ています。そして内需関連では数少ないイノベーションが見られる分野です。そんな中であれこれネタ探ししながら言葉を紡いでいのちをつなぐ旅を目指し平常運転を再開します。という訳で鉄分薄い運転再開でした^_^;・

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Monday, May 12, 2025

鉄路的部落運休のお知らせ

筆者救急搬送入院中につき、当面運休いたします。ご不便をおかけしますがご了承お願いします。

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Tuesday, May 06, 2025

雷都の晴れ間のライトライン

GW真っ只中ながら人出の多い観光地(地元がそうですが)へ行く気にもなれず、それならばライトラインの現状を見てみるかと久々に宇都宮へ出かけました。いろいろ発見がありましたが、その前に前エントリー*1関連ニュース。

説明しない厚労省 SNS炎上、年金底上げ策の削除招く - 日本経済新聞
消費税減税を巡る立憲民主党の迷走*2に似た状況ですが、このままでは氷河期世代の基礎年金実質30%減額となることから見直しが検討されたものの、制度を理解しない非難によるSNS炎上で自民党内からの批判もあり撤回ということで、同世代を1700万票の票数でしか見ていない政治が不作為を生じさせています。

で、本題。昨年3月にスピードアップされたライトラインで併用軌道区間50km/h専用軌道*3区間70km/hと謳われておりましたが、乗車時の体感では70km/hは出ていない感じで、また列車間隔を制御する閉そく信号機も見当たらないところから、流石に目視運転では70㎞/hは無理ということでしょう。HU300形の走行安定性の問題もあるかもしれません。そして開業直後の訪問時には気づきませんでしたが、副本線のある平石とグリーンスタジアム前で軌道に地上子が設置されていて、おそらく後付けなのでしょう。推測ですがおそらく快速運転に備えた列車選別装置で、先行の各停の通過を検知して副本線側に進路設定し、副本線の地上子で入線を検知して本線側に進路設定して快速を通すのでしょう。快速出発後、後続の各停はフランジ割出しで進路を作形成し、一定時間後に自動復帰するように設定されているとして、最小限の設備追加で快速運転が可能です。目視運転を基本としつつ朝の2本だけの快速運転ですから、鉄道並みの保安装置設置よりもリーズナブルな対応と言えます。

バスとの結節の実態も知りたいところで、休日は参考にならないかもしれませんが、芳賀工業団地管理センター前で降りたところ、もう1人降りてバス乗り場へ向かう人がいて、横断歩道を2度渡るためタイムラグはあるものの、その人はバス乗り場に併設された待合室へ入りました。バスポールの時刻表を確認しつつ電停へ戻るときにも電停からバス乗り場へ向かう人がいて、それなりに結節点として機能していることはわかります。時刻表で確認した限りでは、本数は少ないものの茂木方面へ向かうバスもあり、真岡鉄道とセットで行程を組むのも一興です。同様の結節点は清原地区市民センター前と宇都宮大学陽東キャンパス(ベルモール前)が案内されてますが、それぞれバスの本数の少なさはあるものの実態はどうなのか、興味は尽きません。ちなみに駅へ戻るときに数少ない並行路線のバスが並走してパッと見席が埋まる程度の乗車が確認できました。関東自動車の旧年式車でしたが、駅直通便の需要も根強いのでしょう。

休日ということもあり、IC乗車券を持たない乗客も多数いて、降車の多い停留所では最前部ドアで現金支払いに時間がかかっていました。この辺は定時運行を妨げるほどではないようですが、交通信号に引っかかる機会が増えてしまうことは避けられないようで、実際そういう場面も見られました。とはいえ乗客が定着したことは間違いないようで、GW中ということもあり、家族連れの利用が目立ちましたが、家族そろって現金払いとかも見られました。ともかく盛業であることは間違いありません。

また渋滞解消という政策目標の実現も実証データが示されました*4。宇都宮大学などの調査結果では車利用が70%から62%へ8%減で、率の話ですがザックリ実数でも1割程度は減ったと見られます。交通量の1割減は大抵の渋滞が解消できる水準ですから効果はあったということです。但しだからLRT整備は大成功と結論付けるのはどうでしょうか。着手後の見直しや工事の遅れで事業費が膨らんで費用便益比(B/C比)が悪化したこともありますし、同等の渋滞解消策としての道路拡幅やバイパス整備の場合との比較でどうだったかこそ問われるべき問題です。また渋滞を嫌ったり、時刻を確認しないと利用しづらいバス利用と比べてほぼ定時で頻繁運行される都市型公共交通による需要誘発効果もありますので、それが母数を増やして車利用率を下げた要素もあります。これは宇大等の調査でも言及されているようですが、単純な数値比較では見えない部分があるということは言えます。但し外出の誘発は消費に繋がりますし、ウェルビーイングの観点からも望ましいことでもあります。単純な数値比較に陥りやすいB/C比の議論の戒めとしたいところです*5。そして懸案の西側延伸も動き出しました。

宇都宮LRT、大通り1車線は自動車乗り入れ禁止への布石 - 日本経済新聞
地域限定記事且つ会員限定記事ですが、全文を読むことをお勧めします。キモは現状3車線の大通りの1車線化で、その為に南北の並行道路の拡幅による迂回路整備で一般車を迂回させることにあります。3車線の1車線化は批判を呼ぶことになりますが、工事のために前倒しで実施して、中央車線を軌道にして左側車線はバス停や貨物車荷捌きレーンに充てて1車線化して工事スペースを生みつつ一般ドライバーを慣れさせる狙いもあります。大通り区間は混雑対策で軌道中央の島式ホームでホーム幅を確保して車いすやベビーカー利用にも配慮します。これは東側で問題になった混雑時のホームの手狭さの反省と共に、圧倒的に集積度が高い西側では、停留所間隔も短くして分散を図ると共に乗客の安全確保にもなるということですね。そしてその先には国内では前例のないトランジットモールの実装の先駆けという狙いもあります。そしてほぼ全区間道路併設の併用軌道で東側の鬼怒川橋梁前後の専用軌道区間のような用地買収も不要で土木工事上のネックもほぼ無い*6ことから、今年度に決めて26年着工で30年開業はほぼ可能という展望です。しかし課題はあります。

詳細は省きますがまず西口停留所の混雑対策が不十分*7で見直しが避けられないことがあります。計画見直しの結果事業費が上振れしたり手続きが遅れたりすれば東側の鬼怒川前後区間の轍を踏む可能性があります。また資材費や人件費の高騰による建設費の上振れもあり、400億円とされた見積りが600億円超と1.5倍以上になる可能性もあります*8。西口混雑対策とも絡んで手続き上西側分断整備の可能性も示唆されています。但しその場合新潟トランシス製HU300形の弱点とされる高価な車両価格や混雑対策の困難さや走行安定性の不安*9などから国産車両の導入が検討されているとか*10。そして大通りトランジットモールによる中心市街地活性化の一方で抱える中心市街地のレガシー東武百貨店の扱いと東武宇都宮線*11。

というわけで、帰路は西口バスターミナルから東武駅前までバス移動して東武宇都宮線ワンマン列車で南栗橋からスカイツリーラインのルートを辿りました。駅西側は東武鉄道のバス事業撤退があり東野交通の関東自動車への経営統合とライトライン開業に絡むJRバス関東の実質的撤退で事実上駅西側は関東自動車の独占エリアですが、関東自動車の新旧カラーにEV専用カラーに旧東野交通カラーとカラフル。また前後扉のツーステップ車から最新ノンステップ車やEVまでとバリエーション豊富でバスファンにもお勧めです。西側延伸で大通りのバス3割減が求められる一方、東側同様バス結節点の整備も構想されており、今後の変化も大きいという意味でも注目されます。

東武駅前から東武宇都宮駅までは100mほど離れており、ターミナルデパートの東武百貨店もお世辞にも活気あると言えず、売り場も典型的地方百貨店のような冴えないもので、仮に大通りトランジットモールが実現してもタイムスリップしたような一画として温存される公算大です。西側には小規模ながらバスターミナルがありますが、発着便は少なく人気のない空間になっています。ライトラインと東武宇都宮線の相互直通も示唆されますが、その場合大通りと東武宇都宮駅を繋ぐ軌道の整備と共に東武百貨店の建て替えは必至ですし、盛土上の東武宇都宮線との接続も課題ですし、架線電圧がDC1.5kvで750vのライトラインとの直通には複電圧車が必要になりますが、HU300形での対応は難しいところですし、まして走行安定性に不安を抱えるから尚更です。日比谷線直通車転用の20000系ワンマン列車に揺られながらつらつら思うGWでした。

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Friday, May 02, 2025

氷河期世代をネタにする票餓鬼政治

一応政府が2022年以来続けている就職氷河期世代支援の続きってことらしいけど、6月の骨太の方針に盛り込むということで参院選を睨んだ動きと見ることができます。

氷河期世代支援、就労・老後対策など3本柱 首相議長の会議新設 - 日本経済新聞
重点政策としてリスキリング支援、農業・建設業、
物流業の就労拡大、公務員や教師の採用拡大が打ち出されたということですが、就労拡大の3業種は人手不足業種だし、公務員や教師も志望者が減っているということで、人手不足分野へのマッチングが意識されています。

1973~82年生まれで新卒でバブル崩壊や金融危機による企業の採用手控えの影響を受けた世代で1700万人いるとされており、加えて小泉改革による非正規雇用拡大や正規雇用者も日経連のベアゼロ春闘方針で定期昇給以外の賃上げはなく、2004年の100年安心の年金改革で保険料の天引きが増え、企業の重荷だった団塊世代のリタイアで浮いた資金も少子化による新卒採用の売り手市場化で初任給が引き上げられ、それでも足りずに勤続年数による賃金カーブのフラット化、つまり定期昇給率の悪化に加えて後期高齢者医療保険制度で健康保険料の値上げ、更に大量採用されたバブル世代対策として企業が採用した役職定年制度は氷河期世代の正規雇用者にも適用されます。そして賃金が上がらないから報酬比例の保険料も少なく、受給時の低年金問題にも直面します。そして昨年の年金財政検証を受けた年金改革案でおかしなことが起きています。

年金なき氷河期世代の支援は形骸だ 老後の理不尽こそ対策を - 日本経済新聞
年金制度はいろいろ複雑なので細かい説明は端折りますが、2004年の年金改革でマクロ経済スライドと称する年金給付調整の制度が導入され「100年安心」が謳われましたが、実態は支給減額を認めなかったため低インフレで調整が進まず足踏みし、制度見直しで減額され、更にインフレに転じてやっと調整が進んだものの、基礎年金部分と報酬比例部分で調整の進み方の違いが出て、報酬比例部分は非正規雇用者の加入拡大で改善が進んだ一方、合法違法を問わず未納率が高い基礎年金部分では進まず、その解決策として報酬比例部分から基礎年金部分への会計補助をする案が厚労省で検討されましたが、企業や現役世代の反対で盛り込まれなくなりました。選挙を意識した結果と見られます。

誤解があるのは厚生年金や共済年金なども含めて基礎年金部分には支給額に国の財政資金による補助がある点で、基礎年金の強化は報酬比例部分の支給調整を経ても支給総額を増やすことになり、その恩恵はこれから支給年齢を迎える現役世代にあり、支給調整は既受給世代が負うということです。つまり氷河期世代の低年金問題に一定の歯止めをかけられる訳です。同様のロジックで言えば現在保険料負担のない第3号被保険者制度廃止による保険料徴収も効果がありますし、この場合は保険料自体が増えますから更に効果が大きいのですが、何れも年金改革案から外されてます。そして新NISAに若者が関心を示すのも老後不安からと言われますから、年金制度の安定は安心感を高めて若者の消費拡大に繋がります。これ老後2000万円問題を指摘して批判を浴びて撤回された金融庁レポートから続く問題です。

制度の複雑さが政治を通して歪められているという意味では前エントリー*1に通じる問題ですが、野党も氷河期世代対策を打ち出していますが、大事なのは世代論ではないということです。上記のようにこの世代に矛盾が集積してますが、年金問題に限らず非正規雇用問題、新卒高賃金の傍ら上がらない賃金、正規雇用でも保証されない未来、高額療養費支援制度*2で露呈した医療保険制度の矛盾、介護不安など、何れも全世代に関わる問題なのに、世代論に絡めとられると対立を助長してしまいます。

個人的な体験ですが、両親が同時に寝たきりになって追い詰められました。父母共に入院し、父は長期入院後そのまま死亡し、母は要介護状態で退院し、自宅で介護サービスを受けながら暫く過ごしたのち、脳梗塞で再入院して死亡という経過でした。その間の家族介護が仕事の制約要因にはなりましたが、父が高額年金を受給し、母も父の死後の寡婦年金ででそこそこの額を受給していたので、医療費や介護サービス利用で資金的な持ち出し無しにできて助かりました。年金は単純な現役世代から高齢世代への贈与ではなく現役世代の高齢者扶養の回避になりますし、医療にしろ介護にしろ、制度が整っていたから利用することで負担を軽減できました。社会保障はこうした包摂性こそが重要です。

安倍政権時代に全世代型社会保障と称して少子化対策として子育て世帯への支援をしたり、石破政権でも維新の高校無償化案を呑んで予算通したりしてますが、何れも限られた予算を特定の利害関係者に配るだけで寧ろ包摂性を損なっています。減税ドミノとも関連しますが、財源が示されない減税が寧ろ国民を苦しめますが、所得税の累進性強化や法人税強化が言われており、何れにしても法改正を経なければ実現しませんから来年度以降の話です。特に義務的経費である社会保障財源は安定財源である必要があります。一つ可能性がるのが金融所得課税強化です。富裕層ほど金融資産を多く保有し、源泉分離課税で21.5%の税率で恩恵を受けていますが、これを25~30%程度に上げることは検討されてよいですし、実際岸田氏も石破氏も総裁選では主張しながら政権に就いたら引っ込めてますが、新NISAで非課税枠が拡充されているし総合課税を選択することもできるので、中間層への影響も軽減できます*3。

氷河期世代問題は国鉄改革絡みで国鉄末期の採用手控えの影響がJR化後の世代分布のアンバランスから技術継承を支障して事故やトラブルに繋がったり、労働組合運動の連続性を阻害したりという弊害*4を生みましたが、これを他山の石としなかった日本の政府や企業の不作為が氷河期世代をもたらしたとも言えます。年金問題でも国鉄時代の共済年金から民営化後の厚生年金への移行に伴う職域加算の企業年金への移行に伴う国鉄時代の積立不足をJR負担にすることで揉めました*5。これらも含めて行き当たりばったりで問題先送りで窮地にといういつまでも改まらないこの国の病弊は直さなければなりません。

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