宗教とアヘン
前エントリー*1のイラン・イスラエル紛争はアメリカのバンカーバスター攻撃後に停戦し、両当事国がともに勝利宣言し、トランプ大統領は戦争止めたぜとドヤ顔という謎展開です。19世紀の思想家カールマルクスの「ヘーゲル曰く「歴史は繰り返す」は正しいが「一度目は悲劇として、二度目は喜劇として」とつけ加えることを忘れた」という名言通り、笑っちゃう展開です。勿論命のやり取りとなる戦争を喜劇と評するのは何ですが、TACO*2で成果を示せない中での有権者アピールという承認欲求MAXぶりはらしいと言えばらしい。
マルクスはまた「宗教は大衆のアヘンだ」という名言も残しています。イギリスがインド産のアヘンを清朝時代の中国に持ち込んで茶葉や絹織物その他での輸入超過を是正しようとして以下略でアヘン戦争が起きてという一連から、香港が割譲され欧州列強の進出で租界だらけの事実上の植民地化を余儀なくされた中、広東省の客家出身の洪秀全を天王とする太平天国の乱*3が起きて内乱となりました。清朝は満族による征服王朝ながら科挙制度で確立した官僚制の支えがあり、洪秀全は漢族ながら科挙試験に挑戦するも合格を果たせない中で漢語訳の聖書に接して自らをキリストになぞらえて、太平天国という謀反集団を作り清朝と対峙して最終的には制圧されました。
宋代で確立したとされる科挙制度が、モンゴル人の征服王朝の元を経て漢族王朝の明から満族王朝の清へと継承された中で、科挙の官僚制度は漢族によって維持されたものです。しかし人口の多い漢族でも科挙試験を経て官僚になれるのは少数で、洪秀全も含めて満族支配を支える漢族エリートになり損なった落ちこぼれが多数存在していて、社会の中にストレスがたまる状況がありました。それ故にイギリスが持ち込んだアヘンがバカ売れして中毒者が社会不安を起こすに至り戦争になった訳で、アヘン戦争と太平天国の乱は同根と見做せますから「宗教は大衆のアヘンだ」というのは本質を突いた言葉と言えます。
そんな中で21世紀のアヘン戦争と言えるオピオイド系合成麻薬フェンタニルを巡る米中の摩擦がまさかの日本へ飛び火しました*4。名古屋の華僑組織を隠れ蓑に中国から名古屋経由でメキシコからアメリカへという密輸ルートが形成されていました*5。驚きの展開ですが、アメリカで問題視されているフェンタニルの乱用は、確かに中毒死が多数出て社会問題化してますが、日本で流通している気配はありません。リスクを取ってコストをかけて密輸しても末端価格が高いアメリカだからペイするってことですね。そしてSNSで拡散されるフェンタニル中毒者は見た範囲では白人ばかりで有色人種は見当たらないのはお察しです。パワーエリートになれない白人の有色人種に対する心理的優越性に関わらず、大学もIT企業経営陣もアジア系が存在感を増す中で、閉そく感が違法ドラッグの需要を創り出しているという清朝時代の漢族と酷似した状況を見ることができます。加えてキリスト教福音派の支持を受けるトランプ大統領というところにも太平天国との相似相が見えます。やはり歴史は繰り返すし二度目は喜劇だわ。
やや脱線しますが、凡そ1,000年続いた科挙制度は辛亥革命で終わりますが、その結果軍閥割拠で内政が混乱した中華民国が毛沢東の共産軍に敗れて中華人民共和国が成立し、国家運営は共産党の指導の下でと憲法に明記される状況は、共産党がレーニン主義の中央計画経済と科挙制度が折衷した存在と見れば、ソビエト崩壊後も存続し改革開放で西側諸国と共存できていることに不思議はないことになります。中国史のタイムスケールだと共産党は1,000年続くのか?
ただこの傾向はBrexitや欧州の移民排斥でも見られますし、日本でもアジア系外国人に対する嫌悪感情として顕在化しており、例えば都議選で3議席を得た参政党の日本ファーストなど気になる動きです。火照るカリフォルニアの迷宮*6に日本も入りかけているかも。博士課程学生の支援制度を日本人限定にするという文部科学省*7ですが、そもそも日本人だけじゃ人数が集まらないから留学生が穴埋めしている状況で、国籍要件で生活費支給を制限すれば留学生が来なくなるだけで、研究現場の人手不足を助長するだけです。ただでさえ大学に支給する科研費を削り、国公立大の独立行政法人化で自分で稼げと突き放し、大学の授業料は上がる一方なのに院に進んで研究職を目指すと就職に不利になるという状況で日本の研究開発力は衰退しています。
例えばJR東日本つばさ用E8系のトラブル*8ですが、報道では該当の半導体が汎用品か専用品かわかりませんが、技術革新の早い半導体は結果的に多品種少量生産になりやすく、また先端品ほど歩留まりが悪く採算が取りにくい一方、汎用品は価格競争で高く売れないということもあって、コロナ禍のサプライチェーン攪乱で半導体の調達がネックで工場が止まる事態が起きたように、現代の工業製品のチョークポイントでもあります。そして半導体はサプライチェーンが川上から川下まで長く、どこで不具合が出たかを特定するのも難しいのですが、その長いサプライチェーンが国内で閉じていないことがまた原因究明を困難にします。そうなったのは日本の半導体メーカーの戦略的投資の失敗からきているのですが、大学の研究環境の劣化が更に問題を複雑にします。こんなことじゃ日本舐められるぞ!
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