雷都の晴れ間のライトライン
GW真っ只中ながら人出の多い観光地(地元がそうですが)へ行く気にもなれず、それならばライトラインの現状を見てみるかと久々に宇都宮へ出かけました。いろいろ発見がありましたが、その前に前エントリー*1関連ニュース。
説明しない厚労省 SNS炎上、年金底上げ策の削除招く - 日本経済新聞消費税減税を巡る立憲民主党の迷走*2に似た状況ですが、このままでは氷河期世代の基礎年金実質30%減額となることから見直しが検討されたものの、制度を理解しない非難によるSNS炎上で自民党内からの批判もあり撤回ということで、同世代を1700万票の票数でしか見ていない政治が不作為を生じさせています。
で、本題。昨年3月にスピードアップされたライトラインで併用軌道区間50km/h専用軌道*3区間70km/hと謳われておりましたが、乗車時の体感では70km/hは出ていない感じで、また列車間隔を制御する閉そく信号機も見当たらないところから、流石に目視運転では70㎞/hは無理ということでしょう。HU300形の走行安定性の問題もあるかもしれません。そして開業直後の訪問時には気づきませんでしたが、副本線のある平石とグリーンスタジアム前で軌道に地上子が設置されていて、おそらく後付けなのでしょう。推測ですがおそらく快速運転に備えた列車選別装置で、先行の各停の通過を検知して副本線側に進路設定し、副本線の地上子で入線を検知して本線側に進路設定して快速を通すのでしょう。快速出発後、後続の各停はフランジ割出しで進路を作形成し、一定時間後に自動復帰するように設定されているとして、最小限の設備追加で快速運転が可能です。目視運転を基本としつつ朝の2本だけの快速運転ですから、鉄道並みの保安装置設置よりもリーズナブルな対応と言えます。
バスとの結節の実態も知りたいところで、休日は参考にならないかもしれませんが、芳賀工業団地管理センター前で降りたところ、もう1人降りてバス乗り場へ向かう人がいて、横断歩道を2度渡るためタイムラグはあるものの、その人はバス乗り場に併設された待合室へ入りました。バスポールの時刻表を確認しつつ電停へ戻るときにも電停からバス乗り場へ向かう人がいて、それなりに結節点として機能していることはわかります。時刻表で確認した限りでは、本数は少ないものの茂木方面へ向かうバスもあり、真岡鉄道とセットで行程を組むのも一興です。同様の結節点は清原地区市民センター前と宇都宮大学陽東キャンパス(ベルモール前)が案内されてますが、それぞれバスの本数の少なさはあるものの実態はどうなのか、興味は尽きません。ちなみに駅へ戻るときに数少ない並行路線のバスが並走してパッと見席が埋まる程度の乗車が確認できました。関東自動車の旧年式車でしたが、駅直通便の需要も根強いのでしょう。
休日ということもあり、IC乗車券を持たない乗客も多数いて、降車の多い停留所では最前部ドアで現金支払いに時間がかかっていました。この辺は定時運行を妨げるほどではないようですが、交通信号に引っかかる機会が増えてしまうことは避けられないようで、実際そういう場面も見られました。とはいえ乗客が定着したことは間違いないようで、GW中ということもあり、家族連れの利用が目立ちましたが、家族そろって現金払いとかも見られました。ともかく盛業であることは間違いありません。
また渋滞解消という政策目標の実現も実証データが示されました*4。宇都宮大学などの調査結果では車利用が70%から62%へ8%減で、率の話ですがザックリ実数でも1割程度は減ったと見られます。交通量の1割減は大抵の渋滞が解消できる水準ですから効果はあったということです。但しだからLRT整備は大成功と結論付けるのはどうでしょうか。着手後の見直しや工事の遅れで事業費が膨らんで費用便益比(B/C比)が悪化したこともありますし、同等の渋滞解消策としての道路拡幅やバイパス整備の場合との比較でどうだったかこそ問われるべき問題です。また渋滞を嫌ったり、時刻を確認しないと利用しづらいバス利用と比べてほぼ定時で頻繁運行される都市型公共交通による需要誘発効果もありますので、それが母数を増やして車利用率を下げた要素もあります。これは宇大等の調査でも言及されているようですが、単純な数値比較では見えない部分があるということは言えます。但し外出の誘発は消費に繋がりますし、ウェルビーイングの観点からも望ましいことでもあります。単純な数値比較に陥りやすいB/C比の議論の戒めとしたいところです*5。そして懸案の西側延伸も動き出しました。
宇都宮LRT、大通り1車線は自動車乗り入れ禁止への布石 - 日本経済新聞地域限定記事且つ会員限定記事ですが、全文を読むことをお勧めします。キモは現状3車線の大通りの1車線化で、その為に南北の並行道路の拡幅による迂回路整備で一般車を迂回させることにあります。3車線の1車線化は批判を呼ぶことになりますが、工事のために前倒しで実施して、中央車線を軌道にして左側車線はバス停や貨物車荷捌きレーンに充てて1車線化して工事スペースを生みつつ一般ドライバーを慣れさせる狙いもあります。大通り区間は混雑対策で軌道中央の島式ホームでホーム幅を確保して車いすやベビーカー利用にも配慮します。これは東側で問題になった混雑時のホームの手狭さの反省と共に、圧倒的に集積度が高い西側では、停留所間隔も短くして分散を図ると共に乗客の安全確保にもなるということですね。そしてその先には国内では前例のないトランジットモールの実装の先駆けという狙いもあります。そしてほぼ全区間道路併設の併用軌道で東側の鬼怒川橋梁前後の専用軌道区間のような用地買収も不要で土木工事上のネックもほぼ無い*6ことから、今年度に決めて26年着工で30年開業はほぼ可能という展望です。しかし課題はあります。
詳細は省きますがまず西口停留所の混雑対策が不十分*7で見直しが避けられないことがあります。計画見直しの結果事業費が上振れしたり手続きが遅れたりすれば東側の鬼怒川前後区間の轍を踏む可能性があります。また資材費や人件費の高騰による建設費の上振れもあり、400億円とされた見積りが600億円超と1.5倍以上になる可能性もあります*8。西口混雑対策とも絡んで手続き上西側分断整備の可能性も示唆されています。但しその場合新潟トランシス製HU300形の弱点とされる高価な車両価格や混雑対策の困難さや走行安定性の不安*9などから国産車両の導入が検討されているとか*10。そして大通りトランジットモールによる中心市街地活性化の一方で抱える中心市街地のレガシー東武百貨店の扱いと東武宇都宮線*11。
というわけで、帰路は西口バスターミナルから東武駅前までバス移動して東武宇都宮線ワンマン列車で南栗橋からスカイツリーラインのルートを辿りました。駅西側は東武鉄道のバス事業撤退があり東野交通の関東自動車への経営統合とライトライン開業に絡むJRバス関東の実質的撤退で事実上駅西側は関東自動車の独占エリアですが、関東自動車の新旧カラーにEV専用カラーに旧東野交通カラーとカラフル。また前後扉のツーステップ車から最新ノンステップ車やEVまでとバリエーション豊富でバスファンにもお勧めです。西側延伸で大通りのバス3割減が求められる一方、東側同様バス結節点の整備も構想されており、今後の変化も大きいという意味でも注目されます。
東武駅前から東武宇都宮駅までは100mほど離れており、ターミナルデパートの東武百貨店もお世辞にも活気あると言えず、売り場も典型的地方百貨店のような冴えないもので、仮に大通りトランジットモールが実現してもタイムスリップしたような一画として温存される公算大です。西側には小規模ながらバスターミナルがありますが、発着便は少なく人気のない空間になっています。ライトラインと東武宇都宮線の相互直通も示唆されますが、その場合大通りと東武宇都宮駅を繋ぐ軌道の整備と共に東武百貨店の建て替えは必至ですし、盛土上の東武宇都宮線との接続も課題ですし、架線電圧がDC1.5kvで750vのライトラインとの直通には複電圧車が必要になりますが、HU300形での対応は難しいところですし、まして走行安定性に不安を抱えるから尚更です。日比谷線直通車転用の20000系ワンマン列車に揺られながらつらつら思うGWでした。
*1氷河期世代をネタにする票餓鬼政治 鉄路的部落
*2Suica甘いか消費税の鬼が笑う減税ドミノ 鉄路的部落
*3軌道法上の区分では道路に併設する併用軌道に対して道路に併設しない区間は新設軌道と称しますが、ライトラインでは見掛け上の新設軌道区間も道路として整備され法令上は併用軌道扱いなので、ここでは俗称の専用軌道を用います。
*4宇都宮LRT、道路交通量の減少に寄与 宇都宮大など調査 - 日本経済新聞
*5B/C比の誤解 鉄路的部落
*6この区間の事業計画変更に伴う用地買収費と土木工事費の上振れが東側区間のB/C比悪化の主な要因です。
*7宇都宮LRT 駅西口停留場、朝夕混雑時への備え必至 広島電鉄参考に計画修正も - 日本経済新聞
*8宇都宮LRT、終点付近の電車留置線は費用抑制の「隠し玉」 大通りで先行開業も - 日本経済新聞
*9福井県のえちぜん鉄道で導入された新潟トランシスGT6タイプでも脱線が起きてます。操舵システムの特殊性と共に低床構造で通常床下に過走される機器が屋根上に配置されているので、見た目より重心が高いことが影響しているようです。ライトラインでもカーブやポイント通過時に大きくスローダウンしています。
*10円安でつくばとねり的ライトなリスク 鉄路的部落
*11東武宇都宮再開発、栃木県の「日光ロープウエー」が東武鉄道に百貨店建て替えを促す - 日本経済新聞
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