鉄路的部落運休のお知らせ
筆者救急搬送入院中につき、当面運休いたします。ご不便をおかけしますがご了承お願いします。
| 0
近藤 大介: ほんとうの中国 日本人が知らない思考と行動原理 (講談社現代新書 2784)
中国と日本はなぜこんなにすれちがうのか?大陸国で日本の10倍以上の人口を抱えるリスク感覚の中国と、島国で安穏とした日本とでは国の成り立ちも人々の気質の異なります。中国ウォッチャ―の著者がそれをかみ砕いて解説した本書はとにかく面白く読めます。またこの違いを理解すれば無駄な摩擦も防げるというもので、排外主義がはびこる昨今、必読書として推したい1冊です。
(★★★★★)
花房 尚作: 田舎の思考を知らずして、地方を語ることなかれ 過疎地域から考える日本の未来 (光文社新書 1373)
東京一極集中が止まらず、過疎地は悲惨、いずれ消滅といった現示が、田尾都会の都心の思考から出る言葉であり、田舎の思考はもっとゆるく、おくれやひずみを抱えつつそれを合理的に選択した人々が住んでいます。そしてそうスタ中央集権的なバックグラウンドで「地域活性化」とか「地方創生」といった形ばかりの事業に国の補助金や交付金がつきますが、成果はほぼ無い状態です。著者の過疎地生活での気付きから都会と田舎の思考を適宜シフトしつつ実効性のある地方分権論の可能性を示します。
(★★★★★)
スラヴォイ・ジジェク, 早川 健治: 「進歩」を疑う: なぜ私たちは発展しながら自滅へ向かうのか (NHK出版新書 747)
スロベニア出身の哲学者ジジェクの警告の書。進歩は気取りのリベラル派が最悪の世界に対峙できていないことを憂います。著者は幅広い知識で物理学からエンタメまでの幅広い異分野を比喩に用い、講義や講演の聴衆や著書の読者を飽きさせないサービス精神は大したものです。故に難解なところや日本の歴史など疑問符の付く記述もありますが、その辺を読み飛ばしても文意は伝わります。知的エンタメとしてとにかく面白いから読まなきゃ損です。
(★★★★★)
横山勲: 過疎ビジネス (集英社新書)
福島県国見町の救急車リース事業を巡る調査報道の記録。河北新報記者の著者の執念で、匿名の企業版ふるさと納税制度の闇が暴かれました。その手口は巧妙で、法人税9割控除のふるさと納税制度を利用した事業に寄付企業が関与して利益を吸い上げ公金を騙し取る手口です。世間の関心の薄い過疎自治体の窮状に付け込む悪質さと。それを監視できない地方議会やマスコミの現状にも言及します。こうした問題を見直すことなしには地方創生は悪徳コンサルを肥え太らせ地方を荒廃させるだけです。
(★★★★★)
橋本 健二: 新しい階級社会 最新データが明かす<格差拡大の果て> (講談社現代新書 2779)
一億総中流社会も今は昔。80年代以降続いている格差拡大。社会学者の著者はそれを階級社会と捨てデータを集め分析した成果が盛り込まれています。資本家階級(企業経営者)、新中間層(管理職や技術職)、労働者階級(正規橋労働者)、旧中間層(自営業者)の4つの階級に加え、最近所謂非正規雇用者の増加でアンダークラスが形成されています。これは先進国では共通した現象で、国によって人種や移民など担い手の違いはあるものの、アンダークラスの増加とそれによる格差拡大は共通しています。データで示された実態は驚きですが、もう1つジェンダーギャップや性的マイノリティがこれにクロスして女性やマイノリティの地位が上がらない構造もあります。そしてそれが日本人の政治意識の変化身も波及しており、特に石破政権が去年の総選挙で少数与党となったことにも関連します。しかし同時に階級を問わず格差拡大を問題と考える層は多数いて、右派勢力の拡大もコアな支持層は少数で、中道勢力が協力する余地があることも示します。新書としては分厚いですが、読むに値する1冊です。
(★★★★★)
赤根 智子: 戦争犯罪と闘う 国際刑事裁判所は屈しない (文春新書 1496)
国際刑事裁判所(ICCの所長としてプーチンとネタニヤフに逮捕状を発布した著者は、プーチンから指名手配されトランプから圧力をかけられながら戦争犯罪と戦う日々を綴ります。ICCについても詳しく説明されており、そもそもはWW2後のニュルンベルク裁判や東京裁判がドイツも日本も戦争犯罪人を裁く能力が欠如していたことから連合軍によって開廷された経緯を踏まえて、補完性原理に基づいて活動している組織です。驚いたのは法の支配を唱える日本が、戦争、人権侵害、虐殺などの中核的犯罪を裁く法律が欠如していること。ドイツでは国内法が整備されているのに、本当の有事に刑事司法が動けないという矛盾を抱えています。東京裁判を戦勝国による一方的なものと言うのに国内法も作れない日本の現状を憂います。
(★★★★★)
李舜志: テクノ専制とコモンへの道 民主主義の未来をひらく多元技術PLURALITYとは? (集英社新書)
IQ130以下の者はAIに取って代わられるけど、ベーシックインカムがあるから大丈夫。テクノ専制主義者のナラティブに不安を抱える必要はありません。Pluralityという希望があります。テクノロジーの使い方如何で多元的民主主義を実現し、多くの人を豊かにするコモンの実現を模索する試みは始まっています。米巨大テック企業のテクノリバタリアンズも専制国家の監視システムと変わらないどころか、営利企業に転がされる社会のペットに成り下がるという意味でより深刻です。そうならないために私たちが心がけることを解説しています。
(★★★★★)
週刊東洋経済編集部: 週刊東洋経済 2025年6/21号(喰われる自治体 ー告発ー)
地方創生がうまくいかないのは自治体が民間に食い物にされている現実があります。三重県四日市市の固定電話契約の入札で、随意契約のNTTが入札妨害としか取れない嫌がらせをしたこととか、自治体の人材不足でコンサルに丸投げして身内企業に事業発注とか、地元企業を無視した官民共同事業とか様々ですが、東京五輪を食い物にした電通や五厘と共に大阪関西万博でも大儲けのパソナとかとそっくりです。第二特集の東京臨海副都心の誤算も興味深いですし、この号は買って損はないです。
(★★★★★)
伊藤 将人: 移動と階級 (講談社現代新書 2774)
移動を物理的ムーブメントではなく、経済的、政治的、社会的現象として捉えるモビリティとして見た場合、様々な格差が見られます。単純な経済格差のみならず、居住環境や家庭環境の制約、個人的な経験値の違い、障害やジェンダーギャップ等等が重層的に関わって、移動の自由に不満足な人が多数存在します。通勤・通学、買い物、旅行、引っ越し、観光、移民・難民、気候変動......と様々な側面から多様なトピックスも。鉄ちゃん的には交通政策ばかりの視野狭小に陥りやすい中で、複雑な格差の実態は見えにくいもの。モビリティ・ジャスティスという視点からマジョリティの自覚を解きます。
(★★★★★)
Comments
毎週記事を楽しみにしていました。一日も早い回復を。
Posted by: 海手線 | Tuesday, May 13, 2025 11:08 PM
ありがとうございます。おかげさまで精密検査の結果、心筋梗塞など重大疾病の可能性は無くなりました。そして本日5/15に無事退院できました。近日中に運転再開する予定です。今後ともご愛読よろしくお願いいたします。
>海手線さん
>
>毎週記事を楽しみにしていました。一日も早い回復を。
Posted by: 走ルンです | Thursday, May 15, 2025 01:58 PM